【白猫】ゼロ・クロニクル Story3
開催日:2017/07/14 |
目次
story15 いつかあの子が
story16 気高き白猫
story17 泥にまみれた黒猫
……っ……
<捕縛され、投獄されたときに転がったのだろうか。衣服や髪は泥にまみれていた。>
…………
どうして、あの時……
<光の王を――守ったのか。
白との親交を深める。そのために来たのだから、当然とも、言えた。
だが……自分が知らぬうちに。白を討つ密命を、仲間が受けていたのならば……
……遂行させることが、黒の王国のためには……よかったのだろうか……>
……わからない…あのとき、自分は……
何を、選んだ……?
<泥で汚れた、自分のてのひらを見つめていた、その時――>
っ!?
……白い……猫……?
…………
どこから……?
! 鍵が……!?
<牢獄が、夢の中の出来事ように音もなく間いていく――>
呼んでいるのか……?だけど……
…………
<一瞬の逡巡ののちに、表情はすぐに決意に変わる。>
……行ってみよう。
story18 <約束>
…………
見張りの一人もいない…………まさか……?
…………
逃がしてくれようとしているのか……?
<共に来たアデルの行いは、同じ特使の罪。
このままでは自分は、処刑を待つだけの身だった。それを解放してくれるのなら……>
……ここで終わるわけにはいかない……
牢番たちには悪いけど……
…………
<不思議な白猫は、人目をかいくぐり、静かなところへ導いていく。>
…………
!?白の……!?
……ここは……?
!!
<白猫から変じた少女は、力を使い果たしたように、膝から崩折れた。
思わず手を差し伸べ、それを抱き止める。>
……っ……!
…………こうして、手を取り合えば――
……?
支え合える、のに……
…………
<謁見で見たときの、神々しい<光の王>は、そこにはなく――>
…………
光だけでは、ない……
世界には闇もあり……
安らぎを与えるのは、どちらも同じ……
……なのに……
<控え目に支えた肩は、小さく震えていた。
自然と、ポツりと言葉が漏れる。>
――守る――――
え……?
<聞き取られなかったことに、彼は感謝して、続けた。>
自分の願いも、同じ……
黒も白も……みんなが、幸せになるなら――
――泥の中からでも。あなたを……支えるから――
その道を……進ませて欲しい……!
…………
<少女の肩に手を置いたまま、自然と見つめ合う距離に、そっと体を離す――>
――自分は<闇の王>の後継者。……黒の王子です。
ええ……感じていました……
必ずや、王の座を継ぎます。
二人で、この世界に、平和をもたらしましょう。
<約束>します。
……ありがとう……
……いいえ……
白は光、黒は闇……
天と地……己のいるべき場所で、互いに支えあいましょう。
――<約束>です――
……ええ。それまでは――
決して――
<強い意志の込められた瞳。
それはほんの少しだけ、微妙に絡まり、そして……
避けていた――>
……向こう……影が……
<しかし、それ以上に言葉を足す間は、無く――
……行かなければ。感謝します。自分のために。
私のことなら、大丈夫ですから。
……待っていてください。その時まで。
……はい。
…………
(君は…………一人ではないから……)
白と黒は、交わらず……両端で釣り合い、<均衡>をもたらす……
……きっと、守ります。あなたとの――<約束>を――
story19 剣士の心
<――黒の王子が白の王国から戻り――
<闇の王>は、その『特異性』を明確に示した。
際限のない<膨張>は、王の代替わりなどを感じさせない。
まるで<循環>を、拒むかのように――>
――それまで。
……っふ~……!
特使の任から戻られてから……
決意が新たになりましたかな。
ヴァルアス。
なんでしょう。
……正しいのだろうか。
……なにがです?
最も濃い、黒の者が、王となり、国を尋く……
…………
この国において、<王>とは、闇なる力の根源でありますれば。
その意思に従うは、古来よりのならいでごさいます。
それが<理>、か……
……滅多なことをお考えになられてはなりません。
<闇>か包み込むのは、存在そのもの。善も悪も全て。
<闇>とは、決して晴れてはならぬもの。場のある限り、広がり続けてゆくもの。
それがこの世が生まれてよりの、真理でございます。
それに問うた者はいないのだろうか。
と、言いますと……?
黒と白……光と闇の在り方は……
いまのままが正しいと、誰が言い切ることか出来るのだろう。
陛下もまた、それをお考えになられているのかもしれません。
……そうだろうか……滅ぼし、征服することは、それよりも悪い形ではないのか。
…………
全てが黒く染まれぱ、世界中に安寧がもたらされる……
そんなもの……まやかしじゃないのか……?
