【白猫】天気雨の前奏曲 Story
安らぎの雨が、少女たちの心を解放する―― |
2016/06/20 |
目次
登場人物
テレーゼ | テレーゼ・マイスナー cv.木村珠莉 演奏旅行を続けるピアニスト。 秘められた激情は人の心を震わせる。 |
コリン | コリン・ツチミカド cv.相坂優歌 歌って踊れる巫女さん狐。 変身能力で人をからかうのが大好き。 |
ツユハ | ツユハ・レイニーデイcv.戸田めぐみ 雨そのもの。けろけろりん! |
Story1 雨の思い出
<小さなカフェで、テレーゼは店にあったピアノを弾いていた。>
響かないなあ。
すみません、調律したのはずっと前でして……
ピアノじゃないんです。音を外してるのは、私の方。
そうは思えませんが――こんなに見事な演奏を聞くのは初めてです。
ありがとう――
全然……指に気持ちが乗らない。
コンテスト近いのに――これじゃ駄目ね。
今の私に――足りないものは何だろう?
***
うわあ、降って来ちゃったよ。あーもう、尻尾が濡れる~。水弾くからいいけどさー。
そういやぁ……こんな雨の日だったっけ。
…………
……
お前も……雨宿りしてたのか。
<小さな子ぎつねは、古いほこらの屋根の下で雨をしのいでいた。>
キュウーン……
独りぼっちなのか?お前?
クーン……
よしよし……なんだか人懐っこいな、お前。
それからワタシは兄様に拾われて、それで今のワタシがあるってわけだねえ。
でもワタシは……何者なんだろう?
***
ちゃっぷんちゃっぷん!
わーい、雨だよー!!どしゃぶりだよー!!
カエルさんたちも。けろけろ大合唱!うわーい!!
はあ……
……こんなに楽しいのになー。
……あっ?
呼ばれてる……どこかに雨を待ってる人がいるんだ!
天気雨の前奏曲
story2 雨の日の邂逅
<コリンは、大きな木の下で、雨宿りをしていた……>
はあ……ついてないねえ。
みんなー、雨だよー!けーろけーろりーん!
おっ、元気な子がいるねえ。
あっ、きつねのお姉さん!あっ!……待ってたの?
何をだい?
雨を!
えっと……覚えがないねえ。
そっかぁ……お姉さんが待ってるって思ったんだけどな。
キミ……もしかしたら雨……そのものなのかい?
そうだよ!私は雨なの!けろけろりーん!
降り注げ、幸せのしずく!心を癒す、清めの雨!
清めの雨ね――じゃあキミを呼んだのは――やっぱりワタシなのかも?
…………
……
……こういうとき、父さんはなんていうかしらね……
『金にもならない演奏をしてどうするんだ?』かな?
<きっかけがあるとしたら、数日前の演奏会であろうか。
テレーゼは、聴衆の喝さいを浴びた。しかしテレーゼの心は、静まり返っていた。>
表現、ね……
<不意にテレーゼは悟ったのだ。己がしていることに、一段階上の世界があることを。
垣間見えたその世界を前に、テレーゼの指は止まった――
テレーゼの父は音楽教師である。その指導は過酷にして厳格。己の子供たちにも――当然のように厳しい指導を課した。
だが父の芸術家としての評価は二流どまり。技巧には優れるが、表現力に欠け退屈と称された。>
だから父さんは……私達で稼ごうとした。
<父は幼いテレーゼと兄弟を連れて演奏旅行を繰り返した。演奏会の主役は、<神童>たち。
各地で絶賛され、一家は社交界でもてはやされた。だがある人物が、こう言ったのだ。
『君の小鳥は、一体どこにいったのかな?』
<男はピアニストだった。人はその男を称してこう言う。ヴィルトゥオーソ、達人と。
父がライバルと認めるただ一人。テレーゼは彼の演奏を聞き、弟子入りを志願した。>
……小鳥っていわれて、なんのことかって思ったけど。
『君の胸の中にいる小鳥だよ』……か。
私の小鳥……私の心……先生の演奏……色彩豊かで、想いに溢れていた……
……コリン……?いつもと、雰囲気違う……?
