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【黒ウィズ】メインストーリー 第07章 Story3

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【黒ウィズ】メインストーリー 第07章 Story1

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【黒ウィズ】メインストーリー 第07章 Story3




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w……いったい、どういう事だ?大風車が止まってるだなんて。

 祭りの残り香の残る街路を歩いていると、突然、そんな話が君の耳に飛び込んできた。

風が止んでる……わけじゃないみたいだにゃ。

 ウィズはすんすんと鼻を鳴らし、ひげを動かして風を読んでいる。

君も空を見上げて風を感じてみるが、特にいつもと変わらないように思えた。

だが、大風車に近づくにつれ、その異変がただならない騒ぎを呼んでいるのがわかった。

もしかして、昨日の祭りよりも多いんじゃないかにゃ。

郷じゅうの人が集まったかのような人混み。

そしてその人々は、ー様に大風車を見上げている。

z風なら吹いているじゃないか。大風車が止まったって……。

wほら、あっちの風車は普通に回ってんだろ?

zそれとこれとは話が別なんだよ、わかんねぇかなぁ……。

爺さんが言ってたんだよ。大風車が止まる時は、良くないことが起きる前兆だって。

z俺の親父も、そういやそんなこと言ってたっけなぁ……。

wでもよ、実際に風は吹いてるんだぜ?何も起きやしねえよ。

 異変は起きているが、その実態が掴めていない。

騒ぐ村人の様子は、端的に言えばそういった状況だった。

……オルネは何をしてるにゃ。これだけ大騒ぎになってるのに。

 そうウィズが言った時だった。


みんな、話を聞いて!

 声が上がった方向には、少し顔色の悪いオルネが立っている。

それを隠すように苦笑いを浮かべて、彼女はよく通る声で皆に話しかけた。

今回の儀式で、盗賊どもの邪魔が入っちゃったから、<秘宝>を休ませてるの!

それと、大風車は少し整備が必要で……それは今日中にやっちゃうね!

ごめんねみんな!心配しないで!数日のうちに大風車も動き始めるから!

w……なんだ、やっぱり何も無いじゃないか。

zびっくりして損したな……戻ろうぜ、祭りの片付けもまだ残ってる。

wそ……そうだな。何も、起きないよな……。

 彼女の言葉を受けて、大風車に集まっていた人だかりは散り散りになっていく。

それに紛れて、オルネはフラフラとした足取りで大風車へと入っていった。

昨日の戦いぶりや祭りの時の様子とは、明らかに違う、と君は思う。


……あの子、ずいぶん無茶な魔力の使い方をしてるにゃ。

全身からすさまじい魔力が溢れだしてる……。

なんでギルドの連中はあれを止めようとしないんだにゃ。

 何か事情があるのか、それとも単に体の不調なのか。

君はー抹の不安を抱え、まずはギルドヘと足を運ぶ。

何が起きているのか、調べなければならない。



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 風車の中に<秘宝>がない?

