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【黒ウィズ】メインストーリー 第11章 Story2

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最終更新者:にゃん

準備はいいわね?

w良いも悪いもないにゃ。どうせこんなところだろうと思ったにゃ。

yそうかい?あたしが仕掛けて、あんたたちが働く。悪くないと思うけどねえ。

それは働く側が言うべき台詞だと思う、と君は苦言を呈した。

まったく。魔法使いをなんだと思っているにゃ。

正義の味方……でしょ?

こちらの考えを見透かすような、たっぷりと間を取った口調だった。

ここに来て、まだ遊び心を残す彼女に恐れ入る。

ところで、まだアヤナの過去を聞いてないにゃ。いちおう私たちはその情報を運ぶことになっているにゃ。

あら。バカ正直にあたしがそんなこと言うと思う?

思わないにゃ。

ひとつくらい知らないことがあった方が、人生に張りがあるわよ。謎は人生に緊張感を与えるわ。

ふう……囮の方がよっぽど緊張感があるにゃ。あり過ぎるくらいにゃ。

はいはい。愚痴ってないでいってらっしゃい。

やたら朗らかな声に背中を押されて、君は進み出した。

街中に殺気が満ちているのがわかる。何と言っても、おそらくこの街でー番貴重なものを運んでいる。

と、思われているのだから。

君は振り返り、背後に眼をやった。その景色は人々が行き交う、ごく普通の往来である。

だが、君にはわかっていた。

君の歩く後、ぞろぞろと何者かが追随している気配がある。

ここに来るまでの間も、幾人かの荒くれ者が君に手を出してきた。

そろそろ相手もわかってきたのだろう。バラバラに手を出しても、各個撃破されるだけだと。

足並みをそろえ、君の行く手を事前に遮るように動き始めた。

面白そうにゃ。その提案にのってあげるにゃ。

そうだね、と君は答える。

あまり時間をかけても仕方がない。ー気に勝負をつけるべきである。

暗黙の中、視線と行動予測のみで行われる〈白犬〉のー昧の誘導に従い、君は賑やかな街の寂しい方、寂しい方へと向かっていく。

やがてたどり着いたのは貧民窟の片隅。世界の中でここほど寂しい所もないであろう場所だった。

ここなら人の死が転がっていても、珍しいとは思わないだろう。

すると、ようやく半ば待ち焦がれていた男たちが現れた。

黒猫の魔法使いってのはおめえか?俺はイスゴイザってもんだ。

男たちの真ん中に立つ、切り株に手足が生えたような白髪髭の男を見て、すぐにこの男が〈白犬〉だと理解する。

他に黒猫を連れた魔法使いがいれば違うかもしれないが……と君は前置きし、〈白犬〉の質問に答えた。

たぶんいないと思うから自分のことだろう。

強いって話だが……そりゃ表の世界の話だろう。裏の世界じゃ通用しねえぞ。

ここの人は雰囲気づくりが好きだね、と君は返した。

そりゃ、当たり前だ。大人は雰囲気づくりから始めてゆっくり口説くもんだ。

口説く?思わぬ言葉に君が反応したのを見て、〈白犬〉は、にちゃあ、と汚い笑顔を見せる。

俺が欲しいのは、〈黒猫〉の情報だ。おめえが譲ってくれるなら、手荒な真似は必要ない。

そのための雰囲気づくりよ。どうだ?もちろんタダじゃねえぞ。

四聖賢の居場所。それも見つけてやる。

君はウィズに合図を送り、安全な場所に移動させる。

あなたの隣に立つ男の生まれた日を、あなたは知っているか。君は〈白犬〉にそう訊ねた。

あ?そんなもん知るか。どこぞの酒場の便所で生まれた奴だ。俺が知ってるわけねえ。

そうか。それなら教えられないな、と君はブーツのつま先で地面に線を引く。

うちの黒猫の好きな食べ物すら教えられない。引き終わるまでにそう続けた。

その言葉で、イスゴイザの汚い笑顔が消えた。

生まれた日は知らねえが、俺はこれだけは知ってるぜ。

俺の気に食わない奴の死ぬ日だ。お前は、もちろん……今日だ。

君を取り囲むように、魔道士たちが現れる。魔道士ギルドには世話になれない。そんな類の魔道士である。

予想通り、君に向けられた魔法は、外法と呼びうるものだった。

チッ!くそったれ!

