【黒ウィズ】ヴィタ編(謹賀新年2019)Story
登場人物
バビーナファミリー |
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ティターノファミリー |
story1 年越しバビーナファミリー
<魔都ビスティア――弱肉強食のこの街の片隅で、今日もまた、陰謀がひそやかに語られる。>
任せてください。必ずやり遂げてみせますよ。
<ベリコ・ピッギ。元ティターノファミリーの構成員。>
ええ、もちろんですとも。命を救っていただいたご恩は忘れていません。
<バビーナとティターノの抗争のさなか、自らのドン、ガレオーネに撃たれた彼だったが、九死に一生を得ていた。>
それに俺もヤツらには借りがありますからね。確実に――仕留めてみせます。
<受話器を置いたベリコは、ギラついた目を闇に向け、つぶやいた。>
さあ、覚悟しやがれよ。……ヴィタ・バビーナ!
謹賀新年2019
乾杯。
乾杯!
<バビーナファミリーは、新年を迎える準備を整え、盃を交わしていた。>
いや~、自分、嬉しいっす。バビーナファミリーの一員として、皆さんと新年を迎えられるなんて。
<この異界では、家族や仲間と盛大なパーティーを開きながら、新年を迎えるのが常識である。>
ラガッちゃん、まだ正式に認められてないでしょう?
いやいや、こうして盃も交わしているんだし、もうファミリーっしょ。ねえ、ヴィタさん?
別にそういう盃じゃないな。
そっすよね!いやあ、自分なんかまだまだだって思ってたっす。
ラガッちゃん、切り返し早くなったわねえ。
プハー!それにしても酒はいいっすねこの白いの、にごり酒ってやつですか?五臓六腫に染み渡りますね!
――ミルクだな。
っすよねえ!やっぱガキにはミルクっすよねえ!
切り返しだけはホントに早くなったわねえ。
ヴィ夕、ミルクのおかわりはいかがです?
ああ、すまないな。
<と、その時――>
ひゃっ!な、なんすか今の?
なにって、年越しの時には、使い古した食器を窓から投げ捨てるもんだろ?
<見ると、マチアとチェチェが、開いた窓から全力でなにかを投げていた。>
せいっ!
そらっ!
そいやっ!
はいっ!
<古い食器を割ることで魔を祓い、新年を気持ちよく迎える。ラガッツもよく知っている風習だ。問題は――>
……あれ、食器じゃなくて、でっけえ斧っすよね。
このビスティアじゃあ食器より武器の方がみんな馴染み深いからな。
そもそもこの街で食器が一年も割れずに済むことなんてありえねえしな。
っすよねえ!
ラガッちゃん、なにも考えてないわねえ。
<一方その頃、バビーナファミリーのアジト近くの路地裏を1匹の獣が歩いていた。>
この辺りか。
ベリコ・ピッギ。復讐を胸に抱いた刺客。
ひそやかに、だがすみやかに、任務を遂行せんとする狩人の前に、今――
巨大な斧が突き立った!>
……は?
<2本目も突き立った!>
ええ?
<3本目はちょっと鼻にかすった!>
ブヒエエェェェエエ!?
<べリコは思わず回れ右して走り出すのであった……。>
それにしてもマチア。お前、斧を何本持ってんだ?
うおらっしゃあ!
聞こえてないみたいですね。
……まあ、いいか。
***
は~、スッキリしたあ!
チェチェさん、カッケェかったっすマイク投げ捨てた時は、自分マジシビレたっすよ!
あ゛!?新入り、お前なにチェチェに色目使ってんだよ?
っすよねえ!……じゃなくて、全然そんなつもりはないっす!マチアさんもマジリスペクトっす。最高っす。
あ””””””!?チェチェが最高に決まってんだろうが!?
もちろんそうですけど……パ、パスパルさん、ヘルプ、ヘルプ!
お脳を使わずに返事してるから、そうなるのよ、ラガッちゃん。
<言いながら、パスパルはなにかを準備している。>
ちょっとマチア、新入りいじめなんてやめな。
チェ、チェチェ……私より新入りを選ぶの……?……もう生きてる意味がない……。
ちょっ、別にそういう意味じゃないってば。
<チェチェが部屋の片隅にうずくまるマチアにかまいつける隙に、ラガッツはふたりからそっと離れる。>
ひえ~、ヤクかった~。あれ、パスパルさん、なにしてるんすか?
年越しといえば、景気の良い音が必要でしょう?
