【黒ウィズ】メインストーリー 第08章 Story2
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……ッ!?ティア!!
ギルドに戻った君たちは、床に倒れ伏しているティアを見て声を上げた。
君はティアを抱き起こし、脈を確かめる。
どうやら眠っているだけのようで、彼は深い寝息を立てていた。
傍らの床には液体のこぼれたシミと、転がるカップ。
ー体何が起きたんだにゃ……?
ん……う……。
ティア!気がついたかにゃ!?どうしたにゃ!
彼は数度頭を振って、何とか意識を取り戻すと、君たちに事情を話し始めた。
マルガが……材料を持ってきて……ボクは……装置を……組み上げたんだ……あっ!
と、ティアは目の前の机に目をやり、
おいっ!ここにあった装置はどうした?大水晶を再起動させる装置だよ!?
机の上に何もなかった。君がそう答えると、ティアはー層声を荒げる。
大体お前たちはどこに行ってたんだよ!?なんでマルガが持ってきたんだ?
興奮するティアをなだめながら、君はそれまでのいきさつを説明した。
クォだと?来たのはマルガだけだったぞ……。
それで、お前たちはその召喚された〈ウィズ〉を見つけたんだな……。
ティアは部屋中を歩きながら、考えをまとめ始める……と、床のカップに目を留めた。
マルガ……マルガがボクを眠らせた?そういうことか!
ど、どういうことにゃ?
マルガはおそらく、クォに協力して装置を奪ったんだ。
あの優男がなんと言ってマルガをそそのかしたのかは知らないが……多分弟のことだろう。
どうして彼女の弟が関係あるにゃ?
マルガの弟、ヴィルハルトはかってクォの紹介でギルドに入ったんだ。
は……?えっ……!?
君とウィズは息を呑んだ。まさか、マルガの弟があのヴィルハルトだったとは……!
君はティアにサイオーンでの出来事を話す。
零世界の中に取り残された、アナスタシアとヴィルハルトの事を……。
まさか……なんてことだ……。大水晶は停止し、〈護りの間〉も機能してない……。
話を聞くティアの顔から血の気が引いていく。
……今、オベルタワーは頂上まで無防備……筒抜けの状態だ。
まずいぞ。クォはおそらく、零世界の扉を開こうとしている。
君とティアは窓から見えるオベルタワーの頂上を見つめる。
――行き先は、決まった。
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……やっぱり、ここだったか。
君とティアは息を切らしながら、輝く最後の大水晶の前に佇む人物を睨みつけた。
――ごめんなさい、ティア様。
弟に……ヴィルハルトに会うためには、こうするしかなかったんです。
……裏切るような真似をして、すみません。
悲しみとも痛みともとれる表情を浮かべて、マルガはー筋の涙を流した。
ふん。……女を泣かせる趣味はないんだ、お前が気にする必要はない。
それより、聞かせてもらおうか。弟を想う姉の心につけ込んで、マルガに何を吹き込んだのか。
ええ?四聖賢のクォ様よ。
マルガの背後で、クォは君たちへと不敵な笑みを浮かべている。
ティアの言葉に動じることなく、彼は大水晶を撫でながら口を開いた。
オベルタワーを独り占めするのはもう終わりにしませんか、ティア先生。
私はね、この塔を開放すれば、零世界に消えたヴィルハルトを救い出せるかも……といっただけですよ。
吹き込んだだなんて人聞きの悪い……あなたこそ何故、この塔の本当の力をマルガさんに隠していたんですか?
サイオーンにあるグノスタワーと同様の機能……「零世界への道を開く力がある」、ってことを。
馬鹿かお前は!機能制限されたグノスタワーだってこの数十年上手く制御できたことが無いんだぞ!
なのに解読も出来てないオベルタワーを起動するだと!?
そんな危険なことが出来るわけが無いだろうが!
ティアの言葉はもっともだった。
今でさえ危険な状態のこの塔を開放したら、何が起きるかわかったものではない。
……だが、ティアの言葉を受けて、クォは大きくため息をついただけだった。
まるで、「そんなことはわかりきっている」と言わんばかりの態度で。
……いい加減あきあきしてるんですよ、私は。ティア先生……あなたの旧時代的な魔法への考えにね。
「あらゆる危険性を排した力だけが使って良い力」……でしたっけ?
当たり前だ。身に余る力はそれを求めた人間を滅ぼし、そして世界を破壊する可能性がある。
ラリドンで戦った魔道士、リアナ、そしてアナスタシア……。
ただただ強大な力を求めた人間たちが、押しつぶされ消えていく様を、君は何度も見てきた。
だからこそ、君はティアの言葉が痛いほどよくわかる。
ー度壊れたものは二度と元に戻ることはない。それに誰もがこの世界で暮らすためには――。
黙れっ!
