【黒ウィズ】喰牙RIZE2 -外伝- 憤怨を喰らう魔人 Story
2017/09/26 |
目次
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「あなたがたがいらっしゃるということは、あの噂、まちがいではないようですわね。」
物憂げに、イルーシャは言った。
手の中で振った木杯から、揺れる果実酒の香りが立ち昇る。
「怪物が現れ、村を襲う――どうしても、〈奪魂杖〉のー件を連想する噂だ。」
果実をしぼったジュースを口にして、ユウェルが忌々しげに答えた。
さる村の、酒場である。
エネリーを追う旅の中で知った噂。それを調べるべく立ち寄ったところに、イルーシャたちが待っていた形だった。
「アスピナ――でしたっけね。その子のダウジングは、どうなんです。」
レモン汁の利いた水で唇を湿したフアルクが、椅子に立てかけた鎌の刃にも劣らぬ、鋭い視線を投げかけてくる。
アスピナが縮こまるのを見て、イルーシャがファルクを軽くつついた。
「だめよファルク、怖がらせちゃ。ウィンク、ウィンク。」
「この髪型でやっても意味ねーでしょ。」
「だ、〈奪魂杖〉かどうかは……わかんなくて。」
隠れるものが欲しいなあ――などと思いつつも、アスピナは、なんとか返事をする。
「でも、すごく、変な感じがする。あの邪神の感じと、ちょっと似てる……。」
言いきって、あたためたミルクに口をつける。
言いたいことは終わった、という意思表示だ。話を自然に打ち切るのは苦手だった。
「なんであれ、放っておけるものではない。」
この村の地酒を手に、ミハネが言った。
アスピナからすると、ちょっと意外だったが、実はけっこう酒好きなのだった。
「そうだな。とにかく状況を確かめたい。イルーシャとファルクも、そのつもりか?」
「ええ。ぜひ、ごいっしょさせていただきたいですわ。」
「ただの怪物なら知ったこっちゃね一んですけど。死者の魂が利用されるかもしれませんからね。」
このふたりとは、あまり話したことがない。ミハネたちの知り合いではあるそうだが、妙に近づきがたい雰囲気があった。
観察していると、ぱちり、とイルーシャと目が合った。
にっこり微笑まれたアスピナは、気まずくなって、思わず目を伏せる。
「アスピナさんは、あれからもミハネさんたちと旅を続けていましたのね。」
「あの人……エネリーのこと、私も、許せないから……。」
「〈奪魂杖〉の件も、あの女が元凶ですからね。同胞の仇討ちってわけですか。」
アスピナは、ふるふると首を横に振る。
「憎いけど………それだけじゃない。ああいう人を止める力が、私にあるなら……怖くても、やんなきゃって思うから……。」
「KENAGE !」
イルーシヤが、HORORIと涙をこぼし、ファルクの肩をポンと叩いた。
「病めるときも、健やかなるときも、共にいることを誓いますか?」
「何 段 飛ばしだ。」
「階段を数段飛ばしで走るのは、いい鍛錬になる。」
「おまえ、酔ってるのか素なのかどっちだ。」
ミハネは応えず、黙然と杯を重ねた。
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最終話