【黒ウィズ】メインストーリー 第07章 Story2
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苛立つような君たちの視線に、クォはにっこりと微笑みながらで答える。
まったく、困っちゃいましたね?
わざとらしいため息をついて、オルネはクォをにらみつける。
世界の仕組みを壊す……とは、穏やかな話ではない。
君はアイヴィアスでの事件を思い出した。
そこで君が見たのは、真名転成<トランス>と呼ばれる禁術。
人が龍に姿を変える、モノや人の存在や、成り立ちの根幹を揺るがす術だった。
君は、それがクォの言う世界の仕組みを壊すということなのか、と尋ねた。
<トランス>が影響するのは、あくまで『名前を持つモノ』――。
今回の話とは、規模がまるで違います。
――この世界全てを巻き込む大事件。
それを、ウィズが引き起こそうとしているらしいのです。
クォは含みのある顔を君に向ける。
人の概念を超える、奇跡と呼べる存在。<零世界>というのが、まさにそれです。
……あの事件は、まだ君の記憶に新しい。
あれはまさしく、世界に影響を及ぼしかねないほどの大事件だったと君は思う。
もっとも、その事件を知るのはごく限られた人間のみ。
ギルドや、事件に関係した人々の計らいで、詳細は秘匿されていた。
クォ様とアンタニ人で納得されても困っちゃうのよね、こっちとしては。
君たちの話に理解が及ぱないのか、オルネが若干苛立ちの混じった声をあげた。
この世界をメチャクチャにしようってこと?そのくらい単純なら――。
オルネさんは賢いですね。
にっこりと笑うクォに、オルネはもうー度大きなため息をついた。
対するクォは、それを無視して君へ向き直ると、話を続ける。
あなたが魔獣を倒した折、魔獣は<珠>に姿を変えたと聞いています。
そして、その場所にウィズが現れた。
いったい、クォはどこまで事情を知っているのか。
少し不気昧さを感じながらも、君は黙って頷く。
そして、世界の仕組みを壊す材料のひとつでもある、と私は踏んでいます。
本来、領域を侵さなければ大人しいはずの魔獣……。
その魔獣が急に暴れだしたというのも、自らに封じられた<球>を守るための行為なら……。
クォの取り留めのない話が、少しずつ繋がり始める。
世界の仕組みを壊すために、<珠>を狙うもうー人の<ウィズ>……。
考えこむ君の表情を伺いながら、クォはぽつり、とつぶやいた。
相変わらず不機嫌そうなオルネの言葉に、クォはなぜか吹き出して笑う。
あるでしょう?あなた方が<秘宝>と呼んでいる、風の神の贈り物が。
オルネの顔がー瞬で蒼白になる。
本当に、どこまでこの男は事情を知っているのだろう。
……そして、身を守る盾にもなる。
悪寒を感じるような笑みを浮かべ、彼はオルネと君を交互に見比べた。
聞きたいことは、もう大体伺うことができましたから。
軽い足取りで、クォはギルドの出口へと歩みを進め……。
扉を開きながら、背中越しに言った。
――本当に、それだけなんですよ……。
真意の見えない言葉の先は、閉じる扉に遮られる。
君とオルネは、しばらくクォの出て行った扉を見つめていた。
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軋む風車の音が、風に乗って響いてくる。
それが風の神様からの贈り物だってこと。
親切なお爺さんが教えてくれた、と君は言う。
それを聞いて、オルネは苦笑いを浮かべた。
……大風車が回ってる間は、<無窮の風>が、この郷を守ってくれる。
風を止めないためにも、私たちのー族は代々<秘宝>の封印を守り続けてきたわけ。
意識を凝らすと、大風車の中心部からは、確かに強力な魔力が感じられる。
それを封じ込めているとすれば、ずいぷんとその封印は強固なものなのだろう。
アンタにとって、師匠っていったら<ウィズ様>なのよね?
思いがけない名前に、君はウィズと顔を見合わせる。
そういえば、オルネはずっと<ウィズ>に固執している様子だった。
オルネと<ウィズ>との関係……君は思い切ってそれを訊ねてみることにした。
こうしてアタシが魔法使いになれたのも、<ウィズ様>がいてくれたから。
恩人――ううん、恩人なんて言葉じゃとても足りないわ!
ひとつひとつ、思い出を噛みしめるように、オルネはゆっくりと続けた。
けど、アタシが御役目に就ける歳になってから人が変わったように厳しくなった。
今までの優しかった父様が変わってしまった気がして、最悪の気分だったわ。
……いっそ、魔法なんてなくなってしまえばいいって思っちゃうくらいに。
そこまで話して、オルネはパッと表情を明るくする。
まるで英雄に憧れる少年のように、オルネは目をキラキラと輝せている。
滞在されてる間、いろいろなお話を聞いたわ。世界の話、魔法の話……。
そんな<ウィズ様>の話を聞いてるうちに、アタシも世界に憧れたの。
いつか広い世界に飛び出そう。そのためにも、立派な魔法使いになるんだって。
そこまで話すと、オルネは目を閉じ、身振りを加えて続けた。
振り返るな、うつむくな、前を向け、腕を伸ばせ!
