【白猫】蒼き炎のテンペスト Story2
目次
登場人物
魔幻獣の巫覡 エマ・イングラム | |
ロイド・イングラム | |
グラハム・オウガスタ | |
ウルド・第三公女 アンジェラ・ベイリアル | |
ウルド・公爵 デクスター・ベイリアル | |
ウルド・兵士 ザーラント | |
島長 エイブラム | |
島民 グンナル |
story8 勝利に酔わず
「「「おおおおおっ!!」」」
!!
全軍転進! 畜生どもに蒼炎騎士の刃をくれてやれ!!
「「「うおおおおおっ!!」」」
…………
……
それともブルーフレアで森ごと目標を焼きますか?
厄介なことに水では鎮火できず、場合によっては大爆発を起こす。ウルドが蒼炎の島と呼ばれる所以だ。
とはいえ、これ以上の被害がでれば私はエマとやらを許すわけにはいかなくなるな。穏便にすませたい。
……わかった。貴様に任せる。
story9 激震
それにウルドとは昔、剣を交えたことがあってなあ。奴らに手を貸す理由もないよ。
だが、それは私の望む方法ではない。話し合わないか?
幻獣様は兵器なんかじゃない! 帰ってくださいっ!!
交渉が不可能なことも把握した。ならば、私はお前と戦う。
<魔幻獣を覆っていた岩や土が剥がれ落ちてきた。>
story10 惨劇と暗躍
<※十●■!▲%?…………>
(クラービス テネブラリウス クアドゥルテス レディウス ジュペーレ )
鎮まれ!!
『――』
……
…………
…………
……
「ひぃ!」
これでアンジェラやエマも魔幻獣が危険なものだと理解してくれただろう。
君は私が狂ってると思ってるんだろ? ああ、たしかに私は狂っている。
だが、逆に問おうじゃないか、アイリス。
世界が滅ぶことを知ってる人間が果たして正気のままでいられるものなのか?
避けられぬ滅びを声高々に訴えても! 誰も信じてはくれない! だが、その時は必ず来るのだ!
それを止めようと! 一人で戦う私に正気でいろと!? 当事者でない君には理解できないだろう!
四魔幻獣は闇の王が作った兵器だ! これが彼奴のものになり、すべて起動したらどうなると思う!
すべて終わりだ。ご破算だ! それがどうしてわからない!!
それで全ての滅びを回避できるのなら! この命だってくれてやる!
私は目的のためなら、なんだってする。そう、なんだってするのだ!!
……でも、やり方はまちがってるわ。
さて、どうするかね? 私の護衛をやめるかね? 引き止めはしない。
でも、あなたのやり方がまちがってると思った時は止めます。
story11 別の形で……
「ここは……」
「気がつきましたか?」
「そうか……そういえば、お前に庇われたな……助かったよ、ありがとう。」
「借りを返しただけです。」
「ハハッ、お前は面白い女だな。怪我までして敵を助けるなど行動が読めん。」
「……そうですね。自分でもバカだと思います。」
「足を見せてみろ。骨は……大丈夫なようだな。」
「治癒魔法、使えるんですね。」
「この程度のルーン、貴族であれば用立てられるさ。ほら、肩を貸す。」
「……放っておいてください。私は一人で平気です。」
「お前がよくても、私は困る。
そうだな……助け合うためには相互理解が必要だ。お互いの身の上話でもしようじゃないか。」
「あなたに話すことなんて……」
「私の一日は自分の死を思うことからはじまる。
私が生まれた嵐の国は常に戦乱状態。当然、戦、戦、戦の連続だ。
戦上手だった父が死に、暗愚な長兄と聡明な次兄が家督をめぐって争った。
その際、私は長兄に暗殺されかかってな、次兄のデクスターに助けられた。
次兄は長兄に家督を譲ると言って白旗をあげた。そして相続の儀式が終わり、祝宴の場で次兄は敵をまとめて毒殺した。
自分も毒のはいった酒を飲んで、長兄を油断させてな。いや、それだけじゃない。
その祝宴の場には、私の姉二人とその夫、次兄の妻、息子もいた。皆殺しだ。
参加者で生き残ったのは毒消しを飲んだ次兄だけ。兄上自身、生死の境をさまよったがな。」
「ひどい……」
「人を欺くために家族さえ殺す。そんな兄上のもとにいれば、いつ自分が殺されるかわかったものじゃない。
だから毎朝、目覚めた瞬間、頭のなかで自分の死に様を想定する。無様な終わりは御免だ。」
「嫌なら反抗したらいいんですよ。そんなの。」
「……兄上に私心はないんだ。常に民のことを第一に考えている。非情に映るが賢君だよ。」
「お兄さんのこと、好きなんですか?」
「好きとは言い切れないな。だが、あの方の行動はともかく、ただ民の嘆きを滅らすというその信念は美しいのだ、本当に……」
「……私にはわかりません。」
「ハッハッハ! それでかまわんさ。兄上は嫌われ者だからな。
だが、最後の身内として、私だけは兄上の罪を許してやらねばならん。
この任務を失敗すれば私は兄上に殺されるだろう。それでは、あの人を許してやれる者がいなくなってしまう。
だから、私は死ぬわけにはいかんのだ。これが私の動機と目的だよ。理解してくれたか?」