君は大風車を目前にして、隣を走るウィズに聞き返す。

彼女は黙って頷くと、前足で地面に絵を書きながら続けた。

<秘宝>って言われてたあの珠だけどにゃ。

おそらくアレは魔力の増幅装置のようなものなんだにゃ。

盗賊たちと戦った時、オルネの力が数倍に跳ね上がったように感じたのは……。

オルネと<秘宝>の距離が、ほぼゼロだったからなのにゃ。

 ウィズの言葉を受けて、キミはひとつ大きくうなずいた。

だが、大きな矛盾がひとつ残る。

以前、この郷の老人から聞いた話によれば、<秘宝>は風の神からの贈り物だという話だった。

<秘宝>は<無窮の風>を産み、郷を守り、恵みをもたらす……。

だが、実際には<秘宝>は<無窮の風>を産んでいなかった。

<秘宝>が魔力の増幅装置なら、あの風を吹かせていたのは――。

 オルネ、ということになる。

<秘宝>無しでまだ風を吹かせていられるなんて……。

才能がないって自分では言っていたけど、あの子とんでもない力を持ってるにゃ。

……けど、個人の魔力には限界があるにゃ。ましてや、郷ひとつ覆う風を吹かせるには。

……大きな代償が必要になってくるにゃ。

 代償……

その言葉に、確信めいた嫌な予感が鎌首をもたげる。

その代償とは……。

彼女の……自分自身の、<命>にゃ。



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 君は未だ動くことのない大風車の扉を叩く。

しばらくして、不機嫌そうなオルネの声が返ってきた。

……なによ、アンタ。用件なら後にしてくれない?アタシ、今、疲れてて――。

 普通に話しかけたところで、オルネは答えてくれないだろう。

だから君は、単刀直入にこう言うことにした。

隠し事は、もういい。

……べ、別に隠し事なんてないわよ。

何の理由があって、アタシが隠し事なんか――。

 オルネは目を泳がせる。その様子を見て、君は確信を持った。

……今、大風車の中に<秘宝>は無い。そうだよね?

なっ!?なんであんたがそれを――。

あっ……!

 言いかけた言葉を飲み込み、オルネはバツが悪そうに唇を噛んだ。

黙ったままの彼女をじっと君は睨む。

やがて、オルネは観念したようにため息をついた。

……その通りよ。

この谷に<無窮の風>を起こしているのは、アタシの魔法。

父様に厳しく教えられてたのは、風を生み出し、操る魔法だったってわけ。

 それじゃあ、<秘宝>の封印を毎年解いてるのは何故?

君が訊ねると、オルネは自嘲気味に答える。

奇跡ってのはね、それっぽい雰囲気が必要なのよ。

ー種のパフォーマンスなの。まあ、盗賊みたいな悪いモノも引き寄せちゃうのが難点だけど。

……でも、もうそれも終わりね。秘宝は無くなっちゃったし、私の魔力も、もう限界。

 そこまで言うと、オルネは天井に手を伸ばし、それを見上げながらため息をつく。

私の魔力が尽きて、<無窮の風>が止めば。

オウランディは数日で、谷から溢れる瘴気に飲み込まれるわ。

風の神様も、フタを開ければそんなもんよ。奇跡なんて、ひとつもありゃしないわ。

 君は聞く。<秘宝>を、どうしたのかと。

……なくしちゃったわ。それとも、あげちゃったかしら?

いいじゃない。<秘宝>がなくたって、アタシの命が続く限り、風は吹いているんだから。

……私が前を向いてる限りは、ずっと。

 ウィズなら絶対にそんな事は望まない。

君は力強く、そう言い切る。

オルネは、祭りの日、君の命を救った時に言った言葉を、自分の命を捨てる理由にしている。

君には、それが我慢ならなかったのだ。

……なによ、こんな時に<ウィズ様>の名前、出さないでよ!

仕方ないじゃない!父様だって限界を越えて風を吹かせ続けて、それで……!

これが私達ー族の運命なの、仕方ないのよ!

 オルネの悲痛な叫びを受けても尚、君の心は揺るがない。

君は静かに続ける。

だから、お父上は君を鍛え上げた。その若さでギルドマスターを務め上げられるほどに。

たとえ<秘宝>が失われても、独力で<無窮の風>を維持できるほどに。

そして、君はその力を才能ではなく努力で勝ち取った。

それはひとえに<そうしたい>と願ったからだと。

……そ、そんなの、ケッカロンじゃない。私は今だって魔法が大嫌いよ!

父様の命を奪って、今度は私の命を削ろうとしてる、この魔法が!

それに、どんなに手を伸ばしたって、風が背中を押してくれたって……。

どんな追いきり届かないものがあるのよ……掴めないものがあるのよ!

 それでも、風は前にしか進めない。

……ッ!

