【黒ウィズ】白白コンビがやってきた!
白白コンビがやってきた!
story
それは別の時間、別の異界でのこと──
アイリスー!このおにぎり、革命!
ふふっ、キャトラの好きなカニカマとちくわ入りよ。美味しいでしょ?
ほらほら、そんなに慌てて食べると、飛び出た具が逃げちゃうよ?
アタシがそんなおまぬけなマネ……ああっ!?
少女が心配した通り、かぶりつこうとした子猫の口元からポロリとカニカマがこぼれる。
あっ、私のカニカマ──うわ、ああっ!!
落下するカニカマを受け止めようとしたことが裏目に。
今度は手元のおにぎりが転げ落ちていく。
こらーっ!待てーっ!
もう、だから言ったのに……。キャトラ、待ってー!
てんてんと転がるおにぎりを追う一人と一匹。
その時不意に、足の裏が空気を蹴った。
へっ?
きゃっ!?
うららかな昼下がり。
草原に突如として現れた大穴に、一人と一匹は落ちて行く、落ちて行く──
story
はぁ。こんな倉庫の整理なんてしてないで、外でひなたぼっこでもしたいにゃ~
そうだね、と君は手を動かしつつ苦笑する。
何か事件でも起きれば、外に行く理由にもなるにゃ。何か起きれば……
そうそう事件なんか……と、君が言おうとした時だった。
……にゃにゃっ!?
目を見開くウィズ。その視線の先を確かめる間もなく……
君の全身に衝撃が響いた。
イタタタ……
……あっ!ごめんなさい!クッションにしちゃって……
天井を背景に銀髪の少女が頭を下げるのを見て、君は自分が倒れたことを知る。
どうやら、落ちてきた少女の下敷きになってしまったらしい。
キミたち、どこから落ちてきたんにゃ?
どこからって、おにぎりを追っかけて、穴に……あれ?ここどこ?
私たち、飛行島の原っぱでピクニックをしてたんですけど……
君は立ち上がると問いを返す。飛行島?聞いたこともない。
どうやら、別の異界から迷い込んだみたいにゃ。
いかい?
言葉の意味が通じていないようだ。ウィズは少しだけ悩みながら話し始める。
えーと……キミたちは何と言うのかにゃ。別の世界だと思えばいいにゃ。
別の世界!?アイリス!アタシたち、迷子ったみたいよ!
うん……ソウルの感じも違うみたいだし……
ねえキャトラ。あなたこのあいだ、不思議なルーンを拾ったわよね?
うん。名前調べてもらったんだけど、<門のルーン>って言うんだって。
それが原因じゃないかしら?
そっか~……。でもアレ、どこかで落っことしちゃったから、探しにいかなくちゃ……
それも落っことしてたの……もう……
アイリスと呼ばれた少女は、君を見つめて静かに微笑んだ。
初めてお会いした方に、失礼ですけれど……一緒に探し物をしてくれませんか?
私たち、このあたりのことは何もわからないし……
にゃはははは。そんなことならお安い御用にゃ。
その<門のルーン>を見つければいいだけにゃんて、簡単簡単!
君よりも早く、ウィズが快諾する。だが、それを受けてキャトラは少しもじもじとした。
実は、落としたモノがほかにも二つあるんだけど……
ん?なんにゃ?
カニカマとちくわなんだけど……
聞きなれない言葉。話をきけば、どうやらその二つは食べ物らしい。
キャトラ……きっともう、ばっちくなってるわよ?
アタシルールだとまだ大丈夫なの!
……ごめんなさい。少しわがままなところもあるけど、悪い子ではないの。
にゃはは。一つが三つになるくらい、なんてことないにゃ!
ありがとう、黒猫さん。
ウィズって呼んでにゃ。それから──
君が自己紹介を終えると、キャトラが不思議そうな顔をする。
猫と魔道士のコンビなんて、珍しいわねぇ~
ふふふ……
同じ猫連れ。どことなく、共感するところがある。
さあて、それじゃあ落し物探しに出発にゃ!
