【白猫】Holy Night Story ~あるある王子とまんぞく姫~ 後編
目次
登場人物
アルカ | |
ナンシー |
story10 みすぼらしいいえ
<主人公たちは、みすぼらしい家に案内された……>
ここは……
ちょっと隙間風が……へっくしゅん!
申し訳ありません。すぐに村の宿を手配してきますね。
ちょっと待つでござるよ。
失礼ですが……ナンシー様は、このような家に住んでおられるのですか……?
はい。
おかねないの……?
わたしは気にしておりませんよ。さあ、行ってきますね。
え~っと……これなら少しはお金になるかしら……
<ナンシーは、台所にあった鍋を手にした。>
急がなくっちゃ。
あっ、ナンシーさん……!
オーララ?お鍋を売る気でござるか?
あれじゃあ、家から物がなくなるワケね……
あそこまでしてもらうわけには参りません!皆さま、彼女を追いましょう!
ええ!
…………
どうかしたでござるか?
……うっすらとだが、この物語を聞いたことはあった……
それは、貧しい少女と、裕福な王子の物語……
それって……そうか!アタシたちは、いまその本の中にいるんだった。
<祝福されし最後のページ>……それにたどりつくには……
おそらく、彼女をハッピーエンドに導くことが必要なのだろう!
なるほど……そういうことなら……
セッシャたちが一肌脱ぐでござる!
そうね!
<祝福されし最後のページ>……みなで協力し、それを作り上げましょう!
ああ!
story12 まじょのかけい
<主人公たちはナンシーを追い、村の宿屋へとやってきた。>
ナンシー!
みなさま。いいお部屋が取れましたよ。
それはもういいんだって!
いいえ!
な、なんでござるか?
みなさまの幸せが、わたしのまんぞくですから。
しかし、そのせいでキミの生活を困窮させては……
余計なお世話でしょうか?
いや、そのようなことは、お気遣いは嬉しく思いますが……
それならよかったです♪ちょっとお部屋が殺風景なので、飾り付けをいたしますね。
ちょ、ちょっと……って、え?飾り付け?
<少女が楽しげに指を振ると、見る間に部屋中が――>
えぇっ!?
色とりどりのベルでござる!?いったいどこから出したでござるか!?
アンタが言うことかい……
……キミは……魔法を使えるのか……?
わたしに出来るのは、このくらいのことなのです。
わたしの家は…………代々、魔女ですから……
魔法は、必ず、良い面と悪い面を備えます。
善なる想いがあったとしても……それが成就されるまで見届けなければならないのです。
それって、どういう……?
大丈夫です。わたしは、わたしの運命にまんぞくしてますから……
さあ!思わず魔法を使ってしまいました!その分、また働かないと!
みなさん、ごゆっくりなさっていてくださいね♪
…………
魔女……でも、ナンシーからは邪悪な気配は感じないわね……
……血、か……
村の人たちも、ナンシー殿をこわがったりはしてなかったでござる~。?
これは……何かあるわね……!
story13 はたらいてうなずいて
<大きなもみの木のふもとの小さな村――ナンシーはまた声をかけられた。>
ちょっといいかいナンシー?店番の子が、風邪をひいてしまってね。飾り付けが遅れているんだ。
わかりました、お手伝いします。
悪いね。
いいいえ。これがわたしのまんぞくですから……
…………
<雑貨屋の軒先で、テキパキとくナンシー。>
……おかあさま。ナンシーは、まんぞくして暮らしています……
ですから、いつかきっと、おかあさまにもまんぞくしていただける日が来るのだと、信じています――
あの呪いが転じたとき、きっとだれもが、幸せに――
<考え事をしていたナンシーに、突如、大きな影がかぶさった。>
おい!
?
おれは王子のアルカだ!おれの質問に答えろ!だがその前に!
おまえにこれをくれてやる!
……?
<そう言うと、アルカは、背負っていた棺をナンシーの目の前に放り投げた。>
おれが納得しなかったら、おまえはその中で永遠に眠ることになるだろう!
質問だ!
『城に着いたとたん、降っていた雨が止む!』
こういうことって、あるよなぁ!?
ええ。わかります。
……わかります!?わかるって、なんだ!?
この辺りで城に住んでいるのは、おれ一人だ!
いい加減なことを言うな!約束だ!おまえにはこの棺に入ってもらうぞ!
このおれの牙で、爪で、無残に引き裂いてからな!
はい。
――!?
どうぞ。
……なんだと?おまえ、それでいいのか?
ええ。みなさまが幸せになること。それがわたしのまんぞくですから。
あなたも、みなさまの中の一人ですから。
……!!きれいごとをぬかすなっ!
ナンシー!!
おうじー!
……フン!
命拾いしたな!
ふぇふぇふぇ~、みんな、元気だったかぇ~?
