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【黒ウィズ】リヴェータ&ジミー編(クリスマス2019)Story

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作成者: にゃん
最終更新者: にゃん

2019/12/12



目次


Story1 嵐の中で

Story2 高嶺の花

Story3 サンタの贈り物


登場人物






story1 嵐の中で



 ケルド島に嵐が吹いている。

ここまで冷え込むのは、何年ぶりだ……?

 ふと、長年会っていない父親の顔が思い浮かんだ。

なぜ、こんな時に親父のことなんか思い出す?

 ケルド島は、大陸に比べると比較的暖かい島だが、真冬のこの時期は、ぐっと気温が下がる。

ジミーは、かじかむ指先にふっと息を吹きかけた。

寒いわ……。

すぐに火をおこす。

 暖炉に近づき、火打ち石を叩く。だが、薪は全て湿気っていて使い物にならかった。

……しまった。

 外は、激しい雨が降り続いている。嵐が止むまで耐えるしかなかった。



ほーら、もっと急ぎなさい。子どもたちが待っているんだから!

 聖なる夜が迫ったある日。リヴェーダは、部下のジミーと共に馬車を走らせていた。

馬車の荷台には、戦で両親を失った孤児たちへ贈るプレゼントが、山と積み込まれている。

トナカイさん。ほら、急いで急いで~。

……ヒヒン。

ちょっと!トナカイになりきれって言ったでしょ?なによ、その気合いの人っていない鳴き声は?

トナカイの鳴き声を……聞いたことがない。

そんなの私だってないわよ。だから、想像力というものを働かせるのよ。ほら、もう一度。

……ヒ、ヒヒン?

は?

……トナーカイ。

はあ?はあ?

……すまん。やはり、俺にトナカイ役は無理だ。

だーめ。聖なる人とトナカイの組み合わせは、子どもたちが1番喜ぶの。

だから恥を忍んで、こんな格好してるんだから、ジミーぐらいは付き合ってくれないと。


リヴェーダが1番信を置く家臣は誰だ?それは、ジミー以外には、いないではないか?

その頭の飾り、とても似合っておるぞ。トナカイ役は、ジミー以外にはおらん。な、みんな!?


……あいつら。

もういい。私が手綱を握るわ。振り落とされないようにつかまってなさい。

……む?

天候が、ますます怪しくなってきたわね。急ぎましょう!



 先ほどよりも風が強まり、外は横殴りの雨が降り続いていた。

具合はどうだ?

 小屋の中の気温はさらに下がり、吐く息が白くなってきた。

あまりよくないわ。早く天候が回復しないかしら?

 さきほどから顔が赤い。ひょっとして熱があるのかもしれない。

気休めにもならんと思うが。

 軍用コートをリヴェータにかけてやった。

少し落ち着いたのか、やがて静かな寝息を立てて眠りはじめた。

すー……。


 戦争で親を失った子どもたちにプレゼントを贈りたいというリヴェーダの考えには賛同する。

リヴェーダも戦乱で親を失ったようなものだ。孤児たちの気持ちがわかるのだろう。

だが、リヴェーダが体調を崩しては意味がない。

お前は、いまやイレの領民にとっての太陽だ。だから、無理をするな……

ジミー。

 目を覚ましていたらしい。いまの言葉、聞かれていたかと、少し心臓が高鳴った。

もう少しこっちにきて。

こうか?

もうちょっと。

このぐらいか?

どうして、そんなに遠慮するのよ?私に近づくのが嫌なの?

リヴェーダは領主で俺は家臣だ。立場をわきまえてるつもりだ。

いまは、二人つきりよ。変な遠慮は無用でお願い。

私の手。氷のように冷たいでしょ?だから、ジミーの手を握らせて。

それは……。

 一瞬の躊躇いがあった。けれども、リヴェーダがそれを望んでいるのなら、断ってはいけないと思った。

わかった。俺が暖めてやる。

 手を握ってやると安心したのか、リヴェーダは再び眠りはじめた。

……。


 ***


 ジミーの手を握りながら眠るリヴェーダは、年相応のひとりの少女だった。

昔から知っている少女リヴェータ・イレの成長した姿がそこにある。


みんな、こっちよー。

 子どもの頃から、リヴェーダは特別だった。

lあまり、はしゃぎすぎると新しいドレスを汚してしまう。ほどほどにな。

 あの頃はルドヴィカも侍衛として常にリヴェーダの傍らにいた。

wリヴェータ様!今日は、どこを戦場にします?

w俺は、今日もリヴェータ様の軍で戦いたいです!

 リヴェーダが、地元の子どもたちとする遊びは、いつも戦争ごっこだった。

私の軍で戦いたい人は、この指とーまれっ!

