【白猫】転職勇者 Story0
開催日:2017/09/30 |
目次
登場人物
story1 安宿の罠
<――<旅立ちの島>デパーチアで当時、魔王であったオスクロルにビンタされて目覚めて広い世界に飛び出したソアラは――
――二手目で行き詰まった。>
ふむ……さて……ほんでほんで……
次は……どこ行ったらいいんすかね?
転職勇者
<こうなってしまったのも、ー緒に旅をするはずだった元魔王・オスクロルが多忙となり、ソアラがそれに気を使ったことに端を発す。>
――本当に、一人で大丈夫なんですか……?
大丈夫っす!大丈夫っす!
――本当に、平気ですか……?
平気っす!平気っす!
……本当の本当に、何も問題ないです……か……?
問題ないっす!問題ないっす!
ソアラさん、ちゃんと聞いてます?
聞いてるっす!オスクロルさんは、あたしのことは気にせず、お仕事に励んでください!
世界は今、あなたを求めてるんす!元魔王・オスクロルさん!あなたの光が、必ずや、多くのあたしみたいな勇者を救うっす!
そ、ソアラさんみたいな子、そんなにたくさんいるとは思えませんけど……
いやわんさかいるっす!目に触れないのは、みんな家にいるからです!
…………
アリみたいなもんです!なんおくひきいるって言われても、ピンとこないじゃないですか!?それはみんな巣にいるからです!
え、えぇ……いいですよ、そんな、そこについて例えを出してわかりやすくしなくても……
例え話は親心!
あら♪ふふふ、ソアラさん、ようやくあなたも、親御さんの気持ちを想像するくらいに……
はぁ!………どすこいどすこい!
?????
ともかく、あたしの主張は伝わったはずです!粗削りでそれでいて、キラリと純粋さが光る主張が!
え?ま、まぁ、はい……
ならば!行ってらっしゃいませオスクロルさん!
ええい、見送ってなぞいられんぜ!あたしも同時に旅立ちます!
ではではさよならオスクロルさん!うぉおー!この先いったい、どんな大冒険が待ちかまえているんだぁー!?
あっ!?ソアラさん、待っ――
……相変わらず、足、速いなぁ……
<――そのときのオスクロルはうっかり忘れていた――
そう、ソアラは――
――人前ではー応それなりに、まともっぽいことを言うには言うということを――!>
……ぬぐ……!……うぐぐぐぐ……!
……なんて……!……最高なんですか……!
ここの宿……めっちゃ安いっす……!
<ソアラは、<旅立ちの海>からー歩だけ外に行ったところの島に居ついてしまっていた!
そこは<チョマ神殿>……勇者を目指す冒険家が、なんとなく第二の拠点にしてしまうという……
いわくつきのトコだった!>
story2 即決してた
…………
どーしたのよオスクロル?心ここにあらず、ってな顔しちゃって?
え?あ、いえ…………そんな顔、私してました……?
なにか、心配なことでも……?
もう!ダメよ!いまは、タマの休みでしょ?
何も考えないで、気楽にアタシとお茶してくれないと!
そうよね、キャトラちゃん……
――でも――
アタシも、鬼じゃないわ。
ううん。ちがうわ、もっとなの。おそろしく優しい猫なのよ。
キャトラ?なにを言ってるの?
ソアラのことが気になるのよね。
……!
あのコ、悪い子じゃないけど、まだまだ未熟よ。誰かが見張ってないと、楽な方に流されるもの。
…………
気になるんでしょう?行っておやりなさい。……アタシも、嫌な予感がするの。
……ごめんなさいキャトラちゃん。また、気を使わせちゃって……
いいって。転職したとはいえ、ソアラを世に送り出したのは魔王の時のアンタだもの。
もう責任はないのかもしれないけど、気になっちゃうのが人情だわ。
はい。『転職したから』で、その後のことを放り出すのは、私、性に合わないんです。
今のお仕事をしっかりするためにも、前のお仕事も最後まで見届けなきゃ……!
ええ、そういうこと、大事だと思いますよ。
ありがとうございます。では……行ってきます!
居場所に心当たりは?
あります。あそこしかないと思います。
オッケ、じゃあ教えといて。アタシたちにも、万が一に備えて準備だけはしておくから。
キャトラちゃん……!何から何まで、ありがとう!