 足元にいるウィズを抱き上げ、君と彼女はまっすぐオルネを見据える。

<君>は、言ったはずだ。風を吹かせる奴は、後ろ向きになっちゃいけない。

いつだって、前を向いているんだと。

……<ウィズ様>の弟子は言うことが違うわね。ホントもう、やんなっちゃう。

 まだ修行中の身だよ。と君は抱き上げたウィズを見ながら言う。

……自慢の弟子にゃ。

 君だけに聞こえる声で、ウィズは囁いた。

ほんの少しの間を置いてオルネはひとつ鼻を鳴らすと、ため息をついてこう続ける。

<秘宝>はね、その<ウィズ様>が持って行っちゃったわ。

この世界の仕組みを変えるのに、どうしても必要だからって。

 オルネの言葉に、君とウィズは顔を見合わせた。

まだきっと、遠くへは行ってないはず。まだ<秘宝>はこの郷から出てないわ。

私は……魔力も体力も、今は限界。だから、ここでアンタを待ってる。

 君はうなずき、オルネに背を向け扉に手をかけた。

急がなれば、また<ウィズ>を逃してしまうかもしれない。

そうなれば、オルネもこの街も、瘴気の海に沈んでしまう。

……私はいつでも、アンタを応援してるから。

 背中にかかる声に、君はもうー度うなずく。

それは、何よりも心強い追い風だった。



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うーん……八方塞りだにゃ。

 全くと言って良いほど、手がかりは掴めなかった。


……何かいい情報はあった?

 長椅子に寝転がっていたオルネが、緩慢に体を起こす。

wオルネ様!あなたは休んでいてください!

……そうも言ってられないでしょ。

最後に<ウィズ様>を見たのは、他でもないアタシなんだから。

 明らかにオルネの顔からは血の気が失せている。

あれからも、オルネはずっと風を吹かせ続けていた。

おかげで郷の暮らしに支障はなく、瘴気もまだ郷にたどり着いてはいない。

いったん風を止め、村人たちを避難させた、あと……。

秘宝を取り戻した後で、もうー度風を吹かせれば良いのではないか?

そんな話も出たが、人は無事でも土地は死んでしまうだろう。

……それは、ー度瘴気に蝕まれた君がよく知っていた。

……まだ秘宝の気配はオウランディの中にあるわ。それに、少し考えがあ――。

 言いながら、足をもつれさせたオルネは書類の山の上に倒れこむ。

wオルネ様!

……大丈夫、ちょっとふらついただけ。

……考えがあるの、乗ってくれる?

 オルネは倒れたまま、書類にまみれて君を見つめる。

君はうなずき、オルネに手を差し伸べた。

ありがと。

 君の手を掴んだオルネの手は、冷たい。あまり時間がないのは明白だった。

wそれで、オルネ様……考えとは?

あんまり頼りたくはなかったけどね……まずクォ様を探そうと思う。

……祭りの日の後に、クォ様を見た人、居る?

 周りを見回すオルネに、誰も返事をしない。

当然、君もクォの姿をー度も見ていなかった。

……やっぱりね。

たぶん、クォ様は<ウィズ様>の手がかりを掴んでる。

……それを渡したくないから、私達の前に出てこないのよ。

 ……あいつならあり得る話だにゃ。

 ウィズの言葉に、君はオルネの直感が正しいと確信する。

それなら話は早い、早速君はクォを探そうと、外へ続く扉へ手をかけ、

勢い良く、それを開いた。


呼びました?

 君は驚いて飛び退く。扉を開けたそこに、クォが立っていたのだ。

……いえ、探しに行く手間が省けました。

単刀直入に聞きます。<ウィズ様>はどこですか?

 いつかクォが君たちに放った質問を、オルネはそのまま繰り返す。

クォはにっこりと微笑みを返し、つかつかと部屋の中へと歩みを進めた。

もともと、<ウィズ>の捜索に関しては私がお手伝いをお願いしましたからね。

 では?と君は訊ねる。

<ウィズ>は今、郷の外れにある風車群のどこかに居ます。

wそこは私達が総力を上げて調べつくしました。手がかりは何も――。

身を隠す方法なら、いくらでもありますよ。たとえばそうですね――。

 クォはちらりと、君の隣で丸くなっているウィズに目を向ける。

可愛らしい猫の姿にでも身を変えていれば、誰にも気づかれない。

……。

それに、<ウィズ>は聖賢です。魔力の残滓を絶つ事くらいは容易くできるでしょう。

とにかく、急ぎ風車群に向かい、ウィズの捕縛をお願いします。

 クォの言葉に、君は力強くうなずく。

オルネのためにも、早<<ウィズ>を見つける必要があった。

だが、駆け出そうとする君の腕を、誰かが掴み引き止める。

……アタシも行く。

オルネさん、ウィズの捜索は彼に任せて、あなたは――。

アタシもケジメをつけなきゃいけないのよ。

……この郷のギルドマスターとして。

そして、<ウィズ様>に憧れる魔法使いとしてね。

 オルネの言葉に、クォは呆れたように肩をすくませる。

君はオルネとー度顔を見合わせて、どちらともなく無言でうなずいた。

……アンタにも世話になりっぱなしね。どちらにせよ、それももうすぐ終わるわ。

行こう、<黒猫の魔法使い>。



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 君たちはウィズが潜んでいるという風車群にたどり着いた。