 いつもリヴェーダの軍が勝った。だから、子どもたちはみんなリヴェーダの軍で戦いたがった。

そしてイレの家臣の子どもは、全員リヴェーダの軍に入れて貰えた。

入れて貰えないのは、俺のようなよそ者だけだった。

ねえ、敵軍にいる、あの白い髪の子は誰?はじめて見る顔ね?

l彼は、ジミー・デヴィス。リヴェーダのお父上に招かれた演奏家の子息だ。


あなたジミーっていうの?うちに来る前は、どこにいたの?

……。

wなんだこいつ!?リヴェータ様を無視しやがった?

 無視したわけではなかった。緊張して、言葉がでなかっただけだった。

きっとはじめての人ばかりだから、あがってるだけなのよね?

 もっと言うなら、リヴェーダの放つまぶしさに耐えられず、つい目を逸らしてしまっただけだ。

だが、口下手な俺は、正直な気持ちを言葉にすることができずに、ただ無言を貫いていた。

そのせいで取り巻きの子どもたちから随分と白い目で見られたものだ。



z喜べ息子よ。イレ家の当主様が、私を専属演奏家として召し抱えたいと言ってくださったぞ!

イレの領地に屋敷も与えてくれるそうだ。ついに運が回ってきたな!?

 父は、腕は良かったが、運に恵まれないヴァイオリン演奏家だった。

権力者の招きに応じて演奏を披露し、おひねりをいただく。それが仕事だった。

z芸は身を助くというがまさにその通りだ。ジミー、腕を磨けよ?俺を超える演奏家になってみせろ。がははっ!

 悪い人間ではなかった。だが、稼いだ金をすべて酒代に充ててしまうようなどうしようもない人だった。

俺は、あんたのようにはなりたくない。

zなんだとぉ!?

 演奏家で一生を終えたくなかった。

音楽に興味がないわけではなかった。だけど、この戦乱の時代、剣ではなく楽器を握って終える生き方はしたくなかった。


ねえ、あなた。今日こそ、私の軍で戦ってくれるんでしょ?

……さあな。

あなただけなのよ?私の軍に入りたがらないのは。もしかして、私のこと嫌い?

wどうしてリヴェータ様は、あんなよそ者に構うんだ?

 俺は父のようにはなりたくない。だから戦場で生きていくと決めていた。そのためには、仕えるべき主が必要だった。

……そこまで言うなら、入ってやる。

よかった。じゃあ、行きましょう!

 領主の娘であるリヴェーダは、手の届かない場所に咲く高嶺の花だった。

だからこそ傍にいたい。ずっと彼女を見つめていたかった。


w女の尻に敷かれてる奴らなんかに負けられるかよ!

むかっ!誰かいないの?あいつに勝てる奴は誰も行かないなら、私が行くわ!

……ふん。

wなんだてめぇは!?

wぐえっ……っ!

 剣の稽古は、密かに行なっていた。その辺の悪ガキに負けないだけの腕はあった。

遊びが終わり、俺に駆け寄ってくるリヴェーダの、目の色が変わっていた。

あなたとても強いのね?私の親衛隊に加えてあげてもいいわよ?

 その時から俺は、リヴェーダの家臣になった。

子どもの頃から、お互いの関係は変わっていない。むしろ変わらない方がいいとさえ思っている。



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story2 高嶺の花



……うっ。

 窓から差し込む陽光が、まぶたの隙間に突き刺さる。

嵐はやんでいた。

起きろリヴェータ。出発できるぞ。

 ジミーの右手は、一晩中リヴェーダの手と繋がったままだった。

はあ……。はあっ……。

まさか。

 顔が赤い。額に手を当ててみると熱があった。

子どもたちにプレゼントを届けなきゃ……。

そんなこと今は考えなくてもいい。

 なにもない上に暖も取れないようなこの場所でリヴェーダを介抱するのは難しい。

どうする……。

 ふと、ドゥバンの顔が浮かんだ。

ガンドゥの親戚で、ケルド同盟軍に所属する診療師。

彼女ならば、リヴェーダを治せる。

イレ軍の陣営が、ここから馬車で半日行った場所にある。

熱のあるリヴェーダを動かすのは冒険だが、このままここにいるよりはいい。

ドゥパンのところまで行こうと思う。馬車が揺れるかもしれんが我慢できるか?

任せるわ。ジミーのこと、信じてるから……。

ああ、任せろ。



zおい、その軍服の徽章。てめえら、イレ家のもんだな?

 馬車までたどり着くと男たちが近づいてきた。その格好からして、馬を盗もうと狙う野盗のようだ。

……盗人め。失せろ。

z悪いが、質問に答えてもらおうか?

