【黒ウィズ】シュガーレスバンビーナ2 Story4
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<チェチェの答えに、キルラは鞭を打つ音で応じた。>
<飛びかかろうとするマチアを、チェチェがなだめる。その間、キルラは鞭を構えたまま冷たくふたりを見下ろしていた。>
<それだけを告げると、キルラは踵を返し、部屋を出ていく。
かつて自身がファミリーと呼んだ、ふたりの少女にかしづかれながら――>
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<並ぶのは高級そうな調度品。流れるのは品の良い音楽。
すべてが、監獄とはまるで違う世界だった。>
<確かに、周囲には人影がある。看守だ。多数の看守が、警備をするようにそこかしこにいる。
看守の何人かは怪厨な顔をしたが、あまりにもヴィタが堂々としているためか、なにも言ってこない。
だが、もっと気にかかるのは、それ以外の人影だった。
なにせ奇妙な紋様の描かれた四角いかぶりものをしているのだ。なにせ奇妙な紋様の描かれた四角いかぶりものをしているのだ。>
<ウィズに言われて、君は思い出す。
初めてヴィタと会ったとき、尋問をしていたしわがれた声の人物。それと同じかぶりものだ。
いったい、彼らは何者で、なぜここに集まっているのだろう?君の頭は疑問符でいっぱいになる。>
***
<君はだんだんとわかってきた。
かぶりものの人々は、その場にあるものを品定めしているようだ。金額が小声で言い交わされている。>
<だが、人々はまだ到着を待ちわびている商品があるようだ。いったいなんなのかな、と君は訊く。>
<君がなにかを言おうとすると、それを制するように、ヴィタは先にある扉を杖で指した。>
***
<君の魔法が敵を薙ぎ倒すと、ヴィタはやる気のない声で褒めた。>
<さきほどからヴィタは戦いを君に任せている。なんで戦わないの?と君は訊く。>
<ヴィタはそう言うと、守られていた扉をひらいて中に入る。>
<まあまあ、と君はウィズをなだめ、ヴィタのあとに続いた。
豪奢な装飾も調度品もその部屋にはなく、剥き出しの壁と質素な寝台があるばかり。まるでここだけが上の監獄と同じだ。
その中心には、鎖に縛られる人物がいた。君は少し驚いた。
大人の女性だ。それも人間の。君がこの異界に来てから、初めて見る。>
<ひどく場違いに明るく優しい声だった。>
<女性はあわあわと歩きだそうとし、繋がれた鎖に引っ張られて、転びそうになる。
君は前に出て、受け止めようとするが、それよりも先に、ヴィタの手が伸びて、女性の身体を受け止めた。
瞬間、ヴィタの掌が触れた部分から、黒い閃光が放たれ、女性の身体が弾かれる。>
おい、お前。ここでなにをしているんだ?
<君は名乗り、ウィズを紹介した。>
<カティアはしばらく小首を傾げた後、両の掌をポンと合わせて、明るく言った。>
<ヴィタは見定めるようにカティアをじっと見る。>
……忘れちゃいました。
<さすがになにもわからないのは怪しい、と君は思った。だが、それを聞いたヴィタは杖を回し、つぶやいた。>
<杖の先端がカティアを繋ぐ鎖に触れると――鎖が弾けとび、カティアは自由になった。>
<頭を撫でようと伸ばしてきたカティアの手を避けながら、ヴィタはあっさりと言う。>
<本当に迷ったのかと言いたくなる速度で、カティアは快諾した。>
<部屋を出ようとするヴィタに追いつき、なんでそんな簡単に信用したの、と君は訊いた。
返事は――?
