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【黒ウィズ】柑橘抄(大大大感謝魔道杯)Story

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作成者: にゃん
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「レモねえさん、なにするの……?まさか、れもんのお汁を私のおめめに……!

 在りし日の嗜虐的な笑みを思い浮かべて果実を握り緊めるラヰムジュウシャは瞳に汁を垂らそうとするが途中で嫌気が差してやめる。

「いけない。ひとりでこんなことするなんて。

……でも、レモねえさんは、しょっぴかれちゃってもういない……。

 柑橘姉妹は飲まれずに捨てられた舶来の飲料が土に染み込み土地古来の妖気を孕んで生まれたと。『柑橘伝』なる書物に記されている。

先に生まれ出たのはレモネヱドウジで容姿こそ可憐だが其の気質は鎬慢且つ苛烈であり。人妖隔てなく蹟翻する残虐な童女であった。

数刻の後生まれたラヰムジュウシヤはと云えば容姿こそ姉と瓜二つだが其の気質は異なっており。人懐こい笑みを浮かべる愛嬌のある子であった。

「ラヰムちゃん、今日もかわいいねえ。甘くておいしい干し芋をあげよう。そうだ、今度うちに遊びにおいで。

「みんな私に優しくしてくれるけど、全然嬉しくないなぁ。つか、気持ち悪いなぁ。

 温和な気質を持って生まれたラヰムジュウシャは然し他者からの優しさを善きものとして感ずる。心を持っておらず寧ろ疎ましく思っていた。


「兄者~。私に踏まれるのと、砂利食べるの、どっちがいい?どっちもがいいの?欲張りさんだねえ。

「レモねえさんは毎日楽しそうでいいなぁ。

「ラヰムちゃんもやってみる?ほら、この人生終わってる兄者の顔面、踏んづけてみなよ。

「ええと、うん、わかった。踏み踏みしてみるね。

「あああっ!もっとしてください……!

「ふふっ、もっとして欲しいんだってぇ。痛いことされてるのにおかしいね!気持ち悪くておかしいね!

 腐り切った果実のような声を上げる男に対しラヰムジュウシャは嫌悪しか感じなかったが。息を荒げ興奮する姉の姿には惹かれつつあった。

其れから姉に付き従って加虐の宴に彩りを添える日々を送るうちにラヰムジュウシャの胸の中で異なるふたつの想いが募っていった。

「私はレモねえさんみたいな、みんなを虐めるあやかしになりたい。

でも私は……レモねえさんに虐められたい。私も〝あっち側〟にいってみたい。

 姉に憧れを抱く純粋な少女の気持ちと虐げられる者を羨む仄暗い気持ちが奇妙に。重なり合う事によって異形の心は生まれる。

「ご主人様見てるとほんと吐き気がする。どうやったらそんな気持ち悪い声を上げられるの?ねえ!ねえ!

 或いは姉を超えるのではないかと云う残虐性を見せる一方で異形の心を持つ少女は姉の前に跪きねだるような嬌声をあげるようになる。


「レモねえさん、私のおめめに、お願い。れもんのお汁をかけて。

 然しレモネヱドウジがねだる妹の願いを聞き入れた事は一度としてなく嘲りを含んだ笑みと共に斯くの如く返すのが常であった。

「だったらもっと上手におねだりしてごらん?

「レモねえさん……いえ、レモねえさま……。その美しいおててで……私のおめめに、れもんのお汁を絞ってください。

「ふふふっ、そんなんじゃダメ。もっとみじめったらしく欲しがらないと。

「……いつか、絶対、れもんのお汁をいっぱい絞ってもらうんだからっ。

 姉に虐げられると云う甘い慾望を抱き乍らも姉に憧れる想いも併せ持つラヰムジュウシヤは其れから暴虐の限りを尽くしていくのであった。


 八百八町で捕らえられたあやかしは人間と同等の牢屋敷ではなく洞窟に薄汚い箆を敷いただけの妖大獄に送られ刑が言い渡されるのを待つ。

レモネヱドウジの刑は未だ決まっていないが周りのあやかしや獄卒が云うには金山に送られて奴隷となるのが関の山だろうとの事だった。

「神様……もう悪いことはしません……。まじめにれもねゑどを売り歩きますから……。

……違う。私は、脱獄してみせる。人間たちを土下座させて、それを積み上げて、土下座ぴらみっどを作ってやるんだから……。

 憔悴し切ったレモネヱドウジは反省と叛逆の念を譫言のように力無く繰り返すばかりで誉ての嗜虐的な笑みを浮かべることは無い。

「私は奴隷になんてならない……。あべこべに私が奴隷を……使って……。

 此れから先の未来で自分が虐げるであろう兄者姉者たちの惨めたらしい顔を思い浮かべ活力を取り戻そうとするが上手く像を結ばない。

「うぅ……私……もう……。

 諦めてなるものかと気を張って握り緊めていた檸檬が虚しく掌から零れ落ちた其の時――鈴の如き可憐な声が耳孕を打った。

「レモねえさん!