いいからいいから。オスクロル、早くソアラの元へ行ってあげて。
手遅れにならないうちに!
はい!
<――そしてオスクロルは、向かった先の<チョマ神殿>で目撃する――>
おや、冒険家のかたかな?ここは<チョマ神殿>だよ。
!?そ、ソアラさん!?そのカッコウは……!?
おや、冒険家のかたかな?ここは<チョマ神殿>だよ。
てっ……
手遅れだった……!
story3 教官がいれば……
ソアラさん!目を覚ましてください!
おや、冒険家のかたかな?ここは<チョマ神殿>だよ。
どうしたんですか!もっと声に、心をこめて!
おや、冒険家のかたかな?ここは<チョマ神殿>だよ。
……くっ……!それなら……!
チャマチョマチョンワーチョマチャマチャンマー。
おや、冒険家のかたかな?ここは<チャマ神殿>だよ。
ほら!間違えた!
ぬぐぅ!?やりますな、さすがはオスクロルさん!
ソアラさん!こんなところで、ー体何をやっているんですか!?
あたしは農民になったんす!
えぇ!?
残りの人生、ここで、やってきた人に神殿の名前を告げに告げまくるんじゃー!
なにその人生目標!?ー生を棒に振る気ですかソアラさん!!!
なぜ棒に振れると!?そんな人生の中にこそ、幸せがあるかもしれないではないですか!
自分がやったことのない職業のことを悪く言うのはたとえオスクロルさんでも許せませんぜーっ!
それはそうですが、農民って、そういうことじゃないでしょう!?
神殿の名前告げてないで、畑を耕したらどうなんです!
あたしがやりたい農民はそのタイプじゃないのです!なんならー揆を起こすのはやってみてもいいですが!
やめてください!というかソアラさん、勇者は!?
この世界を照らす、勇者になるんじゃなかったんですか!?
語るに落ちましたね!
意味がわかりませんけど!
もしもあたしが真の勇者であったらば、転職出来ないのが相場……
はぁ!?
ならば!転職出来てしまったあたしは、勇者ではない!ないのです!
何を言っているんですか!?どこの世界の何の相場です、聞いたことありませんよ!
どこかの誰かが言わなくっても、なぜだかみんなが知っている!それが共通認識です!
だから、落ち着いてください!
これが落ち着いておらりょうか!あたしは乱を起こすんじゃー!時の支配者よ!民草の力を思い知るがいいー!
……ソアラさん!ちょっと待ってくださいって!
あ、それ、正解です。
!?
あ、すみません。私、この神殿で大神官代理をしております、賢者のファナと申します。
初めまして、オスクロルです。……正解?というのは……?
はい、ここ<チョマ神殿>は、元々は<ちょっと待ってくれ神殿>だったそうなんです。
それが縮まって、<チョマ神殿>と呼ばれるようになったんですよ。
……あの……どうして今、その情報を……?
す、すいません、超どうでもいいウンチクでしたね……
別にこれが言いたかったわけではなくてですね、なんでもいいから話しかけようとしてまして……
それで、あ、話題が出来た、と思って、つい口をついてしまって……
はぁ……
あの……ソアラさんの、保護者の方、ですか?
あ、ええと……ソアラさんを勇者として送り出したときに、魔王をしておりました。
ああ、なるほど、それで……
もしかして……ソアラさん、ご迷惑を、おかげしてます……?
そういうわけじゃないんですが……どうして転職なんかしたいんだろうと思って……
と、言いますと?
ソアラさん、十分強いですし、勇者としての素質、あるなぁと思ったんですけど……
『あたしは農民になるんだぞえ!』と、聞かなくって……
理由を尋ねましても要領を得ず……私の仕事としては、転職を認めなくっちゃいけないんで……
農民になったらなったで、毎日、どこかで修行を積んできたようで……
修行を?
段々、弱くなっていって……
えぇ!?