……たぶん、身を隠すとしたら、あっちの風車のはずね。

行くわよ、<秘宝>の気配も近いわ。

 よそ者の君にとって、いくつも立ち並ぶ風車はどれもー緒に見える。

だが、オルネにとっては自分の庭も同然なのだろう。

<秘宝>の気配が濃くなってきたわ。この辺りかしらね。

……まったく、嫌になるわ。

 オルネがふと足を止める。

どうしたのか、と君が聞くと、彼女はぽつりとこうつぶやいた。

……父様の魔法の修行が辛い時、いつもアタシが逃げ込んでた場所よ。

そして<ウィズ様>に、あの言葉を貰った場所でもあるわ。

……でも、変ね。確かこの辺りにもうーつ風車があったはずなのよ。

 オルネは周囲を見回しながら首をかしげる。

ふと、君は中空に浮かぶ<歪み>に気づいた。

その場所だけが、何かの渦に巻き込まれているような……。

君は、ウィズにそれを伝える。

ん……?何のことにゃ?

<歪み>……?どこにあるんだにゃ?

 ……なんでもない、気のせいだった、と君はウィズに言う。

ウィズにも見えないということは、ー体「これ」は何なのだろう。

確かめよう……君は意を決して、ゆっくりと、その<歪み>に触れる。

すると、次の瞬間!

きゃっ!

 小さく、空間が「割れた」

い、ー体何したのよアンタ……。

 君は言う。わからない、と。

だが、そこに『何か』があるのはわかった。

その『何か』は、じわじわと歪みながら姿を現す。

……これは、まさか隠されていた、ってこと?

風車が、まるまるひとつ……!

キミは、ー体……。

 ウィズは驚いた表情で君を見つめている。

それもそうだろう、君自身、何が起きているのかわかっていないのだ。

……な、何にせよこれで<秘宝>の場所はわかったわ。

……行きましょう。

 戸惑いながら、君は頷く。

現れた風車からは、強い魔力があふれていた。



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 中は薄暗く、埃っぽい。

 今のところ、人が立ち入ったような形跡はなかった。


地下に少し大きめの部屋があるの。元は倉庫だったらしいんだけど。

……気をつけて。足元、暗いから。

 先行するオルネを追いかけながら、君はある気配に気づく。

……気づいてるかにゃ?さっきからずっと見られてるにゃ。

強い魔力が渦巻いてる……けど、変にゃ。これはまるで……。

 ウィズが何かを言おうとした、その時だった。

あっ……!

 無造作に床に置かれたものが目に止まる。それは見間違う事なく街の<秘宝>だった。

<ウィズ様>はー体何を考えてるのよ……。

必要だって言ったと思ったら、こんなところに置いて行くなんて……。

 悲哀の混じった言葉をぶつぶつと吐きながら、オルネが秘宝に手を伸ばす。

だが。

えっ?

 秘宝はまるで霧のように消え……。

その場所には、無表情の<ウィズ>が立っていた。

手には、<秘宝>が握られている。

<ウィズ様>……!

あなたは、ー体何を――。

 すがろうとしたオルネの額に、<ウィズ>はトンと人差し指を当てる。

あ……。

 すると、オルネは糸の切れた人形のようにその場に崩れ落ちた。

 何をした、と君は叫ぶ。

落ち着くにゃ、オルネは気を失ってるだけにゃ。

……これ以上、オルネを裏切る自分を見せたくないのかにゃ?

 挑発するように、ウィズは<ウィズ>に言う。

ぎしり、と空気が軋む感覚があった。

z……。

お前が何をしようとしてるかはわからないにゃ。

……だけど、それは――その<秘宝>は、オルネの大事なものにゃ。

それを奪うなんてこと、絶対に私はしないにゃ。

z……!