お、爆竹っすか?爆竹っすね?やっぱ爆発はたまんねえっすよね~。
<この異界では年の終わりに爆竹や花火を鳴らして、魔を祓うという習慣がある。>
自分も田舎じゃ爆竹野郎と呼ばれていましたからね。ここは任せてくださいよ。
ダメよ、ラガッちゃん。この街なりの作法があるんだから。まずは私のやり方を見てて。
<一方その頃、近<の路地裏にて、闇にまぎれて気配をうかがう1匹の獣。
ベリコ・ピッギである。>
さっきは予想外のことに面食らっちまった。俺としたことが無防備に近づきすぎたな。殺るのにそんな近づく必要はねえ。
<ベリコは愛用の機関銃を構える。>
今日は一年最後の日だ。銃声をごまかす必要もねえしな。
<今日この日に限っては、銃声が響いても、爆竹だと思われ、誰も振り返りすらしないだろう。
耳をそぱだてると、今も火薬の爆ぜる音が――>
え……?
<音ではなく、銃弾が耳をかすめた。
そして――>
ちょっ、待っ……ブヒッ!?
<待たなかった。無数の銃弾がベリコの全身をかすめていく。>
ブヒヒヒヒ!な、な、なんだってんだよいったい~!
オラオラオラオラ!
<パスパルは絶好調だった。>
な、なにしてるんすかパスパルさん……。
ああ!?魔を祓ってるに決まってんだろが!どうした魔ぁ!?もっとかかってこいよぉ!
ぶっつりてきぃ!やっぱパスパルさんはイカついっす!
くだらねえことダベってんじゃねえ!おら新入り!てめえもやるんだよ!弾も命も(タマ)いくらでもあるぞ、オラ!
え、いや、自分は、ちょっと……さすがにこれは近所迷惑かなって……。
<頭は悪いが、中途半端に良識はあるラガッツだった。>
一年の終わりだぞ!?迷惑なんかあるわけねえだろ!
あ、そうなんすか?やっぱ都会は違うっすね。それじゃ遠慮なく。
<中途半端なので、あまり役には立たない良識だった。>
やっぱパスパルさんは最高っすね!
おい、最高はチェチェだと何度いえば!
わ、立ち直ってる!いえ、チェチェさんも最高ですって。
あ”””””””””!!?やっぱテメエ、人のオンナを……!
だーかーらー、新人いじめしないの!
(あ、これ永遠にくりかえすやつだ)
勘弁して下さいよマチアさぁん……。ヴィタさんもキルラさんもなんか言ってくださいよぉ。
私はヴィタが最高だと思う。
お前、真顔でなに言ってんだ?
ヒャアアアアァ!今夜は弾薬庫を空にするぜぇ!
<盛り上がるファミリーの耳に、路地裏からあがる悲鳴は届かないのであった……。>
story2 バビーナ式正月遊戯
年が明け、翌朝――魔都ビスティアの目抜き通りにバビーナファミリーが揃っていた。
あけーっす!おめーっす!ことーっす!
あいつの知能、どんどん下がってるな。
まあ、ガキは正月にアガるものだからな。
で、キルラ。今年はお前おすすめの正月遊びをするんだったな。
ええ。賭場の客にいろいろ教えてもらいましてね。まずはこれ……独楽です。
これをこうしてヒモでぐるぐる巻いて……あとはこう、地面に向かって勢いよく……。
……けっこうめんどくさいな。マチア、お前やってみろ。
仕方ないなぁ。キルラ、貸してくれ。
そぉりゃ!
<巨大な斧を軽々と振るうマチアの剛力によって、独楽はあらぬ方向へ飛んでいき――
あいつら外に出たみたいだな。こいつはチャンスだ。どれ、なにをやって……。
プギャアアアアァァァァァ!
<物陰から首を出したベリコの額に全力で突き刺さって猛回転をはじめた。>
ん?いま汚い悲鳴が聞こえたような……。
めでたい正月だぞ。気のせいだろ。
しかし、コマとかいうのはなんか難しそうだな。別の遊びはないのか?
それじゃあ、次は凧あげをしましょう。まずこの凧糸を持って、走ってください。
……もしかして、私が走るのか?
……よし、ラガッツ、お前にこれをやる。
あざーっす!んじゃ走ってきまっす!
<ラガッツは凧糸を持って、元気よく走りはじめ――>
イタタタ……食い込んでいたのがやっと取れた。どれ、あいつら今度はなにをやって……。
んげがっ!?