……事件、起きたにゃ?
したり顔で君に笑いかけるウィズに、君は苦笑を返す。
事件解決のために、君たちはまず倉庫の外へ出ることにした。
***
アタシ以外にも、お喋り猫っているのね~
私は元々は人間にゃ。キャトラもそうにゃ?
アタシは徹頭徹尾、白猫よ!
ふふっ。お友達が出来てよかったね、キャトラ。
君も同じ台詞をウィズに言おうとすると……
『私の方がお姉さんだ!』と瞳が雄弁に物語っていた。
……こちらにも、魔物は出るんですね。
憂いを帯びた顔で、アイリスが呟く。
そうにゃ。アイリスのとこもなのにゃ?
そーなのよ。たいへんなんだから……
何か事情があるのだろう。ウィズもそれを察し、ことさら明るい声で話題を変える。
そっちにも一度行ってみたいにゃ!魔物くらい、私たちにかかればイチコロにゃ!
ふふ、頼もしいわね。
そーだ!せっかく珍しいところに来たんだし、おいしいモノ食べた~い!
丁度昼時ということもあり、君はキャトラにどんなものが食べたいかを尋ねる。
ごちそう!
にゃははは……ざっくりしてるにゃ。
アタシの舌は、経験したことのない珍味に飢えているの!
もう……図々しいんだから……
満足させてくれたら、カニカマ半分わけてあげるわよ?
にゃははは……それは遠慮するにゃ。
え?いいの?おいしいのに……
肩を落とすキャトラの横で、アイリスの表情が徐々に険しくなっていく。
……闇に似た……気配……!
……どうやらこの先に、強い魔物が待ち受けているみたいにゃ。
<門のルーン>の波長も感じられるわ。
さすがアイリス、乙女の直感!
もう、すぐ茶化すんだから……
お目当ての物はすぐそこにゃ。気合入れるにゃ!
君は頷き、戦闘の構えを取る。
***
取り返したりぃ~!<門のルーン>、そしてカニカマ、ちくわ~!
探していた三つが一遍に揃ってしまった。君は少しだけ、拍子抜けする。
それが<門のルーン>……ただならぬ魔力を感じるにゃ。
ええ、強い力を秘めているわ。
きっと力が暴走して、私たちをここに飛ばしてしまったのね。
ふ~ん。よくわかんないけど、あんまりホイホイ落ちてるもの拾っちゃ危ないわね。
キミたちも気をつけるのよ?
深々とうなずきながら、君は昔のことを思い出す。
思い返せば、それが原因でよく異界に飛ばされている。本当に気をつけなければ。
それで、どうするんにゃ?
これで二人はいつでも帰れるだろう。緊張感を一切込めず、ウィズがお気楽に尋ねる。
アタシ、おなか減ったぁ~
そればっかりだな。
ちがうの、そもそも、お昼を食べ損ねてたワケだし……
にゃははは、キャトラは食いしん坊だにゃ~
だって、このまま帰っちゃうのももったいないし……
ふふ、そうねキャトラ。いつまた会えるかもわからないしね。
アイリスの同意に、キャトラは飛び跳ねて喜んだ。
わーい!
それならば、街を案内しようと君は思う。確か評判の良い料理店が街の北側にあったはず。
君がそう提案すると、キャトラは予想に反してきっぱりと首を振った。
ううん。もっと、人里離れたところにひっそりと佇む、隠れた名店がいいわ。
ガンコイッテツな大将が一人できりもりしてるよーな……
どうして?
その方が自慢出来る気がするの!
君が呆れて口を開けていると、ウィズがぴょこんと肩に飛び乗ってきた。
私も賛成にゃ!
街のお店は食べ飽きちゃったにゃ。私たちにとっても新しいお店を開拓するのにゃ!
なるほど、それもいいかもしれない、と君は思う。どうやらそれは口に出ていたようだ。
よぉ~し、れっつごー!みんな、のど渇いてもあんまり水分補給しちゃダメよ!