別にそんな必要ないんですが、本人曰く、『転職したらレベルを下げなくちゃいけない』らしくって……
なにをしるんですか、もう……
すいません、私が止めていれば……
あ、いえ、ファナさんのせいじゃありませんよ。ソアラさん、予測不可能なところがありますんで……
私もこのケース、あまりに不可解だったもので。どうしたらいいのかわからなくなってしまって……
誰かに相談したかったんです。大神官代理なのに……頼りなくてすみません……
そんなに謝らないでください。私はホッとしましたよ。同じように感じている方がいてくれて……
そうですか、よかったです。
それで……他力本願で恐縮なのですが……何かいい方法、あります……?
農民にしといてナンですが、あの子はこのままじゃいけないような……
かといって、私、相談に乗ることは出来ますが、考え方を変えさせるほどのしっかりとした軸はなくって……
そんな、ご謙遜を。そんなに若くして賢者になり、大神官代理までなさっているのに。
なったの、つい最近でして……
あ、そうなんですね…………うーん……
……一つだけ、思いついた方法があります。
それは?
ある人物に、再教育を依頼するんです。
ある人物とは?
ある島で、<勇者の鬼教官>と恐れられていた魔王です。
なるほど!その方に、ソアラさんを鍛え直してもらうんですね!
その方はいまどこに?
たしか、この島の近くに……ご存じないですか?
(あれ……?たしか、賢者って言ってたような……)
詳しそうな人に尋ねてみましょう。
そ、そうですね……
<――そして二人は、さっそく話しかけた村人から鬼教官の所在を聞き出した。
有名らしく、超すぐにわかった。>
……賢者って……?
story あの魔王はいま
<――<チョマ神殿>のある島の、となりの島のとある町――>
――この野郎!二度と来んじゃねえって言っただろうが!
慈善事業じゃねえんだよ酒が飲みたきゃ、銭を持ってくるんだな!
なんでぇ、ケチな店だぜ。このカルロス様が、飲んでやろうって言ってんのによぉ。
<カルロスという男は、その隣の店ののれんをくぐった。すると――>
てめえ、性懲りもなく!おめえにツケで飲ませる店は、もうこのあたりにはねぇよ!
顔を洗って出直してきやがれ!
なんだとこの野郎!この俺様を誰だと思ってやがる<勇者の鬼教官>、魔王カルロス・エルグランド様だぞ!
いつの時代の話だ!今じゃただの飲んだくれだろうがよ!
貴様ぁ!この店、消し炭にしてやろうか!
おう、やってみろ、やってみろ!そしたらこの島の連中全員集めて、討伐してやる!
島民と冒険家ギルド全部を敵に回したら、どうなるかわかってんだろうな!
……オイ……ヘヘ……冗談に決まってるだろ、な……?
なあ、いいから飲ませてくれよ……もう酒だけなんだよ、この世界で、俺を楽しませてくれるのはよぉ……
うるせぇ、目障りだ!とっとと消えろ、疫病神が!
ちっ……!なんだってんだよ、どいつもこいつも……!
<ちどり足で歩くカルロスは、ふと道端に、酒瓶が転かっているのを見つけた。>
おっ!へへっ!こりゃついてらぁ!
<カルロスは酒瓶を拾い、逆さまにすると、落ちてきた数滴を舌で受け止めた。>
へへへっ……!ああ、うめぇうめぇ……!もったいねぇなぁ、まったくよぉ……
……ま、まさか……
ん~~~~~~~?
ひ、人違いよね……
おう!どこかで見た顔だと思ったら!デパーチアのオスクロルだよな!?
!!
覚えてんだろ、カルロスだよ、<勇者の鬼教官>、爆塵の魔王の!
…………
こんなとこで会うなんてなぁ?最近、どうだ?聞かせてくれよ。その辺飲み屋で一杯やりながらよ、へへ。
……酔っているんですか?
酔ってねえ、酔ってねえよ。な?ほら、そこでよ、のれんが誘ってるぜ?
…………
こりゃ多分ダメだ……
うん?何がダメだ?俺になんか用だったのか?
もういいです……
何がいいってんだよ?詳しく聞かせてみろっての、そこの店でよ、な?
もういいですから!
見つけたぜ、カルロス。
おっと……!こりゃあ、リトルゴーレム会の旦那方……
こそこそ逃げ回りやがって。てめえが借りた金、今日こそ返してもらうぜ。
へへ、もちろんですとも、これから返しに行こうとしてたわけでね……
調子のいいこと言いやかって。じゃあ金を出してみろよ。
いやいや、いまからね、人に会って、受け取ろうとしてたもんでね……
嘘つけこの野郎!
