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【黒ウィズ】狼たちと鮮血ずきんさん Story2

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story 悩むと爆発しちゃう



「うん、よく焼けてるわね?はい、メメリーちゃん召し上がれ。」

メメリーは、いい具合に焼けたキノコを怖々受け取った。

「食べて大丈夫かなあ?あとで、笑いが止まらなくなったりしないかなあ?」

「毒キノコじゃないから、きっと大丈夫よ。これは、私も普段からよく食べてるキノコだし。」

同じキノコを手にとって、リコラは先にかじって見せた。

「あちちっ。うん……美味しいわ!」

それを見たメメリーもまねをしてキノコをかじってみる。


「がぶっ!ふあ……あちちっ!熱いよぉ!」

「あーもう、冷ましてから食べないと火傷しちゃうわよ? ほら貸して。ふーっ、ふーってしてあげる。

ふーっ、ふーっ。」

「……。」

「はい、これで大丈夫よ。ん?どうしたの?」

「な、なんでもないよ!ありがとう。」

「どう致しまして。」


にこっと微笑むリコラを見て、メメリーはなぜか頬を染めて顔を逸らしてしまう。

なぜ、リコラに微笑まれて、顔が赤くなってしまうのか……メメリーにはわからなかった。

でも、こんな気持ちになったのは、生まれて初めてだった。


(ほえー。リコラと一緒にいると心臓のドキドキが止まらないよ!

まさか、これって……は「心筋梗塞」の予兆なの?)


とんちんかんな自己分析をしているメメリー。

もうラグールのことなど、どうでもよくなっていた。



(俺と接している時と、メメリーの態度が明らかに違うぜ。やっぱりこのふたり、気が合うみてえだな?

俺と接している時のメメリーは、「隙あらば始末する」という殺気を放っているが、いまのあいつからは、殺気は感じられない。

メメリーをあんな風に変えたリコラ……。不思議な子だぜ。ただの半狼の娘とは思えないな。ちっと正体を探ってみるか)


「む?」

闇の中を進む、何者かの気配を感じた。

それも、ひとつではない。かなりの数だ。少なくとも、100人はいる。



「ようやく見つけたぞ。そこにいるのは、大怪盗ラグールだな!?

「お前たちは、領主の兵隊か?おそろいでどうした?

「そこにいる狼の女は、領主様がお買い求めになられた「物」だ。ただちに返してもらおう!

(ちっ、完全に囲まれてやがるな。さすがにこの数はまずいぜ……。どうする?)


「あの人たちは……!?」


兵士の登場により、リコラは怯えたように身をすくませている。

メメリーは両手を広げて、リコラをかぱうように立った。


「大勢の大人が、よって集って弱い者虐めをするのは、よくないのです!」

「おお! その格好。お前は、狼退治の専門家の赤ずきんじやないか?ちょうどよかった。

領主様の大事な物を強奪した大怪盗ラグールを退治し、そこにいる狼を確保するためにご助力頂きたい。」

「確かにメ、メメリーは……赤ずきんなのです。でも……でも……。」

「これまで数々の狼を退治したと聞きます。我々に協力してくださるなら、報酬は領主様から沢山頂けますぞ?」

「お、お金の問題じゃないのです!狼には、良い狼もいる……のです。」


(ほう、メメリーに迷いが生じているのか。これはいい機会かもしれねえ)


「メメリー、ここの領主は、珍しい生き物を闇市場で買つてきては、自分の館に閉じ込めて、玩具のように酷い扱いをしていると聞くぜ。」

「ほえ?どうしてそんなことをするの?」

「ペットにするためだよ。そんなことのために、リコラは連れてかれようとしているんだ。

そこの兵士に捕まったら、二度と外には出られないだろうなあ。」

「そんなのおかしい……。リコラは、なにもしていないのに?」

「そうだ。本当に悪いのは、果たして半狼なのかな?それとも、人間……どっちだろうなあ。」

「本当に悪いのは……。悪いのは……。」

「さあ、どっちを選ぶメメリー?リコラを助けるか、領主様に従うがどっちだ!?」

(ふふふっ、良い感じに追い詰められてやがるぜ。あとー押しだ!)


