【白猫】帝国戦旗 Story2
2017/10/13
目次
登場人物
story5 未来の閉ざされし場所
フン……寄り道がすぎたな。
仕掛けがいろいろ必要なのさ。見つかってくれるなよ。
……
…………
<ジュダとアイシャは、レヴナントの情報を探るべく、帝国の政治犯収容所にやってきた。>
ヴァンドーム要塞。政治犯収容所か。
疑わしいと見た人間を、片っ端から捕まえる悪名高い収容所だよ。
ここに奴らがいるのか?
必要な情報がある。……帝国の収容所とはいえ、見つかってくれるなよ。
<牢獄には、目つきの悪い男が囚われている……>
ふむ。彼に聞いてみよう。
レヴナントの構成員か。
ワスカの葉の密売人だ。連中とは無関係だよ。
だったら、なぜ聞く。
ううっ……誰だ……?
……やあ、気分はどうかな?
あんたは……?
真の皇帝に忠誠を誓うものだ。君はどうだ?
わ、私も……真の皇帝に忠誠を誓っています……!ここを出たらネズミの手下を焼き殺します!
<アイシャは、若い男の腕をとる。見れば、男は奇怪な紋様の入った腕輪を身につけていた。>
ご覧、ジュダ。
双頭の竜……!反皇帝派か。
もともとは、そうじゃなかった。
どういうことだ?
ヒッ……!?ぐっ、ぐえええ……!
!
烙印のルーンか……!
彼らはもう助からない。苦しみの無い場所に送ってやろう。
完全に無駄足だ。
そうでもないさ……ニナ、どうだ。
<アイシャは、己の声を伝える、伝声のルーンを取り出した。>
”もう少し~、もう少しです~!あ、あれ?あー。こういうことか。なるほど~。
はっ。ええっとええっと~。えい!とう!……できました!
何をしている。
収容所の記録を、魔法でルーンに写し取っている。記録を改ざんした上でね。
あいつが?
すぐれた分析官だよ。では行こうか。ここにはもう用は無い。
story6 日当たり良好
”ヴァンドームの収容所に、忍び込んだ?何考えてるんだい。”
情報を得るためだ。痕跡は残してないぞ。
”人が魔物に変わったんだろ?それで痕跡が残ってない?”
烙印のルーンが暴走するなんて、よくあることじゃないか。
何か解ったのか。
魔物に変身した彼は、元から反皇帝派だったわけじゃない。
――では?
収容所そのものが敵の拠点だ。不満をもつ者を洗脳して、組織の末端に変える。
”確かなのかい……?本当だったら大事だよ?”
連中はすでに、国内に深く根を張っているということさ。
フン……忌々しい。
本題はそっちじゃなくて、収容所の記録だ。
”レヴナントは、反皇帝派のみなさんを使って、破壊活動を計画のようです。
計画の詳細を伝えろ。
は、はいー!!ちょっとまってくださいね……えーとえーと……
お前たちの手際は認める。だが協力関係はここまでだ。
その判断が正しいか、占ってやろう。
<アイシャは、ジュダに、小さな瓶を差し出した。>
ジェリービーンズ占いだ。
つきあいきれん。
どれどれ~?あっ、これはクリームソーダ味!
クリームソーダ味は、協力の暗示だ。
だってさ、ジュダ。
どうしてここにいる……!
は?宮殿を抜け出すなんて、朝飯前だよ~。
君の協力者か。
マシューだ。よろしく♪
…………
……
どうだいこの隠れ家は。秘密基地ってのは、ワクワクするよね~♪
帝国の予算をこんなところに……!
何のことだいジュダ~。
建物は古いが、日当たり良好。なかなかいい物件だな。
何をのんきな……!
やっほー!
お前たち……どうしてここに。
どうしてって……ここって、冒険家ギルドの支部でしょ?
どういうことだ。
どうもこうも、ここはギルドの<烙印のルーン>特別対策室さ。
そうそう!ルーンを集めると、報酬が出るのよね!
……烙印のルーンに関するうわさとかも、集めてきました!
