【黒ウィズ】シュガーレスバンビーナ Story
プロローグ
この世界は腐ってる――
うらぶれた街の片隅を歩きながら、ヴィタ・バビーナは「鍵」の掛かった心の中で、吐き捨てるようにそう言った。
<何かが、肩に当たった気がした。>
――イテッ!
<振り返ると、それは蝙蝠のような醜い男だった。>
テメェどこに目ェつけて歩いてんだ?
……。
ケッ。ガキかよ……。
<あてが外れたように、男はひとつ舌打ちをするが――>
……。
……ケケ。まあいいか。
<ヴィタの顔を覗き込んで、卑猥な笑みを浮かべた。>
どうするんだ?え?俺の腕、折れちまってるよ。
<――腐ってる。人も、街も、全部。
腐った世界で生きていけるのは、醜くて、腐った大人だけだ。>
……。
<人のまま大人になんてなれない――>
おい、黙ってたって許してやんねーぞ。俺はガキだって容赦しねえからな。
<人のまま大人になんてなれない――
こんなふうに汚れたくなきゃ……腐りたくなきゃ……まっさらな人のままでいたけりゃ――>
ガキに払えるほど安かねーぞ、俺の折れた腕はよぉ!
<――と、男は折れたはずの腕を振り上げた。>
<――ガキのまま、喰われるしかない。
だから私は、心に『鍵』を掛けた。>
……お前、ごちゃごちゃうるせえよ。
<ようやく口を開いたヴィタの瞳にふっと狂気が宿る。
――えッ!?
<男の振り上げた腕に、ヴィタは手にしたステッキを思い切り叩き込んだ。>
――グェッ!
ほら、ちゃんと折ってやったぞ。
……な、なんてことしやがる。タダで済むと思うなよ。
誰もタダなんていってない。これで買ってやる。
<――と、ヴィタは銅貨を一枚、指で弾く。
放物線を描いて自分の方へと向かってくるその銅貨に、男は思わず、まだ折れてない方の腕を伸ばした。
その刹那――
男の肩口に、酷く冷たい感触が走った。>
……ッ――?
テメェ、ウチのボスになにしてんだ?
<気がつくと、男の目の前に少女が立っていた。>
キルラ、お前、怖いよ。
<キルラと呼ばれた少女の手には、赤く滴る刀が握られている。
しばし茫然とそれ見つめたあとで、男はようやく自分の状況を理解した。>
……い、痛ってえ!
<肩口を押さえながら、男はその場に倒れた。
激痛で歪む男の顔の前で銅貨が1枚、転がってきて止まった。
それに刻まれたハートと鍵のマークを見て、男の目が絶望の色に染まる。>
……お前ら、バビーナファミリーか?
あ?だったらなんだってんだよ、この野郎?
だから怖いよ、キルラ。あとそれ、しまえよ。
……すみません。つい。
<ヴィタに睨まれると、キルラは刀を白鞘に収めた。>
……で、お前。どうしたの?拾わないの、その金?
<――と、ヴィタは男を見下ろした。>
あ、その腕じゃ無理か……。
――畜生。
……あいかわらず、性格悪い。
お互い様だ。
――「心」に「鍵」をかければ、子どものままでいられる。
――醜い大人の棲む街で、子どものまま、生きていく。
同じ誓いを立てた仲間と、私はバビーナファミリーをつくった。
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