【白猫】ゼロ・クロニクル Story2
開催日:2017/07/14 |
目次
登場人物
story8 白の巫女の祈り
白の王宮、始祖のルーンの間――
……始祖のルーンよ……我らに、ご加護を……
――始祖のルーン――それは、大いなる力を秘めし、白の王国の象徴――
この世界が天と地、白と黒に分けられたときより存在し、白の民に恩恵を与えてきたという――
――代々の<光の王>に、守護されながら――
……弱気になっちゃダメ……
……今は、私が王なんだから……私がなんとかしなくちゃ……
そうしていると、<光の王>より<白の巫女>の名の方がしっくりきますね。
あまりご自分を責めませぬよう。無理なこととは存じていますが。
シーマさん……
さん、なんかよしてください。あなたが王ではないですか、アイリス様。
そうですけど……いいじゃないですか。
シーマさんは、私にとって、大切な姉のような方です。共に、修練に励んで……
そしてあなたが勝ったわ。
それは……
恨んでいるわけじゃないのよ。仕方のないことだもの。客観視すればあなたの方が通任だわ。
…………
ねえ、覚えてる?
え?
先代の<光の王>のこと。
……いいえ。
不思議よね……あなたが王位に就く前に、いらっしゃったことだけは覚えているのだけど……
はっきりとしたことは思い出せないの。姿は?声は?会っていたはずなのに。
私、なんとなくわかるんです。
へえ?
蓄積は必要ないんです。<均衡>を保つためには。
常に同じ状態であればいいのですから。
始祖のルーンが教えてくれるの?
そう……ですね。
そ。なら、私には知りようもないけど、そう言うのならそうなのでしょうね。
ただ、少し哀れだわ。
哀れ?
ええ。<王>という存在が。役目を終えれば、後継者にすら忘れられるなんて。
私は平気です。とうに、覚悟しています。
でも、哀れよ。私のような一般市民の目からすればね。
……かもしれませんね。
あら、こんなことを言いに来たわけじゃないの。あなたを探して呼びに来たんだったわ。
アイリス様。黒の王国より、使者が。
わかりました。
宣戦布告をしておいて、どの面下げて、と思いますけどね。
いいえ、それは違います。黒の王国も、民は同じ……
ただ……<王>が暴走し、破滅へと連れ回しているだけ……
そうかしら。
<闇の王>が次の代となれば、再び<均衡>は守られるでしょう。
そのときあなたは忘れ去られているかもしれないわよ?
幾度も<闇の王>を退けた、その功績も、誰の記憶にも残っていないかも。
構いません。平和な未来が来るのならば。
そう……
いい子ね。
そんな……
じゃあ、そろそろ向かってくれるかしら?
あ、はい。
――
……?
どうしたの?ほら、早く。
あ、はい……
(……何かしら……?)
story9 黒の使い
――黒の使いか。
入国の通達は届いているかと。王の書状もここに。
…………
敵意はない。剣を降ろされよ。
どの口がほざくか。
貴公の感情は理解出来る。しかし私も、ただ、使いの身。
また、ここで追い返す権限も、貴公にはないはずだ。
急に暴れた。だから斬った。それを疑う者はいない。
<光の王>もか。
王に危険が迫らぬよう、お守りするのが騎士の務め。
そんなに目を吊り上げないでくれ。……そうそう。俺は独り言が趣味でな。
家でやれ。土壁は音も吸うだろう。
戦争になんの意味がある。やめちまえばいいんだ。
貴様らから仕掛けたのだろうが。
ウチはトップが狂ってやがる。なのに、誰一人逆らえやしねぇ。それもそのはずだ。
<始祖のルーン>……地にはそれがない代わりに、王がソレソノモノなんだからな。
…………
大半の国民は、気にしちゃいねえかもしれねえ。
自分たちの未来が、トップの意思で勝手に決まる。それはそういうもんかもしれねぇ。
何が言いたい。
だが、俺たち軍属は違う。戦争なんざ、したくねぇ。
ここで愚痴るより、国に戻って進言したらどうだ。
そうすりゃ……コレよ。
<男は親指で、自分の首を掻っ切るポーズをした。>
命惜しさに愚行に手を貸すか。これだから黒の民は……
まったくもって同感だぜ。早く代替わりしてもらいたいもんだ。
……ほう。
知っての通り、これまでの<闇の王>は違った。
内心どう思ってたか知らねえが……大人しく、地上だけに留まってたって話だろ?
