【黒ウィズ】メインストーリー 第07章 Story
メインストーリー 第07章
2014年10月7日
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ひゅう、と少し強めの風が吹いた。
まるで柔らかな壁に押し返されるような感覚に、君は思わず目を閉じる。
風に顔をしかめるウィズをかばって、君は彼女の前に歩を進めた。
背中越しに、ウィズは言う。
自嘲気味なその声に、キミはロレンツィオでの出来事を思い出した。
あの時消えた、人間の姿の「ウィズ」……それを追いかけ、君たちはここまでやってきたのだ。
ウィズの背中から視線を上げると、遠くに巨大な風車が見える。
その周りには小さな風車が数基立ち並んでいた。
雄大に回る風車群に、君は目を奪われる。
あの郷に吹いている止まない風は<無窮の風>と呼ばれていて……。
郷を守り、恵みと風の力をもたらす、ありがた~い風にゃ。
その直後、空気の壁が君たちへとぶち当たり……。
君の髪とウィズの毛皮は、風を受けてボサボサに逆立つ。
それに、このあたりは旅人にも優しくないみたいだにゃ。
ふとウィズは周囲を見回す。
周囲の草むらから、光る魔物の目が、幾つかこちらを見据えていた。
構うのも面倒にゃ、走るにゃ!
君はウィズの背中を追いかけ、走りだす。
……やがて、ほうほうの体で君たちは風の郷へたどり着いた。
火照り、息の切れた体を、心地良い風が冷やしていく。
言いながら、ウィズがー歩、踏み出した時だった。
体に吹き付ける風に、先ほどの魔物とは違う殺気が乗っているのに君は気づく。
針のように鋭い気配が、建物の影から、屋根の上から、街路の脇から――。
君たちを、狙っているのがわかった。
軽口を叩くウィズに、君は苦笑いを浮かべる。
緊張の糸が、じわじわと張り詰めていく。
いざとなったら、やるしかない。君はそう思いゆっくりとカードに手を伸ばした。
その時だ。
祭りが近いからって、アンタ達警戒しすぎ!そんなんじゃお客さんも帰っちゃうわよ!
ー触即発の空気を吹き飛ばすように、強い風と共に現れたのは、年頃の少女だった。
同時に、君を狙う気配と殺気はすべて掻き消える。
張り詰めた雰囲気は、ー瞬にして穏やかなものへと変わっていた。
アンタもアンタよ!警戒されてるんだから危険じゃないってアピールくらいしなさいよ。
なんでこう皆”ずうゆう”がきかないのよ、ホントもう!
……ゆうずう、ゆうずう。よし、覚えたわ。
たったー声で魔法使いたちの警戒を解いたところを見るに、そうだろう、と君も思う。
見たところ、人間の頃のウィズと同じくらいの年頃だろうか。
若くしてこの地位にいる、ということは、実力は相当なものなのだろう。
大風車の周辺は特に念入りにやるのよ!あそこは大事な場所なんだから!
忙しく指示をしながら、オルネは君たちへと近づいてきた。
そして、ようこそ、と前置きをして言う。
よろしく、『黒猫の魔法使い』さん?
ずいぶんこの名前も有名になった、と君は思う。
足元に擦り寄るウィズをー度見て、君はオルネに挨拶を返した。
……揉め事持ち込むのだけは勘弁してほしいわね。
迷惑だ、と顔に書いてあるオルネに、君は「とある人を探しに」とだけ告げた。
だが、彼女はそれを聞いて余計に表情を曇らせる。
探すなら勝手にどうぞ。ただしギルドの人間は貸せないわ、見ての通り忙しいの。
それに、どう見ても魔法使いのアンタを盗賊と間違うくらい、皆気が立ってる。
……刺激するような真似だけはよしてよね。
祭の準備に盗賊騒ぎと、この郷はずいぶんと面倒事が重なっているようだ。
君は手を貸そうか?と提案するが、オルネはそれを聞いて首を横に振る。
それに行きずりのアンタを巻き込むほど、オウランディのギルドは落ちぶれちゃいないわ。
自信と決意に満ちた目で、彼女は君をじっと見据える。
そしてそれを裏打ちするように、爽やかで力強い風がひとつ吹いた。
風の郷オウランディ。そのギルドマスターを名乗る彼女の実力は、やはり本物なのだろう。
君は出すぎた真似をした、と謝罪を述べる。
すると、オルネは打って変わって顔を赤くししどろもどろに続けた。
ア、アンタのことは郷の皆に伝えとくから、話を聞くといいかもよ!?
そう言って彼女はー度ぷいっと君に背を向ける。
それから、思い出したようにもうー度だけこう言った。
絶、対、に!
