【黒ウィズ】メインストーリー 第04章 Story
プロローグ
その声は、不意に君の脳裏に響き渡る。
「問おう。
汝は何者だ?」
この……声は……?
「答えよ。
神託の指輪に選ばれし<所持者>。
未だ己が宿命に気づかぬ稚児。
声なき問いに耳を傾け叡智の扉を開錠し、唯一にして無二の真実を掲げよ。」
…………?
……。
…。
…………ゃ。
何をぼけーっとしてるにゃ?
!
ごめん、と君はウィズに駆け寄る。
森の都ラリドンを後にした君は、王国北東に位置する湖畔の水都へやってくる。
国王一族が頻繁に訪れる歴史ある宮殿と対岸がかすむほど雄大な湖水。
道行く人々は豪奢な衣服を身につけ、どこか楽しそうで……。
従者を引き連れ闘歩する貴族も多くいる。
なりゆきの<所持者>だけれど。
と、通りを何人かの警備兵が慌ただしく駆けていく。
――――。
君とウィズが警備兵たちを追っていくと……。
君は目を疑う。
そこにいたのは……。
bええい、離せ、離せ!バカンスの邪魔はさせんぞ!
バロンは君の姿に気づくと、
bおお……これは奇遇な。お前、説明してやってくれ!
警備兵の凄みある声に押され、君はつい言ってしまう。
知りません。
bなんたること!
君は慌てて訂正し、バロンが魔道士ギルドのマスターであることを説明する。
怪しんでいた警備兵たちも、バロンが階級章を見せると納得し、
去って行く。
bまったく、とんだ目にあった。お前もなかなか人が悪い。
普段のバロンからは想像もできない姿を見てウィズが笑いをこらえている。
bおお、あの猫もー緒か。仲むつまじくて結構だ。
バロンはなぜアイヴィアスに?
b休暇だ、30年ぶりの。
もっとも、明日にはトルリッカヘ戻らねばならん強行日程だがな。
お前の噂は聞いている。順調に腕を上げているそうではないか。
ここへは修行か?
そんなところ、と君は言う。
bリゾート修行とは乙な事を。
鍛錬も結構だが、ときには休息も必要というもの。楽しめよ。
そちらも楽しんで、と君は言う。
bでは、また会おう!
バロンはウキウキと去って行く。
あの様子だと、<指輪>のことは知られていないみたいにゃね。
ラリドンの事件を知らない?
話はそれからにするにゃ。
入り組んだ道を抜け、君とウィズは魔道士ギルドヘとやってくる。
――。
入り口付近には兵士が控え、厳重に警備されているようだ。
ウィズはそっとこのマスターに近づくと、
マスターが合図すると、警備の兵たちは外へ出ていく。
ずいぶん可愛い姿になってしまったんだね。
ところで、そちらは……?
君はマスターに自己紹介をする。
君はルシェに、太く長い尻尾があることに気づく。
喋る猫なら毎日一緒にいるけれど。
ルシェは私が王都にいた頃の知り合いで、あちこちにいいパイプを持ってるのにゃ。
君はラリドンでの出来事をルシェに話す。
中央本部の魔法使い、謎のフードの男による襲撃森の奥の聖域と神託の指輪……。
四聖賢が欠けたといっても、ウィズはそもそも聖賢議会に出席していなかったしね。
アナスタシアが本気で<指輪>の回収をはじめたとすれば――。
ということは、ルシェも……。
ラリドンヘ指輪の回収へ来ていた魔法使いのことだけれど。
中央本部から来たってはっきり名乗っていたんだよね?