クォはー喝しただけでティアを魔力で吹き飛ばした。
咄嵯に走りだした君は、ティアが壁に激突するのを阻止する。
これは失礼。少し取り乱してしまいました。
クっ……。
ずいぶん成長しましたねえ。オウランディで見せただけの加速術を身につけるとは。
ティア先生、この塔は使わせてもらいますよ。ここまでお膳立てしたんですから……。
竜を送り込んだり仕掛けをしたり、〈ウィズ〉を使って根回しをしたり……
その苦労が報われてもいいでしょう?
……やっぱり、あれはお前の仕業だったのかにゃ。
ウィズはもう正体を隠すつもりはないようだ。
だが、喋った黒猫を見て、クォはもうー度いびつに笑うだけ。
はは、やっぱりその猫がウィズの本体か。上手くいかないわけだ、面白い……!
その言葉とともに、クォは魔力を大きく展開し始める。
背後にある大水晶にヒビが入り、塔がー度胎動した。
……貴様、世界を壊す気か!
世界が壊れる!?ただ、壊れるだけじゃないですよ……。もっと面白いことが始まるんです。
叫び声に併せ、クォの体からは「歪み」が大きく溢れ出す。
楽しい世界にしようじゃないですか……予測のつかない、答えの見えない世界に!!
クォの体から広がっていく「歪み」はやがて形を造りはじめる。
零世界の……扉……。
そして歪みの中から人影が見えた。
ヴィルハルト……。ヴィルハルトッ!!
姉さんっ……ぐあ!
その時、背後からー際巨大な黒い影が現れ、ヴィルハルトを再び闇の中へ引きずりこんだ。
嫌ぁああ!!
大切に想う人物が無残に散る様を見て、マルガは悲痛な叫び声を上げてクォヘとすがりつく。
クォ様、弟を、弟をお助けください!!これじゃ何のために私は――!
だが、そんなマルガを見てクォは笑った。
心底、楽しそうに。
……残念でしたね?力ないものを守ることなど、私にはできませんよ。
そ、そんな……。
私にできるのは、力あるものをこの世界に呼び戻すことだけです……ねえ、アナスタシア!
なっ……!?
歪みからは、穏やかな微笑みを湛えたアナスタシアの姿が浮かび上がる。
だが、その背後には禍々しい影と、肌に突き刺さるような明確な殺意があった。
瞬間、君の中でー本の線が繋がる。この感覚は、サイオーンで対峙した魔龍と同じ――!!
形を持ち始めた殺意は、「歪み」を纏い君に襲いかかる!
戦いは、避けられない!
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君は「歪み」から生まれた怪物をなんとか撃退した。
だが――。
フフ……くっくくく……ハハハハ!なるほど、これは面白い!!
〈ウィズ〉で実験した甲斐があったというもの!アナスタシア、貴女はやはり素晴らしい!!
褒めても何も出ないわよ、クォ。……はぁ、やっぱりクエス=アリアスの空気は格別ね。
ど、どうして……!?
ウィズは、尻尾を丸めて震えている。君も理解の出来ない光景に半ば恐怖していた。
フフ、いい顔ね……私が何の保険もかけていないと思う?
そう言うと、アナスタシアはティアに向かってうやうやしく頭を下げた。
お久しぶりです、ティア先生。「あらゆる危険性を排した力だけが使って良い力」……。
それって、つまり「何重にも保険をかければ問題は無い」ってことじゃないかしら。
……うがった見方だな、それも自分本位の……他を顧みない卑怯な考え方だ。
まずは自分が居ないと、他人のことなんて考えられないわ。誰かに優しくするのにも、絶対に自分の体が要るもの。
クォ、本当に助かったわ。あなたに目をつけておいて正解だった。
はは、何を仰いますか。私も貴重な体験と実験をいくつもさせていただきましたから、言いっこなしですよ。
フフ……抜け目がないわね。それじゃ、行きましょうか。最後の宝珠を見つけに……。
ええ。まだまだあなたは面白い事を隠しているでしょうからね。ご同行させていただきますよ。
満身創痍の君とティアを無視し、アナスタシアとクォはその場を立ち去ろうとする。
だが、そんな二人の前に、ウィズが立ちはだかった。
どこに行くつもりにゃ……!!
どきなさい、野良猫。今の私は気分がいいのよ、見逃してあげているのを察しなさい。
……いっそ始末してしまいましょうか。放っておけば間違いなく障害になりますよ?