ちょ、ちょっと待ちなって、嘘じゃねえ、嘘じゃねえんだ!
うるせぇ!
ぐはぁっ!
あっ……
<チンピラは倒れたカルロスの懐を素早くまさぐった。>
ちっ、やっぱり文無しかよ。どうしようもねえな、てめえは!
違うんだ、今日の晩、いや、明日には大金が……
ホラばっか吹いてんじゃねえぞ!
兄貴、どうしますコイツ?
ミガラを確保してもいいが……まだ働けんだろ。その気になりゃ。
いいか。日雇いでもなんでもいい、次に会うまでに、せめて利息分は稼いでやがれよ。
じゃなきゃ今度こそ、てめえの命は無えからな! オイ!
ヘイ! ペッ!
……くそが……!働けるモンなら、働いてるっつんだよ……!
(……アテが外れたみたい……この人には、関わらない方がいいよね……)
だけどよ――もう、いねえんだよ。
……?
俺には勇者を育てることしか出来やしねぇ……けどよ、もう、いねえんだ……!
――勇者王モジャノール!魔竜殺しのヨハルソン!剣聖ロッペニアル!もう、どこにもいねえんだ!
俺をその気にさせてくれる、真の勇者なんてよぉ!
うぉーんおんおんおん……!
…………
せめて……せめてどこかに……モジャノールの十分のー、いや、二十分のーでも、素質のある勇者がいれば……
俺の全てをかけて、伝説の勇者にしてやるのによぉ……!
…………
……カルロスさん。
……なんだよ。まだいたのか。
見てたろ。俺のことは……ほっといてくれよ……
ー人、いるんです。勇者が。
……?
今はまだ未熟ですが、いつの日か、全ての勇者を過去にしてしまうほどの、素質だけはある、勇者が……
そ、それは……!
本当か!?
<――カルロスの濁った目に、鋭い光がよぎった――>
story そして三者は交わるはず
――というわけで、今後はウォリアーの技を伸ばしたく、転職を願いたいのですが……
認めましょう。あなたの転職を。
ありがとうございます!
……ふぅ……
ガモン |
---|
次は、我の転職をお願いいたしたい。
……はい。どうぞ。
我は、敬愛する兄者、そして姉者に近づくべく、この身を鍛えておったのだが――
…………
――私、どうしてこんなことをやっているんだろう……?
ちょっと前まで、毎日遊んで暮らしてたんだけどな……
偶然、大神官様と会って、話が弾んで……
でも、私、全然賢者じゃないんだよね……
知識の量とか……全然ないし。頭の良さとか、普通に。下から数えた方が早いし……
どこの下からだよって話だけど……とにかくそうだし。
こんな私に、他の人の転職を認めて、祝福する資格なんて、あるのかな……?
――とまれ、そういった経緯で、我は転職を願い申す。
…………
賢者殿?
ああ、はい!すいません、それで希望する職業は……?
うむ、ダンサーでいかがだろうかと。
ダンサー……つまりあなたは、武術とは違った観点の技を身につけ、そしてまた自分の武につなけたいのですね?
左様でござる。
わかりました。認めましょう。あなたの転職を。
おお……ありがたい何やら早速、踊りだしたくなってきおった!
はい、これまでの自分を忘れずに、新たな分野に挑戦してみてくださいね。
御意!
……ふぅ……
次ハァ、ワタシデースネエ!ヨロシクオネガイシマースウ!
……はいどうぞ。
――だけど――
代理とはいえ、今は私が、みんなの転職の手助けをしなきゃいけないんだから。
がんばらなくちゃ。私には、お話を聞くことしか出来ないけれど……
それでも――精ー杯!
***
――心得た……!それほどの問題児ならば、俺以外に適任はいなかろう!
この<爆塵の魔王>、カルロス・エルグランド!勇者ソアラを鍛え直して見せよう!
よろしくお願いします……!
(さっきまでとはまるで別人……!カルロスさんなら、きっと……!)
<――新米賢者、落ちぶれてしまった勇者の教官、そして、勇者――
三者は、<チョマ神殿>で運命的な邂逅を果たす――>
――ふげぇ……!ぐごごごごご……!
<――多分だけど――!>