見てわからないか?病人を運んでいる最中だ。

 向こうの数は5人。斬り抜けるのは、不可能ではない数だ。

zイレの軍勢に俺の部隊は壊滅させられた。大勢の部下を失ったんだ……。

その借りを返したいと思っていたんだが、まさかこんな好機が巡ってくるとはなあ!

お前が抱えているのは、イレ家の当主様だろう!戦場で、顔を見たから間違いねえ!

 リヴェータだと気づかれた以上、いまさら言い逃れは不可能だ。

ジミーは、仕方なく剣を抜いた。

……来い。

zおうおう、威勢が良いねえ。まずは、忠義に厚いイレ家の家臣様から八つ裂きにしてやろうかねえ。

 山賊たちがにじり寄る。ジミーはリヴェーダを片手で強く引寄せ、もう片方の手は剣を握った。

あんた、ひとりじゃ無理よ……。私を置いて逃げなさい。

……俺には、覇眼はない。アシュタルのような剣技もない。

だが、山賊になど後れは取らない。

意地張ってないで、いまは逃げることだけを考えなさいよ!

 山賊の頭目らしき男が、剣をかざして向かってくる。

zイレ家の当主を殺しちまえば、死んだ仲間も多少浮かばれるだろう。

悪いが、ここで死んで貰うぜ!

俺が意地を張っているのかどうか、その目で確かめろ。


 ***


zこいつ……!?

 ジミーの剣の腕前は、山賊たちの比ではなかった。

決して見栄えのする剣ではなく、常人離れした技量があるわけでもない。

……そこをどけっ!

 だが、リヴェーダに付き従い、数多の戦場を渡り歩いてきた経験と、くぐり抜けた修羅場の数は、その辺りの雑兵の比ではない。

なかなか、やるじゃないのよ……。

……喋るな。

あんたひとりに活躍させるのは、忍びないけど、いまは任せるしかないわ……。

私の命。ジミーに預けたからね?

 その言葉は、ジミーに勇気を与えてくれる。剣を握る手に自然と力がこもった。

……任せろ。

 3人目の山賊を斬り捨てた。

残るはふたりだが、山賊たちは、すでに怖じ気づいている。

w親分。あいつ、強ええ……。

 命を奪う必要まではないと感じたジミーは、剣を収めた。

退けっ……。

 傷ついた仲間を抱えて大人しく引き下がれば、それ以上、追い打ちしないつもりだった。


zへっ。おせえぞ、このやろう!

w親分、助かりましたね!?

 山賊の集団が、こちらに向かってくる。数は、10を超えていた。

……仲間か?

どうするの?

 ジミーは、なにも言わずに馬を引っ張ってくる。そして、リヴェーダを抱え上げて背に乗せた。

まさか、ひとりで残るつもり?そんなの許さないから!?

自分の足で立っていられない癖に強がるな。

嫌よ!部下を犠牲にして自分だけ助かるなんて絶対に嫌!

逃げるなら、ジミーも一緒よ!

 リヴェーダの言葉は、いつもジミーに切っ掛けをくれる。今までもそうだったし、今回もそうだった。

行けっ!

 馬は高らかにいななき、山賊たちとは逆の方向に走り出す。

馬上でリヴェーダが、なにか言っている。けど、すべて無視した。

そのまま走れ。

 小さくなっていくリヴェーダを乗せた馬を見つめながら、これでいいと胸の中で繰り返した。

リヴェーダは、今やイレ家の領主であり、ケルド同盟軍の盟主だ。

いなくなると、このケルド島は戦乱に戻ってしまう。

大勢の人間が戦争で命を落とすだろう。

それを考えたら、ひとりの命ぐらい安いものだ。

お前たちの相手は俺だ。

 ジミーは再び剣を握る。

馬群が砂塵を巻き上げながら迫ってきた。

地面を叩く蹄は、地上に打ち付けられるハンマーのようだった。



リヴェータ軍!突撃よ!

 領主の娘であるリヴェーダと。

演奏家の子どもに過ぎない俺との間には、超えられない壁があった。

いくら憧れを抱いても、実際に手に取って触れることなど叶わない存在がリヴェーダだった。

そんなものだと思っていた。離れた場所から見つめるだけで、満足するべきだと思っていた。

皮肉にも、ルドヴィカの裏切りが、リヴェーダを手の届く花にしてくれた。

すべてを失ったリヴェーダは、非力なか弱いひとりの少女になった。

それまで彼女に従っていたものは、すべて離れていった。

領主の娘でなくなった彼女に、価値などないとばかりに……。

当時のリヴェータには、支えが必要だった。


ならば、俺がその支えになろう。

お前を守らせてくれ。



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story3 サンタの贈り物



お願い、戻って!