君はうなずく。
報告まで、少し時間がかかると思う。それまでゆっくりしてくれても――。
ギルドの依頼を受けてくれてもいい。宿はこちらで手配しておくよ。
ありがとう、と君はルシェに謝意を伝える。
水の都アイヴィアス
story
無事に依頼を終えた君は、報告のため魔道士ギルドヘ足を運ぶ。
魔道士ギルドの前では、二人の兵士が直立不動の姿勢をとっている。
明らかに、トルリッカやウィリトナのギルドとは雰囲気が違うような……。
ギルドヘ入る前、君は軽く会釈をするが兵士は微動だにしない。
ギルドでは他の魔法使いが掲示板に貼られた依頼を眺めている。
君は報告書類に記入しながら、入り口の警備兵について質問する。
報告文書は意外と数があり全てに記入するのは骨の折れる作業だ。
ルシェは声のトーンをー段下げると、
君は書く手をピタリと止める。
背後に目をやると、外にいたはずの警備兵がいつの間にか室内へ入ってきている。
君が書類をルシェに渡すと、
書類の隅に「夜、湖畔で」と走り書きがされている。
君はそこにマルをつけルシェに戻すと、魔道士ギルドを後にする。
story
ルシェに言われるがまま、共に湖畔の探索を続けていた君だったが……。
その日は夜明けまで付き合わされ、最後に商業区へとやってくる。
ルシェは露店で買った串焼きの魚をかじり、
ルシェは手当たり次第に買い食いを続け、どれほど食べたか見当もつかない。
君が眠い目をこすって歩いていると、向こうから警備兵たちがやってくる。
ただならぬ雰囲気だ。
警備兵は君に剣をつきつけ、
警備兵はあっさり引き下がる。
……殿下?
兵たちはすんなり引き下がり、隊列を組んで去っていく。
君は僕の、ただー人の友人だったからね。それでつい。
……?
あまりに浮世離れした話に、君はあっけにとられてしまう。
そんな人がなぜ魔道士ギルドのマスターを?
君はなんとも答えることができない。
君の魔法の腕もよくわかった。
中央本部の調査結果も、またじきに出ると思う。ギルドヘ顔を出してくれ。
ルシェは尻尾をしなやかに揺らしながら、颯爽と歩いて行く。
君はその後ろ姿に、紛れもない統治者の風格を感じるのだった。
story
君が依頼を探しに魔道士ギルドヘ来ると、ルシェが裕福そうな女性と話している。
私たちー家は家族同然に接してきました。だからこそ、どうして、という思いが強くて。
どうしたのかと君が訊くと、
ルシェは難しい顔をして、
女性は深々と頭を下げると、力ない足取りで去っていく。
ルシェは依頼票に目を落とし、
姿を消したのは3日前。二人ともゲルニカの民、か。
ゲルニカを雇うなんて、面倒なことをしてくれたものだ。
ルシェは手元の依頼票から目を上げると、何かを言いたそうに君を見る。
引き受けても構わないけれど、と君は言う。
君はルシェから依頼票を受け取ると、どう調査を進めようかと思案をはじめる。
story
行方不明の二人の手がかりを得た君は、対岸にある小さな祠へやってくる。
信じ難いのはー緒だけれど、他に有力な証言も得られなかったし……。
辺りを見回すが、どこにも変わった様子はない。水面もとても穏やかだ。
気楽でいいな、ウィズは。
ウィズがご機嫌で水際に近づいた、まさにそのときだった。
***
穏やかな水面を突き破って現れた水龍を、かろうじて君は退ける。
水龍は水辺に巨大な身体をさらし、ぴくりとも動かない。
……いや、まさかにゃ。そんなはずないにゃ。
君とウィズは同時に水龍へ目を向ける。
次の瞬間。
水龍の姿は消え、異民族の少女が現れる。
すぐに少女は意識を失い、倒れこむ。
じゃあ、この子が……リアナ?
君は召喚した精霊の力を借り、傷ついた少女を街へと運ぶ。
story
リアナと思しき少女をベッドに寝かせると、ルシェが重い口を開く。
……真名?
聞きなれない言葉だ。
それは、異界の存在がこの世界でカタチを持つために必要な儀式。
導かれた正しい答え――真名が正しくなければ精霊たちはこの世界で存在を保てない。
それは、僕らも同じこと。あらゆる存在は真名を持つ。
でも、本当に水龍が現れたというのなら……。
?
