オーディンビハインドストーリー
オーディン
「オーディン・・・あなたは魔王が復活したら、フェンリルに殺される運命です。これは、切っても切れない強力な運命の鎖・・・本当に気の毒な運命です・・・。」
封印された魔王を消滅させにいく途中・・・オーディンは自信を苦しめる予言を再び思い返していた。この予言を聞いてからというもの、オーディンは一日たりとも平穏な日々を過ごせたことはなかった。これは気の持ちようではなく、本当に不吉な何かが自分の周りをグルグルと漂いながら、今か今かと入る隙を伺っているようにオーディン自身が五感で感じ取ったからである。オーディンは、魔王を消滅させようとする帝国の作戦に積極的に参加していた。魔王が消えるのを自分の目で確かめることが出来なければ・・・いや、魔王を自分の手で消滅させることが出来なければ、予言のしがらみから逃れられないと思ったのだ。
オーディンと長い付き合いであるテセウスは、不安がるオーディンを励ました。帝国の公爵であるテセウスは、他人には冷たく接するが、オーディンにはどこまでも優しくしてくれた。そんなテセウスのおかげで、オーディンは魔王消滅に一歩前進することができたのである。テセウスの剣術は帝国の誇りであった。そんな彼が付いているというのに、魔王の消滅が失敗に終わることなどあり得ない事だろう。
「テセウス、時にあなたの一言が私の運命を180度変えてくれるようですわ。」
テセウスは何も言わず、オーディンを見つめ微笑んだ。少しばかり力のない笑みではあったけれど、オーディンは特に気に留めはしなかった。これから起こる大きな出来事を目の前に、テセウスも緊張しているのだろうと思ったからである。
魔王が封印されている洞窟の奥深くでは、魔王は依然として強い魔力を放っていた。帝国軍の兵士たちは近づくことも出来ないほどの力で、結局オーディンとテセウスの二人だけが洞窟の中に入り魔王を消滅させることとなった。
「オーディン、運命とは本当に紙一重だと思わないか?」
「そうですね・・・。私はいつも運命に首を絞められているような気がしますわ。」
「実は俺もそうなんだ・・・。」
「テセウス、あなたもですか?あなたは何に苦しめられているのですか?」
「オーディン、俺はヘラクレスの化身だ・・・そのせいで、神たちからは憎まれ、神たちは俺のことを追い出そうとしている。
お前の運命と同じように、俺のことを苦しめる力・・・神たちの復讐心、嫉妬心、こんな初源的な神たちの感情はとても強いパワーを持っているんだ。」
「テセウス、激しく動揺しているのですね。魔王はもうすぐそこにいます。集中しなければ、魔王消滅が失敗に終わるかもしれません。」
「オーディン。今日、魔王は消滅しないんだ。」
「え?それは一体どういう・・・」
テセウスの剣から強力な力が放たれ、オーディンの体を縛り上げた。ヘラクレスの束縛。オーディンはなかなかこれを解くことができなかった。
「テセウス、何をするんですか!」
「オーディン、俺は神たちに復讐をするんだ。あいつらにとってはただの運命のいたずらかもしれないが、俺にとっては凄絶な運命の連鎖でしかないんだ!
俺はこの連鎖を断ち切るために立ち向かうんだ!オーディン、キミもいつかは俺を分かってくれる日がくると信じている。」
「テセウス!魔王の封印を解いてしまったら私は・・・私は!」
「ここまでにしよう・・・。もう手遅れだ、オーディン。フェンリルは俺が、どうやってでも止めてみせる。俺のことを信じてくれ。俺が必ずお前を守り抜く。」
テセウスは封印された魔王と一緒にどこかへと消えていった。封印された洞窟に立ち込めていた強力で不吉な力が少しずつ弱まっていった。
「あぁ・・・テセウス・・・。テセウス・・・。どうしてこんな仕打ちをするのですか・・・」
オーディンは涙が止まらなかった。悲しみもつかの間、怪しい気配がオーディンを包み込みオーディンは魔王の封印がどこかで解けたのだと悟った。
「フェンリル・・・。フェンリル・・・。」
オーディンは独り言を言いながらトボトボと洞窟を出た。運命を前に、無気力になったオーディンは再び生きる理由を探すことができるのか見当もつかなかった。困惑したオーディンは暗雲が立ち込める帝国の城を、遠くから力なく見つめたのであった。