「う一ん……うーん。

うーん……うーん。本当に悪いのは……狼?それとも人間?でも、メメリーは赤ずきんだし……う一ん。」



「? なにが起こった!?」

「きゃ!? メメリーが爆発したわ!」


 (狼は悪い奴らだって言ってたばっちゃんは、間違ってたのでしょうか?メメリーには、わかんないで……す)


「でも、リコラはメメリーの大事な友だちなのです!」

「なんだと!赤ずきんの癖に、狼の味方をするのか!?」


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story3-2



メメリーの祖母は若い頃、森で遭遇した狼に食べられそうになったという。

しかし、鋭い牙にかじられる直前、祖母の体内の『赤ずきん魂』が覚醒し 

起死回生の必殺技「鮮血頭禁拳(あかずきんけん)」が詐裂して、見事狼を撃退したという。

その後、狼退治に生涯をかけた祖母だったが……。

最後に800匹の人食い狼軍団と7日7晩に渡る大立ち回りの末、相打ちとなって命を落とした。

祖母日く――

『世は強者だけに優しい。強くないと生きていけないのは、世の理。生きることに執着するならば、狼よりも強くあれ』

孫のメメリーにあてた言葉だったが、まだ幼かったメメリーには、当然理解できるはずもなかった。


(ばっちゃんは、最期まで狼から人間を守るために戦った。だって狼は悪い奴だから。

でも、メメリーの目には、狼のリコラよりも、領主様たちの方が悪い人に見えるの……

だから……は教わった「鮮血頭禁拳」を人間相手に使うね?)


「くらえ一、きっとあの葡萄は酸っぱい!認知的不協和拳!」


「ぬぎゃああああああっ!」

「赤ずきん!我々人間を裏切って狼の味方をするのか!?」

「リコラを悲しませる奴らは、みんな悪い奴らなの!」

とりゃー!お腹が空いたでしょ?これをお食べ!毒林檎暗殺拳!」

「うぎゃあああああああああっ!」


「物語の最後は、いつも切ない終幕!腹裂石積蹴!」

「ぎゃああああああああああっ!」


なす術を失った兵士たちは、這々の体で逃げ出すしかなかった。

メメリーは、祖母から受け継いだ狼退治の極意を余すところなく用いて領主の兵たちを散々にやっつけた。


「あーはっはっはっ!勝った!勝った!」

尻尾を巻いて逃げていく兵士たちを見て、勝利の快感に酔いしれる。

この時ばかりは、祖母が残した言葉も、赤ずきんの継承者という立場も、頭からすっぽり抜け落ちていた。


「でも、いいのメメリー?あの人たちと戦うと、あとでメメリーの立場が悪くなるんじゃないの?」

「あえ……っ。

……で、でもでも。あいつら、悪い兵隊だったし、悪い人間と狼は、退治するべきだってばっちゃんが言ってたよ!」

「お前のおばあちゃんは、人間も退治すべしって言つたのか?」

「うっ……。ばっちゃんは言ってないかも。でもきっと、じっちゃんは言ってたと思う。言ってたんじゃないかな……。」

「とにかく、これでメメリーも、領主の兵たちに追われる立場になったわけだ?」

「どんな奴がこようと、メメリーは負けないのですえっへん!」

「おいおい、そこは威張るところじゃないだろ?」


 (でも助かったぜ。メメリーがいなきや、今頃リコラも俺も、領主の館に引つ立てられていたところだった。ひとつ借りができたな)


リコラが、思い詰めた表情のまま口を開いた。


「どうやら私がここにいると、メメリーに迷惑をかけてしまうようね?

「ほよ? そんなことないよ!悪い奴が来たら、またメメリーが守ってあげるよ。


「そうは言うがリコラ。行く宛てがあるのか?」

「エンシェントウルフのー族は、滅んでしまった。けどー部の半狼たちが、大陸の果てにいるという噂を聞いたわ。

彼らを探して旅を続けるわ。」


(そんな……)


「え……リコラ、行っちゃうの?」

「ごめんねメメリー。でも、私がここにいたら、さっきのような奴らがまた来るわ。友だちを危険な目に遭わせたくないの。」

「やっぱり、同族同士じゃないと、わかり合えないものな。リコラの決断は正しいと思うぜ。

さて、俺はどうするかな? メメリーは、リコラのことで頭がいっばいみたいだから、俺なんかに構ってる場合じゃないだろうぜ。

リコラの旅に同行するのもいいな。あの子ひとりじゃ心配だし……どうせ、行く場所もない。

しばらく適当に旅をして、盗みたいものが見つかったら、また仕事に取りかかればいい。

にしても、しけた村だぜ。こんなところには、俺が盗みたいものはないな。」


 「それでね……。」


(やばい、人が来た)

ラグールは、とっさに物陰に身を隠した。

村人は、ふたりいた。どちらも難しい顔をしている。



「そうだな……。そろそろ決断するしかないか。

「そうしてよ。狼なんて、めっきり出なくなったのに、あの赤ずきんに守り代だけ払い続けるのはもったいないわ。


 (あいつら、メメリーの話をしているのか?)