<物陰からひょっこり出たベリコの首に凧糸を食い込ませ、引きずりながら走った。>
んー?重くなった?ま、いいか。お、凧あがってきたあがってきた!
あはははははははは!ヴィタさーーーーーん!これ楽しいっすよーーー!
や、やめ……し、し、死ぬ……死ぬ……!
<ベリコは絞まる首に抵抗しながら必死に叫んだが――>
おー、あがるもんだな。
のんきに凧を見上げるファミリーは、その下に吊るされる獣の姿にまったく気づくことはなかった。>
あはははははははは!あ、そうだ。バイクに乗って走ったら、もっと気持ちよくあがるかな?
限界……限界……なる……なっちまう……ポーク……ポークに……。
<その後、ベリコはなんとか空の旅から生還するのだが――
正月を堪能するバビーナファミリーは、次から次へと新たな遊びを提示する。>
今度は……羽根つき?パスパル、やってみろ。
ブヒィィィィィィ!
<羽根つきはイリーガル羽根つきとなり――>
カルタ?チェチェ、変な遊びだな。やってみてくれ。
ぐげごげぎげがががぎぎぐげ!
<カルタは殺戮カルタとなり――>
福笑い?なにが楽しいんだ、これ。キルラ、見本を見せてくれ。
殺して……いっそ殺して……。
<福笑いは塵(みなごろし)の福笑いとなり、ベリコの絶望の叫びが魔都ビスティアに響き渡るのであった……。
畜生!あいつらいったいどうなってんだよ!
<どちらかというと畜生はベリコの方だが、それはそれとして、ベリコはがっくりと膝をついた。>
クソッ……俺じゃあダメなのかよ……。
<ベリコは悲痛に歪んだ顔で、懐からなにかを取り出す。
大きなネクタイだった。ベリコはそれを手に、なにかをつぶやこうとしたが――
その瞬間、熱い衝撃に貫かれた。
グハッ!う、撃たれ……。
なんだ、騒がしいと思って撃っちまったが、てめえ、見たことがあるな。
あ、アニキ!こいつ、ティターノの下っ端っすよ。
ティターノぉ?ハッ、ガレオーネが姿を消したってのに、まだビスティアをうろついてやがったのかよ。
これからは、うちらバットカンパニーの時代だってのに、惨めなもんですねえ。
そうとも。バビーナファミリーを潰し、俺たちがビスティアのテッペンを獲る。まさに、今これからな。
そいつは縛って転がしとけ。見せてやろうじゃねえか。俺たちがビスティアを獲るところをな!
<獣たちはベリコの手足を縛ると、下卑た咲笑をあげながら、路地裏を出ていった。>
畜生……畜生……!あんな程度のヤツラにまで……俺は……そんなもんなのかよ……。
<ベリコはなにかに救いを求めるように、手中に残されていたネクタイをギュッと握りしめ、力なくつぶやいた。>
兄貴……。
story3 ガキだからな
いやあ、遊んだっすねえ。それじゃ、そろそろ帰りますか!
いいや、一番大事なお遊びが、まだ残ってる。
へ?そうなんすか?
ラガッツ。下着はちゃんと渡したものを穿いてきたな?
当然ですよ!ファミリーの証っすからね!
<年末年始は家族や仲間で下着を贈り合い、それを穿いて過ごす。
老若男女を問わず、それがこの異界の常識だ。だが――>
でも、おかしくないっすか?下着、白だったっすよ。普通、赤っすよね。
<贈り合う下着の色は、縁起の良い赤と昔から決まっている。>
なにを言っている。ちゃんと赤だよ。
えー?見てみよ……やっぱ白っすよ、これ。
ラガッちゃん、はしたないよ。あのね、下着の色は……。
これから赤くするんだよ。――返り血でな。
<言葉と共に、ヴィタは目抜き通りを歩き出す。すると即座に、武装した獣たちが、通りのあちらこちらから姿を現した。>
ひ、ひぇ!?な、なんなんすか、突然!
なんだ、新入り、気づいてなかったのか?さっきからどんどん集まってただろ。
いま、この街中の悪党がヴィタの首を狙ってるんだよ。
なにせ街を牛耳ってたティターノを私たちがやっちゃったものね。
ビスティアのテッペンが欲しけりゃ、バビーナファミリーのドン、ヴィタ・バビーナをやるしかねえ。
<ヴィタは片手にカバンを、片手に杖をさげている。武器はない。だが――>
さあ、お前ら、用意はいいな。――獣狩りの時間だ。
<恐れる気配は微塵も見せず、無数の敵の待ち受ける通りへと歩を進めた。
たちまち降り注ぐ、銃弾の雨。>
パスパル、ファイアだ。
命令が遅えよ!
