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【黒ウィズ】ルミス編(GP2019)Story

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作成者: にゃん
最終更新者: にゃん

2019/08/30




目次


Story1 現代妖精民話

Story2 世界の調律

Story3 お互いさまなら



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story 現代妖精民話



 妖精は、この世界のどこにでもいる。人の目には映らないだけで。

信号が歌い、自動車が行き交う都心でも、実は、あちこちにたむろしているのだ。

wおはよう!

wおはよう、ルミスフイレス!

はいはい、おはよう。朝から元気ね、あなたたち。

wだってあたしら、いたずら大好きスプライト!

w元気と陽気が取り柄だもーん!

元気と陽気と、呑気がね。

 きゃらきゃらと笑い合う妖精たちを見て、ルミスはあきれたように言った。

フェノゼリーのじいさまはいる?

wいるよー。ほら、あそこー!

ありがと。

 妖精の指差した方に向かって少し進むと、道路脇のガードレールに、小さな毛むくじゃらの妖精が腰かけているのが見えた。

zおや、ルミススフィレス。おはよう。

おはよう。調子はどう?

zおかげさまで、良い具合さ。

最近どうも肩がこっておったんじゃが、先日の事件でフェアリーコードが緩んだろ?あれで、ずいぶん動きやすくなってなあ。

wほんとほんと!あたしも身体が軽ーい!

wいつもより速く飛ぺるし、力も出るのこんなの初めてー!なんかすごーい!

 はしゃぐスプライトたちを見て、フェノゼリーは、おや、という顔をした。

zそうか。おぬしらは最近生まれたんじゃったな。なら知らんのも無理はないが、昔はもっとフェアリーコードが緩かったんじゃ。

だから、昔の妖精は、今よりもっともっと強大で、自由間遠に生きておったんじゃよ。

wへー、そうなんだー。

wなら、もっとフェアリーコードが緩くなったらいいのにね~。遊び放題じゃん!

そうやってみんなが好き勝手に遊びまくると、フェアリーコードの音が外れて、世界が壊れちゃったりするけど、いーい?

wwあう。

z先日のように、遊んでいるうちに止まらなくなって、暴走してしまう妖精も増えるしのう。

wうーん、それはやだなー。

wあれ、怖かったもんねー。

そういえば、じいさま。聞いたわよ。あのとき、暴走妖精と戦ってくれてたって。

wそうそう!じいさま、強かったよー。

w強かったし、かっこよかった!

 フェノゼリーは照れて頭をかいた。

z人が襲われそうになっているのを見て、我慢できなくてのう。

フェノゼリーらしい武勇伝ね。

あなたたちのことは、トロウの間でも有名よ。すごい力持ちで、誰かを助けるのが生きがいの種族だって。

z力持ちだったのは、昔の話さ。フェアリーコードのきつい今じゃ、かつてのような力はなかなか出せんよ。

……先日、そこでトラックが横転してな。通行人が巻き込まれて、多くの死傷者が出た。

 フェノゼリーは顔を曇らせた。その心から、深い悲しみの音色が、やるせないため息のようにこぼれた。

zわしは、あわてて飛んでいって、トラックを支えようとしたが……だめじゃった。そんな力は、わしにはなかった。

昔くらい力があれば、助けられたろうにな。今の時代、妖精がいかに無力なのか、思い知らされたよ。

……あなたが気に病むことないわ。あたしたち妖精の仕事は世界の理を守ることで、人間を守ることじゃないんだから。

zおや。おまえさんは、暴走妖精をこらしめて人間を守っていると聞いたがな。

 フェノゼリーは、からかうような、それでいて微笑ましげな笑みを浮かべた。

z驚いたもんさ。トロウと言えば、年がら年中だらしなく遊びほうけている連中だとフェノゼリーの間じゃ有名だったもんでな。

wあたしも聞いたことあるー!フェノゼリーとトロウは、まるでアリとキリギリスだって!

wキリギリス!ルミスフィレスはキリギリス!