<その言葉は妙に重く、君はそれ以上、追求することができなかった。
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<なにかがおかしい、と君は思った。
ここの人々は身なりも交わす言葉も上品だ。なのに、なにかが致命的にずれている。>
<君がヴィタとカティアの背後を守りながら、周囲を警戒していると、ふいにヴィタが足を止める。>
<ヴィタは曲がり角に身を隠し、君たちもそれにならう。
曲がり角の先を窺うと――かぶりものをした人々をもてなしている、ふたりの少女の姿があった。>
<いったい、なんの話をしているのだろう?君が考えていると、ヴィタがつぶやく。>
<あのふたりの少女と知り合いなのだろうか?そういえば、今つぶやいた名前には聞き覚えがある。>
「仲間は何人かいる。パスパル、チェチェ、マチア、ラガッツ――」
<ヴィタの顔を知っているから隠れているようだ。だが、そもそも仲間ではなかったのか?なぜここで働いているのだろう?君はそう訊く。>
<リヴィタの言葉からは感情が読み取れない。いったいなにを考えているのだろう?君がそう思っていると――>
<カティアがふわふわとした足取りのまま、ふたりの少女に近づいていった。そして――
おもむろにふたりに抱きついた。>
<チェチエとマチアはまったく動じずに抱きしめ続けるカテイアを強く拒絶もできず、あわてふためいている。
そのため、当たり前のことに気づいたのは見ていたかぶりものの男女だった。>
<リヴィタが曲がり角から飛び出し、カティアのもとまで走ると、空いた片手で彼女の手を握ってひっぱる。>
<逃げるヴィタたちを追いかけるチェチェとマチアの前に――
君が立ちはだかり、足元に魔法を放った!>
ゴホッ!ゴホッ!グォホッ!
***
<ヴィタは立ち止まり、カティアの手を放した。>
<じゃあ仕方ないね、と君は苦笑をして諦める。代わりに、質問をした。
なんでこの地下に降りてきたのか、そろそろ教えてくれないかな、と。>
<そう言うと、ヴィタはカティアから少し離れ、声をひそめた。>
<君は少し黙った後、言葉にするのも嫌な気持ちを堪えて、答えた。
このオークションの、商品だよね、と。>
あの女、大人なのに人間のままだからな。珍しいってんでさらわれたんだろ。それでああやって閉じこめられていた。
ここに来る前の記憶がないのは、奴らに消されたんだろうな。言動がおかしいのも、なにかされたのかもな。
<なんであの人にそこまで……と君が悲しい気持ちで言うと、ヴィタは鼻で笑った。>
<上?上にあるのは、監獄だ。つまり――
答えに行き着いた時、君の心に驚愕と怒りが湧きあがる。>
囚人にガキが多いのは気づいていたろ?どいつもこいつも、たいした罪なんか犯しちゃいない。
目をつけた奴に難癖つけて捕まえてんだよ。ここで売りさばくためにな。
ここは闇のオークション会場。――この街で、もっとも腐った場所だよ。
この廃都を導く政治家様が、住人の血を啜り、肉を喰らい、命を弄んでいるのさ。
<君はカティアを見る。なにも事態がわかっていない様子で小首を傾げていたが、君と視線が合うと、笑って両手をふってきた。>
それを閉じこめ、記憶を奪い売りさぱこうとしてる。魔法使い、お前は許せるか?
<君は即座に首を横にふる。善良に生きる人間が踏みにじられるなど、あってはならないことだと思ったから。>
<了解、と答え、君は前を向いた。>
……そう、よーく知っているよ(・・・・・・・・)……。
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<君たちがあと一歩でエレベーターまで戻れるというところで――>
<武装をしたチェチエとマチアが、道を阻んだ。>
<君はカテイアの手を引き、後ろに下がらせる。そして、チェチェとマチアに向かい合い、カードを構えた。
<その言葉を聞いた瞬間、狂笑が響き渡った。チェチェだ。チェチェが腹を抱えて笑っていた。>
確かに私たちはアンタに〈命の人形〉を預けて、歳はとらなくなったよ。おかげで獣にならずに済んでいる。
けどさ、それで本当に獣じゃないと言えるの?相手がきたねえ獣だからって、騙して、潰して、好き勝手やってさ!
それってどこが獣と違うのさ!説明できるのかよ、ドン・バビーナ!
