【黒ウィズ】空戦のドルキマス4 Story6
空戦のドルキマス4 Story2 殲滅兵器
空戦のドルキマス4 Story3 ボーディス奪還作戦
空戦のドルキマス4 Story4 黒衣の襲撃
空戦のドルキマス4 Story5 王都決戦
空戦のドルキマス4 Story6 ドルキマス
目次
story
ドルキマス城内は、人気はなく閑散としていた。
王宮の外で断続する戦艦同士の砲撃音が、まるで遠い向こうの世界の出来事のように聞こえた。
ディートリヒは、赤い絨毯の上をー歩ー歩確かめるように歩いていた。
母親に連れられてこの王宮から逃げ出した日のことは、いまもはっきりと覚えている。
ごめんなさいと謝る母親の声だけが、当時のテオドリクの心を慰めた。
あとは悪意と罵倒。まるでこの国全てが、母子を拒絶しているように思えた。
恨みは、苦痛として身体に刻み込まれた。だから、この国を滅ぼしたかった――
多くの者が、私の目の前に現われ、私を人にとどめようとした。
「でも……あなたを見て、思ったんです。あなたなら……この国を変えてくれる……あの夜を……終わらせてくれるって……。
お願いします……閣下……あの夜のなかで……死んでいった……みんなの、ために……。」
「ドルキマス国王ディートリヒ・ベルク。君の元で戦うなら、私は……。死すら怖くないのだがな……。」
「なぜですか?なぜ、死を求められるのです?」
「ご無事ならばよかった。私はふたりも父を失いたくはありません。」
投げかけられた沢山の思い。
魔法使い。私は人間に見えるか?
当たり前だと君は答える。
それはわからない。でも、国民はー生懸命生きてる。
色んなところを旅してきたけど、人々がそれぞれの場所でー生懸命に生きているのは、どこも変わらない。
ならば、やめることにしよう。
そう呟いたディートリヒは、とても吹っ切れたような表情を見せた。
老いた軍人が、君たちの前に立ち塞がる。手には、拳銃を持っていた。
とっさにディートリヒを庇おうとした君だったが。
私ども臣下は、命をかけて王子の助命を王に嘆願いたしました。
いまとなっては後悔しております。王子を殺そうとしたグスタフ王の決断は正しかった。
ためらうこともなく、引き金は絞られた。弾丸は、ディートリヒの肉体を貫通した。
君は、とっさにディートリヒに回復魔法をかけた。
脇腹から血が流れ出す。弾丸は急所を外れていた。
ディートリヒは、撃たれるのをわかっていて無防備な身体を晒したのだ。
撃たれた身体を引き摺りながら、ユリウスから拳銃を奪い取る。目前には、誰も居ない玉座がある。
アルトゥールは、銃を握っていた。ディートリヒも拳銃を握っている。
ハイリヒベルクの血を受け継ぐ王子ふたりが、玉座を挟んで互いに銃を向け合っていた。
***
母の記憶はあまりない。
第4王子として産まれながら、陰謀に巻き込まれ、王宮の外に出されたのは、まだ幼かった時だった。
ただ、母の大きな温かい手のぬくもりは、しっかりと覚えている。
リントは、部屋に足を踏み入れた存在を音で探ろうとしている。
ジークは、小さい母の手を静かに握った。
あれだけ大きく感じた母の手は、こんなにか細く繊細なものだったのか……。
名前を告げようとは思わなかった。空賊となった自分が、いまさら名乗りでても、彼女は混乱するだけだろう。
ただ、クレーエ族の同胞として彼女を助けたい。そうするべきだと思っていた。
ただ、死ぬ前に……生き別れたひとり息子と再会したい。その思いだけで寿命を繋いできました。
この手の感触……幼い頃につないだあの子の手と、まったく同じ感触です。大きさは違いますが。
得も言われぬ感情が溢れ出た。ジークは小さい母の身体をしっかりと抱きしめた。
言葉が出なかった。ただ、これまでの空白の時間を取り戻すようにしっかりと彼女を抱きしめていた。
story
ディートリヒの流した血は、絨毯に染みこんでいく。
回復魔法で傷を塞いだとはいえ、完治しきるまでには時間を要する。
ドルキマスの軍事力は、小国の規模にすぎん。無理に領土を広げれば、他国の兵に頼らざるを得なくなる。
そんな簡単なことが、わからん男ではあるまい?
結局、私か貴様。どちらかが死ぬしか、この争いは終わらぬというわけだ。
ジークが走り込んできた。
後ろには、ナハト・クレーエの子分たちと身分の高そうな女性を引き連れている。
ジークは、アルトゥールに歩み寄る。その顔には、クレーエ族の紋様が浮かんでいた。
空賊たちから奪った自由な空を返して貰う。拒絶するなら、お前を殺して王座を奪うつもりだ。
最期まで、国と民を守る義務がある。空賊や、国を捨てた男などに王位は渡せん。
それが王としてー度、戴冠したものの責務だ。お前たちにわかってもらおうとは思わん。
アルトゥール王のせいで多くの人々が苦しんだ。だが、彼にも王としての理由があった。
玉座に座るものなりの苦悩があるのだ。
父グスタフを撃った時のように、その銃で私を殺すか!?