万策尽きた魔道士はさらなる外法に接近する。

闇を煮詰めたような魔力の塊が、魔道士たちの体からわき出て、煤けた街角に充満する。

ふ。ふふふ、ふはははは!

あれは危険にゃ!

危機と察するや否や、四聖賢の知を君の元に届けるべく、ウィズが駆け寄る。

大丈夫だと思う。と君は返すが、ウィズは首を横に振って否定する。

そもそも、ウィズの言う危機は、君に向けられたものではない。

危険なのはあの魔道士の方にゃ。

口の端も乾かぬうちに、体から湧き出る暗黒の魔力が、母体そのものを引き裂き始めた。

お、おう、お、おう……。こ、これは!か、体が…………体がああ…………!

魔道士たちの体をねじ切り、ひねり潰した魔力の塊は、失った頭を補うように、自ら意思を持ち始める。

そのさまは怪物めいて、ー目見て、恐れと嫌悪を呼び起こすようである。

崩壊と再生を繰り返しながら、怪物はー歩進むごとに荒くれ者を踏みつぶした。

ー挙手ー投足が命を刈り取る鎌のように、非現実的に男たちの命を奪った。

現実に残るのは、死んだことすら気づかなかった者の悲鳴である。

お、おい。こりゃあ……。な、なんとかしろ!

む、無理です。完全に暴走しちまってる。

この、アホタレ!どうすりゃ…………。

視線がー斉に君に向けられた。

君は掌の動きで「そこをどいて」とー同に合図する。

無法者たちが君に従い、飛び退く。暴走する怪物と君の間にー本の道を作った。

ひい!はひ、はひ、はひ!

ただひとり、腰が抜けて動けない男がひとり。いつか見た男である。

君はゆっくりと道を進む。そして怪物と腰抜け男の間に立った。

膨張させて、爆発させるにゃ。

ウィズの指示に、君は頷く。

命を刈り取る鎌が君に向けられる。が、臆することなく君は前に出る。

魔力の塊である怪物の体に、君の腕は飲み込まれる。

すぐに引き抜いたが、あんなわずかな時間触れただけで、君の手はおびただしいただれに覆われていた。

回復魔法を使い、自己再生を促していなければ、壊疸してもげていたかもしれない。

と呑気に自分の腕を眺めている君を見て、イスゴイザが声をあげた。

おい!なにぼーっとしてる!

大丈夫。もう終わっている、と。

は?

間抜けな声をあげた瞬間、怪物は爆発四散した。

薄らと浮かび上がる障壁魔法の光の殼が、闇の魔力を受け止め、やがて殼の収斂とともに、消え去った。

地面に残ったカードを拾い、君は子供のように縮こまったイスゴイザと悪漢たちを見やる。

そして、傍でへたり込んでいる男に、怪我はないか、と尋ねるが。

お、お。おろろろろ…………。

よっぽど怖かったのか、安堵のため息ならぬ、何かを吐き出した。

にゃー……しっかりするにゃ。この人にはまっとうな仕事の方が向いているにゃ。

君は再びイスゴイザたちを見やり、さて、本題に戻ろうか。と言った。

…………お、おう。

後ずさるイスゴイザの背後にそっと手が添えられる。

咄嵯に白髪髭を振り乱し、背後を見ると、そこには女が立っていた。

ここからが本番だよ。〈白犬〉さん。

〈黒猫〉、てめえ、俺は〈白狼〉だって言ってんだろうが!

ガタガタ言うんじゃないよ!あたしの売り物にちょっかいだしてたんだ。いずれこうなることはわかっていたはずだろ。

まあ、この街で生きる者同士だ。縄張り争いのためにやることは、お互い大目に見るさ。けどね……。

関係のない人間を巻き込むとは、見下げ果てた根性だよ。あんたは犬以下だよ。

アホタレ!誰が見下げ果てただ!街の人間を巻き込む?誰がそんなことするか!

街の人間がいなくなってんだ!あんた以外に誰がやるってんだよ!

知るかそんなこと!霧が出た日に人が消えるって話を聞いたから、それを利用しただけだ!

