【黒ウィズ】シュガーレスバンビーナ2 Story
プロローグ
<ひどい寝苦しさを、君は覚えた。
まるで闇が質量をもって自分の身体にのしかかっている――そんな感覚だ。
それを跳ね除けるように、君が目を覚ますと、そこは――>
<牢獄だった。>
ううーん、キミ、私の上に乗っているにゃ?寝相悪いにゃ……。
<寝ぼけ眼のウィズが、ゆっくりと伸びをした後、驚愕に目を見開く。>
……にゃにゃ!ここはどこにゃ!
<どうやら、寝ている間に異界に来てしまったみたいだね、と君は言った。>
おちおち寝ることもできないにゃ……。それで、ここはどこの異界にゃ?
<君とウィズは現在の状況を把握しようと振り返り――
奇妙な存在を発見した。>
お目覚めか?
<それが人間の少女らしい――と、すぐに認識できなかったのは、少女が拘束されていたからだけではない。
夜の闇を凝縮したナニカ――君には少女がそう感じられたのだ。>
私がほんの一瞬、目を逸らした隙にお前らは床にあらわれていた。……何者だ?
<少女は腕も足も、五体全てが拘束され、まったく身動きが取れない様子だ。
にもかかわらず、少女の静かな言葉には拒否を許さない威圧感があった。>
私はウィズで、こっちは私の弟子にゃ。そっちこそ何者にゃ。
私はヴィタ。バビーナファミリーのドンだ。
バビーナファミリー……って何にゃ?
<その時、カツカツと床を打つ冷たい靴音が響いた。この部屋にひとつしかない扉の向こうからだ。>
……来たか。悪いことは言わない、お前たちは隠れた方がいいぞ。
<ヴィタと名乗った少女はわずかに首を動かし、狭い部屋の片隅にある寝台を示した。
寝台の下の狭い隙間に慣れた仕草で潜りこむウィズに続いて、君も姿を隠し、息を殺す。
すぐに鍵の回る音がし、扉が開いた。あらわれたのは――
これもまた奇妙なかぶりものをした存在だった。>
そろそろ話す気になったかね?
<しわがれた声は、相手が若くないことを告げている。
目につくのはその背中だ。まるで獣のように、甲で覆われている。バロンのような亜人なのだろう。>
話すことなんてなにもないぞ。
強情を張っても意味はないのだがなあ。アレはお前のようなものに使いこなせる代物ではないぞ。
なにをいっているのか、わからないよ。ちゃんと丁寧に説明して欲しいもんだ。こっちはガキなんだからな。
この部屋に入ってずいぶん経つのにこれはまた元気なことだ。――おい。
ハッ。
<後ろに控えていたらしい何者かが、前に出る。
冷たい瞳をした少女だった。服装から察するに看守だろう。その手には、鞭が握られている。>
昨日は18回だったかのう。では今日は、19回だな。キルラ、頼むぞ。
かしこまりました、マディーロ様。
<キルラと呼ばれた少女は、鋭く鞭を振るった。ビシリ、という音が狭い室内に響く。
その所作はまるで感情を感じさせず、音はまったく同じ間隔でキッカリ19回続いた。>
さて、話す気になったかな?
ボケてんのか?同じことを言わせるな。知らないものは知らない。
ホッホッホッ!まだ顔色も変えぬとはのう。最近の子供はたいしたもんじゃ。
明日は20回じゃ。さて、何回まで伸ばせるかのぅ。楽しみじゃわい――キルラ、行くぞ。
ハッ。
<ふたたび冷たい靴音が響き、ふたつの人影が遠ざかっていく。>
<靴音がまったくしなくなってから、君は慎重に寝台の下から這い出た。
拘束されたヴィタを見ると――服がボロボロになっていた。肉体の痛みはそれ以上だろう。
君は考えるよりも先に治癒魔法を使った。だが、なぜか魔法の効果は薄い。
君がもう一度、治癒魔法を使おうとすると、ヴィタが制止した。>
やめとけよ。変化があったら、奴らが不審に思う。けど……面白い力を使うな。
<精霊魔法だよ、と君は説明し、自分たちがクエス=アリアスという異界からやって来たことを告げた。>
いろいろな異界を旅している?……たいしたものだ。だが、その旅も、もう終わりだな。
なにを言うにゃ!私たちの旅はまだまだ続くにゃ!
……続かないよ。なにせ――
ここは絶対脱出不可能の監獄島。スータープリズン(虐殺監獄)だ。
もう、大人にならない――
醜い大人になりたくないと、少女はその心に鍵をかけ、子供であり続けることを選んだ。
汚れた獣に支配された、腐った世界で生き抜くために――。
【黒ウィズ】シュガーレスバンビーナ2 Story