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幻魔特区スザク2 外伝 Story

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作成者: にゃん
最終更新者: にゃん



多少上層部に行けば、生活には困ることはなく……

アサギの許可と監視さえあれば、外に出ることも可能だった。

k散歩にでも行くかー、クロ。

そして、特にこの『クロの散歩』に関して……

O私も行きます!外に行きましょう!!

アサギはびっくりするほど甘かった。

Kワン! ワンワン! すんすんすんすん……。

クロは外に出ると、波打ち際の地面の臭いを全て調べる仕事にとりかかった。

k砂の上は肉球ヤケドするから歩くなよー。

短めの尻尾を振りながら進むクロのお尻。それを追いかけながら、キワムはアサギに話しかける。

kあのさ……大丈夫なの? こんな簡単に外に出てさ……。

O何一つ問題ありません。中には私たちの他に6.5人のガーディアンがいるのですよ?

ちなみに0.5人分はロッカのことですが……それにしたって約7人です。

そして仮に万が一侵入者がいたとしても、備えは万全なのですよ。

アトヤ・ハクザンのスピー力ードローン、そしてコベニ・ロウヤマのトリップマインアロー……

さらにネジヅカ兄弟が協力して各所に設置した感圧式テルミット爆雷とブラックアウト爆弾……

そして我々以外のガーディアンを感知するように調整したヤチヨ・カスガのシキ式レーダー……

そこでアサギは言葉を切り、既に『うわぁ』としう顔をしているキワムに改めて言葉を続ける。

Oいいですか、よくわかっていないキワムカに解説するとですね――

あそこは現在、侵入者や敵にとっては紛れも無い地獄です。迂間な者なら5歩ももたないでしょう。

kそ、そうですか……。

Oなので私のクロの尻尾とあの丸い尻を見つめるという至福の時間を邪魔しないで頂きたいですね。

アサギはそう言うと、にっこりと笑ってクロのうしろをゆっくりと歩き始めた。

k……とは言ってもなあ。

キワムは心配そうに、既に砂に隠れてしまった比入口と、アサギを見比べる。

Oおいていきますよ、キワム・ハチスカ!尻は待ってはくれませんからね!

kわ、わかったよ、もう……!