一族以外の人間、ましてやゲルニカの民がその真名を持つはずがない。
だとすれば――。
ルシェはしばらく沈黙を続けた後、
もうー人、兄の行方も調べておこう。君の方でも何かわかったら教えて欲しい。
story
ゲルニカの少女・リアナが話せる程度には回復したと聞き、君はギルドヘやってくる。
リアナは君の姿を見ると、怯えるように毛布を胸に引き寄せる。
リアナは肩を震わせたままだ。
ウィズはベッドの隅にちょこんと座ると、リアナをじっと見つめる。
リアナがおそるおそる手を差し出すと、ウィズはするりと懐へ飛び込み丸くなる。
リアナはウィズの背中をそっと撫でると、ほんの少し笑顔を見せる。
リアナはコクリと頷いて、
あとは、ただ無我夢中で……。あなたに傷も負わせてしまった。
元気になってよかった、と君は言う。
ルシェは君に近寄り耳元に口を寄せ、
アナスタシアがこの国に入った。
リアナの膝で丸くなっているウィズの耳がピン、と立ったのを君は見逃さない。
―つは君の。もうーつはアイヴィアスの。最後は――。
ルシェの視線の先で、ウィズが尻尾を振っている。
猫が尻尾を振るときはどんな気分なんだっけと君は思う。
いずれにせよ、アナスタシアが本気なら統治派が黙っているはずはない。
君は黙って聞いている。
最悪、生死は問わない。
ターゲットの名は、シオン。シオン・ミディアル。
統治派の魔法使いだ。
シオン。その名は、確か……。
気づくと、リアナがベッドの脇に立ち、
お願いです。兄を、助けてあげて欲しいんです。
君はルシェと顔を見合わせる。
妄想?
とらんす……?
存在を書き換え、何者にも変異することができる……。
リアナが水龍に化けていたのも?
リアナ。君は……いや、君たち兄妹はいったい……。
魔法だって使えないし……。でも、兄のことはわかります。
私、兄を失いたくないんです。だから――。
ルシェは涙ぐむリアナの肩に手をあて、
君もルシェに同意する。
リアナは落ち着くと、シオンの居場所についてぽつぽつと話し始める。
story
湖の畔に建てられたコテージのーつ。
リアナから情報を得たその場所で、君はシオン・ミディアルの影を捕らえる。
湖畔に佇む男の後ろ姿に、君は問う。
男は振り返り、
君は魔法使いであることとリアナの存在を話し、魔道士ギルドヘの同行を求める。
リアナが戻らないわけだ。藻屑と消えたかと心配したが――。
“無事”で何よりだ。
君はついてくるよう要求するが、
シオンがカードを手に詠唱をはじめる。
返してもらうぞ。
story
シオンは力を使い果たし、膝を折る。
君もまた、大半の魔力を使い果たしている。体のどこにも余力は残されていない。
シオンは立ち上がり再び詠唱を始めるが、
再び倒れ込み、気を失う。
魔力の尽き果てた君は、精霊を召喚することもできず――。
近隣の警備兵の手を借りシオンを魔道士ギルドヘ連れて行く。
***
魔道士ギルドヘ運ばれた後も、シオンはしばらくの間気を失ったままだ。
リアナは思い詰めた表情で、片時も離さずシオンの手を握っている。
君とルシェが声をかけても、リアナは首を振るばかりでその場を離れようとしない。
唯一、ウィズがすり寄ったときにだけ表情を緩めるが、またすぐにふさぎ込む。
そして、夜更け過ぎ……。
シオンはゆっくりと身を起こす。
二つ、質問がある。
狙いは、指輪か?
真名転成を施された者は、代償として肉体を蝕まれ、やがて灰と化し消える運命のはず。
……フッ……。
フハハハハハハハ!
……リアナ?
いつしか、リアナはシオンから離れ脅えた目で兄を見ている。
……私、怖い……。
シオンは目をしばたたかせ、
思い出せ、ゲルニカの教えを。同胞の嘆きを!
咎人を前にして逃げるのか!?