なんだって……?霧の日?そんな話は初耳だった。

どういうことよ?霧の日に事件が起こってるの?そんなバカな。それだったらあたしだって気づくわ。

ー日中ずうっと霧で覆われてたわけじゃねえ。ただ、事件が起きる直前には霧が出ていたらしい。ほんのわずかな時間でもな。

じゃあ、あんたは…………。

それを利用してひとり拉致っただけだ。他の運び屋も街の人間が消えたのも、俺は関係ねえ。

イスゴイザの言っていることが正しければ、彼と事件は関係ない。

もちろん、苦し紛れの嘘という可能性も捨てきれない。

そんなことを考えていたせいで、いままで気づかなかったことがあった。

霧が出ていた。

霧がさらに濃くなっている。

なんだい、これは……。

カサカサという音が聞こえる。何かが這うような音である。

その音が。

這い寄ってくる。

うわああああ!

声がした方を振り向いた瞬間、魔道士が霧の中に消えていった。

漂う霧と恐ろしい残響。

何かいるにゃ!

何かが這い寄ってきていた。

地面を這う音。風を切る音。壁を走る音。

音は聞こえるが姿は見えない。ただ気配を追うだけでもわかる。

しかなりいる!

いちいち気にしてたら、頭がおかしくなりそうにゃ。全体を感じるにゃ。

ウィズの囁きに、少しだけ緊張が解きほぐされたのを感じつつ、君は感覚の環を広げる。

どこにゃ、この包囲の隙間は。それを感じるにゃ。針のように鋭くするのではなく、キミ自身が大きくなるにゃ。大きくなって、全体を見るにゃ。どこにゃ?突破口は?

上だ、と君は返す。

正解にゃ。

に逃げろ!と君は声を荒げる。

なかぱ狂乱状態の荒くれ者たちが我も我もと壁に向かって走り出す。

だが、その足に意思を持った紐が絡みつき、男たちを悲鳴と共に霧の中に引き込んだ。

狂騒的とはいえ、せっかく生まれた希望に影が落ちる。

ちくしょうぉぉぉ!姿を現しやがれ!化け物め!

やたらめったらと手斧を振り回すイスゴイザを横目に、君は冷静さを保つように努める。

そして、君の脳内に天啓とでも言うべき考えが落ちてくる。

アヤナたちにーか所に集まるように指示する。

何をする気?

君は時間がないのでー言で説明する。

ぶっ飛ばす、と。

頭にあったのは、バロンたちがノクトニアポリスヘ駆けつけた方法。

オルネだからできた荒業だが、付け焼刃とはいえ、君でも屋根の上くらいには飛ばせるはず。

カードに魔力を込め、ー塊になったアヤナたちの周りに小規模の竜巻を生み出す。そして――

ぶっ飛ばした!

あいたたた……なんて無茶をするんだよ。

腰をさするアヤナの上に影が落ちる。見上げると、黒いローブが自分の頭上を通り過ぎてゆく。

背後に降り立った背中に、嫌昧のひとつでも言いたい気分を押さえ、立ち上がる。

そんな暇はなかったからだ。

逃げなきゃね。4X拠巴丿君が振り返ると、霧が生き物のように君たちを追って、空に舞い上がって来た。

ほら!〈白犬〉と愉快な仲間たち!逃げるよ。死にたいなら無理は言わないけどね

霧の中の気配

逃走は困難を極めた。

霧は、足場も障害物も、ものともせずに進んでくる。

うわ!た、助け……!

巻き込まれたら最後、帰ってくることは出来ない。遠ざかってゆく悲痛な叫びに後ろ髪を引かれる。

諦めろ!

…………。

イスゴイザもアヤナも決断にー切の乱れがなかった。

引き返した所で、自分の命を余計に持っていかれるだけなのだ。

飛ぶよ!

屋根から屋根へと飛び移る。君たちに取っては必死の飛翔だが、霧にとってはただの前進である。

もうすぐ物置小屋の入口がある!

そこに入るよ。もうすぐ物置小屋の入口がある!

君はアヤナの顔をー瞥し、視線で同意する。

目の前の扉が、徐々にだが近づいて来る。

もう少し。もう少し。ひとり、さらにひとり。

遅れている者が飲み込まれていく。彼らの声はたぶん今日眠る時も聞こえるだろうな、と君は思う。

それは、ここを生きて帰ることができたらの話だが。

このおおお!

先頭のアヤナが扉に取りつき、手早く扉を開く。そこにたどり着いた者が飛び込む。

君は殿に回り、遅れをとっている男に声をかける。

急いで!

うっ、うぷ。……。

にゃー……いまはやめるにゃー……!