「でもなあ、メメリーちゃんも頑張ってると思うが……。」

「人の娘さんなんて、どうだっていいじゃない!他人よりも、うちの娘たちのこと考えなさいよ!」

「うっ、そうだな。すまん。」


 (へっ、メメリーの奴、村人たちから必要とされなくなってやがんの。

メメリーみたいな危ない奴がいる村に、半狼は、誰も近付かないだろうな……

でも、それって……今までメメリーが、頑張って半狼を退治してきた証拠じゃねえか)

「……。」

(故郷の奴らから、冷たくされて居場所を失うか……。まるで、昔の俺のようだ)


いまでもラグールは、故郷にいる幼い弟たちに仕送りはしているが。

故郷を飛び出してから、まだー度も帰郷したことはなかった。


「ちっ。どうして俺が、あんなガキの心配をしなくちゃいけないんだ。

あんなガキがどうなろうが知ったこっちゃねぇ。」


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story4 ふさふさは魅力



「がう! がう! がう! ……なの!

うーん。ちょっと違うかな?もっと、大きく口を開けてみようかしら?」


「がうううう!がう!がう一ううっ!……なの!

さっきよりも、迫力が出たかしら?」



「熱心だな。さっきからやっているのは、吠える練習か?」

「い、いたの!? 練習してるところ見られちゃった。恥ずかしい……。」

「吠えるのが下手な半狼なんて、あまり聞いたことがねえな。どうして吠えるのが、そんなに下手なんだ?」

「そ……それは、子どもの頃から、あまり吠える必要がなかったからよ。」

「なかなか良いご身分だったようだな? もしかして、リコラはお姫様だったんじゃねえか?」

「……。」

「おいおい、まさか図星かよ。とんでもないお方と、知り合っちまったぜ。」

「けど、それは過去の栄光に過ぎないわ。今の私は、何者でもない流浪の半狼だわ。」


悲しげに目を伏せる。

エンシェントウルフ族の姫という立場でありながら、一族の滅亡を防ぐことができなかった――

その後悔が、リコラの心を沈めていた。


「そうか、俺にしてやれることは少ないが、せめて半狼らしい吠え方を教えてやろうか?」

「お、教えて!どうしたら、半狼らしく吠えられるの!?」

「もっとこう……腹の底から吠えるんだ。全身を使って、声を吐き出す感じだな。」


「がう!……なの! がう!……なの!……こうかしら?」

「その……「なの!」っているか?それが余計に弱々しく感じさせているんだと思うぜ。」

「なの……は、いらないのね?わかった、やってみる。」


「がう! がう!……だぞ!がう!……だぞ!」


「どう?」

「そういう問題じゃなくてだな……。」


道のりは、果てしなく長そうだとラグールは感じた。



 ***



メメリーはしょげていた。

考えているのは、当然リコラのこと。


「リコラ行っちゃうんだ。どうしよう、せっかく友だちができたのに。寂しくなる……。

ううん。寂しいどころじゃないよ!やっとできた友だちなんだよ!?居なくなって欲しくないよ!

これからもリコラとー緒にいたいよ。でも、リコラには旅する目的がある……。

そうだ!メメリーも一緒に旅をすればいいんだ!

だって友だちだもん、リコラとー緒に旅しててもおかしくないはずなの!