苦笑いを浮かべながら、キワムはアサギの声に振り返ると、二人の小さな足跡を追った。


 ***


k……早く、アッカを助けに行かないとな。

Oそのためには、まずスミオたちの作業が終わるのを待たなければいけません。

そう。月に連れて行かれたアッカを追うためには、『あれ』が完成しなければ無理だ。

スザクロッド地下で材料を集めているスミオたちを思い出し、キワムはアサギに小さくうなずく。

O今は、体を休めなさい。あなたには、それが必要です。

そうしてしばらく砂浜を歩いた後、アサギはふと立ち止まり、水平線を見ながら口を開いた。

O……キワム・ハチスカ

あの『コイン』の件ですが。

k……またその話かよ。大丈夫だって。

うんざりした様子で、キワムは海に向かって濡れた砂を小さく蹴る。

Oそうは思えません。あなたは自分を犠牲にしても、他人を守ろうとする傾向にあります。

『自分が何かすることによって誰かが幸せになるなら、戦う』。あなたはそう言いました。

その気持ちをあなたが持っている限り、きっと、またあのコインを使う。

あの『コイン』は、マスプロダクションタイプのガーディアンには、負担が大きすぎるのです。

kわかってるよ。

静かだが強い口調で、キワムはアサギの言葉を押し止めた。

k……たった一回使っただけで、333号ロットで起きた事とかが、少し思い出せなくなってる。

あんなもん、記憶を共有できるアサギたちでもなけりゃ、頻繁に使えるわけないよ。

そう言いながら、悲しそうに笑うキワムを見て、アサギは思わず目を逸らした。

O……そう、我々はその方法で、その弱点を克服したのです。

あの『コイン』も、私の『エンブレム』の精神的な力を消費します。

カムラナ技研工業はそれを『ソムニウム』づけ、名付けました。

キワム・ハチスカ。あなたには、それを……想い出を、心を。……失ってほしくない。

彼女は、本心からそう思っていた。クロの散歩に付いていく、というのは、ただの口実。

スザクロッドを守るという、本来ならば自分がやるべきだったこと。

それを、今回彼に押し付けてしまった。

さらに、キワムはコインによって取り返しの付かない代償を払っている。

その二重の罪悪感を、彼女は感じていた。だからこそ、なるべく彼を一人にはしたくなかった。

だが、そんな心を知ってか知らずか、キワムはアサギに変わらぬ笑みを投げかける。

kアサギは心配性だなあ、俺は大丈夫だよ。

なくした想い出は、またここで、作ればいい。それに……

みんなで一緒にきっと俺がピンチになったら、アイツが助けてくれるだろうしな。

黒猫を連れている、あの魔法使い。

懐かしい二人組を思い出し、アサギもふっと口端を綻ばせた。

O……そうですね、きっと。

二人の間に、ほっと温かい空気が流れる。……だが、その時。

ガサガサ、と草むらから魔物の足音が聞こえる。それを聞いて、二人は瞬時に戦闘態勢を整えた。

k我が心の化身よ、共に進もう、我と共に挑め。アウデアムス!

O我が心のしもべよ、夢を喰らいて立ち上がれ。セルウス!

Kガアゥッ!!ガウッ!!ヴゥ……!!

O……ふふっ、アウデアムスは何と言っていますか?

k我が砂遊びの邪魔をした罪は重い、だとさ!


 ***


戦いを終えて、キワムとアサギは、地下に帰ろうと躇を返した。

k帰るって言ってんだろ! 言うこと聞けよ! ――っていうか元に戻れ!!

Kガアアウゥゥゥゥ!! ガーアウアウゥ……。

まだ巨大なままのクロ……否、アウデアムスは、砂の上をその巨体で転がり全身で拒否を示す。

そのせいでとんでもない量の砂が巻き上がり、当然それはキワムたちに降りかかる。

Oむっ……ぷぁっ!す、すにゃが……すにゃが目にー、キワム・ハチスカぁー!どこだー!

kこ、ここだ、ここにいるぞ!

Oすにゃがぁー、目がゴロゴロするのだけは苦手なんですー!いやー!

kああああこすっちゃダメだアサギ、おめめ真っ赤っ赤になるから!

Oどこだー、キワム・ハチスカー! アサギは救援を要請するぅー!!

kほら、これ飲み水だから染みないぞ、これで目を……ってあーそっちは海だアサギ! 止まれ!

慌てふためくキワムに目を閉じたままふらふらと歩き続けるアサギ。

そしてそれを海の中から見つめる、巨大なままのクロ――アウデアムス。

つかの間の平和かもしれないが、こうして彼らの平和な一日が過ぎていった。



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寝転がり、暗い天井を見上げながら、ヤチヨはひとり物思いにふけっていた。


y……はぁ。

考えるのは、少し前のこと。


『……ダかラ、みんナ……泣かなイでくれよ……。』

壊れた声で、つぶやくように言いながら、悲しそうに振り返るキワム。

何も出来なかった自分たちに、彼は自分の全てを賭けて手を差し伸べようとした。

そんなキワムが、そのまま手の届かない歪んだ明日へ行ってしまいそうで――

『キワム……嫌だ、行かないで!!』

ヤチヨは、思わずそう声をかけてしまった。


……でも何故、自分はそんな幻想じみた予感を抱いてしまったんだろう。

それがヤチヨ自身にも、まったくわからなかったのだ。


y(……とにかく、嫌だったのよ。でも、それがどうしてか、わかんないんだよね……

自分の手が届かないところに行きそうだったから、なのは自分でもわかる。

でも、どうして私は、それが死ぬほど嫌だったんだろう?

うーーーーん……そこなのよね、根っこがわかんないんだよなぁ)


どうしたのヤチヨ。元気ないね?