「ラヰム……ちゃん……。

「レモねえさんはこんなところにいていいあやかしなんかじゃない!脱獄してまたれもねゑどすたんどを開店して!

「脱獄なんて、そう簡単には…………あっ!ラヰムちゃんの後ろに……獄卒が……!

 忽ち妹も捕らえられ姉妹共々裁かれるのではとレモネヱドウジは肝を冷やしたが獄卒と思しき男は静かに佇むばかりである。


「獄卒ではありません。私は闇。ただの闇。脱獄を見ているだけの深い闇なのです。

「この人、私たちに協力してくれるんだって!この人が妖大獄の見取り図を手に入れてくれたの。こっちだよ!


 其れから柑橘姉妹は闇が深い男の手引きによって八百八町を抜け出し身を潜めるのに丁度いい。森へと逃げ込んで息を落ち着けた。

「元気になる妖術は苦手だけど、レモねえさんのことを想って何回もかけたから。特製らゐむじゅうす、飲んで。

「……ラヰムちゃんの特製らゐむじゅうす、甘酸っぱくて……とってもおいしい。

 たったひと口のらゐむじゅうすによってレモネヱドウジの心は俄かに潤いを取り戻し獄中暮らしで衰耗した活力がすっかり恢復した。

「……変な目明しがいない町にいって、れもねゑどすたんど、またやり直そうと思うの。

「うん!私も新装開店のお手伝いするね!レモねえさんの素敵なお仕事、もっともっと見ていたいから!

「……ラヰムちゃん。助けてくれて、支えてくれて、ほんとに――

「ダメ。そんな優しい顔をしないで。……レモねえさん、お願い。……私のこと……虐めて。

 抗い難い引力に導かれるような感覚に浸り乍らレモネヱドウジは切なげに身体を振る。ラヰムジュウシャをそっと抱き寄せる。


「気持ち悪いラヰムちゃんが、新装開店第一号のお客さんだね。なにしてほしいの?おねだりしてごらん?

「私のおめめに、れもんのお汁をかけてください。

「そんなことしたらおめめ痛くなっちゃうよ?それがいいの?

「うん、それがいいの。レモねえさんのれもんで痛くされたいのぉ。

「どうしようもない変態さんのラヰムちゃんには、特別におめめが痛くなるおまじないをさ一びすしてあげるね。

幸せぎゅっぎゅ♪童子の握力あなどるなか~れ♪

「痛ぁい!おめめ沁みるぅ!ありがとうございますぅ!

 此の上ない加虐と被虐の愉悦に淫する柑橘姉妹は満たされぬ歪な心を組み合わせた美しき嵌め絵が遂に完成したのだと思い胸が一杯になった。

「……お楽しみのところ失礼するが、私を無視してもらっては困る。約束通り、脱獄の成功報酬はいただかないと。

「あ、忘れてた。この人、私たち姉妹に虐められたいんだって。

「……へえ、そうなんだ。あなたにはお世話になったから、奴隷にしてあげるね。

「ど、奴隷……?そんなによくしてもらっていいのか?

「「いいんでしょうか?」でしょ?自分の立場をわきまえるんだよこのド変態野郎。

「はっ、はいぃい!申し訳ございません!

「あんまり踏み心地よくないなぁ。これからいっぱい踏み潰して、頭の形変えてあげるね♪

「ラヰムちゃん……立派になったね。私も負けてられない。ほらっ!顔こっち向けるんだよ!豚奴隷!

「ありがとう……ございます……!

「レモンよしラヰムよしそして深い闇よし。商いの神様に教えてあげなくちゃ。これが真の三方よしだって!

「待ってレモねえさん。私たちの奴隷になりたそうな顔した人が、こっち見てる。

「……ほんとだ。あいつを入れたら、四方よしだね♪ほら、こっち来なさい。聞こえてるんでしょ?

そこのお前だよ!


「「たっぷり虐めてあげるからね♪」」









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