銃口をアルトゥールの心臓に狙いを付ける。
「なんだ、貴君。まさか――」
ディートリヒはようやく振り向き、笑いながら、言った。
「私の言うことを、信じたのか?」
ディートリヒは、絶対に撃つ。
君がなにを言おうと、いつも彼の心は君を置き去りにして、先を行っていた。
でも、君は言わざるを得なかった。これ以上、無駄な命を失うことはない――だから、銃を降ろしてくれと。
貴君がそう言うのならば、やめておこう。
ディートリヒは、拳銃を君に渡した。
外が騒がしい。
ドルキマス国内で王制打倒を目指す共和派が、都市を破壊しながら、王宮を目指している。
外からは、反乱軍に攻められ、王都は、共和派の革命軍が気炎をあげている。
これが……私の王としての限界なのか……。
アルトゥールに言葉をかけることもなく、ディートリヒは傷ついた身体を引き摺りながら立ち去る。
日が沈んでいく。テラスからドルキマスの空を眺める。
旅立つ前の少年のような目で、ディートリヒは王宮のテラスから望む空を眺めていた。
story
ディートリヒはドルキマス王宮を立ち去ると、そのままレベッカと共にどこかへ姿を消した。
君は、魔道艇で例の島にある研究所を訪れてみたが、そこは無人だった。
レベッカが研究していた次元の壁を突破するための装置。
聖なる石の〈原石〉のエネルギーならば、異界に渡ることも可能……なのだろうか?
不可能を可能にする。ディートリヒとはそういう男だと君は言う。
レベッカもいなくなっているということは、ー緒に旅立ったのだろうか。
ひとつ言えることは――
ディートリヒ。そしてテオドリクという、ふたつの顔を持つ彼が生きていくには、この世界は狭すぎた。
これで完全な別れではない。もし、ディートリヒが異界に旅立ったのなら、いつかどこかで再会できる。
そんな未来もあるかもしれない。
レベッカは、あれを使うと言っていたが……。
君たちは、研究所内を探し回った。そして、発見した。
しかし、君が見つけたのは、掌に収まるほどのサイズに縮んだ〈原石〉だった。
そうかもしれないね。これでルヴァルは許してくれるだろうか?
そうだ!艦はどうなった?荒鷲の艦隊は!?
戦争は、ドルキマス軍に革命軍がなだれ込んでうやむやに……。いまのところ、戦闘は収束しているかな。
ロレッティのすぐ後ろに、ドルキマスの制服を着た女性将校が座っていた。
無線機を手に状況を教えてくれる。
いままでー番嬉しくない勝利だ――クラリアの表情がそう物語っている。
私のような軍人は、もう必要とされないかもしれません。
身体についた砂を払って、ローヴィはその場を離れた。
誰も彼女を追わなかった。戦争は終わった。もう、敵ではないのだ。
あのお方は、もうどこにもおられないだろう。そんな気がするのだ。
vおーい!
遠くからヴィラムたちがやってきた。手には、その辺で探してきた食料を抱えている。
荒鷲の艦隊の仲間たちも、ー緒だった。
story
魔道艇の格納庫を開ける鍵を受け取る。
〈原石〉にあった魔力は使い切っちゃったから、あとを追いかけて確かめる術もない。
それとも、遥か遠い異界で、新しい軍隊を率いて巨大な敵に戦を挑んでいるか――
夢物語としては、その方が面白いがな。
空賊の俺に、ずいぶんとデカいものを託したものだ。
求めていた形とは少し違うかもしれないけど。あなたが欲しがった自由な空は、手に入るわ。
それから――
***
ドルキマス国内は、しばらく共和派と王制派に分断され、国内は混乱した。
アルトゥール王は、王位を退き、国民と王侯貴族の代表者との合議によって国を運営していくことに決まった。
以後、ドルキマスは共和制へと移行した。
ドルキマスの混乱に乗じて、大陸の各国は、それぞれ独立主権を回復した。
大きな混乱はあったが、ー度も戦争にはいたらず、世界は静かに……そしてゆっくりと、新しい時代へと突入していった。
平和が保たれている背景には、テオドリク・ハイリヒベルクが残した殲滅兵器の存在があった。
どこの国家にも所属しないジーク・クレーエとその仲間が、殲滅兵器を共同で管理し、戦をしかけようとする国を牽制し続けた。
そして保たれた平和は、ジークの死後も理念を受け継ぐ者によって継承され、何世紀にもわたって維持され続けたという。
かくして数多の英雄が空で散り、時の渦に呑み込まれていった――空戦の時代は終わった。
時代が変わっても、自由で雄大なドルキマスの空は、いまも変わることなく、人々を見守り続けている。
***
魔道艇の格納庫。レベッカから受け取った鍵を使い、ジークはその扉を開いた。
レベッカが開発し、テオドリクが全世界に向けて所有を宣言し、多くの人々が恐れた殲滅兵器――
いったい、いかなる姿をしているのか。
格納庫にはなにもなかった。部品ひとつ落ちていない。
ここに至って、ジークは思い知った。
都市ひとつを破壊するほどの殲滅兵器など最初から存在しなかったのだと。
あの男め。最初から、空の手札で勝負していたわけか。
存在を匂わせ、威力をほのめかし、この大陸すべての人々の心に兵器の存在を信じ込ませた。
テオドリクのついた嘘に、皆、踊らされていたというわけだ。
しかし、とんでもないものを俺に受け継がせたものだ。
だが、いいだろう。この俺だけでも、あんたのついた嘘に最後まで付き合ってやろう。
そして、いつしか嘘が嘘ではなくなった時こそ、あんたの本当の勝利というわけだ。
そういうことだな?ディートリヒ・ベルク?
空戦のドルキマス
~END~
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