でも、旅に出ちゃうと、この村はどうなるんだろう? メメリーがいなくなると、誰が狼から村を守るのかな?」


メメリーはひたすら悩んでいた。

悩んで悩んで……。悩みすぎて、知恵熱が出てしまった。


「ふあ、頭がふらふらするよぉ。」

「ヘヘヘっ、ここか。噂のエンシェントウルフが出没したっていう村はよぉ。

あのふさふさの耳の毛を売れば、王都に屋敷が買えるほど儲かると言われている貴重な種族だ。

他の奴らに先を越される前に、なんとか俺の物にしたいぜ。」


資金稼ぎの言葉をぼんやりと聞いていたメメリーは……。


(そうだよね。リコラの耳の毛、ふさふさしてて、触り心地良さそうだもんね

リコラがいなくなると、あのふさふさな耳の毛が触れなくなるんだ……)


「一度でいいから、触ってみたい。でも、リコラがいなくなると……二度と触れない。

そんなのはイヤだ!」


めめりーのなかで、なにかが吹っ切れた。

その瞬間、知恵熱もあっさり吹き飛んだのだった。


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story4-2



「ぐへぇ……!」

「参ったか!?メメリーの友だちに手を出すとどうなるか、帰って仲間にも教えるの!」

「くそっ、お前は人間を守る赤ずきんじゃねえのかよ!? 狼に肩入れして、人間を敵に回すのか!?」

「ほよ?だって、悪い奴をやっつけるのが正義の味方でしょ?

メメリーは、正義の味方であって、人間の味方ではないのです!」

「く、くそう!王都に屋敷を建てたかったぜ……!」

男は、惨めに泣きながら逃げていった。



「あう……やっちゃったかも。」

威勢良く啖呵を切ったはいいが、メメリーには、まだ祖母の言いつけを破るほどの覚悟ができていなかった。

「昔から言われてたんだった。メメリーは、調子に乗りすぎるところが良くないよって。

人間を殴るなんて……。ばっちゃんが、天国で怒ってるよ、きっと……!

で、でも、正義の味方になるのは、悪いことじゃないもん!きっとばっちゃもわかってくれるよ!……うん!」


「メメリー!」

「ほよ?リコラ!?」

「今逃げていった人間は、私を狙ってきた人なの?大丈夫? 怪我はない?」

「当然です!メメリーは、丈夫なのです!」

「やっぱり、私がここに居るだけでメメリーに迷惑かけるようね。迷ったけど、今夜ここを発つわ。」

「あの、そのことだけど………。メメリーもリコラと一緒に行きたいの!お願い連れてって!」

「だめよ! メメリーは、まだ子どもでしょ?故郷を捨てるには、早いわ。」

「そんなことないよ!確かに村の人たちには、お世話になってるし……お別れするのは辛いけど………。

リコラとお別れするのは、もっと辛いよ。」

「ありがとうメメリー。私も、同じ気持ちよ。

でも、だからこそ、メメリーとは一緒に行けないわ。」

「どうして?」

「私の旅は、目的を果たせるかどうかわからない旅だもん。そんなことに他人を巻き込めないわ。

それに、今みたいに私を狙ってくる人間が沢山いるわ。」

「だから、メメリーが守ってあげるよ。」


せっかくのメメリーの申し出だったが、リコラは優しく首を横に振るだけだった。


「……きっとまた、メメリーに会いに来る。絶対よ。」


「ふえ……。でもでも……。」

「ごめんね、メメリー。」


メメリーの顔は、今にも泣きそうに崩れていた。

そんなメメリーをリコラは、優しく抱きしめる。

 (暖かいよぉ。おかあさんって、こんな感じなのかな……?)


メメリーは、リコラの胸の中で声を殺して泣き続けた。

そんなふたりの様子を離れた場所からラグールが見守っている。


(ちっ。こういう雰囲気は、苦手なんだよな。

安心しろ、メメリー。リコラは、俺が絶対に守ってやる。お前はここで赤ずきんを続けろよ。

その方がお互いのためなんだ……

メメリーは人間、俺たちは半狼、いつか別々の道を行く宿命なんだよ)


ただひとつ気がかりなのは……メメリーの立場だった。

もう、この辺に半狼はいなくなっている。

赤ずきんの噂は、大陸の隅々まで届いていたから、近付こうと思う半狼もいないだろう。

そうなってくると村人たちは、メメリーの存在を疎んじ始める。

この先きっとメメリーは、肩身の狭い思いをするだろう。


 ***


「なあ、なあ。聞いたかい?」

「ああ、珍しい狼女が、この付近にいるって噂だろ?」

「そうだよ。もし捕まえて売り払えば、もの凄い大金が手に入るというじゃないか。」

「だけど、そう簡単に捕まえられるかな?」

「こういう時こそ、あの子に役立ってもらうんじゃないか。なにせ、狼退治の専門家なんだろ?」

「確かにそうだ。どうせなら、共倒れにでもなってくれれば、面倒がなくていいんだがなぁ。」

「あんた、そんな大きな声で……。もし、メメリーにでも聞かれてたら、どうするのさ?」

「おっといけねぇ。」


(参ったな。やっぱり、滑稽さでは人間どもには敵わないぜ……

俺を故郷から追い出した奴らも、きっと影でこんな風な話をしてたんだろうぜ)