戻っていくオルネを見ながら、ウィズはため息をついた。
そうだね、と君は返し、ウィズと二人で苦笑いを浮かべる。
まあ、村を見て回ればそれもわかるにゃ。
まずは情報収集、ついでに風車の観光にでもいくかにゃ♪
<無窮の風>を受けて回る風車を見上げながら、君たちはオウランディヘと足を踏み入れた。
風の郷 オゥランディ
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路端の石段に座り、大風車を見上げる君の横で、老人は続ける。
ワシらが準備をしとるのはな、その<秘宝>と風の神様に感謝を伝えるための祭なんじゃよ。
膝の上に乗るウィズを優しく撫でながら、老人はにっこりと君に笑いかけた。
あの子のー族は<秘宝>を代々守ってきた、由緒ある魔法使いのー族。
それに……。
ふと、ウィズを撫でていた手が止まり、明るかった老人の表情がー瞬だけ曇る。
その視線の先には、オルネの姿があった。
こんなところで油を売ってるんだから、まぁそりゃあ順風満帆なんでしょうね。
棘のある言い方に、君はすこしだけムッとする。
風当たりが強い時もあるけど、まあ順調だよ、と君は返した。
詰め寄るオルネにー歩も引かず、君はジッと彼女を睨みつける。
ワシが話しかけてしまったんじゃよ、この郷を知って欲しいばっかりに……!
気まずい雰囲気になった君とオルネの間に、ウィズを抱いたままの老人が慌てて入った。
祭の準備に追われ、<秘宝>目当ての盗賊が、またいつ来るかわからんのじゃ……。
老人に抱えられたままのウィズが、呆れたようにため息をついた。
オルネの事情は知っていたはずだった。少し感情的になりすぎた、と君は思う。
それはオルネも同じようで、お互いにバツの悪い表情をしているのが見て取れた。
反省した君とオルネの様子を見て、安心したように老人は続ける。
オルネが突然声を荒げた。老人はビクッと肩を震わせる。
だが、次の瞬間には、オルネはひどく後悔した様子でうつむいてしまった。
オルネは老人に謝ると、次に君へと頭を下げる。
棘のある言い方して、悪かったわ。気が立ってたのよ、いろいろあって……。
自分こそ大人げなかった、と君が返す。だが、オルネの表情は暗いままー。
バツが悪そうに唇を噛む彼女を見ながら、君は思う。
彼女のー族は代々風の神の<秘宝>を守ってきたと老人は言っていた。
それと彼女の父親に、何か関係があるのだろうか。
彼女の髪を揺らす風は、弱々しく、寂しい。
あとで、ちゃんと謝りにいくから。……ね?
老人は抱いていたウィズを下ろすと、ぎゅっと君の手を握った。
この子はー人でずいぶんと苦労してきておるんじゃ……長い間、ずっと……。
老人の必死に懇願に、君は思わず首を縦に振る。
オルネ、お前もこの人を頼りなさい。きっと良くしてくださるじゃろう。
オルネの返事を聞いて、老人は満足したように笑う。
……去っていく老人を見送りながら、オルネは君を見ずに言った。
世界を救った黒猫の魔法使い……大層な噂になってるわ。
きっと盗賊団なんかも、アンタならー発で片付けてくれるんでしょうね。
……だけど。
彼女はそこで言葉を切ると、改めて君へと向き直る。
その目には、強い敵意が満ちていた。
祭もやり遂げる。<秘宝>だって守り切る。盗賊団にだって負けないわ。
私は、ー人前の魔法使いに、立派な魔法使いになったんだって証明しなくちゃいけないの。
――<ウィズ様>にね。
次の瞬間、ー陣の強い風が吹き、大風車が軋む。
アンタなんかが……<ウィズ様>の弟子だなんて認めるわけにはいかないのよ!
彼女はそう言い捨てると、振り返らずにその場を去った。
君はウィズに、オルネと面識があるのかを尋ねる。
私に認められる?さっぱりわけがわからないにゃ……。
ふと、君の周囲に薄い影が落ちる。空を見上げると、大きな雲が太陽を遮っていた。
風を受けてゆっくりと回る大風車は、なにも答えてくれない。
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何度も同じこと言わせないでよね、全く……!
ぶつくさと文句を言いながら立ち去る背中を見送りながら、君はため息をついた。
何度目かわからない挑戦に、ウィズはあきれたように笑う。
あれから君は何度もオルネに協力を申し出ていた。
だが、答えはいつも同じ。
……もしかして、あのお爺さんに頼まれたからかにゃ?
それもある、と君は答える。だが、最大の理由はそこではない。
ロレンツィオから追いかけている、<もうー人のウィズ>。
ここ、風の郷オウランディまで来たのも、それが理由だった。
そしてオルネの口から語られた、ウィズ自身も知らない<ウィズ様>という存在。
これらに関連性が無いはずがない、と君は踏んでいた。
でも、キミが<黒猫の魔法使い>である以上、オルネの心は開かないと思うにゃ。
二つ名が、まさか足を引っ張る結果になるとは。
苦笑するウィズに、君はうなずく。
せっかくの手がかりを得るチャンスを、逃すわけにはいかない。
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通りの奥から聞こえてきた大きな声に、君は思わず振り返る。
建物の影から飛び出て君の脇をすり抜けたのは、小さな魔物の集団だった。
アンタ魔法使いだろ?ちょっと手を貸してくれないか?