突然かけられたその声に、ヤチヨは驚いたように体を跳ね起こす。

y――ッ! アッ……力じゃなくて、ロッカか。

R悪かったね、アッカじゃなくって。

ふん、とふてくされた顔で、ロッカはヤチヨの隣に座る。

y……アッカは何もされてない? ちゃんと無事?

R大丈夫。アッカが傷ついたのなら、私がわかる。まだ何もされてないよ。

ギシシ、といつものようないびつな笑い方をして、彼女はヤチヨの鼻の頭をつついた。

yもう、からかわないでよロッカ。……シキ!

Sはいなー。

ヤチヨの声に、シキはぴょこんと瓦碑の奥から扉を出す。

そこからぴょこんと飛んだシキは前宙を決め、ぽすん、とヤチヨの膝の上に乗った。

Sどしたのヤチヨ。なんか今日は調子悪そうね?

ロッカは……まあ、いつも通りかな。

y……シキ、体調のスキャンはお願いしてないけど。

Sあらあらごめんなさい、そんなつもりじゃなかったのよ?

ただね、見ただけでわかるくらい悩んでるのに、話さないのはただの痩せ我慢。ダサいわよ。

シキは得意気な口調で、ヤチヨを挑発する。いつもの彼女なら、これに怒るところだが……。

y……ねえ、ロッカ。私、そんな変な顔してる?

ヤチヨは眉間にシワを寄せて、いかにも深刻な口調で聞いた。

Rギシシ、気になるなら、私がヤチヨに変身してみようか。

y……いや、やめとく。ちょっと頭冷やしてくるよ。

そう言うと、彼女は立ち上がり、廃墟を奥へと渉いて行く。

Sだーから、何悩んでるのよ、この私にお話してみなさいってばー!

R今日は私もいるから、いくらでもお話聞くよー? 待ってー!

そして、そんなヤチヨを、おせっかいな二人が追いかけた。


 ***


y……っていうわけなのよ。

Sほう。

Rへえ。

結局、全部話してしまった……という後悔の表情を浮かべて、ヤチヨは大きなため息をついた。

yでね、なんで私がそんなふうに……キワムが遠くに行っちゃうのが嫌だったのかなって。

なんでだと思う?

真剣な面持ちで、腕を組みながらヤチヨは二人に聞いた。だが、その二人はというと……。

Sあー……えーとだね、ヤチヨさん。あの……。

R……わ、私なんかドキドキしてきた。心臓ないけど。

と、妙にうわついた様子で、ソワソワと周囲を確認し始める。

y……は? なに? 話せー、相談しろー、言っておいてそれ?

Sちょっと待って、落ち着いてヤチヨ。

Rい、いや、違うんだって。逆に聞くけど、それ私とかがハッキリ言ってもいいの?

yなにそれ。こっちは正直に相談したんだから、それにはキチンと答えるのがスジでしょ。

Sヤチヨ、待って。

yシキもどうしたのよ、大体最初に焚き付けたのは――

段々ヒートアップしてきたヤチヨが、ついにそう言いながら身を乗り出す。

Sだから! 落ち着いてってば! 変な反応があるの!

すぐそこに!

シキの大きな声がそれを遮った。次の瞬間には瓦陳の向こうから、魔物が身を翻す!

y”イィィィイイインフローレェエエエ”! ! !

Sうわっ、びっくりした!詠唱なしじゃと!?

突然変身させられたシキ――否、インフローレは、きょとんとした顔のままヤチヨを見た。

その表情は完全なる憤怒に染まっている……!

Sええと、ヤチヨや。あまり怒るとな、可愛い顔が台無しじゃから――

y叩きのめす……!!

Sえっ? あー、えっと、うむ、承知した!

おっかなびっくりなインフローレ。だが、主人の命令には逆らえない。

何はともあれ、彼女は戦闘態勢を整えた!