なるほど、冒険家たちに応援を依頼するのか。悪くないアイデアだ。
冒険家にも、腕の立つ者はいる。だが信用できるとはかぎらん。
私たちだけで、どうやって帝国中に拡散したルーンを摘発するんだ?
そういうこと~。情報も集まるし、一石二鳥。
我々は奴らの先手を取る。君にも協力してもらうぞ。
奴らの居場所さえ判明すれば、他は不要だ。
レヴナントの居場所は、この世界のあらゆる場所だ。
そうだよ。連中は厄介だ。ここは仲良くしとこう。
俺は好きにさせてもらう。
おまちくださいジュダさん!
うわっ、だれだか知らないけど、いっぱい買ってきたわね。
はい~。ごはんをつくるんですよ、ねこちゃん~。
食事か……
俺に用があるなら、さっさとすませろ。
あ……えーと……
?
お邪魔……でしたか……?
気にしないでくれたまえ。ジュダ、ニナ、奥で話そうか。
ボクもいるよ~♪
story7 背徳の研究
<収容所から得られた情報を元に、ジュダとアイシャはレヴナントの拠点を捜索する――
浮かび上がったのは、民間の研究所であった。>
収容所から、何人かの被疑者が、この研究所に搬送された。
表向きは、民間の生物化学研究所。さてさてその実態やいかに。
嫌な匂いで溢れている。……最悪な場所だ。
狼の嗅覚がなくてよかったよ。さて、忍び込もうか。
――気が進まんな。
人間を魔物に変える、烙印のルーン。君ならこいつをどう使う?
魔物が一匹増えたところで、どうということもない。
だが、その一匹が――たとえば身内だったとしたら、人を絶望させるには十分だ。
そうだ。あのルーンは、人々に心理的影響を与える。陽動作戦には最適と思わないか?
こちらの眼をあざむくつもりか。
その隙に仕掛けてくる。さて、何をするつもりか確認するとしよう。
……
…………
おっと、見張りがいるな……
どうする。
殺すわけにもいかない。少々眠っていてもらおう。
ここから仕掛けるのか?
もちろん狙撃するのさ。
ああ、吠えたりするなよ。見つかるからな。
おっと、情報だ。見逃す手はないね。
嬉しそうだな。
そうだとも。私は今、わくわくしている。
”アイシャさん!この研究所、ら、烙印のルーンの研究を!してるみたいです!
それはもうわかってる。
”あれ?そうなんですか?”
”いたるところにレヴナント、ってわけかい?”
ここで研究を進めてたのは、レヴナントにのせられた一般人だよ。
帝国の国民でありながら、皇帝に敵意を向けるのか。
帝国を変えなければと考えているんだろう。その点は私も同意する。
……
…………
そろそろ頃合いだな。
――ああ。
何を見ている。
<机の上に、瓶がある。中にはジェリービーンズが一粒だけ入っていた。>
……クンクン……お前のものではないな。
その通り。研究所にいた誰かが残したものだろう。
なぜそんなものを気にする?
……気にしてない。……必要なものは手に入れた。
手に入れた?
頭の中に盗んだのさ。では行こうか。
story8 紅茶の香り
みんな~。紅茶入れたよ~。帝国の紅茶は世界一ってね~。
ありがとうございます~。
早くこんなことは終わらせて、オペラでも見に行きたいねえ。
オペラがお好きなんですか?
語らせたら、ちょっとうるさいよ~。
本当にうるさいから、あまり聞くな。
オペラ座の地下には湖があるって、知ってた?
(この茶葉……ラ・デルテか……)
敵の目的は絞り込めたのか。
そんなもの、研究所に忍び込む前からわかってる。
なんだと?
魔物の中には、爆発するやつらがいるだろう?
それがどうした……いや、そういうことか。
その通り。連中は烙印のルーンで爆発型の魔物の量産を計画していた。
破壊工作に使うためか。
おそらく狙いは帝都だ。時は一刻を争う。
すでに、爆発型が潜伏を……?
烙印のルーンには、魔物を姿だけ人に戻せるという悪魔的な機能が備わっている。
一般人に化けているのか。ならば全員摘発する。
帝都は君が守れ。私にはやることがある。
帝都を守る以上の使命が、他にあるというのか?
