第一章「ブルーレディ」

親友は嫉妬と憎しみの中で怪物へと堕ちた。それをシェンジはただ冷たく見つめるだけだった。血と嘲笑の狭間で、盲目の観測者の序章が幕を開ける……
CARACTER
登場人物
| キャラ名 | 概要 |
|---|---|
![]() | 主人公が児童養護施設にいた頃からの友人。望遠教会の入信儀式へ主人公が潜入したのも、彼を助けるためだった。しかし事件後、「主人公がブルーレディを打たれて発狂し、皆を殺した」と証言しており、MAJOの一員になることを望んでいる。 |
MAJO
| キャラ名 | 概要 |
|---|---|
![]() | MAJOの指導魔女。時間の「校正」を行う特殊な力を持ち、主人公を観測者としてMAJOへ導いていく。飄々として掴みどころがなく、主人公について何かを知っているような言動も多い。 |
STORY
これでやっと、MAJO本部から出られる――。
戦いでボロボロになった体を引きずり、俺はシンジが出口だと言ったエレベーターの前に立っていた。
しかし、ここが今何階なのか、上に行けばいいのか下に行けばいいのかも分からない。
その時、また頭痛が襲ってきた。
視界を覆う激しいノイズ。その中に、一瞬だけ少女の姿が見えた。
これまでの幻覚とは違う。何かに傷つけられ、巨大な異変のただ中に取り残されているような――。
だが、それが何なのか確かめる間もなく、小さな電子音がエレベーターの到着を告げる。
扉が開き、中から銀髪の女が現れた。

「こんばんは。あなたの指導魔女、シェンジです」
シェンジによれば、俺はすでに「観測者」としてMAJOの管理対象になっているらしい。
観測者と魔女は、「リンク」と呼ばれる特殊な繋がりを結ぶ。リンクが深まるほど、魔女は観測者を通してより強い力を引き出せるという。
だが、シェンジが俺とのリンクを試みても、なぜかうまくいかない。
「顔に触れただけでリンクが完了するはずなのに、どうして反応しないのでしょうか?」
本来なら、俺はまず指導魔女であるシェンジとリンクするはずだった。
だが、先ほどの戦いでシンジが俺に口づけしたことで、俺は先にシンジとリンクしてしまっていた。
その状態でシェンジが改めて俺とリンクしようとすると、拒絶反応を起こすはずだという。
その直後、俺は口から大量の血を吐いた。

だが異常は、それだけでは終わらなかった。
床に落ちた血が赤く燃え上がり、小さな怪物――エントロピーへと変わっていく。
それはシェンジにとっても想定外の現象だった。
エントロピーとは、エネルギーが減衰する過程で生まれるものらしい。
だが、なぜそれが俺の体内から生まれたのか……。
その時、再び視界にあの少女が現れた。
最初に聞いた声と、同じ人物なのかもしれない。
「何か、思い出したのですか?」
俺は首を横に振った。なぜかMAJOには知らせない方がいい気がしたのだ。
シェンジが示した可能性は一つ。
俺が「盲目の観測者」だということだった。
俺のように、成人してから観測者として覚醒した者をそう呼ぶらしい。力に適応するための最良の時期を逃しているため、能力は不安定で、精神も脆い。長く生き残れない者も多いという。
ますますMAJOになど入りたくない。
そんな俺たちの元へ、シンジ、友萌、ペーシェットが駆けつける。
「これより、新人観測者の入職試験を行います。私たちを指揮して、本部に散らばったエントロピーを排除してください」
どうやら俺に、選択肢はないらしい。
こうして、MAJOへの入職試験が始まった。
俺は彼女たちを指揮し、本部内に散らばった怪物たちを排除していく。
試験の最中、シェンジは「友達がお待ちですよ」と俺をある部屋へ案内した。
そこにいたのは、フィリップだった。
フィリップは、俺が児童養護施設にいた頃からの友人だ。俺が望遠教会の入信儀式へ潜り込んだのも、フィリップを助けるためだった。
だがフィリップは、俺を見るなり怯えた。
望遠教会で皆を殺したのは俺だ――そう証言したのも、やはりこいつだった。
フィリップは自分も覚醒者であり、MAJOに入る資格があると主張する。そして一枚の写真を取り出した。

「これが入場券だ! 俺はやったんだ!」
その写真に写っていたものを見て、俺は言葉を失う。
「……あの子に……こんなことをしたのか? 入信するだけのために……?」
フィリップは「特別な人間」になるために、無関係な子供を犠牲にしていた。
「お前みたいなクズを救うために、俺は命をかけたのか……」
だが検査の結果、フィリップには観測者としての力など存在しなかった。
シェンジは容赦なく告げる。
「ただの凡人です」
侮辱されたと感じたフィリップは、その場から逃げ出した。
「追わなくていいのか?」と尋ねるシンジに、シェンジは平然と答える。
「いずれ戻ってくるでしょう。さあ、この雛鳥の入職試験を続けましょうか」
ひたすらエントロピーを狩り続けていると、突然、警報装置がけたたましく鳴り響いた。
「警備室に部外者が侵入、第一地下墓地の鍵が盗まれました」
第一地下墓地には、望遠教会事件で回収した証拠品とともに、大量のブルーレディが保管されているという。
俺たちが駆けつけた時、フィリップはすでに何本ものブルーレディを自分の身体へ打ち込んでいた。
「力が……湧いてくる……!」
自分はついに特別な存在になった。
そう信じるフィリップの身体は、やがて黒い異形へと変貌していく。
シェンジは、それをエントロピーへの変異だと告げ、俺に言った。
「さぁ、命令を。これはあなたの試験です」
かつて友人だったものを前に、俺は答える。
「俺が引導を渡す」

俺たちは怪物となったフィリップを打ち破った。
だが、何も取り戻せた気はしなかった。
フィリップに犠牲にされた子供も帰ってこない。俺が救おうとした友人も、もういない。
「俺は……誰も救えなかった」
シェンジは言う。
時間は戻らない。死者は蘇らない。
それでも、欲望と狂気に埋もれた人々の中で、俺だけは目を開き、自分が見たいものを見た。
それが「観測者の信念」なのだと。
――――――
正式にMAJOの観測者として登録された俺は、シェンジにある部屋へ呼び出された。
標本室。
そこには、過去の「盲目の観測者」たちの残骸が保管されていた。
逃げようとした者。力を使いすぎた者。魔女に見捨てられた者。
これが、俺にも待っているかもしれない未来……。
そしてシェンジは、俺にコードネームを与える。
「アオサギです。MAJOへようこそ」
――アオサギ。
その名前を聞いた瞬間、奇妙な既視感が走った。
どこかで聞いたことがある。
そして再び、視界が歪む。
そこに映ったのは、誰かの頭を片手に持ち、倒れた人々の中に立つ――俺自身のような男だった。
そして、俺が掴んでいるその男の顔も、どこか――。

幻覚なのか。
記憶なのか。
それとも、まだ起きていない何かなのか。
俺には分からない。
ただ一つ確かなのは、もう目を逸らすつもりはないということだった。
「この目で確かめないとな」
もし、この幻覚が――ただの幻覚ではないのなら。
BOSS