どうやらそれどころではなさそうだ。諦めるのが手っ取り早いかもしれないが、君はそうはしなかった。

ヨタヨタとした足取りの男の尻にカードを張りつけ、指先に魔力を込めて送り込む。

ひ、ひえ!――――ーひええええ!

カードが光った瞬間、男は尻から回転し、華麗な放物線を描き、小屋に飛び込んだ。

お見事!さあ、あんたもだよ!

ウィズを拾い上げると、姿勢を前に傾ける。アヤナが待つ扉の奥に向けて、全力で駆ける。

最後は足から滑り込むように、勢いを殺さずに突入する。背中ではアヤナたちが扉を閉める音が聞こえた。

――助かったのか……?

壁にぶつかる音が何度かしたが、しばらくしたら途切れた。

壁の向こうを這い回る音と壁そのものを這う音が聞こえる。

窓は白く濁ったようだった。霧が周囲に漂っていることはわかる。

まだ、危機は去っていない。死が壁の向こうでaいていた。

小屋の中で息をひそめ、外の気配を窺う。命の危機が無駄なおしゃべりを促す場合もあるが、いまは違った。

得体の知れない何者かに囲まれているという事実が、君たちの喉を押さえつけていた。

こいつら、どうして無理矢理入ってこようとしないんだろう?

たぶん。と君は前置きして、続けた。

霧の中でしか活動できないんじゃないか。ー連の動きを見て、君はそう推察した。

この魔物は、水中を泳ぐ魚のように、霧の中で動き回る。

だが、霧の無い場所では動けない。だから無理に入ってこようとはしないのだろう。

じゃあ、このまま霧が無くなるまで待っていればいいのか?

いつ無くなるのよ。

さあな。ー生漂っているわけじゃあるめえ。

イスゴイザの丸太のような足に、奇妙な紐が絡まっていた。

なんだこりゃ?

よく見ようとするが、足元が煙っており、判然としない。

手で払うも漂う白い煙はかき回されはするが、その場にとどまったままである。

霧にゃ…………。

呟くウィズの言葉に反応して、君はイスゴイザヘ手を伸ばす。

うおおおおおお……!

指先がイスゴイザの上着にわずかにかかった。

瞬間、強烈なけん引力で、イスゴイザの体とそれを掴んだ君もろとも壁を突き破り、霧の中へと引きずり出した。

地面に擦られながら、魔法を放つ。君はカードに手を伸ばし、

卜イスゴイザの足に絡まった紐に直撃し、断ち切った。

そのまま惰性ですこし屋根の上を滑り、やがて止まった。

ちくしょう…………

止まったのはいいが、霧の真っ只中である。霧の奥から声が聞こえる。

魔法使い!生きてる?

君は生きてる、と返す。〈白犬〉も健在であることを伝える。

それはまあ、どうでもいいけど。

あのやろ…………。

君はアヤナたちに逃げるように指示する。

アヤナなんとかする。と君は簡潔に答えた。とはいえ周りは霧だらけだった。目の前に何かが落ちた。いや、降りた。

にゃは。助けにきたにゃ。

心強いよ、と師匠に感謝を述べる。

キミ、炎を使うにゃ。霧なら炎で蒸発するにゃ。相手が霧の中でしか活動できないなら、霧を消してしまうにゃ。

君はカードを取り出し、炎の魔法を正面に放った。霧に覆われた壁に綻びが生まれた。

すぐに綻んだところを埋める霧が押し寄せたが、君は手ごたえを感じていた。

これで突破できる。と。

霧を炎でかき消しながら、君たちは屋根の上を走った。

時折ウィズが出す指示に従い、赤い屋根から青い屋根へ、次は緑へ、と飛び移った。

その次は左手にある青い屋根にゃ。

何の法則があるのかはわからないが、ウィズの指示には明確な意思があるようだった。――青い屋根に飛び移るべく、さらに加速する。

こなくそー!

先にイスゴイザが飛んだ。着地に失敗したずんぐりむっくりな体が青い屋根の上で転がっていく。

君も、それを追うように飛んだ。

勢いは充分。踏み切った瞬間に届くと思ったその跳躍は、突如勢いを殺される。

な、何事にゃ!?

失った勢いを取り戻すように、君は体を思いっきり伸ばす。なんとか届いた手が屋根の縁を掴んだ。

何かに後ろから引っぱられた。確かめようと、後ろを見る。

君のローブに無数のつるつるとした紐がまとわりついていた。

引く力はさらに大きくなり、君を屋根から引き剥がそうとする。

ウィズが君の体を駆け上り、イスゴイザに助けを求める。

起きるにゃ!引っ張り上げてほしいにゃ!