 歯を軋らせて、<ウィズ>は杖を構え、<秘宝>を握りしめる。

お前は私かもしれない。でも、絶対に私はお前にはならないにゃ!

 全身の毛を逆立てて、叫ぶようにウィズは言う。

自分自身に向けて、怒りをぶつけるように。

そして、小さな背中で君に向けて語りかけた。


キミには今から、師匠を超えてもらうにゃ。

 ウィズの言葉に、君の全身が粟立つ。

できるだろうか、ウィズを<ウィズ>を超えることなど。

私は言った覚えはないけど、私の言葉を確かにキミは聞いたはずにゃ。

魔法っていうのは、<そうしたい>って願う心がー番大切なんだにゃ!

 ウィズの言葉を受けて、君はカードを持つ手に力を込めた。

君と同じように、<ウィズ>は力ードを手にする。

彼女の手にある<秘宝>が光り、莫大な魔力が形を成した!

圧倒的なプレッシャーが、魔法陣の中から君を睨む。

だが、君とウィズは怖じることなく臨戦態勢へと移行した。

私の弟子なら、あいつを――私を、越えられるはずにゃ!

 そう。君は、ウィズという師匠を超える。

z……!

 今、ここで!


 ***

 BOSS:ウィズ

 ***


……平気かにゃ?

 ウィズの問いかけに君は体を起こし、どうにかねと返した。

先はどの戦いが嘘だったかのように、辺りは静まり返っている。

大の字で床に転がる君の姿を見て、笑いながらウィズは言った。

どうかにゃ?師匠を超えた気分は。

……とは言っても、正直な話―あれは私の全力には程遠いにゃ。

 だよね、と言いながら君は苦笑する。

君の渾身の魔力をその身に受け、<ウィズ>は跡形もなく消え去ってしまった。

それこそ、魔物を倒した時のように。

……気がついていたのかにゃ。

あれは私であって私じゃなかったにゃ。どう言えばよいかわからないけど……。

 彼女は<ウィズ>が立っていた場所を見る。

そこには淡い緑色の光を放つ<秘宝>が転がっていた。

それを見つめながら、ウィズは静かに呟く。

問題は山積みだけど……まあ、今は考えない事にするにゃ。

キミも少し休むといいにゃ。しばらくしたら起こしてあげるにゃ。

 そうする、と君は答える。瞬間、意識はまどろみの中に落ちていった。

おやすみ、と……。

そんな声が耳元で聞こえた気がした。



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エピローグ



 力強い風が、大風車を回している。

<秘宝>は戻り、<無窮の風>がオウランディに戻ってから、数日が経った。


<ウィズ様>、どこに行っちゃったのかなあ……。

 何度目かわからない言葉を呟きながら、オルネは今日15回目の大きなため息をつく。

……<秘宝>の扱いは雑だし。

……黙っていなくなるし。

……私を放ってこんなヤツを弟子にするし。

 頬をふくらせながら、オルネはじっとりと君を見つめる。

このボヤキも、この数日で何度聞いたか、わからなかった。

そしてこの後には……。

アンタもなんで<ウィズ>様を引き止めておかないのよ!

あーもう!なんでなんでなんでー!

 オルネの感情に合わせ、吹く風が強く激しくなる。

ぎしぎしと大風車が軋み、その回転を早くした。

周囲の人々が風車を見上げどよめき、君はしどろもどろにオルネをなだめる。

なんとか平静さを取り戻したオルネは、涙目になりながら君をもうー度睨んだ。

それで、アンタはこれからどうするつもりなのよ。

<ウィズ>様を追って旅してたんでしょ?

 オルネの問いに、君は<ウィズ>を探す旅を続けると告げた。

何しろウィズは奔放すぎる。

ふらふら消えてしまわないように、首輪をつけておかないといけない。

冗談交じりに君はウィズを見ながら言う。

君の言葉に、ウィズはくぁっと欠伸をすると、ふらふらと尻尾を揺らした。

<ウィズ様>を探す旅か……いいなぁ、私も行きたい!