スプライト(あなたたち)も似たようなもんでしょうが。

zははは。だが、こんな勤勉なキリギリスは他にいるまいよ。それも、数百年もの間ずっと、暴走妖精と戦ってきた歴戦のキリギリスだ。

わしなんぞより、よほど多くの人を助けておる。まったく頭が下がるってもんさ。

別に人間を守るためにやってるんじゃないの。あたしが暴走妖精を止めるのは、彼らが後悔しないようにするためよ。

wでもルミスフイレス最近、人間と仲いいよねー。

w人間の女の子とー緒に戦ってるよねー。

あの子は特殊なのよ。なんていうか……変な子なの。

z変な子、か。はは、わしもー度会ってみたいもんだ。

 からからと笑ってから、フェノゼリーは、ふと真剣な表情を見せた。

zしかし、ルミスフイレスよ。フェアリーコードの乱れは、いまだ完全に収まってはおらん。いつまた先日のようなことになるかわからんぞ。

それなら心配ないわ。友達を呼んであるから。

zほう。友達とな?

 フェアリーコードの調律――その専門家よ。


 ***


 土曜日の昼。

父タケルはツアー参加で家を空け、母は友人と出かけている。家にいるのは、リレイと兄のメイリだけだった。

いや。本当は、もう1人――

ほらリレイ。今日のお昼、キノコ料理にしてもらってよ。キノコ料理。

え、また?昨日も食べたでしょ。キノコ。

いいじゃない別に毎日食べたって。

あ、そうだ。昨日テレビでキノコ料理特集やってたわよ。健康にいいって。録画見る?

いつの間に録画を……あ!ひょっとして、こないだ私の録画してた番組消して変なバラエティ入れたのルミちゃん!?

ルミス、ビデオの使い方なんてわかんないルミ~。

1週間キノコ抜き。

ちょ!ちょちょちょちょちょちょ!ちょっと待った、話し合おう、落ち着いて、落ち着いて話し合おう……。

 ルミスが猛獣をなだめるような姿勢を取った時、ピンポーン、と玄関のチャイムが鳴った。

ん?誰だろ。

宅配じゃない?

……まさかとは思うけど、ルミちゃん、ネットでキノコの通販とか頼んでないよね。

してないわよ。ネットってあれでしょ、パソコン使うやつでしょ。あたし妖精だから、そういうの興味ないの。

テレビはめちゃくちゃ見てるのに……。

 などと言いながら、玄関のドアを開けると。

ファンシーな服を着た少女たちが、家の前にずらりと立っていた。

えっ。

wどもー。あなたがリレイちゃん?

え?あ、はい……。

wお邪魔しまーっす!

w荷物、ここ置いていい?

w片付いてるから、全員分置けそうね。よいしょっと。

え?ええ?っていうか、まさか――

mなんだ、リレイ。友達か?

wはーい、友達でーす。失礼しまーす♪

えええええええ!?

 あれよあれよといううちに、5人の少女は、鶴音家のリビングに通され、テーブルに着いた。

mこんなもんしかないけど、ゆっくりしてって。

 メイリがそつなくお茶とお茶菓子を出した後、リレイは、困り顔で5人に尋ねる。

えっと……「フェアリーガーデン」……だよね?インディーズバンドの。

wお!知っててくれたんだ。さすがTAKEさんの娘さん。

やっぱり!じゃあ、お父さんの知り合い?それでウチに?

w残念だけど、TAKEさんとは、ちょっと話したくらいだよ。今日来たのは――

――聞いてないわよ。いきなり押しかけてくるなんて。

w久しぶりルミスフィレス。

え?ルミちゃんの知り合いなの!?

wお、ルミちゃんだって!そんな呼ばれ方してんだ~、なんか新鮮!

w私たち、だから、実は妖精なの。ルミスとも昔からの友達なのよ。

へ~、そっかー。

wえ、そこ、『そっかー』で済むんだ……。

あれ?でも妖精って、普通の人には見えないんじゃなかった?