 ***


yはぁ……はぁ……まったく、人が悩んでる時に不意打ちなんて……いい度胸よ……。

Sほ、ほんとにな。なんだか魔物が気の毒になるくらいじゃったが……。

魔物を完膚なきまでに叩きのめしたヤチヨは、肩で息をしながら額の汗を拭う。

R私、これからヤチヨだけは怒らせないようにするね。

それを草葉の陰から見ていたロッカは、真面目ね顔をして震えていた。

yはぁ……それで? 私の悩みの根源はなんだったのか、二人はわかったんでしょ?

Rあ、その話まだ続いてたの?

y当たり前でしょ。答えがキチンと出ない話はイライラして嫌なの。

ヤチヨは腕を組み、睨みつけるように二人を見拒える。

S……わ、傭はどうすればいいんじゃ、ロッカ。言っても良いものかのう……?

インフローレは、オロオロとするばかり。

けれど、そんな彼女を見て、ロッカはふと理解した。

インフローレは、ヤチヨの心が生んだ、彼女だけのガーディアン。

だから……きっとインフローレは、ヤチヨの気持ちの答えを知っているんだろう、と。

そして、それを直接ヤチヨに言うのは、間違っているということも。

それに気付いた時、ロッカの心に、ある人物が浮かぶ。

R……あのね、ヤチヨ。

y何?

R答えになるかどうかは、わからないけど……話してもいい?

真剣な面持ちをして、優しく声をかけてくるロッカに、ヤチヨは思わず小さくうなずく。

それを確認して、ロッカは少しだけ笑うと、ぽつぽつと話し始めた。

R私ね、アッカが近くに居ないのが、すごく不安なんだ。ずっと会えないのが、寂しいんだ。

いつも一緒にいて、笑って、泣いて……そんな相手が居なくなって、すごく不安なんだ。

でも、それ以上にね。

もしもう手の届かない場所にアッカが行ってしまったら、どうしよう、って考えちゃうの。

そこに、アッカが行ってしまったら、私のことを……忘れてしまうんじゃないか、って。

y…………!

Sロッカ……おぬしは……。

R私はね、アッカに忘れられるのが、怖くて仕方がない。

大好きな人が、自分のことをわからなくなるなんて、耐え切れない。

多分、ヤチヨも……そう思ったんじゃないかな。

話し終えたロッカは、どこまでも悲しそうな笑顔を浮かべて、見えないはずの空を見ていた。

彼女は涙を流せない。その胸には心臓もない。けれど、彼女は間違いなく人の心を持っていた。

y――私、キワムと少し、話してくる。

S……そうじゃな。それがいい。儂とロッカは少し散歩でもしてくるでな。

yうん。……ありがとう、二人共。

小さな声でそう言うと、表情を隠し、ヤチヨはそこから立ち去る。

R……叶うといいね、ヤチヨ。

Sああ、そうさなあ。

……ふふっ。儂らは、見守るのみよ。

残された二人は、いつもより早足のヤチヨの背中を、ずっと見送っていた。



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Yえー……さて。オメエらを呼び出した理由はわかるな、ネジヅカブラザーズ。

怒り、というよりは不機嫌絶頂の表情をしているアトヤ。

彼の前で、スミオとトキオは地べたの上に正座をさせられていた。

Y返事ィ。

sわ、わかりません……。

tお、同じくわからん……。

bおやおやおやおや、そんなんじゃあこのコベニ姉さんと――

Yハクザン兄貴の腹の虫は治まらねえぜえ……?

なんだか穏やかではない様子で、コベニとアトヤはスミオとトキオの顔を覗き込む。

それは、いわゆる旧世代的な言い方をすれば『ヤンキー』によく似ていた。

tい、いや、簡潔に理由を教えてくれ。小石がスネに当たって死ぬほど痛い。

トキオは必死に痛みを訴えるが、アトヤはそれを完全に無視しポケットからメモを取り出す。

Yさてエ、貴様らの罪状を今からゆっ…………く読み上げる。よく聞け。

t早く、なるべく早く頼む。本当に。

だんだんと切羽詰った声になっていくトキオ。だが、そんなもんをコベニが許すハズもな<。

bJ・J。トキオの膝に乗りな。

jゴゥ。ガアー!