ええ、そちらもご無事で何よりです。
ふむ……そっちは、あの男と一緒にここへ来たようだな。
そうだ。つまりそっちは、あの娘か。
ああ。……よし。お互いに情報を整理しよう。
<一行が話し合うと、一つの結論が見えてきた。
<祝福されし最後のページ>それを作り上げる鍵は――
――あの二人が、お互いに分かり合うことなのではないかと――>
story14 みんながしあわせになれば
…………
ねえ、ナンシー!
みなさま。ゆっくり休めましたか?
料理はいかがだったでしょう?とっても幸せな味じゃなかったですか?
ごはんはおいしかったけど、ウチら、あなたとお話をしたいの。
代々魔女の血筋……そうおっしゃっていましたね?
はい。
その贈罪のため……ナンシー様は、身を削って働いておられるのですか?
そうではありませんよ。
ですが……!
わたしはまんぞくしています。未来はきっと明るいって、信じていますから。
……あの、怪物のような姿の者。キミはあの者と関わりがあるのではないか?
ええ、もちろん。この村の領主様ですもの。
それだけか?
あの方が幸せになれば、きっとみんな、もっと幸せになるのでしょうね。
…………
……でも、ちがったらどうするの……?
……?
『はい』って言うことだけが、相手のためになるとは限らないんじゃないかな……?
…………
――不思議な空気の旅の方々。
わたしは、これでいいんです。
わたしはまんぞくしていますから――
……ナンシーさん、強いんだよ。でも――
……少し、哀しい……
……そうね……
あれでは、俺たちがどうこう言う問題でもなさそうだな。
でも、見守ってた方がよいと思うのでござるよ。
フラン?
強くて硬い物は、割れたり、ひびが入ってしまったりすることもあるでござる。
そんなときに、一人は辛いでござるから……?
……そうね……
いざとなったら、こっちには主人公がいるわ!
そうでござったね!トレビア~ンな光の使い手でござる!
だから、こっそりと……
かげから見守るわよ!
story15 のろいとえがお
<――その娘は、『まんぞく少女』呼ばれていました。
どんなことでも嫌な顔一つせずに引き受け、笑顔で仕事をしていたからです。>
わたしは…………まんぞくしています……
<村の大人たちは、もう一つ少女のことを知っていました。>
おい、ナンシー!代わりに買い物に行ってくれ!
はい、よろこんで。
<ナンシーの母は、『魔女』だったのです。
その魔女は昔、村人たちを苦しめていた、領主に罰を与えました。
それは呪いとも呼ばれるあやしいまじないでしたが、魔女は一つの祈りを込めていました。
『この呪いが解けたとき、きっとみんなが幸せになることだろう――』
しかし、呪いはいつまで経っても解けません。
怪物の姿になった王子は、反省を忘れ、再び乱暴になっていきます。>
わたしは……
<ナンシーは、毎日笑顔で働きます。
村人たちの苦しみが、自分のせいだから?>
…………
<それも、あるでしょう。
――きっと、それ『も』――>
story16 くちごたえ
<まんぞく少女は、ある日、再びアルカ王子と出会いました――>
……あら?王子さま?
…………
…………
<王子さまは、自分が魔女の娘だと知らない様子。
ですが、少女は知っています。
……どうかなさいましたか?わたしでお力になれませんでしょうか?
<ナンシーだって、自分で『おかしいな』と思うことがないわけではないのです。
自分は、こうも他人のために尽くすのだろう?
ただの罪悪感からなのでしょうか?>
…………
<それ『も』ありました。必ず『も』がつきました。>
……おい、娘よ。
はい、なんでしょうか、王子さま。
<王子はげっそりとこけた頬で、まんぞく少女を見つめました。>
『自分だけ疲れていると、元気なやつに、腹が立つ!』
こういうことって…………あるよなぁ!?
……!
<まんぞく少女は迷いました。
いつものように、首をたてに振るべきでしょうか?
でも、その瞬間――>
……いいえ。
……なんだと?
わたしに不満はございません。なので、わたしはそうは思いません。
<すると、王子の野獣の瞳が、ギラリと輝きました。>
おれにそんな口を利くとは、いい度胸だな。
…………
気に入った。
…………
おまえ、おれのきさきになれ。
……はい。
!
<なんと、王子に気に入られ、姫として城へ招かれることになったまんぞく少女。
お城のそばでは、途中まで飾り付けをされたもみの木が、さびしそうにたたずんでいました――>
story17 がんこなこころ
<城へと招かれ、まんぞく少女の生活は一転しました。
綺麗なドレスに豪華な食事……まるで夢の世界のようです。
――そんな暮らしの中、もちろん、まんぞく少女は――>
どうだ!素晴らしいだろう!
ええ。
これが城というものだ!貧しい庶民のおまえには、想像も出来なかっただろう!
