【白猫】蒼き炎のテンペスト 序章
2018/03/29 |
目次
story1
戦乱吹き荒れる嵐の国――
その西方に位置する蒼炎の島ウルド――そこに一人の男がいた。
「私は確信している! ウルドが嵐の国を統一すると!
私の言葉を誇大妄想家の戯言だとお思いか!?
たしかに戦上手の前ウルド公爵の死により、ウルドはかつてのような戦勝は難しくなった!
戦場で親を! 子を! 孫を! 失った者も多いだろう!
では戦が悪か!? 答えは否! 否である!!
戦こそウルドの資本! 戦こそウルドの財産! 戦こそウルドの衿持なのだ!!」
「「「そうだ! そうだ!!」」」
「現ウルド公デクスター様は戦下手の臆病者と噂されている!
だが、それは誤解だ! デクスター様は深謀遠慮の名将前公爵が存命の折、多くの戦場で辣腕を振るった!
名将がおり、屈強なウルドの民がおり、なぜ戦を行わないのか!!
それは戦争の変化である! 戦はかつてのように弓引き剣交える形から、火力による殲滅戦となった!
ウルドのブルーフレアこそ、その象徴と言っていいだろう!
だが、それだけでは勝てない! それだけでは不足だ!!
強大な力を! 戦場を圧殺する神代の兵器を! 圧倒的な破壊力こそ戦に必要なのだ!
私は知っている! ウルドが四魔幻獣を従え、嵐の国を統一することを!!
立つのだ! 諸君!! 我々はウルド公爵にさらなる戦を求めるべく声をあげねばならない!!
新たな戦を! 新たな兵器を! 新たな衿持を!」
「「「新たな戦を! 新たな兵器を! 新たな衿持を!」」」
「さあ、諸君! これが戦の産声だ! 叫べ、諸君! 戦は我らと共にある!!」
「「「新たな戦を! 新たな兵器を! 新たな衿持を!」」」
***
「困ったものだ。」
「どうなさったのですか? お兄様。」
「ロイド・イングラムという男の話は聞いているか?」
「いいえ。知りませんわ。」
「領内で民を煽動していた男だ。間諜の類かと思い、捕らえたはいいのだが解放しろと嘆願が多くてな。
厄介なことに臣下の者たちにも彼奴の賛同者がいる。
そこで相談がある、アン。」
「なんでしょうか?」
「ロイド・イングラムの件、貴様に任せる。
あの男が謳う四魔幻獣なる兵器……本当にあるのならば、接収せよ。」
「ですが、私にそのようなこと……」
「……お前は俺の代わりに指揮をとればよい。現に俺の戦果はお前の進言を聞いて得たものだ。」
「ですが……」
「隣のルバイヤが、どうにもキナ臭い動きをしていてな。俺はウルドを離れられん。
アンジェラ、これは命令だ。お前がウルドにとって有用か、その試金石だと思え。」
「……わかりました。命令、謹んでお受けいたします。」
「期待してるぞ、アン。唯一無二、俺の最後の家族よ。」
***
(……動き方をしくじれば私も兄上に殺されるか。これは大ピンチだな)
「……テンション、アガってきた。」
story2
無数の島々が連なる連邦――
その中に自治権を持つ小さな島があった。
リンツ島――
国と呼べるほどの人口もおらず、住民たちは昔ながらの生活を続けている。
「なあ、エマ。最近、魔幻獣様の様子はどうだ? ひっく。」
「……普通です。」
「普通ねぇ。また暴れられたら困るんだからよ! しっかり見とけよな!」
「…………」
「ちょっと、あんた! やめなさいな!」
「うるせえ! あの時、俺の兄貴は死んだんだ! こいつらが……」
「ご老人、少々言葉が汚くないか? 姫様を罵るなら、従者であるワシを……」
「てめえもジジイだろうが! 元騎士だかなんだか知らねえが! イカレ野郎にゃあ、負けねーぞ!」
「グラハムさん!」
「なんですかな? 姫様。」
「助けてくれるのは嬉しいんですけど、私はエマです。エマ・イングラム。
あなたの姫様ではないですよ。」
「…………
ああ、そうだ。君はエマだな。そうか、エマだ。
「行きましょう、グラハムさん。」
「あ、ああ……ありがとう、エマ。」
「イカれてやがらぁ……どいつもこいつも……ひっく……」
「もう、あんた、昼間っから飲んでんじゃないわよ。やめなさいな。」
「飲まなきゃやってられねえよ! いつくたばるか、わかったもんじゃねえんだぞ!
この島に住む奴ぁ、全員なっ!!」
***
「グラハムさん、さっきはありがとうございました。」
「いやいや、気にする必要はないよ。またなにか言われたら言いなさい。
そうだ、ギルドの仕事でアオイの島に行ってな。そこでナットウなる珍味を……」
「ありがたいんですけど、グラハムさんのお土産って、変なものばかりじゃないですか。」
「今回のは当たりだよ。多少、癖のあるにおいだが、銀シャリにあう。」
「そこまで言うなら、ご相伴にあずからないこともないんですが……」
「待ってるよ。姫様も夕飯に間に合えばいいんだが……」
「……そうですね。」
***
「来ましたよ、幻獣様……エマです。」
『…………』
「今日の出来事ですが、朝ごはんを食べたあと、森の罠を確認して――」
『…………』
「酔っ払いのグンナルさん、いっつもカラんできて……本当に嫌です。」
『…………』
「まあ、でも……
疎まれてるのは私も幻獣様も同じですよね。幻獣様が怒らないのなら、私も怒りません。」
『……カギ、エマ……イチブ……』
「今日は声を聞けましたね。また明日来ます。おやすみなさい。」