水でおなかがふくれちゃもったいないから!
遅めの昼食を終え、君たちは食後の余韻にひたっていた。
ぷぅ~!ごちそ~さまぁ~、ヨはマンプクじゃ~!
コロコロとお腹を丸くしたキャトラが、アイリスの頭の上で満開の笑顔を咲かせる。
にゃはは、気に入ってもらえて何よりにゃ。
でも、まだおわらないわよ。
え?
シメ!最後にもう一つ、シメのデザートがこわい!
別にデザートは怖いものじゃないにゃ?
話を聞くと、どうやら『こわい』と言ったものがやってくる、という迷信の一種らしい。
世界が変われば常識も変わる。そのことに感心する君だが、ウィズは呆れ顔。
……よく食べるにゃあ。満腹じゃなかったのかにゃ。
甘い物はベツバラなのよ。
猫の体って、そこまでたくさんの食べ物、入らないけど……
それはウィズだからよ。個性の違いね!
猫にも色々あるんだにゃあ……
感心したような、呆れたようなウィズに、君も同調する。
う~ん……甘い物、甘い物……何がいいかにゃあ……
ごめんなさい、キャトラがわがままばかり言って。
太ったら困らない?と君は言う。
キャトラの前には大量のお皿が積まれている。
しっけいな!このくらい普通よ普通!
これが、普通、だと……!?信じられないという表情で、君とウィズはアイリスを見た。
ええ、いつも通りよ。ね。キャトラ。
そうそう、いつも通りいつも通り!
にっこりと笑う一人と一匹。君は思う、この調子だと財布が危ない、と。
……にゃにゃ?
あっちの方から、甘そうな、それでいてあまり嗅いだことのないニイオがするにゃ。
ウィズの言葉通り、風に乗って、香ばしくも食欲をそそる、甘い芳香が漂ってくる。
……デザートは決まり!ね、アイリス?
ええ!
どうやら二人の気持ちも決まったようだ。さて、と君が立ちあがると……
にゃにゃ……?これは何のニオイにゃ?気になってしょうがないにゃ!
言うなり、ウィズは駆けて行ってしまった。
……もう見えなくなっちゃった。フットワーク軽いわねぇ。
……あなたも、苦労されてるんでしょうね。
いつものことだよ、と君は笑う。丁度その時、ウィズが道の向こうから駆けてきた。
新しいお店があったのにゃ!『あまーいヤキトウモロコシ』屋さんだって!
とってもおいしそうだったにゃ!ほら、早く行くにゃ!
だが。
ヤキトウモロコシ……!?
まさか……!
突然表情を変えた二人。不思議に思った君が理由を尋ねようとした、その時!
フヒー!
あ、さっきの店に居たトウモロコシの着ぐるみにゃ!
楽しそうなウィズと比較して、キャトラとアイリスは『あちゃー』という顔で固まっている。
察するに、どうやら二人はあの走るトウモロコシを知っているようだ。
コーン・ポップ……あいつもこっちに来てたのね……!
早く連れ戻しましょう!今ならまだ追いつくはず!
二人は慌てて走るトウモロコシ──コーン・ポップの後を追う。
トウモロコシ屋さんを追いかけるにゃ?楽しそうにゃ!
慌てる二人と対照的に楽しそうなウィズの後を追って、君もその場から駆け出した!
***
コーン・ポップ!どーしてアンタがここに!?
逃走劇の末、眼帯をした人間大のトウモロコシを君たちは追いつめた。
『コーン・ポップの激ウマ焼きトウモロコシ』という看板を掲げた屋台を引きながら……
ラッシャイ!フヒー!
コーン・ポップは君達へ明るく挨拶をする。
ヒトツ、クウカ?オマエラ、シリアイ、ナカマ!トクベツ、カカク!
何セールストークしてんのよ!
