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【アナデン】ジルバー Story

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最終更新者:にゃん
人助けをしながら日々を過ごす老戦士。物腰は優雅で言葉は丁寧だが、ふとしたときに哀しげな表情を浮かべる。長く旅をしているらしく大きな古い鞄を持ち歩き愛用の斧も使い込まれている。大変な愛妻家で離れて暮らす妻によく手紙を書いて自分の近況を伝える。



目次


手紙に託す想い

カレク湿原にいる若い女性がなにやら困っているらしい。ジルバーはおだやかに微笑みつつ彼女に手伝いを申し出る。





手紙に託す想い



「……おや、あれは?」


「どうしよう……せっかくここまで来たのに……」


「こんなところにうら若いお嬢さんが一人でいるとは……少し気になりますな。」

「ああ、そうだね。見かけない顔だし旅の人かな?」


「こんにちはお嬢さん。今日はなかなか良い天気ですね。」

「あっ……こ、こんにちは。」

「こんなところにお一人とは……どなたかと待ち合わせでも?」

「いえそういうわけでは……」

「そうですか。

いやおせっかいな老人だと思われるでしょうが……なにやら表情もすぐれぬご様子。

もしや何か困りごとでもと思いましてね。こうして声をかけさせていただきました。」

「まあご親切に……ありがとうございます。

行商人をしている兄に会いにゆくつもりなんです。」

「ほうそうでしたか。仲の良いご兄妹のようですな。お兄さんはどちらに?」

「いまは王都ユニガンに滞在しているらしいんです。」

「ユニガンか……けっこう遠いよ。カレク湿原を通らないとたどり着けないし。」

「ええそう聞きました。故郷を出てなんとかここまでは来られたんですが……」

「なるほど。この先を進むのはなかなか大変ですからな。」

「それで困ってしまって……」

「だったらオレたちがユニガンまでいっしょに行くよ。女の人だけじゃ心配だから。」

「えっ!? でも……そんなご迷惑をおかけするわけには……」

「いえお嬢さん。どうか気になさらずに。ついでのことですから。」

「ついでの……こと?」

「実は私たちユニガンに忘れ物をしてしまいまして…………ねえアルドくん?」

「えっと……忘れ物って……」

「ほら。さっき話していたアレですよ。大切な物だから取りに戻ろうかと……」

「……………………あっ! そうそう! 思い出した。うん忘れ物あった!」

「さすがはアルドくん。話が早くて助かりますよ。

こういう事情ですからどうか気になさらずに。」

「……わかりました。そういうことでしたらお言葉に甘えさせてください。よろしくお願いします。」

「こちらこそよろしくお願いいたします。

それではさっそく参りましょう。ユニガンまでご案内いたしますよ。」



 ***


「……着いたよ。ここが王都ユニガンだ。」

「ありがとうございます。助かりました。」

「いえいえ。あくまでもついでのこと……ですからね。」

「そうそう。シルバーの言うとおり。気にしないでくれよ。」

「それではお気をつけて。早くお兄さんに会えると良いですな。」

「え……あ……はいそう……ですね。

それでは兄を探しますのでこれで失礼します……」


「……お待ちなさいお嬢さん。

失礼ですが……まだ何かお困りのことでもありますかな?」

「………………。」

「……ジルバー?」

「遠路はるばるお兄さんに会いにきたわりには浮かない顔をしているのが気になりまして。

何かお役に立てることがあれば遠慮なく言ってください。」

「……でも……そういうわけには。お二人も用事があってユニガンに来たんですよね?」

「はて? 用事……ですか? いけませんな。年を取るといろいろ忘れやすくなって……

忘れ物のことなんてすっかり忘れてしまいましたよ。」

「まあ……ふふふ。」


「それで……シルバーの言うように何か困ってるのか?」