…………
そこから先を考え、尋き、結果を示すのが王の役目。
予測で未来を批判することは、私の職分ではありません。
わかっている。
ならば今はまだ、己を鍛えることに注力すべきかと。
あなた様の世が来ましたら……自分の信する道のために、私をお使いくださいませ。
ありがとう、ヴァルアス。
さあ、感謝するには早いですぞ。剣の腕でも、私を越えて頂きませんと。
ああ……
<――それよりほどなくして――
――暗黒騎士ヴァルアスは、弟子に別れを告げ、戦地へと旅立っていく――>
story20 日常の終わり
一瞬の共闘により、バールを討ったのち――
予想通り、白の王国は<闇>からの激しい侵攻に晒された。
回数を増すごとに、<闇の王>は更なる膨張を遂げていく――
――討たれるのは、白か、それとも黒か――
――次が最後の決戦になるであろうことを、多くの者が予感していた――
<光の王>アイリスは、胸中の不安を押し隠しながら皆を鼓舞する――
白の民は、自分たちの勝利を疑わない。
なぜなら<始祖のルーン>の加護が、自分たちにはある――
――自分たちには<光の王>がついているのだから、と……
だが……<均衡>は、徐々に崩れ、傾き始めていた――
わずかずつ……黒の側へ……
…………
……
大事な物はまとめたか?
うん!鉢植えは……断念したけど……種を持ってくよ!
そう。今度はどこで育つかしらね。
何言ってんのさ!もう一度白の王国で咲かせてみせるよ!
あら、ごめんなさい。それが一番よね。
……テオ。次の戦は、白の王国全体が戦場になる可能性がある。
そうなったら……
逃げる!
どこへ?
海へ?
どうやって?
距離は相当あるけど、魔法があれば……
それは最後の最後だ。安全な場所に、隠れているんだ。
安全な場所なんか、どこにあるってのさ!
――とか言って、兄ちゃんと姉ちゃんを困らせるようなことはしないよ!
いい子よ……
うん!兄ちゃんたちも、負けそうになったら、逃げなよ!
兄ちゃんは負けないさ。
負けないとさ、逆にいつまでも一人で戦っちゃうでしょ?だから、そうなったら!
……うーん。賢くなったなぁ……
ヘヘっ、こんなときに、よせやいっ。
わざとらしく鼻を人差し指でこするな。褒めたと思ったらこれだ。
ちぇっ、なんだよなんだよ!褒めたり叱ったり忙しいなぁ!
だからさあ。
ヘヘヘ……!大丈夫だよ!白の王国は、絶対負けないもん!
なんたって、<光の王>アイリス様がいるもんね!
ああ……そうだ。
アイリス様を信じる限り、白は……負けないさ……!
うん!
ええ……きっと……!!
(信じているぞ――アイリス。
誓おう。この命、最後の一欠けらが燃え尽きる、その瞬間まで――
俺は一歩も引かず!お前のことを、守り続けてみせる!)
信ずるのは<白>の司る<光>、そしてその王――アイリス――
決戦を前にして、兄弟たちの絆は深まる――
story21 宝冠と賢者
――あまねし精霊と妖精の力を束ね――
――宝冠へと紡がれし物よ。ここに<在れ>――
祝福をありがとうごさいます、<智の賢者>殿。
T礼なんて。僕はそれを<識る>プロセスを認めただけに過ぎない。作ったのはあなたたちだよ。
はい。……この宝冠さえあれば、<闇の王>にも……
Tフム。忘れてた。
え?
T名をつけなければ。
名を与えれば、どうなります?
T一般的に考えれば、人格が宿るだろうね。
なんでもいいかな?いいよね?じゃあ僕がパパっと――
お、お待ちください!それを織りなす精霊たちも、もとは人格を得ておりました。
名は、その中から代表を選び、つける……ということでは?
Tフム。その方が理に叶ってるかもね。
(……ほっ……)
Tそうそう、あとね。宝冠がその真価を発揮するために、条件を課しといたよ。
その条件とは?
T王が授けることさ。
王が……?
Tそんな制約でもなければ、奪われちゃってもコトだろう?
……お気遣い、感謝します……
(智の賢者の深慮遠謀…………と、いうことだろう……)
Tまあ他にもあるんだけど。
え?
Tいやなんでもない。では、僕はこれで。
どちらへ?
T片方に加担しすぎるのも、僕にはあまりよろしくなくてね。
<認識>には善も悪もない。今度はあちら側へ。
!!おやめください!<闇の王>は、あなたを血眼になって探しております!
Tおやおや。そんな大層なモノじゃないんだけどなあ。
T捕えられれば、ただでは済みませんぞ!
それはわかるのだけどね。まあ、なんというかな。
倫理観も価値観も、僕と君たちとは違うんじゃないかなあ。
まあ、ソウルの結晶である、妖精族や精霊族とは比較的近いのかもしれないけど……
それでもやっぱり、根本的に違うんだと思うよ。
ワケのわからぬことをおっしゃらずに!このまま、白の王国に留まり、我らをお尋きください。
Tじゃあなおのこと、ここにはいられないね。
なぜです!?