魔法っていうのは、<そうしたい>って願う心がー番大切なんだ!
それは?と君は訊ねる。
大嫌いだった魔法にだって、真っ向からぶち当たっていけたの。
……あの言葉がなければ、アタシはきっとダメダメのまま、ずっとうつむいてたと思う。
だから<ウィズ様>はアタシにとって……ううんこの街にとっても大恩人なのよっ!
熱く語るオルネを尻目に、ウィズは困った様子で首をかしげている。
君にギリギリ聞こえる小声で、ウィズはそうつぶやく。
どうやらウィズにとっても初耳の話だったらしい。よく考えれば当然のことだった。
仮に子供時代のオルネにウィズが出会っていたとするなら……。
君と出会った頃のウィズはもっと年上になっているはず。
辻棲が合わないのだ。
二人して首をひねっていると、突然オルネが話しかけてきた。
私と違って、いっぱいいろんなことを教えて貰ったんでしょ?
ずるいわ!私も聞きたい!そういうの共有すべきだと思うの!
詰め寄るオルネを押し留めながら、君は少し考え込む。
何しろ、ウィズは出会ってすぐに猫になってしまったのだから。
どう話したものか……と考えながら、君は少しずつ、ウィズとの思い出を話し始めた。
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街路に立ち並ぶ、数々の露店。
店主たちは競うかのように、呼び込みに精を出す。
その賑わいの様子は、大風車の中に居ても感じ取ることができた。
今日は、年にー度執り行われるオウランディの祭。
郷は、今日だけは都会の街に負けないほどの活気に溢れている。
噂には聞いていましたが、これはかなり強固な封印ですね。
さすがに何代も続くー族の魔法……素晴らしい!
オルネがジトッと呆れた目をクォヘ向ける。
これから儀式のために封印を解かなければいけないので……。
ちょっと離れて頂けます?近いです。
クォはおどけた様子でー歩飛び退くと、腕を組んで祭壇を見上げた。
あ、私の事はお気になさらないでください。空気か何かだと思って下さって結構ですから。
ところで、よ?
私の知っている空気は邪魔をしませんよ?
にっこりと笑い合いながら、牽制しあうオルネとクォ。
そんな二人を遠巻きに見ながら、君は周囲の人混みに耳を傾けた。
これで盗賊が襲ってこようが、秘宝は安心ってもんだな。
縁起でもないことを言うウィズに、君はため息をつく。
やがてオルネの準備が整い、儀式が始まった。
聞き取ることのできない、不思議な言葉で編まれた呪文。
波のように高く、低く流れる旋律に乗せ、それは少しずつ紡がれていく。
刹那、オルネを中心に魔力の波動が膨張する!
それを押し留めるように、オルネは力を込めた。
彼女の眼前の祭壇に、ジワジワと力が縮退していくのがわかる。
そして。
いつの間にか、小さな祭壇の扉が消え、そこに小さな<珠>が現れていた。
祭壇から取り出した<珠>を手に、オルネが頷く。
君は疲れきった様子のオルネに近づくと、労いの言葉をかけた。
あとはこれに魔力を注げば……。
次の瞬間、儀式を見物していた人混みから叫び声が上がる。
蜘蛛の子を散らすように逃げていく人々がいなくなったその場所に……。
武器を手にした集団が佇んでいた。
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オルネさんを狙ったが歯が立たず、足りない頭で色々と考えたのでしょう。
観光客に紛れ入り込み、儀式の終わりを狙って集団で取り囲む……。
いやいや、実に理にかなった手段ですよ、素晴らしい。
狙ってくるって予想はしてたけど、何でこんなに?!
クォが集団へ向けてパチンと指を鳴らすと、盗賊団の立っている地面が爆ぜる。
それは簡易的な魔法で、盗賊たちを傷つけるほどの威力はなかった。
だが、君たちを取り囲んでいた集団に、「穴」を開けるには充分な威力。
私はー足先に街に戻ります。あなたたち、ここは任せますよ!
クォは言いながら走り始め、あっという間に集団の脇をすり抜けていく。
魔法による自己の加速。
連続した精確な魔力の操作には、さすが聖賢と言わざるを得ない。
これじゃワリに合わねえな……もっと金をふんだくっとくべきだったぜ。
盗賊団のー団から発せられた声にオルネは耳ざとく反応する。
捕まえて、役人に突き出す前にじっくりとっぷり話を聞きたいわ。覚悟なさい。
彼女の周囲に風が渦巻く。オルネは本気で怒っているようだ。
君も彼女に倣い、力ードを手にする。
いくぞテメェら!あの女から<秘宝>を奪え!