本来ならばアトヤのガーディアンであるJ・Jを、重石代わりにトキオの膝へと誘導した。

tいたたたたたたた痛い痛い痛い痛い!

s兄ちゃん! 兄ちゃーん!!

地味な痛みに叫ぶトキオと、それを見て慌てふためくスミオ。

Yいいかぁ~~、貴様らの~~……。

そしてそれをあざ笑うかのように、カタツムリ並のスピードでアトヤの罪状朗読がはじまる。

Y罪ぃぃ……状ぉぉぉはァ~~……。

sはやく! 早く読んでくださいアトヤさん! 兄ちゃんが!兄ちゃんが!!

Y『やさぐれ罪』だァ~~……。

sや、『やさぐれ罪』かぁ……へぇ……。

t……くっ。

心当たりがある、ありすぎる……そんな表情でスミオとトキオは天井を見つめた。

b聞いたわよアンタ達。『なんだかどうでもいいモード』に入って好き勝手やったらしいじゃない。

自分たちの境遇を呪って、二人はキワムたちが心配するのも無視し、戦いに明け暮れていた。

そんな欝々とした、そして冷静になってみれば痛々しく辛い日々が彼らの頭をよぎる。

t反省はしているんだ……ッ! くっ……ぐおお……!

Yそりゃなぁ、悩むのもわかる。わかるがなぁ、お前らのやり方はいかん。いかんぞォ。

よし、そろそろいい頃合いだろ。立てネジヅカブラザーズ。素早くな。

正座を続けた二人に対し、唐突に非道かつ邪悪ね命令がアトヤから下される。

そう、一定時間慣れない正座を続けた足で、素早く立とうものなら……!

sんぅぉぉ……!!あ、足がァァ……!!

tふぉぉ……あぁぁぁ……! な、なんだこのかつてない感覚はァァ……!

彼らは一斉に膝から崩れ落ち、痺れた足先を手でかばいながら転がり回った。

Yククク……痺れた足に衝撃を加えると、何だかどうしようもなくなる系の感覚が走るだろう……?

フフフ……苦しめ……苦しむがいいネジヅカブラザーズ……そしてその足で走るのだ……。

tなっ……!? こ、こんな足で走ろうものなら、かつてない感覚に足全体が支配されるぞ!

s足がァァ、に、兄ちゃん助けて……!

tアフゥン!? や、やめろ、足を触るな! かつてない感覚がすごいんだよ今!!

ぎゃあぎゃあと騒ぎ続ける二人。対して、アトヤとコベニは段々と表情を失っていく。

そして、それは起きた。

Y鎖をちぎれ、砕け伽。我が心塞ぐものを断て。”リベルタス”。

b一ツ目射るは我が心、穿ち貫き敵を討て。”エクサエクオ”。

ガーディアンを展開し、彼ら二人は完全に臨戦態勢だ。

Y位置について、よーい。

bどん。

さらに、コベニは合図と共に思い切り弓を引き紡る……!

t……ッ!? す、スミオ! 走れェェ!!

sわあああああ!! 兄ちゃァーん!!

こうして、へ口へ口の兄弟は命がけの鬼ごっこを始めることになったのだった……!


 ***


tはぁ……はぁ……ダメだ、もう走れん!

sお、俺もダメだ、もう無理!

背後から岩石弾や矢をしこたま撃たれながら、トキオとスミオは限界まで走り続けた。

だが、その背後から息一つ切らしていないアトヤとコベニが迫る。

tああ~?あんだってぇネジヅカプラザーズゥ……?

bもうちょっと大きな声で言わないと聞こえないわよォ……?

この二人組には血も涙もないのか……!

そうトキオとスミオは思い、命乞いとぱかりに;大声を張り上げる!

t限界だ!! もう無理だ!!

s助けてくださいい……!!