「……はい、理解はしました。受け入れるかどうかは別ですけど。」
「それでいい。私もお前を理解したい。話してくれないか?」
「…………
……私が生まれる前に、幻獣様が島を焼いたそうです。
たくさんの人が亡くなって……全部、幻獣様の巫覡である母さんのせいにされました。
その時、母さんをかばってくれたのが父さんです。父さんと母さんは人目を避けるように森の奥で暮らしていました。
物心ついた時から、島の人たちに避けられてることは気づいていました。
会話の相手は父さんと母さんだけ。でも、流行り病で二人とも亡くなって、私は本当に一人になって……
……話し相手もいなくなって、気づけば幻獣様の前でいろいろ話しかけるようになってました。
寂しさで押しつぶされそうになった時、幻獣様だけが私のぞばにいてくれたんです。
最初は私が一方的に話してるだけでした。一日のできごととか。昔の思い出とか。そんなある日、はじめて幻獣様の声が聞こえたんです。
その時からです。森の獣にも私の声が届くようになりました。一人になった私に幻獣様が。この力をくれたんです。
それから、寂しくなくなりました。島の人とも少しずつ話せるようになって……
今でも腫れ物扱いは変わらないけど、もう寂しくありません。
私にとって幻獣様は。とても大切な友達なんです。救われた恩義があるんです。
だから、守ります。幻獣様の本質がなんであれ、私には関係ありません。」
「死ぬことになるとしてもか?」
「命より大切なものってあるはずです。毎日、死を思っているのはそれを守るためなんじゃないですか?」
「ハハッたしかにそのとおりだ。お前と私はよく似ている! 気に入った! 気に入ったぞ!
エマ、下心も策謀もなく、一人の人間として純粋な願いがある。
なあ、私の友になってくれないか?」
「い、いきなり変なこと言わないでください! 私たち、戦うんですよ。」
「ああ、だからだよ。今、この瞬間はお互いの立場など関係ないだろ?」
「それは、まあ、そうですけど……」
「実は私にも友と呼べる者はいないんだ。こういう性格だからな。なかなか話が合わん。」
「本当に変な人ですね……」
「お前だって充分に変わってる。いわば似た者同士だな。どうだ? 友になってくれないか?」
「……別にいいですけど。ただ、その、一つだけお願いがあります。
島の人たちにひどいことをしないでください。アンジェラ、あなたの敵は私だけです。」
「……なぜ、島民を庇う? お前を傷つけてきた者たちだろ?」
「私が傷つけられたからって、あの人たちが傷ついていい理由にはなりません。」
「傷つけるのはお前ではなく、私だ。」
「尚更ですよ、アンジェラ。私は自分の友達に、ひどいことをしてほしくないんです。」
「ハッハッハ! 実にお前らしい! わかった! 友として誓おう! 私の敵はお前だけだ。島の者に被害は出さん!」
「よろしくお願いします。……というのも、なんか変ですけど。」
「……言っても詮無いことではあるが、お前とは別の形で出会いたかったよ、エマ。」
story12 引けぬ想い
結果、彼の心は壊れたらしい。今でも救えなかった姫を探しているそうだ。
若い娘を姫と間違えること以外、害はない。
今回は見逃すが、次はないぞ。
だから守る。それだけは絶対に譲れない。
アンジェラ様、老兵ですが、エマに助太刀いたします。ガリウスの護剣の冴え、とくとお見せいたしましょう。
だから明日戦う。それだけの話だよ。
story13 リアクションタイム
<そして――
――夜が明けた。>
わかれとは言わない。理解も求めん。だが、これ以上の邪魔はするな。
ザーラント! ブルーフレアは!?
――
***
私がウルドを出立して五日。追ってきたにしては、ルバイヤ軍到着が早すぎる。
私が出立すると同時……いや、出立より早く連中が動いていなければ計算が合わん)
***
おかしい。飛行艇に巨大な砲は積めんはずなんだが……
***
(浜辺から煙……? 海に艦隊……どういうこと?)
story14 決断の時
みんな、落ち着け。下手に逆らわなければ、ひどいことにはならん。
かの家は傭兵隊からの成り上がり。嵐の国のなかでも、品性下劣な者が多いと聞く。
戦火にさらされた村の人間や、戦に負けた者を捕らえ、売り飛ばすそうだ。グラハム殿もご存知では?
アンタと戦えなくて、ごめんって伝えてくれって……
当然、ウルド軍がこの島を守る義理もなければ、我々がルバイヤ軍から温情を賜る理由もない。
だがな、エマ。一つだけ全てを救う方法がある。
魔幻獣を起動しろ。あの力があれば、鎧袖一触。ルバイヤの船など一網打尽だ。
まあ、どちらにせよ、略奪され践罰される。
今、この瞬間、なにもしなければ、全てが終わる。
君にとって、アレは友人なんだろ? そして兵器でもある。
この島の人々を! 孤軍奮闘する気高き君の友を! 救えるのは君だけだ! エマ!
さあ、決断の時だ。エマ・イングラム。
蒼き炎のテンペスト Story2