だが、次の瞬間。
高密度に圧縮された暴風が、盗賊団の中央に『落下する』!
ズドン!という轟音を響かせ、空気の壁が盗賊団を床へ叩きつけた。
オルネが腕を振ると、空気の壁はさらに重みを増す。
……さあ、どこまで耐えられるかしら。
すでに盗賊団の大半は、暴力的な圧力に意識を失っている。
大切な儀式を邪魔されたオルネは、心の底から怒っているようだった。
ウィズの言葉に、君は驚きながらも頷く。
何故か祭壇の封印を解いてから、彼女の魔力が数倍に跳ね上がっているのだ。
まるで、突然タガが外れたかのように。
台風のような強烈な風が周囲に舞い、それを纏うと彼女は盗賊団に言い放った。
――喧嘩を売って、タダで済むと思わないで。
倒れ伏した男は、胸元から何かの<結晶>を取り出す。
そして、それを床に叩きつけた。
爆発するような魔力の奔流が、オルネを吹き飛ばす!
瞬間、辺りを包む、眼がくらむほどの閃光!
光の間から、巨大な何かが緩慢に立ち上がるのがわかる。
そして。
咆呼と共に、光を突き破り、脅威が顕現した。
鋼のような足で床板を踏み割り、瘴気を吐き出しながら。
それは君たちを見据えると、明らかな敵意を持ってもうー度叫ぶ。
君はカードを手にし、オルネをかばうように脅威へと向き直った。
だが。
魔人の吐く瘴気が、瞬間的に君の体を蝕み始めていた。
指先が震え、手からカードが滑り落ちる。
膝から力が抜け、足元に漂う瘴気の中へ君は倒れこんだ。
浅い呼吸に毒が混じる。ひどい頭痛とともに平衡感覚が狂っていく。
ウィズの声が遠くなる。何もかもが、瘴気に侵され、消えていく。
もう、これで終わりなのだろうか。
なにもかも、おわり なの だろうか。
君は うつむき そして。
声と共に、君の体を、強烈な空気の流れが包む!
爪先から脳天に走る衝撃とともに、膨大な活力が君の体を駆け巡る!
瘴気を吹き飛ばし、あらゆる毒を払い去り、爽やかで力強い風が吹いた!
風の吹いてくるその場所から、力強い足音が聞こえてくる。
私は馬鹿だし、魔法の才能だって無い……。
だから、いつでも前を向いて走るしかないのよ!!
<ウィズ様>は言ってたわ。風は前にしか進めない……。
でもね、風を吹かせる奴は……いつだって前を向いているのよ!!
君の隣に、オルネが立つ。
前だけを向いて、怪物に怖じることなく、凛々しく、凛々しく!
寝てるヒマなんてないのは、アンタもー緒でしょう!
うつむくな、前を向いて、腕を伸ばせ!!
魔法っていうのは、<そうしたい>と願う心が、ー番大切なんだ!
君は膝に喝を入れ立ち上がる。そうだ、負けるわけにはいかない。
君は立ち上がり、前を向き、カードを手にした腕を伸ばす!
<そうしたい>、と願う心。
――そうでしょう、<黒猫の魔法使い>!
君は力強くうなずく。
ー度は屈した脅威に対し、君はもうー度立ち向かった!
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BOSS:
***
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祭りの喧騒が、遠くから聞こえてくる。
飲み物を両手に持ったオルネが、君にそのひとつを渡してきた。
これもアンタが手伝ってくれたおかげかしら。……い、ー応感謝しておくわね。
いつになく素直なオルネに、君は苦笑する。
それが気に障ったのか、オルネはぷっくりと頬を膨らませた。
あー、もう、やめやめ。アンタに感謝したアタシがバカだったわ。
……やっぱりアンタはアタシの敵よ。バカ。
ツンとそっぽを向くオルネに、君は慌てて頭を下げる。
今度はオルネがそんな君を見て、堪えきれず吹き出した。
ひとしきり笑った後、
アタシはもう少し、ここで休んでるからさ。
別にいいよ、と君は言う。だが、君の腹の虫は長く情けない声を上げた。
ウィズに急かされ、君は後ろ髪を引かれる思いで祭りへと足を向けた。
……オルネはその背中を見送ると、上を向き大きくため息をつく。
だが、その吐息は、満足に溢れていた。
……お父様、アタシ、役目を果たせてるかな?
ウィズ様……アタシ、少しは立派な魔法使いになれたかな?
軋む風車の音を聞きながら、オルネはもうー度満足気にため息をついた。
ふと、オルネの隣に、スッと長い影が落ちる。
人影。
咄嵯に振り返り、臨戦態勢を整えた、次の瞬間だった。