……すると、アトヤとコベニはお互いに顔を見合わせて苦笑した。

tな……?

まるで意味がわからない、という様子で、トキオはアトヤを見つめる。

そんな彼の横にしゃがみ込み、アトヤは盛大なため息を一つ。

Yはぁ……お前らはな、やさぐれる前にそう言うべきだったんだよ。

戦って、自分をいじめ抜く前に、キワムたちにな。限界だ、もう無理だ、助けてくれーって。

bそう言ったら、特にキワムなんかは必死になって一緒に考えてくれると思わない?

どうすればいいんだろうな、俺に何かできることはないか、大丈夫かーって。

s……!

……アトヤとコベニの言葉に、トキオとスミオは、一瞬面食らったような顔をする。

そして、何かを悔いるように、複雑な表情をしてうつむいた。

彼らは、考えていた。そういえば、自分は仲間たちに、自分の何かを伝えようとしただろうかと。

自分の中でぐるぐると渦を巻く、暗く沈んだ考えを、一度でも誰かに話そうとしただろうかと。

……答えは、否。トキオもスミオも、はじめから他人を拒絶していた。

キワムたちは、ずっと手を差し伸べていてくれたはずなのに。

Yだからよ、お前らの『やさぐれ罪』は、『あいつらとお話してこいの刑』で済ましてやる。

唇を噛み、過去の自分を悔やむトキオとスミオに、アトヤは優しく言う。

t……すまない、アトヤ。俺は――

Yだーからさぁ、謝るのは俺にじゃなくてあいつらに! 頼むぜ、ネジヅカ兄よぉ。

t……そうだな。すまん。

Y――ったく。行ってこいよ、足フラフラだろうけどよ、兄弟でお互いに肩貸しゃ歩けるだろ。

落ち込んでても、やさぐれてても、それだけはやれてたんだからな。できるだろ?

アトヤはそこまで言うと、二人に向かってニヤッと笑う。

憑き物が落ちたような顔をして、スミオは膝に手をついて立ち上がった。

s……なあ、兄ちゃん、行こう。俺、キワムとか、ヤチヨとかに、いっぱい謝んなきゃ。

苦笑しながら、スミオはトキオに手を差し伸べる。

それを掴んで、トキオもゆっくりと立ち上がった。

tああ、そうだな……!

bただ、その前にちょっと一仕事、あるみたいよ。

彼らの背後に向かって、コベニはいつの間にか弓を引き絞っている。

その方向からは、鋭い殺気と、敵意の臭い。

t……任せてくれ。どんな状況だろうと、戦うことだけはやってきた。

トキオはそう言うと、手を伸ばし、そこに蛇骨の銃を召喚する。

sああ。だから――ここは俺たちにまかせてくれ。

さらにスミオはトキオに倣い、腕の先に幾何学的な形の銃を召喚した。

銃口を魔物に向け、彼らは心の動きそのままに、引き金を引く!


 ***


s……やっぱり、俺と兄ちゃんのコンビは最強だよ。

tそうだな。世界広しといえど、俺達に勝てる奴はそう居ないはずだ。

Yはいはい、いいから行って来いって。

tああ、改めてありがとう、アトヤ。……よし、それじゃあ行くか、スミオ。

もう足のしびれはとれたのか、しっかりとした足取りでアジトヘと戻る二人。

b偉そうなこと、言っちゃってさ。私が怒った内容まんまじゃない。

アンタだって、本当に辛い時は誰にも頼らないくせに。

Y……いいじゃねえか。俺のことはよ。

そう言うと、アトヤは腰に下げていたラジオを床に下ろし、スイッチを入れる。

Y男にゃな、それでもやり遂げなきゃいけねえ時があるんだよ。

静かな旋律が、スピーカーから流れ始めた。

それはまるでアトヤには似合っていない、ゆっくりとした、たおやかで、美しい旋律。

b……ばっかみたい。

Yたまにゃ、馬鹿もいいじゃねえか。な、コベニ。

それから二人は少しだけ見つめ合うと、互いを見ずにもう一度笑った。




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hクソッ……暴れるな!