 馬は、リヴェーダの願いを無視して、走り続けている。

まるでジミーの意思が乗り移っているかのように止まらない。

大事な部下を死なせたくないの。だから、言う事を聞いて……。

 昔、リヴェータには、数え切れないほどの友達がいた。遊び相手に困ることはなかった。

ルドヴィカもずっと一緒だった。片時も離れることなく、お互いを本当の姉妹のように信頼していた。

そのルドヴィカに裏切られた時、リヴェータはすべてを失った。

それまでリヴェーダを取り巻いていた大勢の友達もすべて去っていった。

すくった水が手からこぽれていくように、なにもかも失ったわ。

でも、あいつは……。ジミーだけは、私から離れずにいてくれた。

いつもと変わらない仏頂面で、なにも言わずに私の傍にいてくれたわ。

 それが、どれだけ心強かったか。

私は、まだあいつになんのお礼も返せてない!

だから、こんなところで死なせたくないの!お願い!戻って!

 リヴェーダの言葉が通じたのか、馬は前脚を高々と掲げて立ち止まった。

待ってなさい。いま……助けに行くから……。

 しかし、そこまでだった。熱に冒された身体は、すでに限界を迎えていた。

リヴェーダは、馬の背に寄りかかったまま、意識を失った。



昨夜の酷い嵐で心配になってきてみれば……。

リヴェータ、しっかりするのだ!

ジミーが一緒のはずだけど、リヴェータひとりなの?

向こうから戦闘音が聞こえるぞ!

行きましょう!



……うぐっ!

剣は血に濡れて、切れ昧が鈍くなってきた。

足元に転がるのは、無数の山賊たち。しかし、斬った数と同数の山賊たちが、ジミーの目の前にいる。

z思った以上にしぶとい野郎だぜ。さっさと観念しやがれ!

 息が切れる。剣を握る腕の感覚がなくなってきた。

それでも戦うことをやめなかった。一歩でも遠くへ、リヴェーダを逃すために剣を振った。


イレ家で謀反が起こり、リヴェーダの父が死んだことを聞いた父は、すぐにイレの地から逃げ出そうとした。

そういう男だった。

「俺と一緒に行く気はないだと?なぜだ!?

傭兵になりたいだと!?馬鹿野郎!

お前は、俺の息子だ。演奏家以外になれるとでも思ってんのか!?

……まさか、イレ家のお嬢様のところに行こうって言うんじゃねえだろうな?

やめておけ。親父さんが死んで、もうイレ家はおしまいだ。

あのお嬢ちゃんも、いつまで生きていられるか……。かわいそうだが、ほっとくんだな。」

 父の考えは理解できた。ただ、俺はすでに自分の進む道を見つけていた。

こういう時だからこそ、俺はリヴェーダの傍にいたい。その気持ちに嘘はつけない。

だから俺は、父と決別することを選んだ。

「お前なんかに何かできる!?演奏家の息子風情が、騎士になんかなれっこねえ!

戻ってこい!」


 たとえ、ここで命を落とす事になっても、父を捨ててこの道を選んだのだから本望だった。

zそろそろ楽にしてやるぜ。

 振りかざされた刃物の向こうに、僅かな砂塵が見えた。


待て!そこの山賊、このガンドゥが相手してやるぞ!

うちの仲間をよくもいたぶってくれたわね?

 wあれは、ハーツ・オブ・クイーンのガンドゥとアマカド!?

命を奪っても、文句は言わせんぞ!?

……お前ら。


うーん。風が気持ちいいわね。

……もう大丈夫なのか?

ジミーこそ、大丈夫なの?その……怪我の方は。

……もう治った。

じゃあ、中断しているプレゼント配り、再開しても問題ないわね?

ああ……。

じゃあじゃあ、私からのプレゼントも、受け取ってくれるわよね?

ああ……。ん?プレゼント?

 リヴェーダが、強引に手渡してきたもの……。それは、ヴァイオリンだった。

昔、聴かせてくれたことがあったわよね?たまには、ジミーの演奏聴きたいなーって。

俺に弾かせるために、これを?

そんな仏頂面してないで、時々ヴァイオリンでも弾いて私を喜ばせなさい?いいわね?

しばらく弾いてないが……。リヴェータがそれを望むのなら、練習しておこう。

……た、楽しみにしてるから。

ふっ。

なに笑ってるのよ!?

いや、なんでもない。

なんか、その顔、腹立つからお仕置きよ!

なぜそうなる!?





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