俺もそう聞いてはいる。
俺もそうさ。なら、きっと事実だ。まあ、詳しいことは、なんでか覚えちゃいねえんだが……
…………
ともかく、辛抱してりゃあ、いずれ別人が王になる。
そのときのために……俺たちが仲良くすることは、無駄じゃないと思うがね?
知らん。俺はただの騎士だ。
えーっ。
なんだよ?
あんた、さっきの言葉、言葉!主を正しい方向に導くのも、臣下の務めだろ?
貴様は出来ないことを、俺にはやれというのか。
あんたにゃ出来そうだからさ。
……ふん。
お前、名は?
アデル。
アデル。斬り捨てるのは保留にしてやる。
黒の民には珍しく、お前は物がわかりそうだ。
珍しくはねぇんだけどな。
ここで待て。しかるべき手続きをしてやる。
へっ……
思った通りだ。誰だっておんなじさ。
どこで生まれたかなんて……
story10 珍しい者
……言葉を返してやりたいね。てめぇの方が、よっぽど珍しいじゃねえか。
あー、悪魔だー!
しっ、見ちゃいけません。
おやおや……偏見だねぇ。
国民の意識改革は、どちらにとっても重要課題…………ってトコだな。
何をぶつぶつ言っている。特使サマだろ、行儀良くしろ。
言ったろ、趣味なのさ、独り言がよ。
いまのもそうか?
はっ。騎士団長ファイオス殿、ご同行、感謝いたします。
……我らの先尋は王城の入り口まで。
そこで待て。迎えの者を寄越す。
それでよいのですか?
<光の王>が、騎士より弱いとでも?
愚問でした。
その言葉づかいも、正式ではないからな。
帰りはいつだ?
交渉に滞りなくば今日にでも。
と、言いたいところですが、いずれにしろ細部の折衝に、数日はかかるでしょう。
色よい返事がもらえぬのなら、説得させて頂きたく思いますし。
迷惑な話だ。
重々承知ではございますが。
騎士の宿舎も近い。様子を見に来るぞ。
騎士団長殿に、自由に特使サマと会う権限が?
許可を得ればいいのだろうが。いつまでしゃべっている。
ここで待て、と。
……着いていたか。いいか、妙な気を起こすなよ。生きて帰りたくばな。
はい。
ふん。
…………
story11 光の謁見
こちらでお待ちください。
はっ。
…………
(おうおう、目が物語ってやがる。
『汚らわしい黒の民は、さっさと地べたに帰れ』、か。
それが窓口の態度かよ)
……特使など……わざわざ王が会うほどの……
…………
……ごほん。
(おめぇらが無能だから、王が引っ張り出されてんだろうが)
…………
……!
お待たせしました。
…………
特使殿?
!
……黒の王国より参りました、アデル・バダンデールと申します。
王に代わり参上した無礼、どうかご容赦ください。
書状、読みました。
はっ。
現在、白の王国と黒の王国は、決して良好な関係ではありません。
それどころか、いずれかを滅ぼすところまで、進んでしまいかねないでしょう。
おっしゃる通りです。
なのに……盟約を?
古来より、敵の敵は味方とは言わぬまでも、共闘は可能とされております。
……確かに、<あれ>は、きまぐれのようにこの国へ赴き、いたずらに害を為します。
ですが――破壊の化身、バールを討ち取ったのち――
<闇の王>の矛先が向くのは、ここを置いてありません。
当代のままであれば。
…………
黒の王国としては、白の王国との、末永くの<均衡>を望んでいます。
お言葉ですが。それは<闇の王>のご意向か?
はい。
矛盾しておられるように思うが?
私に計れるようなお方ではありませぬゆえ。ただ、そうと。
俄かには信じがたい話だ……
いかがでしょう?<光の王>アイリス様?
…………
また……私が把握している限り、王の在位は、相当の年数に達しております。
ですので……
…………
信用しましょう。
アイリス様!?
国の代表としての、その言葉を。
……はっ……
……ぬぅ……!
story12 <均衡>を破壊する者
――我が剣よ――虚空よりいでよ!
くらぇえッ!!
<――ほの暗く燃ゆるようなその刀身が伸びゆく先には――>
――ハハハハハハハハ……!
どうした、小僧?儂と遊んで欲しいのか?
くっ……!?
<在るだけで他の生命を否定するかのような、絶対的な、圧……!
暗黒騎士の剣が、中空にはりつけと――
いや……その肉体ごと完全に停止させられている!>
なっ……!?