「ええ……実は……兄とは音信不通なんです……。」

「ほう? それは穏やかではない話ですな。」

「兄は行商人をしているので手紙で近況を伝えあっていました。

けれど少し前にささいなことでケンカになってしまったんです……。

それ以降兄から手紙が来なくなってしまって……。」

「今まで手紙が途絶えたことはなかったのですか?」

「こんな風に急に手紙が来なくなったのは初めてで……。」

「なるほど。仲直りしようとお兄さんに会いにきたわけですか。」

「ええそうなんです……。でも……手紙も送りたくないほど怒っているのに会ってくれるのか心配になって……。」

「ふむ……距離を置いて冷静になるのを待つのもひとつの手かもしれません。

かく言う私も妻と仲違いしたときにそのような手を使ったことがありましてな。

もっとも結果はさんざんでしたが……ははは。

迷ったときは自分の心に素直に従うのが良いでしょう。

謝りたい……そう思ったのならまずはお兄さんに会うべきです。」

「そう……ですよね。」

「会ってみれば案外考え過ぎだった……なんてことが得てしてあるものです。」

「はい。ありがとうございます。兄を探しにいってみます。

ユニガンの酒場に兄が仲良くしている方がいるという話ですので……。」

「ユニガンは不慣れでしょうから私たちもお手伝いします。

……ですよねアルドくん?」

「もちろんそのつもりだよ。それじやあユニガンの酒場に行ってみよう。」


 ***


「……なんだい? お兄さんを探している?

ああ彼のことか。」

「兄がいつもお世話になっております……。」

「いやいやこちらこそ。それでお兄さんと会うために故郷から出てきたんだ?

そうか……商売をやめて実家に戻ったわけじゃなかったのか……」

「あの……どういうことですか? 兄はいったいどこに?」

「実はさ。ここ最近姿を見せないんだよ。」

「えっ!? それって……もう別の街へ……?」

「いやまだユニガンでがんばるって言っていたから……

商売を続けてるならユニガンにいるはずだよ。

もしかすると……何かのトラブルに巻き込まれたんじゃ……」

「そんな……!」


「どうか落ち着いて。トラブルと決まったわけではありませんから。

この街にいる騎士なら何か知ってるかもしれませんね。」

「そうだな。ちょっと話を聞いてみよう。」


 ***


「行商人の兄を探している?」

「はい。ここのところ姿を見せないという話で……」

「……そう言えば最近カレク湿原に野盗団が出没するって話だ。

行商人が襲われたという報告を聞いたんだが……。」

「ええっ!? ま、まさか兄も……」

「気になる話ですね。お兄さんが音信不通なのに関係あるかもしれません。

どうでしょうお嬢さん。このあとのことは私たちに任せてもらえませんか?」

「はい……! お願いします! 兄を探してください!」

「それじゃオレたちが帰るまでキミはここで待っててくれないか?」

「わかりました……よろしくお願いします。

こんな風に良くしていただいてなんとお礼を言えば……」

「どうか気になさらず。好きでやっていることですから。

私の斧は人助けのために振るうと決めているのですよ。

妻と約束したもので……」

「よし。行こうジルバー。カレク湿原だ!」


 ***


「……さあ早く案内しろ!」

「ほら早く歩け!」

「くっ……!」

「まったくようやく吐きやがった。手間をかけさせやかって!」

「ほ、本当に……これで解放してくれるのか?」

「ああ。お前が行商で稼いだ財産を全部渡すんならな。」

「わかった……。約束は守ってくれ。財産を隠してあるのはこの先だ。」


「……おやおや。なんとも不埓な行いをしている場面に出くわしてしまいましたな。」

「おい、お前たち! その人をどうするつもりだ!」

「なんだてめえら! 関係ねえのに首を突っ込むな!」

「あんたたち逃げてくれ……! ユニガンから騎士を呼んでくるんだ!」

「黙れ! 余計なことをしゃべるな!」

「ぐふっ……!」

「やめなさい! 手荒なマネは!