w基本的にはね。でも、フェアリーコードの扱いに慣れてれば、あえて姿を見せたり、カメラに映ることもできるわ。

wアタシらはフェアリーコードの調律が専門だからもー扱いがうまいなんてもんじゃないわけ!

w私たち、各地を巡ってライブをしながら、フェアリーコードを調律してるの。ここに来たのも、大きな事件があったって聞いたからでね。

ああ、こないだの。

そ。あのときの乱れが、まだ残ってるでしょ?放っといたらロクなことにならないから、なんとかしてもらおうと思って呼んだの。

wにしても、ルミスが人間とー緒に住んでるなんてね~。

wそーそー。コイツったらさ、昔っから、アタイは風来坊でゴザイ!みたいな音、バリバリ出してたのにさ~。

しょうがなくよ、しょうがなく。この子にはフェアリーコードの使い方を教えてあげなきゃいけないから。しょうがなく。

wふーん。じゃあ普段からレッスンしてるの?

どっちかっていうと、キノコ食べながらテレビ見てるときの方が多いかなー。

w完全に居候じゃん。

wめちゃくちゃ満喫してんじゃん。

レッスンもしてるわよ!テレビとかキノコとかは、ええと、そう、レッスン料みたいなものよ!

wちょっとポりすぎじゃない?

wリレイちゃん、どっちかでいいよ、どっちかで。

じゃあ、キノコ抜き。

ちょちょちょちょちょちょッ!


 ***


うん!絶対行く!


wてなわけで、近くのライプハウスでライプやるから。良かったら、ふたりとも聴きに来てよ。

わ、ありがとう!生で聴けるなんて嬉しいなー。

ただ聴きに行くんじゃだめよ。調律のやり方も、そこで学ぶの。

はーい。

あ、そうだ。サイン貰っていい?部屋にアルバムあるから!

wもちろんいいわよ。じゃんじゃん持ってきて。

 リレイはうきうきとした様子で、アルバムを取りに部屋へ上がっていった。

w……面白い子ね。―緒にいたくなるの、わかるわ。

wだね。それに、ちょっと安心したな。

安心?

wルミスが楽しそうだから。

 ヒサギは、いたずらっぽく笑ってみせた。

wアオイも言ってたけどさ。あなた、ずっとひとりで戦ってたでしょ?

当たり前みたいにそうしてるけど……それって、本当はすごくキツいんだろうなって、ずっと思ってたから。

……別に、そんなことないわよ。それに、キツいとかキツくないとか、そういうのは関係ないの。

暴走妖精を止めるために戦う。それは、自分で選んだことなんだから。


 昔は、そんなこと考えもしなかった。

毎日、楽しく歌って踊って遊んで暮らす。ただそれだけの、無邪気で自由で気ままな日々を送っていた。あのスプライトたちのように。

だが。

ルミスはその手に剣を握った。自由で気ままな日々を捨て去り、危険を承知で、暴走妖精を止めるため戦うと誓った。

親友を手にかけた、あの日から。


w――そうだね。

 ヒサギは、目を細めてうなずいた。

彼女は、ルミスの過去を知っている。ルミスが抱いた決意の強さ、ルミスが剣を振るって過ごした時間の長さも。

そのすべてを尊重し、敬意をあらわすように、ヒサギは、そっと言葉を口にする。

wあなたが戦ってくれているから、あたしたちも、調律に専念できる。

だから、余計に嬉しいの。

いつも戦ってくれているあなたが、あんなふうに友達と楽しく笑えるってことが、さ。

 ヒサギは笑い、いたずらっぽくウィンクした。

彼女の音色は、やり方こそ違えど同じ目的のために戦ってきた戦友への共感とねぎらい、そして、あたたかな慈しみの響きを帯びていた。

何より雄弁な心の音色で語られて、ルミスは思わず、そっぽを向いた。

ただ。

そっけない仕草とは裏腹に、嘘をつけない心の音色は、はにかむようなやわらかな旋律を奏でていた。




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