ふむ、お前の指は――心に縛られているな。
私の――指が?
Story3 己の内の怪物
<コリンは、ツユハの差す傘に入り、雨の中を歩きだす。>
ねえねえコリンちゃん、どこに行くの?
どこに行くんだろうね?どこかはわからないけど、行かなくちゃって気分なんだよ。
風さんにぴゅーって吹かれている感じ?
そんな感じだねえ。我ながらてきとーだね。
私も、風さんに飛ばされて、全然知らない島に降っちゃったりすることあるなあ。
雨ってのも、けっこうてきとーなんだねえ。
コリンちゃん、雨は好き?
まあまあかな。
わーい!どんなとこが好き?
雨が好きなちびっこがはしゃいでたりするとこ。
コリンちゃん、わかってる一!
わわっ!?私だー!?
けろけろりーん。
コリンちゃん、私だったんだ!
ちゃぷちゃぷしよー。
ちゃぷちゃぷしよー!
…………
……
指と心が繋がっていない。だから――心まで響かない。今のお前は風に舞う木の葉だ。
スランプなのは認めるけど?
<コリン――?は、テレーゼの指に触れた。>
弾くがいい。想いのたけをこめて。
<――テレーゼは理解した。
今目の前にいるものは、真の意昧での怪物だと――>
(でも――どんな怪物だとしても、私のピアノを聞きたいなら、ためらう理由はないわね)
じゃあ、聞かせてあげる。
<――これもまた戦いであった。
幾万年と繰り返された、人と怪物との――>
――この想いを!
story4 雨音に湧く<衝動>
……
<――テレーゼはピアノに没頭した。>
迷いも焦りも、全て……指先に……
<不思議と――指が走った。>
私の指を縛る想い。その想いさえ、響きに変えて!
<テレーゼのピアノは、叫ぶ――>
そうね……この叫びに、私は耳をふさいでいたのかも。
心の中に湧き上がる、これは――<衝動>?
…………
……
<二人は、小さな街にたどり着く。>
コリンちゃん――この感じ――
ああ、わかるよ。この先にアイツがいる。どーにかできるかわからんけどね。
だからコリンちゃんは、私を呼んだんだね?
天狐は気象さえも操った。ワタシは無意識でキミを呼んでたのかもねえ。
アイツの心を、清める雨を……
…………
……
ふぅ――
<難曲を弾きこなし――テレーゼは放心する。>
……信じられん。
<老人は思う。人の指が、こんな曲を紡げるのだろうか――>
心の叫びも――時にはこのように花開く。
私は――
<テレーゼは言葉に迷った。言葉にならない想いが、胸の中にあふれていた。>
けろっ!
ほう。遅かったじゃないか。
――待たせちゃった?
……嘘っ!?
コリンちゃんが二人!?
場所を変えようか。ついてくるがいい。
オッケー。ツユハ、ここで待ってな。
待ってコリン、どこに行くの?
ヤボ用。ワタシはテレーゼのピアノ、もっと聞きたいところなんだけどねえ。
コリン――あいつは。
まーすぐにすむって。多分ねー。
story5 癒しの雨と清めの雨
<雨の降りしきる街はずれ。二人の少女は対峙する。>
最初に教えておこう――我は天狐と呼ばれていた。
らしいねえ。人間に穢れを押しつけられて――なんかグレたって聞いてるけど。
ああそうだ。だか穢れの苦しみなど、裏切りの事実に比べれば、なんということもない。
―――それで人間に逆恨みして、天狐は封印された……じゃあワタシらは一体何さ?