リアナはただ、首を振るばかりだ。
シオンは何かを悟ったかのようにうなだれると黙り込み、ルシェの質問にも答えない。
やがて、
外で待機していた警備兵に、シオンは牢へと連れていかれる。
リアナは虚ろな目で連行されるシオンの背中を見送っている。
シオンが警備の手をかいくぐり脱走したのはそれから三日後の夜のことだった。
story
湖から心地良い風が吹くある夜、君とウィズは街を歩きながら話している。
ルシェは相当な人数の捜索隊を配備したはずなのだけれど……。
君は【スマラグド】を取り出すと月光にかざしてみる。
ぱっと見は、何の変哲もない指輪だ。
普段キミが使ってるカードとは全く違う次元で異界への扉を開くもの。
ふと気になり、君は問う。ウィズの持つ神託の指輪はどこに……?
わからないのにゃ。にゃははは。
はぐらかさないで、と君は言う。
どこに?
そういえば、朝市で気になる食べ物屋さんを見つけたんだけどにゃ。
君は少し怒りを露わにする。
今のウィズは魔法も使えない。狙われれば、命の危険だってある。
魔道士ギルドにさしかかったとき、君とウィズは思いもよらぬ光景を目にする。
入り口にいた屈強な警備兵が、血を流して倒れこんでいる!
ギルドの中に目をやると、明かりは消え窓は割られ、かなり荒らされているようだ。
君が警備兵にかけよると、
何があった!?と君は訊く。
……殿下は……水龍の……祠……に。
頼む……殿下を……ルシェ……様を……。
それだけ言うと、警備兵は息絶える。
中の様子を調べていたウィズが出てきて、
君は警備兵の言葉を伝える。
君とウィズは頷き合うと、すぐに行動を開始する。
アイヴィアスの対岸、水龍の祠――。
君とウィズは、祠の前で倒れているルシェを見つける。
ルシェが祠を指さす。
扉が開き、地下へと続く螺旋階段があらわれている。
指輪とワダツミの真名が……。
……ワダツミ家の者にしか開くことができない扉をこんな形でこじ開けるなんて……。
ルシェの体は傷だらけだ。
story
君は湖底神殿の最深部へたどり着く。
そのだだっ広い空間は、微かに光る苔、青く透き通る水晶に彩られ――。
中央の祭壇に、二人のゲルニカがいる。
シオンの右手には指輪が輝き――。
リアナは虚ろな目線を宙空に向けたまま、ピクリとも動かない。
何をするつもりだ?
シオンは<指輪>を振りかざすと、詠唱を開始する。
祭壇の周囲から、まばゆい光が溢れだす。
君はそこに、巨大な魔法陣が描かれていることに気づく。
<指輪>に封じられしワダツミの真名、存分に使わせてもらう。
君はシオンを止めるため祭壇へ疾走する。
***
激しい戦いの末、君はシオンの召喚した精霊たちを退ける。
しかし。
祭壇を包む魔法陣の光は強くなるー方だ。
ふと上を見上げると光は天井まで届き、湖底とは思えない広い、広い空間を照らしている。
シオンが<指輪>を天に振りかざす。
器はここにあり。汝の名は――。
シオンが名を呼ぶよりも前に、突如魔法陣の光が消え、あたりが薄暗闇に包まれる。
ようやく暗闇に目が慣れてきた頃……。
リアナの目には光が戻り、その足元には、
ちっぽけな復讐に心を乱さないで。
シオンは苦々しそうに天を仰ぐ。
……血を分けようとも、所詮は他人か。
シオンは再び<指輪>を振りかざす。
魔法陣が光を取り戻しまばゆく輝く。
兄さんは器じゃない――。
君やウィズが止める間もなく、シオンは詠唱を完了し――。
周囲の光は真っ直ぐにシオンヘ集まり、巨大なうねりとなって渦を巻く。
やがて光が収まった時、そこにある姿を見て君はその目を疑う。
すばら……しい……!