落下の衝撃のせいか、イスゴイザは虚ろな表情で、意識もはっきりとしない。

君は両腕の力を振り絞り、体を引き上げようとするが、絡まった紐が君をそれ以上の力で引く。

腕が痺れ、限界が近づいた。

が、突如、体が軽くなる。君の目の前に短刀が突きたてられた。

ローブにまとわりついた紐は短く、先だけを残し、凶暴な意思も失っていた。ぽろぽろと力なく剥がれ落ちていった

ほら、ぼけっとしてないで上がりなさい。

アヤナに引きあげられ、君は屋根の上に昇った。

礼を言う前に、アヤナは君に指示した。

あの棟を燃やすんだよ。ここなら他に燃え移ることもない。

君は周囲を確かめる。ここは街の東の端だった。青い屋根の棟の向こうは山しかない。

この時間は東から山肌を吹き下ろす風が吹く。その風を温めれば、霧は消えていくはずだよ。

君は黙って頷き、指示通り炎を放った。

燃え上がる炎の穂先は、霧が充満する西を向き、煙は霧を徐々に侵蝕していった。

君は足元に突き立てられた短刀を拾い、アヤナに渡した。

洗練された飾りは、だった。少しこの街に不釣り合い

アヤナは短刀を懐にしまい、何事もなかったかのように歩き出した。

これで終わり。言葉なく、君にそう伝えていた。

途中、ぼんやりとしている〈白犬〉を軽く蹴り、アヤナはそのまま去った。

ウィズがこちらにゃってくるのが見えた。

君は消えてゆく霧の行方を見つめながら、ウィズを待った。

よく来てくれたね。

アヤナが机の上にー枚の封書を置き、指先でー度、君の方に弾いた。

あんたたちが欲しがっていた情報だよ。

君は思ってもいなかった状況に驚く。まだ終わっていない。と彼女に伝えた。

アヤナは首を横に振り、封書の上に細い指を置いた。

終わりよ。あんたに頼んだのは、それ以上のことは頼んでない。

失踪事件の調査。これを持って、この部屋を出て行きなさい。封書を受け取らない君を見て、アヤナの指が封書から退いた。

仕事をする上で、大事なことがいくつかあるわ。そのひとつに、依頼された以外のことはやるな、というものがあるわ。それは守った方がいいわよ。長生きできる。

アヤナは黙って、君を見つめる。君は動かない。いつもよりたっぷりとした1秒が刻まれる。そしてもう1秒。

沈黙を終わらせるウィズの笑い声が響いた。

にゃは。アヤナは私たちをなんだと思っているにゃ?

その言葉に、アヤナも笑う。

…………

諦めたように、封書を引き出しにしまった。

そういえば、正義の味方だったわね。

仕切りなおすように、アヤナは椅子に深く座り直した。

霧の正体については、まだ調査中よ。少し時間がかかるかもしれない。

出来れば時間はかけたくないけどね。遅かれ早かれ、霧については街に噂が流れるはずだわ。

それを聞いて、街の人がどう考えるか……想像したくないわ。

あたしの調査を待つ間、あんたたちは自分のことをやりなさい。

私たちのこと?・り匯池丿殺された連絡係。まさかあたしが殺したとでも思ってたの?

やりかねない、とは思っていたにゃ。

こらこら、冗談に聞こえないから。

自分で言うことではないな、と君は思いながら、アヤナの提案に従うことにした。

あの死体についてある程度調べておいたわ。後で報告するわ。

君は礼を言い、アヤナの部屋を出た。

私が、この名誉ある魔獣討伐隊アヘブ・隊長ポーペン・ピーコードだ!

いいか、我々に与えられた使命は、このクルイサの街の地下に皿く悪を打ちのめすことだ。

お前たちがここに来るまでに、何をしていたのか?それは問わない。

詐欺だろうが盗みだろうが、殺しだろうが、もっと性根が腐りきったことだろうが、構わない。それがこの街だ。

だが、名誉あるこの仕事を汚すようなことをすれば絶対に許さん。職務怠慢、敵前逃亡、無断欠勤。絶対に許さん!貴様らがかって何をしたかではない!いま何をしているかだ!

