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【黒ウィズ】エデンの箱船 Story

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作成者: にゃん
最終更新者: にゃん

story1



 戦いが終わり、ひと時の休息が訪れる。飛沫をあげる怒涛の時は過ぎ去り、静かな凪の時間が君たちを包む。

疲弊した体は、砂浜の砂のように、癒しをもたらす波を吸う。

そんな優しい時間……。だったらよかった。


うわあ、すっげえ!


ほら、リュディ。勝手に前に行かないの!迷子になっても探してあげませんよ。


 あの破壊されたフェスティバル会場は、驚異的な速度で復旧が進んだ。

それは、戦いの疲れが癒えるよりも早く、フェスティバルの再開にこぎつけるほどだった。

フェスティバルを楽しみにし過ぎにゃ。

 ウィズが言うようにその熱意とパワーは魔族ならではの無茶苦茶さがあった。

だが、どんな時でも子供の元気は無尽蔵である。再開の報を聞きつけるなり、はしゃぎ始めた子供たちに講われ、君たちは会場へ来た。


アルさん、あれはなに?

 リザが指差した先には、紫色の生き物がふよふよと浮かんでいた。

ああ。あれはマパパだ。

かわいい。ぎゅーーってしたいです!

やめておけ。湿っているらしいぞ。

えー。そうなんだ……。


 子供たちにとっては、どうやら見るものすべてが目新しく、驚きの連続らしい。

何よりもあの故郷を襲った敵を打ち破ったことが、彼らの瞳の輝きをよりいっそう大きなものにさせていた。

ただそれは、失った故郷や友人、あるいはもっと親しい人々の上に薄氷を張って、成り立っている輝きでもあった。


嫌なことは全部忘れて欲しいですね。

 ぽつりとルシエラが漏らす。君はちょっと驚いた様子を見せて、意外だと示してみせた。

あら?私は誰にでも優しいですよ。

よく言うにゃ。

お前の言う「優しい」はどこの言葉の『優しい』だ?俺の知らない言葉のようだ。

人の翼を折る人よりは、優しいですよ。

 と言って、ルシエラはペタペタと足音をさせて、子供たちの後について、歩いていった。

 怒っているようではなく、少し笑っていた。

怒らせてしまったようだ。

 その言葉にも、後悔は微塵もなかった。珍しく笑っているようだった。

あるいは自分が知らないだけで、珍しいことではないのかもしれない。と君は思う。

たまにはいいにゃ。それよりもあの子たちはどうなるにゃ?

 アルドベリクは緩んだ口角を戻した。

ヴェレフキナに要請されたこともあるが、あの子たちの世界を取り戻してやろうと思っている。

とんでもなくスケールが大きいにゃ。

それまで充分体を休めておけ。

私たちに選択肢はないみたいにゃ。なんだか誰かに似てきたにゃ。

 君はウィズの言葉に頷く。どこかルシエラに感化されているのだろう。

ただ……。

あるいは、自分たちが知らないだけなのかもしれない。と君は思った。


 見物客がつくる賑やかな列に連なり、フェスティバルを見て回る。

遅々として、進まない歩みもフェスティバルの醍醐味だと思って諦めて、その時間を楽しむしかない。

見たこともない出しもの。

見たこともない食べ物。

会場にはまだまだ珍しいものがある。


何これ? おいしー!

 練った肉を棒に塗りつけて焼いたものらしい。ソーセージの一種だろうか。話ではどこかの地方の食べ物らしい。

リュディ、見て見て。輪っかだ。

ホントだ。向こうにリザの目が見える。

 棒を引き抜くと、筒状の穴が空いていて、子供たちにとってはそれが珍しいようだ。

そして、見たことのない生き物も……。


安いゼィ、安いゼィ。ドラク領は税金が安いゼィ!

タックスヘイブンだゼィ!魔界だけどな!

何をしている、クィントゥス。

おう、アルドベリク!何って見ればわかるだろ。バイトだよ、バイト!

理解に苦しむから聞いただけだ。

 お金に困っているんですか?と君は率直に尋ねる。

金?んなぁもんには興味はねえよ。

クルスがフェスの期間中働いたら、ダークサンブラッドを好きなだけやるっていうからよ。

ほう。それは良いことを聞きましたね。

 ルシエラがリサとリュディの背中を軽く叩くと、予め決められていたようにふたりはアルドベリクをまん丸の目で凝視した。


リザ&リュディ

じー……。

妙な入れ知恵をするな。やらんぞ。

えー……。


予備ならもう一着あるぜ。

断る!