<命令が下るよりも早くパスパルは豹変していた。照星も見ずに敵に照準を合わせる。立て続けに3度の銃声。>
ハッハー!この街の獣は、撃たれるのがうめえな!
<射撃狂(トリガーハッピー)――パスパルをそう呼ぶものもいる。だが、それは間違いだ。
この街にはちょっとばかり、撃たなきゃいけない相手が多すぎる。それだけだ。
歌え、チェチェ。
OK!ボス!みんな、やるよ!
<その言葉に、ファミリーは同時に耳を塞ぐ。ラガッツも戸惑いながら、両手を耳に当てた。>
あーーーーーーーーー!!
次の瞬間、物理的な衝撃すら伴う音波が、周囲の生物すぺての耳を貫いた。
いつもは甘く響くチェチェのボイスは、特殊な改造を施されたマイクを通した時、聞くものの脳から思考を奪う凶器と化す。
その速度は弾丸にも匹敵し、その範囲は弾丸をも超える。
出番だぞ、マチア。やりすぎるなよ。
それ、無理な相談だね!
<真新しい巨斧が振り上げられ、迫っていた敵を、チェチェに近いところから横薙ぎに吹き飛ばす。
狂恋は肉体の限界を超える。チェチェを守るためなら、マチアはどんなものでも軽く振り回す。
だが、超重量ゆえの大振りは隙を生み、捨て身の覚悟でヴィタのもとへと向かう、敵の接近を許してしまう。
それでも、ヴィタの歩調は乱れない。ただ前を向いて、一声を発する。
キルラ。
わかってますよ、ヴィタ。
<ヴィタの傍らから発する、白刃の閃き。
流麗ではない。粗暴ですらある。達人の域には遥かに遠い。
だが、だからこそ、キルラ・コルテロの刃には鬼が宿る。
白鞘が振られるたび、周囲の敵は、魂を斬られたように戦意を喪失し、背を向けて逃げ出すのだ。
(す、すげえ……ティターノにカチコミした時も思ったけど、この人たち、全員揃うと、マジでパンパねぇ……)
そこで、ヴィタは初めてチラリと振り向き、ラガッツを見た。
ラガッツ。――やれるか?
<他とは異なるいたわりは、ラガッツを半人前と思っている証拠だ。
それが、見習い不良少女のハートをフルスロットルにした。>
やれるに決まってんでしょうが!ドン・バビーナ!
***
好きでなったわけじゃない。だが、気がついたら、獣になっていた。
生きているうちに染み付いたものが、大人になったある日、人を獣に変える。それがこの世界の常識だ。
獣化の割合には地域差があり、彼の生まれ育った片田舎では、獣になる者は少なかった。
だから獣化した瞬間、彼は逃げるように故郷を出た。
(それからいろんな場所で悪さしてよ。……なのにどこにも居場所はなくて……どこにもたどり着けなくて……
そんな俺が最後に流れ着いたのが、ここ。世界でもっとも獣化率の高い場所――魔都ビスティアだった)
<目抜き通りから、激しい銃撃戦の音が響く。バットカンパ二ーとやらがバビーナファミリーを襲撃しているのだろう。>
なんで……こうなっちまったんだろうなあ。
<魔都の冷たい路上に倒れ、手足を縛られ動くこともできぬまま、己の流した血に塗れ、ベリコはつぶやく。
ティターノの構成員(ワイズガイ)などと謳っちゃいたが、たいした仕事(ジオッパ)など任されはしなかった。
だが、ティターノでは出会いがあった。
お前がベリコ・ピッギか。俺はゴレッタ・ドキーノ。今日から俺たちは家族。お前は俺の弟だ。
<ファミリーなど、口だけのことだと思っていた。だが、ゴレッタは違った。
ベリコ。タイピンだ。使え。
タイはしっかりと結べ。無法者の俺たちだからこそ、せめてタイで自分を律するんだ。
<まるで実の兄のようにベリコの事を思ってくれた。>
ベリコ。お前はなぜビスティアに来た。
俺は頭が悪い。俺にあるのはこの剛腕だけだ。だからここにいる。
だがベリコ。お前は本当に、帰れる場所がないのか?