かつては英雄だったとしても、いまは働きもせず、たらふく食って飲んでゲップしているだけなら、そいつはただのゲップ虫だ!よーし!新入り。貴様は名前は何と言う

唐突に話を振られて、君がしどろもどろになっていると、ポーペンは間髪入れずに声をあげた。

貴様、名前がないのか!?貴様、黒猫を連れているな、貴様は黒猫の魔法使いだ!

いいだろう!しかも魔法使いだ。貴様、名前がないのか!?貴様、黒猫を連れているな、貴様は黒猫の魔法使いだ!

君は、まあいいか、という気分でポーペンの提案を受け入れる。

黒猫の魔法使い!貴様は英雄になりたいか、それとも醜くゲップしたいか!どっちだ!


英雄になりたい。

君は選択の余地もなかったので、英雄を選んだ。

その通りだ!英雄になれ!英雄たるべき行動をし続けろ

なんだか、ものすごい人の下についてしまったな、と思いながら、君はここに来るまでのことを思い出していた。

そもそもの始まりは、殺された連絡係の男の傷□だった。

君はアヤナから渡された連絡係の男マッチモの死体調査書を見ていた。

彼は肩口から斬り込まれ、斬撃は鎖骨を絶ち、急所に届いた。

それは君も死体をー瞥しただけで、わかっていた。

手に入った新たな情報が、興味深かった。

傷を細かく見ると、断面が凍傷にかかっていたわ。あまり見たことがない現象ね。

魔法なら可能にゃ。でも、ただの魔法使いではないにゃ。

君もウィズに同意する。相手はマッチモを斬りつけている。魔法使いがそんな行動に出るとは思えない。

ある意味では、これが相手を見極める重要な情報にゃ。こんなことを出来る者はそういないにゃ。

もうひとつ、いい情報をあげるわ。相手はこの街の人間じゃない。

どうして、そう言えるのか、と君は問い返した。アヤナは君から調査書を奪い取る。

調べたのよ。徹底的に。それに、街の者同士で殺し合うことは少ないわ。たとえそれが偽者のマッチモであってもね。よく考えて、ここに暮らす人は、ここを追い出されたくはないのよ。

言う通りだ、と君は思った。ここに来る人は、ここを最後の希望としてやってくる。

それを易々と捨てることはないだろう。

でもこれじゃあ、どこをどう調べればいいかすら分らないにゃ。

街の外の人間のことを知りたいなら、魔獣討伐隊のアヘプ・バハを調べなさい。

初めてその名を聞いた。何者なのだろうか。

この街の地下水道に潜む魔物たちを退治するために雇われた傭兵たちよ。多くはこの街の外の人間よ。

なぜ街の外の人間で構成されているのか、と君は不思議に思う。

それを聞いて、アヤナは大げさに驚いたふりをしてみせる。

どうして仲間かもしれない者たちを殺そうとするの?この街の人間にはそれが理解できないわ。

言われて、君ははっとする。

魔物たちは、クエス=アリアスにやってくる者たちが真名を失った姿。

その意味は、ここの人たちにとっては想像以上に重い。

少なくとも、ここに暮らす者は好き好んで、魔物を殺さない。だから、外の人間に頼むの。

あんただってもし師匠が猫じゃなくて、魔物に変わっていたら、殺したくはないでしょ。

おい、新入り!ボーっとしてるんじゃない!仕事は始まっているんだぞ!