ええ。
……ふふふ……!これでおまえも、おれと同じ立場だ……!
…………
『どんなごちそうでも、おなかが一杯だとおいしくない』
こういうことって、あるよなぁ!?
いいえ。それでも、おいしいものはとてもおいしいです。
……っ!
『パーティーが終わると、むなしい気分になる!』
こういうことって、あるよなぁ!?
いいえ。幸せなよいんにひたれます。
……っ!!
『偉くなると、暇だ!』
こういうことって、あるよなぁ!?
探せば仕事はいくらでもあります!
……っ!!!
そのへらず口!いますぐだまらせてやろうか!
どうぞ。それでもわたしは、まんぞくすることでしょう。
……!
<呆れて王子は、少女の部屋をあとにします……>
…………
<物音に気づき、少女が部屋の窓を開けると。>
あら、みなさま。
ちょっと、どうしちゃったのよ、ナンシー!?
なんかひょうへんしてるでござる!
わたしはなにも変わっていませんよ。
だが……王子相手に、一歩も引かなくなったな?
元より引いてたつもりはありません。
……え?
言ったはずです。わたしはまんぞくしている、と。
……その本心を、お聞かせ願えませんか?
いいえ、ごめんなさい。
あなたたちのお手伝いなら、あとで城を抜け出し、いくらでもしますから。
――お引き取りください。
……無理しないでね……?
……お引き取りを。
<みんなが去った後も、少女は窓から外を眺めています。ほど近くに、飾り付け途中のもみの木が見えます。
少しずつ、気づき始めていたのです。>
……わたしは……
……ごまかしていた、のかもしれない……
<選んでいたのは小さな満足。
ですが、それでは届かない。
――これで満足する。という、終わらせ方の先に――
もっと、別のものがあるのです――>
……もう一歩……踏み出さなくては……
あのツリーが……完成する頃には……
story18 とまったとき
<アルカ王子は、次第に少女の部屋から足を遠ざけるようになりました。
少女は城の中でも黙々と働きます。
王子は毎日町へ出ますが、何も得られずに帰ってきます。
――毎日、毎日――
――毎日、毎日――>
このままじゃらちが明かないのだ!
……ねえ、なにか、妙じゃない?
このあたりってさ、ずっとクリスマスの準備をしてるじゃない?なのに――
!!そうか!
なにかわかったのですか、ディオニス様?
ここは絵本の中の世界……つまり、時が止まっているんだ!
そうか……たしかに、本であれば、同じページの時間はいつまでも同じままだ。
なるほどでござる。だとすれば、待っていても最後のページは来ないでござる。
じゃあ、どうすればええんかのう……?
は~い♪
エシリアちゃん、わかるの?
ここってさ~、みんな、クリスマスパーティーの準備をしてるよね?
そうね、だけど、いつまでたっても準備が終わらない……
あそこにさ~、おっきなもみの木があるでしょ?
<エシリアの指差す先には、たしかに見事なもみの木がある。>
なんかヘンだな~って、ずっと思ってたんだよね~。
なにがヘンなのだ?
てっぺんに、お星さまがないんだよ。
だからまだクリスマスが来ないんだろ~な~って。
……これは、目からウロコだな。
そういうことなら、俺たちであのもみの木を完成させれば……!
その可能性は高いでござるな!
でも、どうやるんじゃ?
……!
アイリス?アイリスも、何か感じるの?
……ここは絵本の中だけど、でもみんな、結末を待っていると思うの。
その<想い>を、形に出来れば……
<想い>を形に……そうか!
ルーンよ!みんなの気持ちがつまったルーンをたくさん集めれば……!
オーララ!きっと星になるでござるな!
それならたくさん集めるのだー!
<<祝福されし最後のページ>そこで何が描かれるのかはわからないが……
ぺージをめくらなければ、何も始まらない!>
【ルーンを集めて「魔法の絵本」を完成させる】
やったわ!<想い>のこもったルーンが、お星さまになっていく!
きっと、これで――!
<ツリーの頂上でさんぜんと輝くお星さま――
その光が一ついに、止まっていた時を進ませてゆきます――>
story19 おもいのはれつ
<――疲れ果てたアルカ王子は、その夜、久しぶりにナンシーの部屋を訪れました。
…………
こんばんは。どうかしましたか?
<いつもと変わらず、笑顔でアルカ王子を迎え入れるナンシー。>
…………
<しかし王子は、自分から語りかけるのがおっくうでした。
表情は笑顔でも、どんな話をしても、反対されてしまうのですから……>
……おい……
<だけど、王子は、いつまでもこの自分でいることが、嫌で嫌でたまりません。
重い口を開くと、やっとの思いで言葉を吐き出しました。ですが――>
『……だれも自分のことを、わかってはくれない……』
<まるで言うつもりのなかったことを口走っていたのです。>
こういう……ことって……ある……のか……?