<……そのゴレッタも、死んだ。ドン・ガレオーネに背中から撃たれて。>
兄貴……俺は……。
ふと気づくと、いつの間にか銃声が止んでいた。
終わったのかと顔を上げると視線の先に――
獣を狩る死神がいた。
その小さな顔は敵の返り血を浴び、大きく歪んだ口唇は愉悦に満ちていた。
靴音だけを高く響かせて無言で近づいてくる。魅入られたように、その姿から目が放せない。>
(なんだかずっと、こいつを待っていたような……)
獣になったあの日、怯えた目で彼を見た友や家族。
それから逃げるようにして彷徨った日々を終わらせてくれる存在――少女はそういうものに見えた。
(死んだら、兄貴に会えるかな。はは……助けた命を無駄にするなって怒られちまうかな……)
ガレオーネに撃たれたベリコが、大怪我を負いながらも生き残れたのは、ゴレッタの背中が守ってくれたからだ。
全てを貫き破壊するドンの猛銃の威力をゴレッタの鍛え抜かれた肉体が、極限にまで減じてくれたのだ。
ゴレッタが、ベリコを救ったのだ。気絶しているベリコを拾って手当をしたヤツら(・・・)などでは断じてない。
(情けねえ弟で、ごめんよ、兄貴……)
心の中でそうつぶやきながら、残ったチンケなプライドをかき集め、死神に叩きつける。
……やれよ。俺が狙っているの、気づいてたんだろう?
<少女は少しの間、無言で彼を見下ろしていた。しかし――
ふいにつまらなそうな顔をすると、杖の先端をかるく振り、彼の手足の縛めを切った。>
自ら命を差し出す獣がいるか。
獣じゃないなら、田舎にでも帰って、ママにすがりつくんだな。都会が怖くて、逃げて帰ってきたってな。
<そう言うと、少女は興味を失ったようにベリコに背を向け、路地裏を出ていった。
あとに残ったのは、獣にもなりきれなかった半端者が一人だけ……。
呆然とするベリコの懐から、巨大なネクタイがこぼれ落ち、その先端が、ビスティアの外を指した。
ここの先に、お前の帰る場所があるはずだ。――そう告げるように。
なぜだかふいに、笑いたくなった。>
は、ははは……。そうだな、帰ってみるか。親父……お袋……生きてっかな……。
立ち上がり、歩き出す。血を流しながら、よろよろと。
この傷では、生き延びれるかどうかもわからない。だが今度こそ、どこかにたどり着ける気がした。
だって、兄貴が示してくれた道だもんな……。
どうしたんだ、ヴィタ。急に路地裏なんかに入って。
別に……。それより、ちゃんと命令は守ったんだろうな。
ええ。わりとめちゃくちゃにしてやったけど、死人は出てないんじゃないかな、多分。
ええ!?これってそういうアレだったの!?本気で爆弾投げまくっちゃったけど……。
全部大ハズレだったから、大丈夫じゃないかしら……多分。
よかったあ~。でも、なんでそんなメンドイことしたんすか?
ウチに手を出したらヤバイってことを広めてもらうためだよ。死んだらしゃべれねえだろ?
はあ~。皆さん、見かけによらず、意外と考えて動いていたんすねえ~。
ラガッちゃんて、時々ふっつーに失礼なこと言うわよね。
そんなことよりヴィタ。なんでまた先頭を歩いたんですか。貴方はバビーナのドンなんですよ?
だからだよ。お前らをこの道に引きずり込んだのは私だ。この鍵で、お前らの命を人形にしてな。
<バビーナファミリーの真の命は、人形となって、ヴィタの持つトランクに収まっている。>
私にはお前らを襲う血も傷も憎しみも、すべて真っ先に受ける義務がある。そうでなければ、ボスなんて言えないだろ。
<その言葉に、ラガッツは目を輝かせ、残りの4人は複雑な顔で目を見合わせた。>
いや、だからさ、ヴィタ。私達の命はそのトランクの中にあるんだから……。
ヴィタがやられちゃったら、私達もやられちゃうじゃん……。
………………あ。
え、気づいてなかったの?
うっかり忘れていただけだ。
はぁ……ヴィタ。あなたって人はまったく……。
<痛そうに頭を振るキルラに、ヴィタは不敵に笑って言った。>
そう怒るな。面白いことは我慢できないし、つまらないことはしたくないだけだ。なにせ私は――
ガキだからな。
もう、大人にならない――
醜い大人になりたくないと、少女はその心に鍵をかけ、子供であり続けることを選んだ。
汚れた獣に支配された、腐った世界で生き抜くために――。
【黒ウィズ】ヴィタ編(謹賀新年2019)Story