「……。」



「誰だ!?」

「よお。今夜は、いい月だな?」

「お、狼だ!? 狼が出たわ!」

「そうだよ。俺は半狼だ。お前たち人間が恐れ、忌み嫌う、凶暴な“狼”なんだよ!

でも、俺から見れは、お前たち人間の方が、よっぽど校揖で卑怯な存在だ。本当……反吐が出そうだぜ。」


「ぐるるるるる………。

がお! がおおおおおおん!! がおおおおおおーーーん!」



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最終話 狼姫と赤ずきん



騒ぎを聞いたメメリーは、すぐさま村に駆けつけた。

村はあちこちが荒らされ、まるで嵐が通り過ぎた後のような有様だった。


「酷い……。」

「おばちゃん、おじちゃん!一体なにがあったの!?」

「ああ、メメリー……よく来てくれたね!助けておくれ……。」

「狼が……凶暴な狼が……突然襲ってきたんだ!」

「どんな狼だったの?」

「とても動きの素早い狼で……腰に何本も短剣を差してた。」

 「まさか、ラグールがやったの?いったい、どうして……。」


「以前メメリーが捕まえてきたあの若い狼だよ!あのあと、逃がしちまったのかい!?どうしてちゃんと始末しておかなかったんだよ?」

「え……。」

「メメリーが逃がしちまったせいで、私たちの村はこんなに荒らされたんだよ。これじゃあ、怖くて夜も寝られないよ。」

「メメリーは、狼退治の専門家なんだろ?なあ、頼む。あの若い狼を捕まえて、俺たちの前に引つ立てて来てくれよ。」

もちろん、生きてようが、死んでようが構わないお礼はたっぷりするから、な? 頼むよ赤ずきん!」

「……。」


 リコラが、これ以上我慢できない、とでも言うように口を開いた。

「確かに村を襲ったラグールは悪いですが、そんな言い方はあんまりです!がう……がう、がう!」

「なんだよこの子?」

「きっとラグールには、なにか事情があったんです!よく調べもしないうちに決めつけるのは――

よくないです!がう! がう!」

「なんだその……がうがうって?」

「がう!がうがう!がう!……だぞ。」


リコラは、一生懸命に吠えているが、村人たちには、まったく怖さが伝わっていない。

半狼としての迫力は、昨夜のラグールと比べれば、大人と子ども。比ではなかった。



「やめてくれよ、こんな時に狼の物まねなんて。お嬢ちゃんは下がってな。」

「おや? この子、耳が生えてる。もしかして、噂の狼女って……この子のことじゃないの?」

「本当だ!この子のことだったのか!」

「やったよ、お前さん!これで私たちも億万長者だ!」

「なにしてるんだよ赤ずきん!目の前に狼がいるじゃないか!?お前は、狼退治が仕事なんだろ?」

「……。」

「この子を捕まえとくれよ!それから、村を荒らした狼の退治も当然頼むよ?」

「……。」


(なんて人たちなの?この人たち、自分のことしか考えていない……)


「あなた方の手に掛かるほど、私は安い命じゃありません!下がりなさい!

が……がう!……だぞ! がうがう!……だぞ!」


必死に声を荒げて威嚇するリコラだったが、まったく効果がなかった。


「お、怒ったのか? それにしては、迫力がねえな。こいつなら、俺でも捕まえられそうだ!」

「下がりなさい!あなたのような人間の手に触れられたくは、ありません!

ぐるるるるる……がう! がうがうっ! がうっ!……だぞ!」


(やっぱり、私じゃだめなんだ。必死に練習したのに……

エンシェントウルフの鳴き声には、魔力が宿ると言われてる。私のお父様たちは、その咆陣で人間たちを怯えさせたというのに……

私には無理なの?エンシェントウルフらしく吠えることはできないの?)