T導くとかは、ね。僕の存在意義としては、多分真っ向から反するから。
い、如何なる理由で!?
T話せば長くなる。でも一言で終わらせよう。
僕はただの、<認識>だから。
……!?!?
Tフム。わかってくれとは言わないさ。では、失礼。
ち、智の賢者様……!
…………
……
T……なんて。偉そうに言ってたのに、やっぱり投獄されちゃったねえ。
まあ、そこからは、こうしてさっさと抜け出したわけだけども。
でもまあ、これで、トントン、かなあ。
白にも黒にも、言い分はあるんだよね。僕が一方に加担するのは……
してもいいんだけど、まだ今じゃないものなあ。
さて……
…………
退屈になってしまったなぁ。
うーん。
では、こういうのはどうだろう。元の世界の、事象を、一つ一つたぐって紐にして……
そうだな……その紐で……
靴を履こう!やあ、これは名案だ!
全面戦争
story22 黒の王子
――この一戦で――決する――!
……<始祖のルーン>よ!白の王国に生きる者、全てに、力を――
<闇>を払う光を与えたまえ!
――行くぞ!これが最後だっ!
はい、お兄様!
<空が重たくなったかと錯覚するほど――埋め尽くす、魔物と、<闇>――
白の王国と<均衡>の存亡を賭けた最後の一戦の、火蓋が切って落とされた――!>
…………
……
<一方一その頃、黒の王国――>
さあさあ見てって!白との決戦はさておき!
そのあとの時代を生きぬくにゃあ、食うもの食わなきゃ始まらない!
小麦が無理でも芋ならどうだい?ヨソではまず手に入らないよ!さあさあ見てって見てって!
…………
どうだいぞこのお兄さ……!?……って、あんた!?
黒の王子様じゃないのかい!?どうしてこんなとこに!?
自分でも不思議……いや、不審なんだ。
グローザ様といい、王子様まで戦力から外すってのは……
……王子様!まさか、叛逆でも!?
はは、そんなことは……
……いや、どうだろうな……
おだやかじゃないですな!もし王子様の世になったら、税をもう少し軽くお願いしますよ!
ははは、覚えておくよ。
しかし、供の者もつけずに、市場を散策ですかい?こりゃまたどういったワケで?
特には……ただ、民の暮らしを、この目で見たくて。
どうぞどうぞ!ムサくるしいトコですが、こんなもんならいくらでも!
やはり、生活は厳しいのか?
まあ、兵隊さんたちはもっと大変でしょうからね。
いや、本当に辛いのは、それを支える人たちだよ。
もったいないお言葉で。ですが存外、あたしらは普段と変わりもしないですよ。
勝てば、楽になるんでしょう?だったらそれまでの辛抱ってだけでさぁね!
そうだな……楽になればね……
なるでしょう?天にも領土が増えるってことだ。
そんな簡単なことではないと思うけど……
それもそうか。白の王国の名産物なんか、聞いたこともないものなあ。
連中、何食ってんですかね?味がしねぇ草とか?
普通だよ。……まあ、ちょっと薄味だった気はするけど。
そりゃあいけねえ!塩ですよ、塩!塩のあるなしが戦争の要!
こりゃもう勝ったも同然ですなぁ!
ははは……
あーっ!あのひと、知ってるー!
知ってるー!おうじさまだー!
おうじさま!こんにちはー!
こんにちは。
こらこら、まとわりつくなって。王子様、お忙しいんだぞ?
そんなことはないよ。おいで。
わーい!
ねえねえ!戦争、勝つー!?
こら、そんな言葉づかいは!
別にいいって。というか、人のこと言えたっけ?
これは失敬……
ぜったい勝ってねー!
お母さん言ってたよ!そらのしま、おせんたくのじゃまだって!
勝ったらお母さん、よろこぶよね!きっと勝ってねー!
……ああ、きっと勝つよ……
王子。よろしいでしょうか。
なんだいあんたたちは?人の店の前で、何も買いもしないで?
りんごを三つだ。これでいいな?
へい、まいど!お代は……
王宮にツケておけ。
な、それはないって!
この兵士さんたち……怖い……
やるかー!?
やらん。用があるのは王子だ。
ご足労、願えますな?
用件は?
ただ、お呼びせよとだけ。
…………
……なんで、こんな、殺気立ってるんです……?
……さあな……
ごめんよ、もっと遊びたかったんだけど、もう行かなくちゃ。
えー!?
……大丈夫なんですかい?
どうしておうじさまを!?やるかー、こらー!
やらん。が、あと一度言ったら、やるぞ。
!!
……行くしかないさ。
……ご無事で……
ありがとう。
行こう。
恐れ入ります。
<丁寧な言葉とは裏腹に、物々しい武装の兵士たちが周囲を何重にも囲む……>
王子をお連れしろ!
