淡泊居
概要
レア度 | 画像 | マス |
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効果
入手方法
土行孫
物語
春花が物心ついた頃には、家の向こうに「淡泊居」という茶楼があり、休みなくいつでも開店していた。風雅な店と評判だったが、机の上にいつも並べられている数杯の粗茶が、どことなく不釣り合いだった。店主は何十年も、その茶を日々一刻ごとに注ぎ直していた。だが、春花は気づいていた。中年から老人になり、彼の瞳に宿っていた希望は、いつしか虚しさに変わっていた。まるで誰かを待っているみたい、と春花は思った。まさに、その通りだった。戦場で重傷を負った彼は早期離脱を余儀なくされ、戦場を去る前、数人の戦友と約束を交わした。故郷で茶楼を開き、食卓に粗茶を置き、みんなの凱旋を待つと。史書に残らぬ彼らの物語を書くと言った仲間の一言に、わざわざ店の二階に机も置いて……それを知った春花は、何も言わず、新しく購入した明前龍井茶をすべて淡泊居に贈った。