「なにしてるの赤ずきん!?狼が、あんなに吠えてるじゃないかすぐにあの子を退治してくれよ!」

「……。」

「どうしたんだい?」

「じ……実は……。」

「ん?」

「今まで黙っていましたが、実はメメリーは狼だったのです。いえ、メメリーこそ狼だったのです。」

「はあ? なにを言ってるんだい?」


「あー、ごほんごほん。ぐるるるるる……。がうん!」

「がうがう!がうがう!」


「これは……どういうことだ?メメリー、悪い冗談はやめるんだ!」

「がうん! がうがう!がうん!がうがう!!」

「がうがう!がうがう!」

「ちょっとあんたたち……。」


「がうがうがうがう!」

「がうがう! がうがう! がうっ! がうっ!」

「がうん! がうがう! がうん! がうがう!!」

「がう! がうがうっ! がうっ!がうっ! がおおおおおおん!」

「がおおおおおん!」


「お、おい、逃げよう。よくわかんないが、この子たちなんだか怖い。」

「え……ええ。」


村人たちは、首を傾げながら逃げていく。



「がうがう! がうがう」

「……もういいわメメリー。あの人間たち、逃げていったみたいよ?」

「がうがう!」

「もう、いいったらメメリー。」


「がうっ!がうっ!」

「がうっ!!がうっ!」

「がうっ! がうっ!……あはははははははっ!」

「うふふふふふふっ!」


「あー、面白かった!狼になるのって楽しいんだね!?全然知らなかったよ!」

「私も、生まれて初めて心の底から吠えることができたわ。見た? あの人たちの怯えた顔。

初めてよ、人間を怖がらせることができたのは。これも、メメリーのお陰ね? 感謝するわ。」

「ほよ~。そんなこと言われると照れるよぉ……。」



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story5-2



『村の付近に悪い2匹の女狼が出没する危険あり』

『ひとりは、毛並みの立派な狼女。もうひとりは、赤い頭巾を被った少女』

こうしてメメリーには、晴れで村を出て行く理由ができたのだった。


「村に住めなくなったのは、リコラのせいだもん。責任とって欲しいな。」

「えへへ。これからもリコラとー緒だね。嬉しいなっ。」

「しょうがないわね。」

「メメリーも、今日から狼になるのです。だから、色々教えてください! おっす!」

「ふふっ。赤いずきんを被った狼なんて、聞いたことないわね。しかも、こんなに可愛い子がね……。」

「そんな、可愛いだなんて、照れちゃうよお~。」

「あ、でも、狼になるには、自分の食べ物は、自分で確保しなきゃだめよ?

今日からさっそく、食べられる木の実とキノコの見分け方を教えてあげるわ。」

「うん!一人前の狼になれるように頑張る!」

「私もまだまだ修行中の身だから、一緒に頑張ろうね?」

「じやあ、行こうよ!うわー。知らない土地に行くんだ。すっごくドキドキする。」


高鳴る胸を押さえながら、メメリーは歩き出した。

この村から出たことのないメメリーにとって、この先は未知の世界。


「ねえ、メメリー?」

「ほよ?」

「ラグールは、今どこでなにをしているのかしら?」

「うーん……。きっと今頃、村を襲ったこと反省してるんじゃないかなあ?」

「それとも、メメリーにお仕置きされることを怖かって、どこかに隠れてるかもしれないね!」

「どっちにしろメメリーは、ラグールを探してお仕置きする予定だったのです。だから、ラグールを探すのです!」

「そうね。彼を見つけ出して、お礼を言わなきゃ。」

「ほよ? どうしてお礼を言うの?」

「そっか……お礼は変ね。じゃあ、ラグールを探して、ちゃんと叱らなきゃね。

ふたりでたっぶりお仕置きしてあげようね?いくら狼だからって、人間に迷惑かけちゃいけませんって!」

「そうね。たっぶり、叱ってあげましょう!」


目的はできた。まずはラグールを探して、それからリコラの一族の生き残りを探す。

旅の準備も万全だ。

もう、ここに帰ってくることはないだろう。

「……。」

メメリーは、生まれ育った故郷を振り返る。そして――


「ばっちゃん!行ってくるね!」


風が吹き、メメリーのずきんを吹き飛ばした。

風に舞う赤ずきんは、どこまでも高く舞い上がっていた。

そして、メメリーはリコラの手を握って、ふたりは仲良く歩き出した。






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メメリー
毒殺以外、なんでもやるのです!

白猫 mark

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