…………
story23 後継者
!?お前はっ……!?
ひでぇじゃねえか。何もぶった斬るこたねぇだろ。
仲間だと思ってたんだがなぁ?
……呆気なさすぎるとは思っていた……!
たりめぇだろ。俺だって後継者の一人だ。それも――
おめぇよりも遥かに、<魔>に寄った、な……!
……どういうつもりだった……
あ?
なぜ、<光の王>を狙った!?
それが王の望み、ひいては黒の王国の意思だろ?何言ってやがんだ?
むしろてめぇがなんで止めたんだよ?
――と、言いてぇとこだが、実はあれで良かったんだよ。
なに……?
<光の王>ったって、実態はタダの小娘さ。
ああやって揺さぶってきゃあ、すぐに迷いが生まれる。
そしたら屁でもねぇ。同じくらいの力を持つ者同士がやりあえば、折れねえ方が勝つのか道理さ。
……それも、王の策略か……!
馬鹿にしすぎなんだよ、どいつもこいつも、陛下を。
より大きく生きようってする本能があるからこそ、智恵が生まれたんだろうが。
馬鹿なのは、馬鹿にしてるおめーらさ。
……よくわかった……!
だからこの場で粛清しようと!
この状況でまだわかんねえアホがいるか。イキがんなや。
ま、でも……アレだな。暗黒騎士のアホなんかも、このことは知らねえがな。
なんだと……!?
俺は王の思考がよくわかる。<闇>にどっぷりだからな。
もしかすると、俺を生んだのがそもそも王かもしれねぇ。まあんなこたどうでもいい。
おめえやグローザを遠ざけたのも、白に転ぶ危険性があったからよ。
白に……?
比喩表現だ、本気にすんなバーカ。ちょっと使い辛ぇってだけの話だろーが。
つっても、誤解すんなよ。<闇の王>が本気になりゃあ、てめえなんぞただの小石だ。
――聡明なあの方は、それにも油断しねえってだけのことなんだよ!
!!
もういいだろ!?やんぞぉ!
……思い通りにさせるか……!
お前らのやり方は、間違っているっ――!
story24 導き
うぉおおおおおおおっーー!
っ!!
<裂帛の気合とともに振り下ろした刃が、アデルを頭頂から一直線に斬り下げる!>
……悪く思うな…………もう、こうするしか……
……く……くくくく……!
……?
こんなわかりやすく、逆転出来るわけねぇだろ……
なに……?
なんで俺が一人なんだよ、明らか時間稼きじゃねーか。
!!
戦力の大部分は空にある。当然、<闇の王>も。
光が揺らいだ白の王国なんざ、いつまでもつ?いや、いつまでだってもたねーね。
王が始祖のルーンを取り込めば、全ての空間が黒く染まる……!
<均衡>が崩れる……となりゃあ、この世はオシマイさ。誰一人、生き残りゃしねーよ。白も、黒も、ぜーんぶ、な……
なんだと……!?<闇の王>は、天を征服し、全てを安息の闇に包もうとしていたんじゃないのか!?
その説得力について、考えたことねー奴を、本当のウスラ馬鹿野郎と呼ぶ。
じゃ……一足先に、行ってるぜ……アンソクの、闇の中にな……
<皮肉めいた笑顔を残し、アデルは消滅した……>
……くっ……!
遠ざけたのは、こういうことか……
<天は高く、白の王国は、遠い。>
白だけじゃなく、黒も……!全てを滅ぼそうだなんて……!
じゃあ、信じていた民たちは一体なんだったんだよ!?
王だからって!たった一人に、そんな権利が有るわけないだろ!
<……対策は打たれていた。声を届けようとしても、もはや決して間に合わない。
ヴァルアスをはじめとする、同じ黒の民たちにも――
――いつか並び立とうと誓った、<光の王>アイリスにも――>
……<闇の王>め……!
誰も手の届かない空の上で……
全ての命のこれからを!勝手に決める気なのかよ!!!!
<いくら叫ぼうとも、この時この場で、打つ手は消えた。>
……くそっ……!
こんな地の底からは、届かない、間に合わないっ……!
<がっくりと、膝を突いた――
――その時――>
!!
力が――!?
一体、どこから……?
<それはまるで……虚空に突如、扉が開き――
そこから流れ込んでくるような、『ここ』には『無い』力――
――それと――>
…………(ちがう)
……!?
誰……?
…………
……?
いや……今は、それより……!
<――力が発現する――>
この力が……あれば……!
<誰よりも、何よりも速く、彼女の元へと、駆けつけるための――
その力は――>
間に合ってくれ……!
――アイリス――!
<黒の王子としてのものか……主人公自身のものか……
それとも、また別の何かの――>