シオンの生み出した水塊が壁面を直撃するとちょろちょろと水が流れてくる。
流れは徐々に強くなり――。
崩壊する!
君はリアナの手を引くと全速力で走りだす。
story
13年前、魔法学術都市サイオーンで起きた悲劇。
極秘に行われていた詠唱実験が失敗、多くの魔法使いがこつ然と姿を消した。
魔道士ギルドはこれをー部の魔法使いによる禁忌の詠唱と発表し――。
関係者全てが捕縛・粛清された。
当時の四聖賢にして粛清の実行者。それが、
湖底神殿を脱出した君たちは、魔道士ギルドヘ戻り話している。
私もシオンも小さかったから、覚えているのは突然父がいなくなってしまったことと――。
毎晩聞こえる、母のすすり泣く声だけ……。
何しろ、超―流の魔法使い同士の戦いだ。さながら戦争のようだったらしい。
魔道士ギルドヘの憎しみを抱えながら。
今も、君は……?
君が訊くと、リアナは首を振る。
シオンの何倍も頑張ったはずなのに、異界の声は一つも聞こえなかった。
多分……魔法そのものを、体が受け付けないんだと思います。
それに気づいた時、魔法を使って復讐しようとしている自分に失望を感じました。
でも、懸命に魔法を学ぶシオンの姿を見たら、そんなこと言い出せなくて。
【サフィラス】を使いこなしたんだね。
それが、シオンの復讐でした。
……黙っていてごめんなさい。
真名転成を行ったシオンは、ルシェそっくりの姿をしていた。
あれが……ワダツミの力?
……真の姿を取り戻したら、その時は。
アイヴィアスが危ない……?
<所持者>である君以外には頼れない。
君は頷くと、懐にしまった【スマラグド】の感覚を確かめる。
story
神殿に流れこむ湖水、シオンが召喚したと思しき水龍たちを打ち倒し――。
君とウィズは、再び最深部へやってくる。
わざわざ湖底を墓場に選ぶとはね。
君は、湖水の漏れだす亀裂を見る。
予想より、遥かに崩落が進んでいない。
ふと、君の頭に仮説が浮かぶ。シオン自身も水の底では生きられない……?
少しでも長く復讐を楽しむためにも、時が来るまでこの肉体を傷つけたくはないんだよ。
ということは、まだ真名転成は完全ではないということだ!
君はカードを手に詠唱を開始する。
シオンもまた、詠唱を開始する。
貴様ノ生ノ終ワリガ、復讐ノ始マリダ!
***
戦いが終わったとき、君の体には魔力どころか両足で立つ気力すら残されていない。
【サフィラス】に眠っていた神龍、ワダツミの真名――。
君の何倍もある巨大な水龍が、肢体を地に横たえている。
コンナ……ハズデハ……。
シオンの肉体が急速に崩壊をはじめる。
器の崩壊、と君は思う。
疲れた。本当に。
へたり、と君はその場に座り込む。流れ込んだ湖の冷たい水に下半身が浸かる。
体温が奪われていく。
…………。
……。
…。
ふと、我に返る。
水が……引いている。
君のそばで、びしょ濡れのウィズが心配そうに見つめている。
龍の姿は跡形もなく消えている。
シオンの立っていた崩れかけの祭壇には、
……リアナ?
……でも、兄さんは……これが、望みだったのよね……。
……。
ウィズがそっと、リアナに寄り添う。
リアナはウィズを抱き上げると振り返り、
君は目を疑う。
リアナは隠し持っていた刃物をウィズの首筋にあてている。
これは……?
魔法はダメでも、ナイフくらいは扱えるのよ。
ウィズは特に怯えるでもなくこちらを見据えている。
はじめから、こうするつもりで……?
彼が復讐なんて些細なわがままを主張し続けなければ、こんなことにはならなかった。
牢から出して、最後のチャンスをあげたのに。結局はこのザマよ。
私たちの使命は、<指輪>の回収。
……バカな兄だったわ。予定以上の果実が目の前にあったのに。
さあ、<指輪>を。
君は何か手はないかと考えを巡らすが――。
だから、無駄な血を流させないで。
君は、懐の指輪を握りしめる。
どうする……。
どうする!?