さもないと……後悔することになりますよ?」

「引っ込んでろ! ジジイ!」

「まったくなげかわしい。聞きわけのない子供ですな。

少しおとなしくなってもらいましょう。」

「そうだな! 話してわかる相手じゃなさそうだ!」

「やるってのか? こいつらに食われちまいな!」



「こ、こいつら……つええっ!?」

「ひっひいいいいっ!!」

「あっ待て! お前たち!」

「逃しは……しません!」


「くっ……! 何しやがった……ジジイ!」

「か……体が……動かねえ……」

「しばらくの間そのままおとなしくしていなさい。」


「お怪我はありませんかな?」

「は、はい……助かりました。」

「すごいなシルバー。さっきの動き……驚いたよ。」

「ははは。こう見えてもそれなりに鍛えてますからね。」

「ちょっと聞きたいんだけど……妹と手紙のやり取りをしてたりする?」

「ええ……してます。どうして知ってるんですか?」

「どうやらこの人がお兄さんのようですね。見つかって本当に良かった。

ではユニガンに戻りますか。あの連中は騎士団に引き渡しましょう。」


 ***


「……あっ! 兄さんっ!!」

「お前どうして……!?」

「いままでどこにいたの!? もしかして危ない目にあってたんじゃ……」

「それは……その……。」

「少しお仕事が忙しかっただけですよ。

大きな商談があって夢中になっていたそうです。

そうでしたよね?」

「あ、ああ。そういうことなんだ。」

「そうだったの……。でも元気そうでよかった。」

「お前の方こそなんで会いに来たんだ?わざわざ来なくても手紙で……」

「その手紙がこないから心配したんじゃない……!」

「それは悪かったよ……でもわざわざ来ることなかっただろ……。

こっちにもいろいろ事情があったんだよ。」

「……なんで迷惑そうなの? 会いにきたのに……

……やっぱりあの手紙のこと怒っているのね!」

「あれはお前が……!」


「まあお二人とも落ち着いてください。せっかくの再会なのですから。

それにお嬢さん今は他に伝えたいことがあるでしょう?」

「そ……そうでした……。」

「……とはいえ顔を合わせるとつい感情がたかぶってしまうのもわかります。

せっかくの再会なのに想いを伝えられないのはとても悲しいことです。

……私には離れて暮らす妻がいるんですよ。

あなたたちと同じように手紙で私の近況をいろいろと伝えています。

だから他人事とは思えず……なので少しだけお手伝いをさせてください。」

「お手伝いですか……?」

「お嬢さんこちらを。」

「これは……手紙?」

「その手紙に今のあなたの想いを託してみるのはいかがですか?」

「え……ここで、ですか?」

「手紙は想いを託し届けるもの。近くても遠くはなれていても託された想いは変わりませんから。」

「………………。わかりました……やってみます。兄さん少し待ってて。」

「ああ、わかった。」



「兄さん……はいこれ。短いし字も綺麗じゃないけど……。」

「ああ……読んでもいいか?」



この前の手紙ごめんなさい。

兄さんにひどいことを書いてしまいました。

でも本当は兄さんのことが心配だったんです。

だから久しぶりに会えて元気な顔を見られてとても嬉しかったです。

危ない目にあっていなくて本当に安心しました。

最後にもし兄さんが許してくれるならまた手紙のやりとりをしたいです。




「………………。

……手紙ありがとな。いつもお前からの手紙を楽しみにしていたよ。

父さんや母さん……爺ちゃんたちのことも書いてくれてうれしかった。

離れて暮らしていても家族とつながってる気がしてとても心強かったんだ。

だから……オレの方こそ悪かった。お前にキツイことを書いてしまった。」

「兄さん……。」

「……これからも手紙を書いてくれないか? オレも書くからさ。」

「……! もちろん!」



「……良かったな。あの兄妹が仲直りできて。」

「ええそうですね。見ていた私まで心が暖かくなりました……

またひとつ妻に伝えたい出来事が増えましたよ。

さっそく妻宛の手紙を書こうと思います。」

「シルバーは本当に筆まめだな。それだけ奥さんのこと想ってるんだね。」

「とても大切な人ですよ。

もう長い間顔を見ることもできていないのですが……

手紙という絆で私たちはいつでもつながっている……そう信じています。

今回はアルドくんをつきあわせてしまいましたね。いろいろ助かりました。」

「どうせいつものことだし気にしないでいいから。」

「ははは。アルドくんはずいぶんと人付き合いがいいんですね。

それではこれからもこの老人のおせっかいに付き合ってもらうとしますか。」



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