 ***



z…………。

似合うじゃないか。

 そう言ってもらえるとやった甲斐があります、と君は答えた。

にゃはは。ちゃんと報酬がもらえるように、がんばるにゃ。

少し残念ですが、まあいいでしょう。子供たちのためにお願いしますね。

よし!始めっか!腹から声出せよ!

 というわけでしばらくの間、君はドラク領の宣伝に忙しく働いた。



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story2


どうせならフェスティバルでも見物すればいいじゃないか?

まだ停戦の約束は生きているはずだ。

 ミカエラは驚く様子もなく、ただ見返す。ただし、聖王の顔ではない別の顔でだった。

そこまでなれ合いはできません。

そうか。

 姉として、そう言われると、イザークもそれ以上言葉を続ける気にはならなかった。

遠征の準備もやらなくてはいけませんから。

 言い訳のようにも謝罪のようにも聞こえる言葉がふたりの間に漂う。

 そして、それぞれに割り振られた役を再び演じ始めるまで、それは続く。

 イザークは、魔王として言う。

どうやらあの子供たちが故郷を離れる時に持たされたものの中に、特殊な石があったようだ。

歪みの発生を教えてくれるもので、彼らを元の世界に導いてくれる。

いつか故郷に帰って来られるように、持たせたのだろう。

親心でしょう。それが幸いしましたね。

 ふと思い出したように、ミカエラが言う。

きっとイアデルにも、あなたに持たせた何かがあるはずです。

俺が故郷に帰るための何かをか?

分かりませんが、何かある。そんな気がします。

そうだとしても、死人に口はない。

それは死界の住人でなければわかりません。聞いてみればいいのでは?

感傷的だな、姉さん。

 冗談を受け流すように呟いたその言葉は、もちろん自分にも向けられていた。


 ***



 会場の一画に異様に人が集まっている場所があった。

何事かと人だかりの中を覗いてみると、小さなテントがあった。

zありがとう!

 テントから出てくるお客さんは皆一様に満足げであった。何よりもみんな若い女性が多かった。

まいどー。君の前世は牛やで。スピリチュアルが教えてくれたんやで。

ご先祖さん大事にしいやー。

次の方どうぞ。本場のスピリチュアル占いで、あなたの魂を解きほぐします。

ほかにも死界のソウルフードもあるよ。ここ以外では食べられへんよ。

何をやっている……。

あ。キミらか。そらキミ、死界のアッピールやんか。

骨とか魂とかの悪いイメージしかない死界のイメージアップを目指してね、一肌脱いどるんよ。

アッピールやで。アッピール。

元の世界に戻らなくても大丈夫にゃ?

問題ない、ない。ボクらの世界は役割分担がはっきりしてるんや。

通常行われる輪廻の理はイザヴェリ言うんが回してるから問題ないねん。

私たちは主に問題が起こった時の対応が専門なの。

用も終わったし、魔界に来ることなんか、滅多にないことやし、アッピールを始めたわけよ。

 具体的には何をしているんですか?と君は訊ねる。

スピリチュアル占い。

ああ、それは説得力あるにゃ。

あとは死界のソウルフードの紹介やね。食べる?

あ、死界やからソウルとかそんなんちゃうよ。

嘘つけ、ドヤ顔をしてただろ。

お。キミやるんか? やるんやったらやったるよ。

 また始まったのか、と君が腕組みすると、ヴェレフキナを呼ぶ声かした。

貴公たち、こんなところにいたのか。

なんや、キミもスピリチュアル占いに興味あるんか?

そうではない。準備が出来たぞ。

リュディたちが持ってきた石の力のおかげで、歪みの発生する場所は予知できた。

そこを通って、彼らの世界へ向かう。

 話を聞いて、リュディとリザは目をぱちくりさせている。何の話か理解できないようである。

これからお前たちの世界を取り戻しに行く。

それって元の世界に戻るってこと?でもあそこには怪物たちが……。

だから、そいつらを蹴っ飛ばしにいくんですよ。つまらない予言と一緒に。


 失ったと思っていたものを取り戻せる。そんな希望がリザとリュディの体を貫き、喜びいっぱいの笑顔をふたりに残す。

長い寄り道になりそうだね。と君はウィズに言う。


にゃはは。旅は道連れとも言うにゃ!諦めて楽しむしかないにゃ!



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