過度の同情は無用にゃ。自分の身を守るためにゃ。

君は静かにひとつ頷き、前へ歩き出した。

硬いパンの側面にナイフで切れ目を入れる。市場で買っておいた肉のローストを分厚く切ってパンに挟み、そのままかぶりついた。

残った肉は包み紙ごとウィズの前に出してやる。

さらにもうーロ入れて、朝からの労働で凝り固まった神経と体を解きほぐす。

それを配られた豆茶で流し込むと、ようやく心も体も落ち着いてきた。

脂身が美昧しいにゃー……。キミ、ちょっとここを爽ってほしいにゃ。

なるほどと思い、君はウィズの肉と自分の肉を簡単な魔法で爽る。パチパチと脂身が音をたてて、脂をとばした。

ついでにナイフで岩塩を削り、胡根の実を砕く。思ったよりも大変だった労働にはもう少し濃い目の味を体が求めていたのだ。

そんな風にがっついていると、おかわりの豆茶を持ったポーペンが君の隣に座った。

君は豆茶を受け取った。

なかなかいい腕だ、新入り。よくやっている。

君もここに来た理由を思い出し、何か情報を聞き出せないかと、彼の話を聞いた。

お前は……モーリイーを知らないだろう。教えてやろう。あれは俺がここの仕事に、ようやく慣れてきた頃の話だ。

謎の昔話が始まったな、と君は思った。

あの当時から、モーリイーの存在は古株の隊員には語られていた。この地下水道の主だってな……。きりだが、誰も見たことはなかった。噂だけが独り歩きしているだけだった。

綺麗な女の声で鳴くとか、七色のクソするとか、そういった類の話だ。みんな、いや話している本人でさえ与太話だと信じていた。だけどな……俺は見たんだ、モーリイーを。

あれはひとりで地下水道を歩いていた時だった。追っていた獲物を仕留めるために、少しだけ深追いしすぎていたんだ。

気配なんて何もなかった。獲物を仕留め、やれやれって振り向いたら、そこに奴がいた。

でっけえ、とてつもなくでっけえ……それこそ水道全体を覆ってしまうような大きさだった。

ポーペンは沈黙していた。君はその沈黙を埋めようと、問うた。

戦ったんですか?と。

見ろ。

ポーペンは髪を持ち上げ、君に後頭部の傷を見せた。

ヤツにゃられた傷だ。気がついたら、俺は頭から血を流し、仰向けに倒れていた。

以来、俺は奴を追っている。この傷の借りを返すために。

残りの豆茶を飲み干し、ポーペンは君に言う。

わかったか?

君は率直に聞き返す。

ー体何の話をしているんですか、と。君は彼が何のことを言っているのか見当もつかなかった。

ポーペンは余裕を見せるように、笑った。

それでいい。

何がいいんだろう、と君は心の中で呟いた。

よくわからない笑みを残し、去っていった。ポーペンはその場をキミ、キミ。ここをもうちょっと爽ってほしいにゃ。

話聞いてた?と呑気そうなウィズに聞いてみた。

途中から聞いてなかったにゃ。そんなことはいいから、早く爽ってほしいにゃ。

やれやれと思いながら、君は師匠の指示に従った。

あんまりモーリイーの話が気になったので、仕事に戻る途中に、別の隊員に尋ねてみた。

ああ、あの話?よくするんだよ、あの人。

すごく謎めいた話だった。さすが隊長だね、と君の言葉を相手は鼻で笑ってみせた。

ポーペンは隊長じゃないよ。古株だから仕切ってるだけさ。俺たちも面倒だから彼に任せているだけ。

ま、本人は本当に隊長だと思っているかもね。その方が、俺たちは楽だ。

あ、あんまり偉そうなこと言って来たら無視していいよ。権限なんてないんだから。

その話を聞き、君は貴重な休憩時間を棒に振ったことを悟った。

ははは。よくやったじゃないか、新入り

上出来だ!君は肩に置かれたごつい手を、やんわりと脇にうやりながら、簡単な挨拶を返した。

最近じゃ、新入隊員も少なくってな。志願者すらいない。

志願者もいない、という言葉に君は反応する。正規のルートでこの街に入っている人間は少ないということだろう。

となると、マッチモを殺したのは、人知れずこの街に入った者ということになる。

そんな人物を見つけるのは、ー筋縄ではいかない。

ふと、君は集められた魔物の死体に目が行く。

こうやっていくつ退治したかを申告し、金銭に変えるのだ。

その中のひとつに、見たことのある傷口を持つものがある。

君は傍にひざまずき、その傷口を確かめる。

鋭利な刃物で斬り裂かれている。そしてその断面には凍傷がある。

(同じ傷にゃ)

君はこの魔物を仕留めたのは誰なのか、と隊員たちに尋ねる。

ああ、そいつは元々死んでいたんだ。せっかくだから、金に換えようと思ったんだよ。

(キミ、探している奴はこの地下水道を使っているにゃ)

ウィズの言葉に首肯する。もうー度、この地下水道を捜索する必要がある。

それがわかっただけでもよかった。君は呟いた。

おい、新入り、これから飯を食いに行くんだが、お前もー緒にどうだ。

あ、遠慮します。私用があるので。と君は端的に断った。実際は、特に私用などなかった。

おう……。じゃ、またな。

きっとよくわからない長話を聞かされるのだろう。それなら断ってもいいだろう。

不思議と、君の中に罪悪感は無かった。


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