どうする!?
【サフィラス】が手に入っただけでもよしとすることにするわ。
リアナがナイフを振りかざす。
何か……何か手は……。
魔力は……底をついた。体は……言う事を利かない。そうだ、何か交渉の材料は!?
考えろ……考えろ!
ナイフがゆっくりと、振り下ろされる。
考えろ。
考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ。
考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ……。
…………。
……。
…。
「にゃはは。」
……ウィズの笑い声が脳裏をかすめる。
それが、限界だった。
君は神託の指輪【スマラグド】を取り出すと足下へ落とす。
そこから離れて。余計な真似ができないくらい遠くへ。
言われるがまま、距離を取る。
リアナはゆっくりと指輪へ歩み寄り、
指輪を拾うとウィズを背後へ放り投げ、走り去る。
君はリアナを追おうとするが、気力はどこにも残されていない。
ウィズがすぐさま走り寄ってきて、
君の足にかみつく。
それなのに……それなのに!
もう、キミの……足伽にしかならないにゃ。
ウィズはとぼとぼと出口へ歩きはじめる。
君はウィズを追いかけると抱き上げて、
濡れた毛並みに顔をうずめて何かを言う。
けれどその声は、涙でかすれて言葉になることはないのだった。
その夜。
魔道士ギルドヘ戻った君とウィズは、ろくに報告もせず眠りに落ちる。
深い、深い眠りの底で、子守唄のようなウィズの鼓動を君は聞く。
story
翌朝。
警備隊には行方を追わせているけれど……。
守るべき真名も神託の指輪も失ってしまった。僕は何の役にも立てずに。
リアナは、どこへ……?
リアナの出身もサイオーン。まず、間違いないだろうね。
13年前の事件を知る唯一の四聖賢が、今さら何の用なんだろうね。
そして、ルシェの祖父は当時最も力の強い四聖賢だったはず……。
君たちがアイヴィアスの外に出れば、何の力になることもできない。
共に行けないことを、恥じる。
死なないでくれ。
魔道士ギルドを出て、少しして――。
ウィズが気恥ずかしそうに君に言う。
本当はまだまだやりたいことがー杯あって。
そろそろ、マジメに元に戻る方法を考えないといけないかもにゃ。
ふと、君はウィズに問いかける。
ウィズが猫になってしまった――いや、させられてしまったのは、もしかして。
真名転成?
まさか~、ってやつにゃ。
猫になってずいぶん経つけど、こうしてピンピンしてるにゃ。
だいたい、私は別に猫になんてなりたく――。
…………。
…………あ。
器の意志、とリアナは言っていた。
猫になったとき、ウィズは――。
「私が猫になって凹んでるとでも思ったにゃ?
読みが甘いにゃ。むしろ余計なしがらみがなくにゃってスッキリにゃ。」
君は真っ直ぐ前を向き、歩み出す。
行こう、サイオーンヘ。
きっと、全ての答えがそこにある。
魔道都市『サイオーン』。
王国南端、高い魔道技術と最先端の施設を擁する異色の魔道都市。
動力トロッコ、明々と燈る道力灯、街の中央に高くそびえ立つ魔道塔(グノスタワー)。
13年前の悲劇の傷跡も癒え、活気を取り戻したこの街で君とウィズの新たな物語は紡がれる。
物語の鍵を握るのは、魔法使いの最高位「四聖賢」の一角にして、魔道士ギルド〈統治派>を総べる女性「アナスタシア」。
淡く光る銀髪、彼方を見通すかのような澄んだ瞳、か細くも威厳ある声音。
ウィズとも因縁浅からぬ彼女の真意は、未だ深い闇の中に隠されていて……
「神託の指輪」を巡る冒険は新たな局面へ。
これまでに無い”新たな力”を身につけた強敵達が君の前に立ちはだかる!
――新エリア『サイオーン』2013年12月開放予定。