お安いご用だ、と君は言い、カードを手に魔物を追いかける。
その背中を見送ったあと、村人は背後に立つ男へと振り返った。
男は金貨を村人に投げて寄越す。
金貨を手にした村人は、そそくさとその場を去っていった。
***
郷をうろついていた魔物をあらかた片付け、君とウィズはー息つく。
ただ、倒してきた魔物たちに、君は何か違和感を感じる。
妙に組織立って動いているような……。
そう、例えば――。
そこまで話して、君とウィズはもうーつの違和感に気づく。
それなら、さっきの魔物は、誰かが召喚した――。
考え込んでいた君は、ウィズの言葉にハッとしてとっさに前に飛ぶ。
次の瞬間、さっきまで君の立っていた地面が小さく爆ぜた。
声の方向には、瓢々とした雰囲気の男。
気配をー切感じなかったところを見るに、油断は禁物だと君は思う。
男はカードを手にする。
それを見た瞬間、同じ魔法を使う相手だと君は直覚した。
わかってる、と君は言うと、男と同様にカードを手にした。
***
BOSS ???
***
謎の男との戦いが佳境に差し掛かった時、背後から鋭く低い声が響いた。
地獄の底から反響するような、煮えたぎる怒りを全力で込めた声。
その直後、君の肩にバシン!と勢い良く手が置かれた。
でもさぁ、これはちょっと見過ごせないわよね……?
ギリギリと肩に爪を立てる手に、君は見覚えがある。この手は……。
ねぇ、<黒猫の魔法使い>様……?
背後には、こめかみに血管を浮き上がらせながら満面の笑みを浮かべるオルネ。
さっきまで君にちょっかいを出してきていた男が悪びれる様子もなく近寄ってくる。
ただ、それは今の君にとっては助け舟だった。
不機嫌を隠そうともしないオルネに、男はあくまで朗らかに返事を返した。
私は<クォ・ヴァディス>。しがない魔法使いのー人ですよ。
オルネとともに君は驚く。
まさか、<四聖賢>の……?
改めてよろしくお願いいたします、オウランディのギルドマスターさん。
……それと、<黒猫の魔法使い>さん。
あなたがこの郷に入ったと聞きましてね、急いでやってきたんですよ。
さすが<四聖賢>、といったほうがいいかしら。
多少の嫌味を込めたオルネの言葉だが、今回ばかりは君もそれに同意だった。
おそらく、彼は君が<黒猫の魔法使い>と知っていて、魔物をけしかけてきたのだろう。
何事も使えるものは使うべきです。そうでしょうオルネさん。
……あれ、もしかして今の不自然でしたか?これは失敬。
とぼけるような言い草のクォに、オルネは表情を険しくする。
君もはじめの人の良い印象からー転、得体の知れない雰囲気を彼に感じていた。
<黒猫の魔法使い>、あなたにね。
単刀直入にお尋ねします。<ウィズ>はどこですか?
ウィズの耳がピクリと動く。
同時に、オルネの目元もー瞬だけ震えた。
その情報、是非とも私に教えては頂けませんでしょうか?
クォとオルネの視線に射抜かれ、君はたじろぐ。
君は意を決し、この郷へ来た理由と、自分も<ウィズ>を探していることを告げた。
もちろん、足元で知らん顔をしているウィズのことは伏せた上で……。
何ら有力な手がかりは掴めていないということを付け加えて。
納得した様子のクォに対し、オルネは複雑な表情を浮かべている。
二人は、どうして<ウィズ>のことを知りたがるのだろう。
その疑問を君が口にしようとした時だった。
私が彼女を探しているのは、疑いを晴らすという目的があるのですよ。
……彼女が、そんなことをするわけがない。私はそう思っています。
クォの追求に、オルネはハッと口をつぐむ。
にっこりと笑うクォの表情からは、何も読み取ることができない。
同じ<四聖賢>の仲間として、<ウィズ>の事が心配なだけなのです。
……それだけは、分かっていただきたいですね。
では、また。そう言い残し、クォは君たちへと背を向けた。
アンタも気をつけなさい。中央からのお達しなんて、ろくなもんじゃないわ。
警告を残し、オルネもその場を後にする。
君とふたりきりになったタイミングで、ウィズは小さく毒づいた。
クォ・ヴァディス……いや、四聖賢というもの自体、あまり信じるものではないにゃ。
それは、自分の事も含めて?と君は尋ねる。
ウィズは、そうかもにゃ、とだけ告げると、小さく尻尾を振って歩き出した。