アタシにはアタシの役割があるし……。

きっと<ウィズ様>を探すのは、アンタの役割なんでしょうね。

 <ウィズ>に固執していたオルネは、もう過去を振り返るのを止めたようだ。

これからは前向きに生きることにしたの。

アタシが立派な魔法使いになれば、そのうち<ウィズ様>から私に会いに来ると思うし!

……見てなさい、アンタのこともすぐに追い抜いてやるんだから!

 それは、君に向けてのライバル宣言。

くすくすと、オルネが笑う。

その笑顔は、この郷に吹く風のように清々しかった。


 ***


お待ちしていましたよ。<ウィズ>の件ではご苦労様でした。

無事、<秘宝>を取り戻す事ができたようで何よりですよ。

 回る風車群を見上げながら、クォはにこやかに言う。

それで、このような場所でどうしました?ご報告なら街の中でもかまわないでしょうに。

……なるほど、聞かれては問題がある類の報告がある。そういう事ですね?

 クォの顔から笑みが消え、まじめな顔を君に向けた。

君はここで起きた事をかいつまんで話す。


…。

……。

…………。


<ウィズ>が……偽物だったと?

 クォの言葉に、君は小さくうなずく。

それに、あの<ウィズ>のチカラは本気のウィズには程遠い、と君は付け加えた。

だが、クォは少し考えてから首を横に振る。

……いえ、それはないでしょう。

いくら姿を変えたとしても、魔力まで代替はききません。

魔力はその個人固有のものです。どれだけ真似しようと、そのクセや特徴は消せないもの。

 けれどもし、あのウィズがウィズであってウィズでないとしたら?

どういうことです?

 謎かけのような君の言葉に、クォが明らかに表情を曇らせた。

君は<ウィズ>と戦い、勝った後の事を話す。

それは、魔法で呼び出した<精霊>、あるいは<魔物>が……。

力を使い果たして消える時のそれと、全く同じだったのだ。

<精霊>……か。なるほど、そういう事ですか。

現れたのは<ウィズ>のチカラのー部――つまりは、精霊だったと。

 君はもうー度頷く。

そして、それが事実なら召喚者がいるはずだ。

つまり真犯人それが誰なのか、調べる必要がある、と君は続ける。

……私はさっそく中央に戻り、この件を報告してきましょう。

そういえば、私の知人に<精霊>や<魔物>の事柄に詳しい者が居ましてね。

ー度、訪ねてみてはいかがですか?いろいろと面白い話が聞けると思いますよ。

 君はウィズをちらりと見る。

にゃ?

 もうー人の<ウィズ>について、聞きたいことや調べたいことは山ほどある。

それにその人ならば、もしかしたら、ウィズを元に戻す方法を知っているかもしれない。

だが、クォは信じるには胡散臭い部分が多すぎる……。

……どうしました?

 目的とリスクを天秤にかけ、君は少しだけ考えると……。

よろしくお願いします、と言いながら、クォに頭を下げた。

……ふふ、わかりました。紹介状は私の方から出しておきましょう。

ああ、中央の事は安心しておいてください。<ウィズ>の件は私からお話ししておきます。

 クォはにこやかに笑うと、それでは、と言葉を残して去っていった。


……次の目的地は決まったにゃ?

 君はうなずくと、そっとウィズの頭を撫でる。

そうと決まれば、早く行くにゃ!

オウランディはご飯も美味しくて良い郷だけど……。

自慢の毛皮がケバだって仕方ないにゃ。

 言いながら陽気に駆けていくウィズを、君は慌てて追いかける。

オウランディの風が、追い風となって君の背中を押す。

振り返るな、と誰かが言っている気がした。


to be next――???




 君たちが駆けていくその背中を、じっと見つめる眼がある。

その人物はクククと……。

実に愉快そうに喉を鳴らした。


「驚きですよねえ。精霊とはいえ、<ウィズ>を倒してしまうのですから。

やはり、私の見立てに間違いはありませんでした。

おかげで計画は滞りなく進める事ができますよ。あなたは新たな世界を開く<鍵>だ。

ふふ、貴女もそう思いませんか?」

「……。」



to be next――




NEXT 火口の遺跡アユ・タラ



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