Aうるさいうるさい!はぁーなぁーせぇーッ!!

大声で叫びながら、アッカはヒミカの腕の中で暴れる。

耐え切れなくなったのか、はたまた堪忍袋の緒が切れたのか……

ヒミカはアッカを下ろすと、コインを手に呟く。

hなにひとつなき夢のあと、ただひとつだけ影は立つ……”アドミローラ”。

次の瞬間、そこには翼を重ねあわせたようなガーディアンの姿が出現していた。

h……こいつを運ぺ、アドミローラ。私はもう疲れた。

ヒミカの命令通り、アドミローラと呼ばれたガーディアンはアッカを無造作につまみ上げる。

巨大な翼に吊り下げられながら、アッカはヒミ力に対し不敵な笑みを浮かべた。

A……私を連れて行っても、なんにもなんないよ。ロッカはあそこに置いてきちゃったんだから。

hそうか。それでも貴様を追って奴らは来るだろう? 貴様は良い人質だ。

ましてや貴様に戦う力が無いならば、監禁のコストは最小限で済む。逆に助かったぞ、アッカ。

Aくっ……こいつ……!

アッカとアドミローラを引き連れて、ヒミカは急ぐわけでもなく道なき道を進んでいく。

この先に何があるのか……アッカには、知る由もなかった。


 ***


……チッ、遅いぞ、アドミローラ!

ヒミカの歩く速度より少しだけ遅いアドミローラを叱りつけ、ヒミカは頭をかく。

h全く……これでは予定には間に合いそうにないな……。

A予定……? なにそれ、アンタにもそういうのあんの?

h馬鹿を言うな。我々の計画の話だ。

そう言いながら、ヒミカは手にした機械で誰かとメッセージを送り合っている。

h……こっちか。

Aあのさ、一体どこに連れてくつもりなわけ? それぐらい教えてよ。

h断る。距離が離れていてもお前たちは情報の共有ができるのだろう?

A……さあ、どうだったっけ?

hとぼけるなよ。お前のカタログスペックは頭に叩きこんである。

無駄なことはやめておけ。

言いながら、ヒミカはふと立ち止まる。

彼女の眼前に、スピーカードローンが立ちはだかっていた。


 ***


h……危ない危ない。以前のように場所を気取られたらたまったものではないからな。

A(やっぱり、強い……!)

アッカは、直前の戦いでヒミカの強さを感じ取る。

おそらく、今のアッカのそばにロッカが居たとしても、勝てる見込みはないだろう。

A……ココを出て、どうするつもり?

hさあな。私が決めることではない。

Aじゃあ、誰が決めるっていうの?

h私以外の誰かだ。私は言われた命令をこなすだけだ。

そっけなく返しながら、ヒミカはふたたび手にした機械を操作しだす。

いくつかのメッセージが流れ、その中の一文をアッカは目をこらし盗み見た。

A(……『アッカを月施設へ可能な限り早く移送せよ』……月?どういうこと……?)

だが、それ以上の文字は読み取れない。ヒミカはすぐに機械をポケットに突つ込んだ。

h行くぞ、遅れるなよアドミローラ。

A(何か、手がかりを手に入れないと……)

だが、彼女のそんな健気な思いは、簡単に打ち砕かれることとなる。

なぜなら……。

h……さて。アドミローラ、そいつを荷台に突っ込んでおけ。

A痛っ、何すんのよ馬鹿!いい加減に……!

アッカは勢い良く狭い箱のような場所に押し込られ、乱暴にそのフタを閉められる。

A出して! 嫌だ! こんな……。

暴れていた彼女は、ふと妙な振動を感じ手を止紀る。

A(これって……まさかこの箱、動いてる?)

どこに連れて行くつもりなのよ……!