そう焦るなよ。すぐに小僧の番は来る。
くくくく……!お気遣い、ありがたく頂戴しよう……!
よくぞ儂のために、これだけの玩具をそろえてくれた……さて――
――撫でてやらんとなぁ!!
<よんだ空を埋め尽くしていた幾万の魔物の軍勢が……
指の一振り、翼のはためき、吐息の一つで、霞のように消えていく――>
ハハハハハ……!いい子いい子……!
馬鹿な……!あれだけの数を、易々と……!
そんな芸当、<光の王>にも……!
おのれぇええ……!
悪いが、次の玩具を頂けるかな?
ふざけるなっ!
なんなら、小僧――
――貴様でも構わんぞ!?
ぉぉぉぉおおおおお――!
――
……ん?
部下を逃がすとは、随分お優しいことだな?
いっそ白に染まればどうだ?儂の暴れる手間も省ける。
…………
世界の<我儘>よ――
ああ?なんだそれは?
<均衡>を拒む貴様に、これ以上の名はなかろう。
ま、好きに呼べ。竜だ神だと言われるのも、気に入ってはおらん。
ただ、貴様に名づけてもらうというのも――
――気に入らんがなぁ!?
それは良かった。貴様の気分が良くなることなど――
一つとしてやるつもりはない!
<<闇>が膨張する!
如何なる物をも通さぬ黒が、周囲の空間全てを埋め尽くす!>
笑わせる!下等な本能めがっ!
story13 未来への捕縛
大言吐いた割にはだなぁ!?
貴様ぁ……!
<均衡>の片割れ、<闇>よ――
消えてなくなれ――!?
なんだぁ!?これはぁ!?
<*×○■!&%$…………>
この、一度きり……
うぬぬぬぬぬ……!
惜しかったな、バールよ!
小瘤な、雑魚ども……!
うぉおおおおおおお――!
……くくくくくく……!嘆かわしい限りだなぁ……?
<闇>よ!下賤な本能よ!一握りの誇りすら捨てたか!
都合のいいときだけ、<光>と手を結び……
無意味な<均衡>に縋るか!
喚いていろ。貴様はこれで終わりだ。
我が焦熱の監獄……<タルタロス>の底で、永劫、苦しむがいい。
永劫、だと?なぜ消さぬ?
…………
……あぁ、いい、いい。答えなぞわかりきっている。
では――また、な。
惜しかったな……<我儘>よ……
この僅かな<傾き>こそ――
――我の道――
story14 感謝の意
――この度は、盟約を果たしてくださり、感謝の言葉もありません。
私が貸したのは剣の一振り。
……黒の民には、多くの被害が……
黒の王国にいるのは、大きく分けて、二つの民。すなわち、人か、魔か。
魔の者はより渡く、<闇>に依存します。アイリス様が心を痛めることでは。
それでも、全ての者が<闇の王>に従っているわけではないと、あなたは言いました。
清きソウルと生まれ変わることを祈ります。
何も、そこまで……
もったいなきお言葉……黒の民にありながら、これほどの誉れはありません。
あなたも言ったではありませんか。
同じ<<均衡>を願うのであれば……白も黒も同じ。
……アイリス様……
お暇を告げなければなりません。
このような盟約であれば、以降も願います。
いいえ、これきりでございます。
……?
<均衡>は、この世の<理>……確かに、全ての生命が守るべきものでございます。
しかし余力で良い。余裕なき者からは、頭上を飛び交う関わりのないルールです。
アデル殿?
白の民は結構でしょう。潤沢なソウルに<始祖のルーン>の恩恵、豊かな暮らしが約束されています。
しかし地を這う我らは違う。頭上には天空大陸。なぜ永遠に影の中なのか。
それが天と地、白と黒の<均衡>を保つ、世のはじめよりの<理>なのです。
ハハッ。
――!
ですから同じではないのですよ。<理>などというものは所詮―――
――強者に都合の良い呪縛!
<瞬間!魔性を発現させたアデルが、玉座のアイリスに迫る!>
……くっ……!
同情ありがとう――――だが、いらん!
地に堕ちてから物を言え!
――!!
――
……!?
…………
……っ……
……?
…………
……黒はっ……
王を守れ!
!!
蛮族めっ……!貴様らは人ではないっ!
待って――
ファイス!その者を捕えよ!
――!
黒のやり口はよくわかった……!わずかでも心を許した、……俺が馬鹿だった!!!
そっちがそのつもりならば!地上ごと消し去ってくれる!
……っ……!
……待って……!
……その人は……