あなたも巻き込まれていたのね……
それにしても、喋るとうもろこしとは。何でもありだなぁと君は思う。
さっきは気にしなかったけど、よく考えればヘンだにゃ。にゃはは……
いつのまにお店なんか開いたのよ?どんな早さよ!
モトモト、ジュンビ、シテタ!
な、なるほど……
なるほどでいいのだろうか、と君は思う。
が、君は深く考えるのをやめた。良いのだろう、アイリスが良いと言うのなら。
とにかく、ここで会えたのは幸運だったわ。
コーン・ポップ、アタシたちといっしょに帰りましょ!
その言葉に、コーン・ポップは激しい拒絶を見せる。
イバショ、ナイ!カエラ、ナイ!
なぁ~にを言ってんのよアンタは!
居場所が無いなんて、そんなことないですよ。
ソンナコト、アル!ズットココデ、ミセ、ヤル!
このわからずやぁ~!
毛を逆立てたキャトラが、前足でピシリとコーン・ポップを指し示す。
お灸をすえてやるわ!そしてこんがり焼いてやるんだから!
コーン・ポップ、ツヨイ!タダデハ、ヤラレナイ!ヤラレナイ!!
拳闘の構えを取るコーン・ポップ。まさかの物理攻撃に君は一瞬面食らうが……
これ以上彼がハジける前に、止めなければならない!色んな意味で!
***
これでこりたわね、コーン・ポップ!
コーン・ポップノ、マケ……、フヒー……
にゃははは、何はともあれ、お仲間と合流出来て良かったにゃ。
そうね、置いてけぼりにしなくてよかったわ。
そうだね、と君も頷く。こんな珍妙な生物を置き去りにされても対処しきれそうにない。
まあ、ヤキトウモロコシもおいしかったし、今回は許してあげるわ!
ハンセイ、フヒー……
でもね、アタシは一つ、納得いかないことがあるの。
なんにゃ?
これ、食べたことあったもん!別のデザートがよかったぁ~!
……ごめんなさい、本当にわがままで。悪い子ではない……のよ、嘘じゃなくて。
わかってるにゃ。キャトラはしっかり、気まぐれ猫してるにゃ。見習いたいほどにゃ。
お手柔らかにね、と君はウィズを撫でながら苦笑する。
心底満足したかというと、そうじゃないアタシは、ちょっとふまん!
もっといろいろおいしいモノ食べたい!
にゃはは!それなら、もうちょっとゆっくりしていけばいいにゃ。
でも、みんな心配してるだろうし、あまり長居するわけにも……
苦笑するアイリスに、君も同じ笑みを浮かべる。
異界から元の世界──クエス=アリアスへ戻るときの寂しさは、君も充分に理解していた。
そっか、残念……こっちのおいしいモノ、ゼンブ食べつくしてやりたかったのに……
我慢して、キャトラ。そんなこと出来っこないでしょ?
この胃が、はち切れるまでは……!
だ~め。そんなことになったら、私が悲しいもの。
アイリスが、尚も未練タラタラのキャトラを抱き上げる。
ありがとうございました。
こちらこそ、楽しかったよ。そう君は返す。さよならは、お互いに言わなかった。
ふふっ。
またいつかおいでにゃ~
ええ──いつか、そのときがきたら。
じゃ~ね~
フヒー
アイリスは一つお辞儀をすると、銀髪をはためかせて詠唱を始める。
──カリダ・ルークス・プーラン・ルーチェンム──
またね~!
アイリスの呪文に呼応した<門のルーン>から眩い光がほとばしり──
再び視界が戻ったとき、そこに一人と一匹と一体?の姿はなかった。
行っちゃったにゃ。
面白い子たちだったにゃ。ずっと元気で、仲良くしてて欲しいにゃ。
私たちみたいに!
そうだね、と君は返し、空を仰ぐ。
どこかの異界で、自分と同じように、猫と一緒に歩く者がいる。
それを知れただけで、ほんの少し君の中に、元気が湧いてきていた。