狭い箱の中で、アッカは呟きながら、必死でロッカに思考を飛ばした。

ロッカが、これを皆に伝えてくれる。そう信じて。

A(……お願い、ロッカ。皆に話して……今私は移動してる……何かに乗せられて……

船みたいな……上がったり、下がったり……それとね、私……

月に、連れて行かれるみたい……)




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ミュールは、瓦篠に埋まっていた本のタイトルを見て、それを読もうとしてみた。

m……わ、のくに……? ……しん? んー……とし? すごし……かた?

わからなしで。むずかしの……。

ムッとしながら、ミュールはその本を後ろへ放り投げる。

生まれてからずっと、彼女はこの場所で暮らしてきた。

けれど、この場所には何もない。それ故に、なにかを作ることも、得ることもなかった。

ただ、彼女の中にある、うっすらとした記憶が、どこから来たのかだけはわかっていた。

m……いろいろのばしょ、あるいたは、たのしいですかったな……。

いっぱい、たくさん? みて、あるいたな……うれしいでした……。

それは、ずいぶんと昔の記憶だった。その頃のことを、ミュールは上手く思い出せない。

mむ……? でも、ミュール……さいきんになっての、うまれてましたのれ?

わからなし。むずかし……むずかし!

なんだか混乱してきたミュールは、少しだけ遠くまで歩こうと思った。

いつもは勇気が出ず、進めない場所に。


 ***


ミュールは、考えごとをしながら歩いていた。

m(ミュールは、いつ、うまれてましたので?

んー……おぼえ、いつのまに、ミュールがいましたし。わからなか、むずかし……)

その内容は要約すると、自分がいつ生まれたのか、ということ。

(でも、ミュールの、いろいろあるいたで、たのしいのは……もっとまえで。

まえ……?いつのまえ?うまれての、まえ?わからなし。むずかし……)

でも、彼女の覚えている最も楽しかったことは、その生まれる前のような気がする。

自分の記憶の噛み合わなさを、彼女は彼女なりにずっと考えていたのだった。

m……ん? ミュール、どこですが?

そして、ふと気づいた時には、周囲の景色は見たことのない場所に変わっていた。

mむお……わからなし……どこだの……!

彼女は困り果てて周辺を見渡す。だが、やはり見覚えのある場所や景色は見当たらない。

さらに悪いことに、無防備な彼女を狙ってか、魔物が集まり始めたのだ。

だが、それに気付いたミュールは、逆ににっこりと笑う。

m……ふむふぅ……♪ よき、よき! ヤムヤム!

彼女はそう言うと、自分の頬に手を当てて、魔物へと駆け寄って行った。


 ***


mヤムヤム! むーふぅ……おなかたくさんのです……!

ミュールがペロリと唇を証めた頃には、周囲に居た魔物は一匹もいなくなっていた。

mむ……? おと……?

ふと、ミュールは少し遠い場所から、聞いたことのない音が聞こえたのに気づく。

その方向へと、彼女はぺたぺたと駆け寄ってみた。

……すると、段々とその音が、ただの音ではないことがわかってくる。

m……おと、ちがうのす。……こえ?

こえだ……ミュールのちがう、こえ! ミュールのちがう!

そう、それは自分とは違う誰かの声だった。

駆け寄った先では、見たこともない誰かが、何が言い争いをしている。

そして、その中の一人が、ミュールを指さしながらこう言った。


Yその収穫者ってのはよ……そこの、アイツみたいな見た目してんのか?

m…………?

なんだかよくは解らないが、ミュールはとっさに、この誰かについていこうと思った。

m(……ミュールは、いきますの。ここをでまし、たのしいと、うれしいを、みたい)

そう決意した彼女は、そこから見える自分の生まれた場所……。

スザクロッドの先端、『カリュプス』のいる場所をじっと見て、心の中でこう言った。

m(さよなら。また、ミュールはいつか、かえるので)

(さよなら……おかあさん)

コメント (幻魔特区スザク2 外伝 Story)
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