敵は工作を行う前に、大規模な陽動を行うはずだ。多大な犠牲が出る。
――止めるのか。
敵の攻撃タイミングもわかる。もちろん……一人でやるつもりはない。
冒険家たちとの共同作戦か。
彼らは頼りになるぞ?では、しばしの別れだ。
story9 考えるまでもない
アイシャ!こっちには何もなかったわ!
OK。
本当に、この島で……?
回廊の島コリドーレ。帝都の近郊。人の目も集めやすい。何か起こすには絶好の場所だ。
ところでアイシャ、ジュダのおともだちなの?
仕事仲間だ。今は彼の鼻が欲しいな。
連絡か。アイシャだ。状況は。
<アイシャは、伝声のルーンを手に取る。>
――そうか、わかった。
どったの?
別の島で、烙印のルーンが見つかった。魔物もだ。
こっちじゃなかったのね!?
いや、違う。複数の場所で同時に工作を行うのがセオリーだろう。
人通りの多い場所で、無作為に人を魔物に変える。それだけでパニックだ。
そういうところは、警吏さんや冒険家のみんなが見張っているわ!
だが、小規模なパニックだけでは、陽動には至らない……もっと致命的な……
飛行艇……
待てよ、烙印のルーンを一気に暴走状態にできれば――
どったの?
飛行艇の発着場だ!
…………
……
ぐああっ!何をする、やめろ!
よし、この飛行艇をいただく。全員乗りこめ!
アッ!あの飛行艇、発進しそうだわ!
見て、人が倒れてる!
ビンゴだ!さて……間に合うかな。
えっ、あ、アイシャ……!?何するつもり!?
ちょっと風になってくる。
…………
……
烙印のルーン、暴走状態です。
人口密集地に投下しろ。
はっ。
そうはいかんな。
ヒッ……!
貴様!
快適な空の旅を。さて……残快適な空の旅を。さて……残りのルーンは……!
<貨物室では……暴走状態のルーンが、激しい光を発している!
やるか……見せてやるとも。――烙印のルーン!その起動を<拒絶>する!
<烙印のルーンの発する光は、徐々に弱くなっていった――>
何っ……!?
<と、思いきや、一気に輝きを増した!>
私の<概念>を否定するか……!じっくり調べたいが、時間がない!
このまま、魔物になるか……それとも、飛行艇ごとルーンを爆破するか……
考えるまでもないな。
<アイシャは、伝声のルーンを手に取った。>
story10 地に潜む狼
だめだ、見つからないよ~。烙印のルーン~!
帝国の警吏は鼻が利く。だが……
やっぱり内通者がいるねぇ。ルーンを持ち込むなんて、朝飯前かな?
反皇帝派どもだな。実権のない皇帝を引き下ろしてどうするのだ。
そうだよねえ~。ボクってお飾りだし!
自分でいうな。
お飾りは目立つからね。帝国が変わったっていうアピールにはボクの廃位が最適さ。
帝都で勝手はさせん。フン……あの泥だらけの村が、今では帝都か。
多くの人に育てられた。なんとも幸せな街だよ。
爆発の威力を最大にするなら、群れるはずだ。ならば匂う。
なのに、ジュダの鼻でも見つからないってことは……
――下か。
……
…………
”ジュダ、聞こえる~。”
聞こえてる。
”地下水道って、なんだか……血が騒いじゃうね~。ネズミ的には。”
はしゃぐな。
”それにしても、ニナちゃんどうしたんだろうね?”
向こうの都合だろう。最初からあてにはしていない。
”ジュダは冷たいなあ~。”
<ジュダは伝声のルーンを手に取った。>
……お前か。
”こっちで動きがあった。仕掛けて来るぞ。……地下水道にいるのか?”
なぜわかった?
”声が反響している。状況はどうだ?”
今のところ、爆発型も、人に化けた魔物もいない。
”だったら、答えは一つに絞られた。”
何だと?
”地下の湖。”
オペラ座か!
<伝声のルーンから、破壊音が!?>
おい!どうした!
”帝国を守れ”
story11 オペラ座の怪奇
<帝国国立歌劇場。通称オペラ座。>
ここか……!