<――辛そうな王子を見つめ、固く口を結ぶナンシー。>
どう、なんだ……答えてくれ……教えてくれ……おれは……!
<突然、アルカ王子は声の限りに叫びました。>
だれからも嫌われている!この姿になったからじゃない!その前から、ずっとずっと!
…………
おれは王子だ!おれは一人だ!だから嫌われるんだ!
嫌われたくないと思ったとき、もう遅かった!
おれはわがままだ!おれは勝手だ!好きなように、生きている!
だから……呪われたんだ……これは……罰だ……
<叫び終わり、うなだれる王子を見て――
――ナンシーはついに、自分から口を開きました――>
……わかりますよ。とっても。そういうことって、ありますから……
……?
わたしもあなたと同じです。自分勝手に生きていました。
……!?けれど、おまえは、だれからの頼みも引き受け……?
そうです。わたしはまんぞくしていました。
だれにもわかってもらえなくても、そういうものだと、まんぞくしていたのです……
――!!
他人のために尽くし、自分を忘れて生きれば、迷いはなくなります。
わたしは自分で選んでいる。人に言われたことを、自分の選択だと思い込み。
それで、まんぞくしていました。自分勝手に、傲慢に。
…………
<気丈に顔を上げる少女の、肩がかすかに震えました。>
ごめんなさい。あなたに呪いをかけたのは、わたしの母です。
!
でもそれは、わたしへの呪いでも、あったのかも知れません。
わたしはまんぞくしていました。運命に己を捧げることで。
『まんぞくすること』にまんぞくしていました。
…………
だから……よくわかります。
『だれも自分のことを、わかってはくれない』
……わかっていました。その上で、そのことを……!あきらめ……!
<少女の両こぶしはいつの間にか握られ、ぶるぶると揺れていました。>
――まんぞくしていたのです……!
……そうか……
<少女は涙の浮かんだ目にキッと力を込め、王子を見据えました。>
でも!本当は違う!
だれかにわかってもらいたいと、少しでも願うと――!
胸が苦しくて!不安で!とっても怖くって!
どうしたらいいのかわからなくなって!
だから!気にしなくてすむ道を、選んでしまっていたんです!
<涙をちぎりながら大きな声を出すナンシーを。アルカは穏やかな瞳でみつめ、微笑みました。>
――そういうことって――――あるよなぁ――
――!!
<――そのとき、一際眩い光が二人を包みこみました――>
【ナンシーのみで出撃可】
【アルカのみで出撃可】
【アルカ・ナンシーのみで出撃可】
最終話 あるあるおうじとまんぞくひめ
<光がおさまると、そこには――>
「――!?王子さま、その姿は――」
「――そういうきみも。」
「えっ――!?」
「……呪いでは、なかったんだ。
きっとそれは、未来の祝福のため――
与えられた、人としての、壁だったんだよ――」
「王子さま……」
「……おれは、アルカだ。」
「……アルカさま。」
「きみとわかり合えたことで、おれの人生はようやく意味を持った。
感謝するよ。ありがとう――」
「そんな――!わたしのほうこそ――!」
「満足かい?」
「……いいえ。」
「?」
「吐き出せたことはいくぶんスッとしましたが――
これから満足するかどうかは、わたしと――
――わたしをわかってくれる人次第です。」
「……ふふふ……
『心の中をさらしたあと、恥ずかしくなって、見栄を張る――』
そういうことって、あるよなぁ?」
「さあ……どうですかね?」
「ふふ……」
「うふふふ……」
<こうして、『あるあるおうじ』と『まんぞくひめ』は――
クリスマスの夜に、心から結ばれたのです。
わかってくれる相手を得た二人は、広く領民たちのことも考え――
二人の治める村は、末永く、幸せに包まれたということです。
『あるあるおうじとまんぞくひめ』
――めでたし、めでたし――>
……ふむ。
ね?いい物語だったでしょ?
そうだが……主人公。
❓
最後の光、お前だな?
あまりそういうことをすると……
まーまー、いいじゃない!細かいことはさ!ハッピーエンドが一番よ!
そうね♪
白の巫女殿がそれで良いなら、私も構いませんが……
『どんなおはなしにも、必ずケチをつける奴がいる』
こういうことって、あるよねぇ?
ふふふっ……♪
……やれやれ……
♪
…………
……
<クリスマスパーティーが終わった後の、ディオニスの居室にて。>
「――封印が解けた奇跡、か――
まさか……こんなこともあるのだな……」
「『人生には、思わぬ事件が三度起こる』」
「ふふ♪この出来事にも満足していますよ♪」
「……ふむ。
――この世界に、歓迎しよう。アルカ王子に、ナンシー姫よ!」