凍てつく池
概要
レア度 | 画像 | マス |
---|---|---|
効果
5510
入手方法
イベント
物語
晩秋から初冬に。馬小君が船に乗って江南を出てから、もう二ヶ月あまりが経った。今、彼は凍った池の傍に立っている。池は大きくなく、淵には雪がつもり、つららが垂れているが、そばの梅の木は、ちょうど見頃を迎えていた。彼はしばらくうっとりと立ちつくし、昔の事を思い出した。その思い出の中のすべてに、紅ちゃんがいた。小さい時から、紅ちゃんは馬小君にたくさんの質問をしてきて、彼は知る限り何でも答えたが、たった一度だけ、返答に困ったことがあった。その時の彼女は、桃の木のそばに立って、こう尋ねてきた。「たくさんの人に慕われなきゃ、立派な英雄にはなれないの?」家を出ようとした時のことだった。彼は動揺し、そして、当時の選択を今も後悔している。馬小君は、聞かなかったふりをして逃げたのだ。それ以来、紅ちゃんがその話をすることは二度となかった。彼も何事もなかったかのように、相変わらず彼女の前ではにこにこと振る舞った。しかし、彼の中には、何かが芽生え始めていた。どんなに努力して無視しようとしても、無駄だった。馬小君はついに、家を出ることにした。その日、彼は紅ちゃんからもらった銀十両を持ち、手紙を残して家を出た。誰も気づかないと思っていたがの渡し場に、彼女はいた。川には夕陽の光が満ちていた。彼は口を開いたが、何も言えなかった。紅ちゃんも黙ったまま、彼の剣に剣穂をつけただけだった。馬小君の願いは叶った。しかし、思ったほど嬉しくなかった。この二ヶ月の間に、彼は幾多の風景を目にして、侠客のように弱き人々を助け、多くの人々に尊敬された。ただそれでも、彼の心の穴を埋めることはできなかった。梅の木に積もった雪が、凍てつく池に落ち、粉々に砕けた。池には、さざ波のひとつも立たなかった。彼はふと、何かを悟ったかのように、そばの石に「凍てつく池」と文字を刻んだ。それこそが、彼の計画した旅の最果て――最北端まで行き、伝説の千年の雪池を見て、百年の氷で心のもやを払うこと。それが彼の旅の目的だった。馬小君は刻んだ文字を見て、「これで実現かな」と笑った。水夫に向きを変えるよう命じると、心は期待の喜びに満ち始めた。一刻も早く家に帰りたい。今の彼は、ただ紅ちゃんにこう言いたい。「ただ一人を守る英雄でも、立派な英雄だ!」と。