<ジュダは、影に紛れる……>
なんだか今日、やけに警吏の見回りが多くないか?
確かに……何かあったのかな?
まさか……秘密結社ブラックアーセナルが?
タブロイド紙の読み過ぎだぜ。
クンクン……!
なんだこの香水は。酷い匂いだな……!
昼にチャーハンを食べたな。
風邪をひいてるな。早く帰って休め。
…………む?
こいつは……!
……
…………
…………どこにいった……!
おお、あわれなネズミよ……お前はどこに隠れている。
憐れなネズミにふさわしく、暗いあなぐらの底で、息を殺しているのであろう。
(フン、役者か……帝国の危機も、六百年もすれば絵空事めいた芝居になるか。
貴様の帝国はこの俺のもの。我こそは、双頭の竜ツァラ……
(――この役者の匂い――どこかで嗅いだか?)
***
……地底湖か……そういえばここは昔、ただの沼地だったな。
ずいぶん、長い時が流れたものだ――
帝国を守れ?……言われるまでもない。それこそ我が使命だ。
<地底湖の水が、退いていく……現れたのは、洞窟である。>
未完成の水路か――おそらくあれは、宮殿の地下に通じている。ならば――!
<いつの間にか、周囲に――すさまじい数の魔物が!>
爆発型か――いいだろう。葬ってやる!
***
……やってくれるな。
だが、お前たちの好きにはさせん。
――そうだ――
貴様……!
――己だけが好きにする。それが我儘よ――
<魔物の群れが、洞窟の奥に逃れていく……!>
黙れ、老いぼれ!邪魔だ!!
――門を開けよ――お前の我儘を――――通したいのならばな!――
ガァルルルルウウウ!!
――まだその気にならんのか――――ならば足掻け――
…………
……
ぐううっ……地上に……出ていたか……!
<周囲の建物のー部が、倒壊している――>
まともに喰らったか……
だが、敵の匂いは、途切れた……爆発型は、一匹残らず――
<ジュダは――>
あれは……?
<その場で、立ち尽くした。>
――ジュ、ダ――
皇帝ッ!
ガァルルルル……!!
グウォアアアアアア!!
story12 死を司る獣
”目標発見!!周囲を破壊しています!”
ああ、そうだろうとも。あれこそ、ボクたちの真の敵――!
グォオオオオ!!
何だ……何なんだ、この化物は!
闇だ……闇が帝都に!!
はいはい、どいたどいた~。
待て!止まれ!
ガァルルウウウゥ!!
解っていたとも――
君が、とてもとても……我儘ということはね……!
<一瞬であった――白い閃光が、ジュダを捕え――>
グウォアアアア!
終了~。
――ううっ――
――俺は……帝国を……!
悪いと思ってるけど……ボクらだって考えてるんだ。帝国のことをね。
帝国のためにも、元老院にボクらがちゃんと働いてるってことを、示す必要がある。
レヴナントについて、嗅ぎまわっていた<狩猟戦旗>の旗手は、粛清された。
……そういうことに…………させてもらうよ?
…………
……
早く!アイシャをおっかけないと!
!!
<この飛行艇のエンジンをかければ……!
アイシャの乗った飛行艇は、すでに水平線の向こうに――!>
もう少し……がんばって、主人公!!
<ボンッ!!>
!?
……そんな……!
アイシャ……さん……!
…………
……
<六百年前……とある孤島の浜辺にて。>
「……生き残ったのはボクと君だけか。体が半分機械で助かったよ。」
「ガルルゥ……ガウッ……ガルルッ……」
「まだ無理をしないほうがいいよ、ジュダ……
六つの神獣の力に加えて、あの桁違いの能力……強敵だ。」
「……ガゥウ……」
「これからどうするかって?なんとかこの無人島に流れ着いたけど……
さあ、これからどうしたもんかね?」
「ガァウウウウーー!!」
「ん?これが何かって?
――これは、棺だよ。あいつに送るためのね……
あいつは、少々やりすぎた。
届けてくれるかい?ジュダ――」
NORMAL -END-
白猫 mark