人に敗れ封印された天狐は、永き年月の後、再び顕現した。無力な子きつねの姿でな。
なるほど……そういうことかい。
<後をつけてきたツユハとテレーゼは、物陰に身をひそめる。>
(怖いコリンちゃんと、愉快なコリンちゃん……)
(どうして二人に別れちゃったの?)
(うーんとね。うるおいが足りなくって、割れちゃったの!)
(それって……どういうこと?)
怖いコリンちゃんは、カラカラで、すごく怒っていて……愉快なコリンちゃんにやつあたりしてるの。
コリンの中に……もう一人のコリンが?
そうなの。このままじゃ愉快なコリンちゃんまで、カラカラになっちゃう!
じゃあ、見過ごせないわね。……なんとかしないと。
人間に、復習するつもり……かい?
人など、もはやどうでもいい――
なるほど、わかったよ――あんたが怒ってるのは、人間に味方する神様たちか。
神の加護など人ごときには不要。人は過ちを繰り返して滅べばよい。よって我は、人と神との縁を断つ。
ワタシはそんなことやりたくないんだけど?
人などと馴れ合いおって!お前のその振舞いが、どれだけ我が心を協していると思う!
ふぉっ!やるねえ……そっか、ワタシが楽しかった時、キミは苦しかったんだねえ。
さらば、我が化身よ……!
けーろけーろりーん!
これは……清めの雨だと!化身よ、お前が呼んだのか!
ツユハ、来ちゃだめだって!
どしゃぶりだよ!
<テレーゼは手にした楽器、ルーンクラヴィアを演奏する。
激しい雨が降っていたが……雨はテレーゼの体を覆う見えない音の壁に阻まれた。>
よくわからないけど――コリンの心が原因でこうなってるなら――
音を操れば、心を癒す響きだって、ね……
みんな……!
<雨粒が、テレーゼの曲と同じテンポで降り注いだ!>
清めの雨と清めの音か。こんなもので我が機れを清めるつもりか?』
プラス――ワタシの稲妻はどうかな!
――化身よ、何をするつもりだ!?
乾いた大地にいやしの雨!降り注げ、天の恵み!
あらら、ツユハも変身しちゃった。
これ、どうなってるの?
カラカラなコリンちゃんに、うるおいをあげるから!
不敬であるぞ――貴様ら。我が穢れに蝕まれ、朽ち果てよ!
最終話 きらめく虹の向こうへ
これでどうかしら?
清めの雨だよ!
どうかな?もう一人のワタシ?
くくく……なるほどな……
何がおかしいのさ。
お前は誰にも御しえぬ獣。故にお前は、いずれ世に仇なすものとなろう。
わけのわからないことをいってくれるねー。
<コリン?は、コリンに歩み寄る――>
お前の為すであろう災い、――楽しみにしているぞ。
<二人のコリンの姿は重なり――一つになった。>
ふぉっほ……まったく、素直じゃないねえ……
コリン、今のあなたは――
んー。それいうと難しいなあ。アイツはワタシで、ワタシはアイツだからねえ。
全部コリンちゃんなんだね!
さんきゅーツユハ。雨って、すごいんだねえ……
それには同意するわ。
<降り続いた雨は止み、青空が姿を見せた。>
おっ、雨があがったねえ。
見て見て!ほら!
きれいね……
<空には、虹がかかっていた。>
ねえみんな!虹の上を歩いたことある!?
あれ、歩けるの?
それって素敵ね……ふふふ。悩んでたのがバカみたい。
あー、あれは悩んでたのか。まあなんていうか……すごかったよ。
もう一人のコリンのおかげね。
あー。まったくアイツめ。余計なことをさー。
でもおかげで、いろいろ気づけた。表現っていうのは、自分をさらけ出すってことよね。
フフン。自分をねえ……
早く行こう、虹が消えちゃうよ!
そうだねえ。じゃあ競争だ!
あーっ、待ってよ!
<三人の少女は走った。きらめく虹の向こうへ――>
ピーカン級:雨上がりの青空!