にっこりと笑うクォの手に、禍々しい魔力が渦を巻き始める。
思わず君はウィズと二人の間に入り、彼女をかばうように抱きかかえた。
なっ――離すにゃこれは私と姉さんの問題だにゃ、君は――
路傍の石を障害とは呼ばないわ、クォ。「それ」はもう私にとってただの野良猫よ。
え……。
――「それ」。アナスタシアは、ウィズをそう呼んだ。
その瞬間、ウィズの表情に絶望と悲哀の色が浮かぶ。
敵になろうとアナスタシアを姉と呼ぶウィズと、既にウィズを人としてすら見ていないアナスタシア。
その認識の違いは、深く、重かった。
そっと、君の肩にアナスタシアの手が置かれる。
……よく躾けておきなさい、さもないと……。
駆除、しちゃうから。
絶望の色に染まったウィズを抱きかかえた君の耳には――。
アナスタシアの嘲笑が、ずっと響いていた。
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……数日後。
戦いの傷もある程度癒え、君は久しぶりに街へ出た。
大水晶の輝きは、ティアの手によって復活している。
恐らく魔物除けの力も元に戻っているのだろう。街は初めて来た頃の活気を取り戻しつつあった。
……だが、元に戻らないものもある。
…………。
あれから、ウィズはずっと塞ぎこんだまま。あまり食欲もないようだった。
話しかけても、そっけない返事を返すばかり。どう声をかければいいものか、と君は悩んでいた。
おい、お前。もう傷は大丈夫なのか?
ギルドの近くまで来た君に、ティアが気付き声をかけてくる。
君は頷き、返事の代わりに苦笑いを返した。
……まあ、無事ならそれでいい。ウィズのお嬢ちゃんはどうだ、あれから元気は――。
…………。
ない、みたいだな。ホント、大人しくしてりゃ可愛い顔してるのにな、お前も。
からかわないでほしいにゃ。
はは、冗談を真に受けるなよ。ボクにあしらわれるなんてらしくないな、ウィズ。
ティアはそう言うと鼻から息を吐き、少しだけ微笑む。
……私だって、私だって落ち込むことくらいあるにゃ。
だからサッサと吐き出して楽になれってんだよ、塞ぎこんでても誰もわかっちゃくれないさ。
な、マルガ。
はい。
微笑むマルガに、ティアは同じように笑顔を返す。二人はもう和解したようだった。
その様子を見て、君はほっと胸を撫で下ろす。
しかし、あの二人、「最後の宝珠を見つけに」とかいってたが……。ー体何をしようと……。
神託の指輪が必要にゃ……。
神託の指輪だと……?
姉さんは……アナスタシアはサイオーンで「零世界の力を使えば世界を改変できる」と言っていたにゃ。
あの時は失敗したけれど……きっと、次はもっと確実に事を運ぶはず……。
神託の指輪……?世界の改変……?ウィズの口をついて出る言葉に君は戸惑う。
君の手元にある神託の指輪は、もう光を失っている。そんなものが役に立つのだろうか?
もう出し惜しみはなしにゃ……。私の指輪を使うしかないみたいだにゃ……。
……ウィズの持つ、神託の指輪?たしかあれはどこかで失くしてしまったはずでは……?
自分の家にしまってるにゃ……。出来れば帰りたくなかったけどにゃ……。
キミ、次の目的地は私の育った故郷にゃ。
ウィズはー体何を隠していたのだろう?
知られたくない過去ってものが、女の子にはあるものにゃ!
期せずして次の目的地が決まり、君の心はひとつ引き締まる。
灼熱の火山から、雪山へ。新しい土地へと思いをはせていると、ティアが君に言った。
……じゃあ、もう出発するんだな。この時期を逃せば山を越えられなくなる。
何かあれば、すぐボクに声をかけるんだぞ、魔法使い。
ありがとう、と君は言い、でも協力するかしないかは――と続け、イタズラに笑う。
そう、ボク次第だ。段々わかってきたじゃないか、馬鹿弟子め。
さあ、行って来い!新しい世界へ!
様々な知識と魔法が眠る街、アユ・タラ。オベル・タワーを見送りながら、君たちは歩く。
失ったウィズの体を取り戻す、という目的の旅は、思わぬ方向へと舵を取り始めた。
だが、君は思う。これは自分にしか出来ないことなのだと。
いろんな障害や苦難があろうとも、きっと二人ならば乗り越えられる。
君が辛い時、いつも励ましてくれたのはウィズだった。
それなら、ウィズが落ち込んでいるときは、自分が彼女を支えればいい。
忘れがたいアユ・タラの熱に浮かされるように、君は未だ知らぬ世界へともうー度踏み出した。