<返答は、あくびと共に告げられた。>
反抗期のガキには、お仕置きしてやんないとな。
<ヴィタが笑みと同時に杖を掲げた瞬間――>
<マチアの振るう巨大な斧がヴィタを襲う。――だがそれは、ヴィタに届かなかった。>
<君の放った火球によって、斧は大きく軌道をそらし、床に突き立った。>
***
<以前、パスパルの怪力は君を苦しめた。だが、マチアのそれは、パスパルの比ではなかった。
自分の肉体よりも巨大な斧を、暴風のごとく振り回し、止むことがない。まるで暴力の嵐だ。
魔法で防御障壁を張ったところで、防げる保証はない。君は避けることに集中した。>
<言葉と共に叩きつけられた斧が床を破砕する。こんな攻撃、いつまでも続けられるはずがない。君はそう思ったが――>
<苛烈な想いが、肉体に限界を忘れさせる――それはただの思いこみかもしれないが、倒れるまでその思い込みは続くだろう。
一方、ヴィタは――
<チェチェがふりまわすマイクスタンドを、杖で受け止めるので精一杯のようだ。>
<君はヴィタを助けに行きたいが、眼前のマチアがそれを許さない。
ふたりの呼吸が乱れれば、つけいる間隙があるはずだが――
君が考えていると、ヴィタがうんざりしたようにつぶやく。>
<ヴィタは君の方も見てもいない。だが、君にはその言葉の意味がわかった。>
<マチアがふたたび、斧を軽々と振りかぶる。
その瞬間、室内に突風が吹いた。君の魔法だ。
突風はマチアの背を押し、斧を頭上に掲げたマチアを、一歩だけ前進させた。
マチアの膂力(りょりょく)・脚力であれば、強引に止まって、振り向きながら斧を振るうこともできたはずだ。
だが、マチアはそれを選ばなかった。一歩縮んだ距離はチェチエにまで斧が当たる可能性を高くしていた。>
<次の瞬間、斧を手放したマチアが、もんどり打って床に倒れる。万が一にも、チェチェに危険が及ぶのを恐れたのだ。>
<ヴィタを襲うチェチェの猛攻が、一瞬止まった。ふた呼吸分ほどのその間を、ヴィタは逃さない。>
〝深淵に喚ばれし者〟(デプス・コール)
ヴィタの杖から、禍々しい輝きが放たれ――
無数の手で床に貼り付けられたように、チェチェとマチアは身動きができなくなった。>
<強引に立ち上がろうとしたチェチェが、苦痛の呻きをあげる。>
行くぞ、魔法使い、カティア。
<君たちは悔しそうなふたりを置いてエレベーターに向かう。
その背に、怒りと悲しみと諦念と、すべてが入り混じったマチアの声が投げられる。>
奴らのところに〈命の人形〉がある限りは!
<エレベーターまで戻った君たちは、カティアだけを乗せて、地上にあげる。>
<カティアが姿を消すと、ヴィタは息を吐いた。>
<君は首をふる。あの人のような被害者を生み出しているなら、この場所を放ってはおけない。
と、そこで、周囲にアナウンスが流れだした。>
<あちらこちらの部屋の扉がひらき、大里の人影が姿をあらわす。その多くが、あの奇妙なかぶりものをしている。
同時に、多数の看守がわらわらとあらわれる。――君たちに銃口を向けながら。>
<無数の銃口に向けて、ヴィタは一歩踏みだす。>
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<マディーロはひざの髑髏をさすりながら、泰然と言う。
マディーロは呪術によって、すべてを監視しているのだ。
島中にオブジェとして置かれた髑髏。それがすべてマディーロの目の代わりとなる。この島に、マディーロの知らないものはない。
中継用の呪具を使って遠見の力を増幅させることで、地下にいる今も、監獄のすべてを把握しているのだ。>
リふむ、しかし牢を出る姿は見えなんだな。どうやって監獄を抜け出してここに来たのか、気になりはするが……なに、良い余興よ。
なにより、ようやっと〈奴隷の鍵〉を出しよったどこに隠しておったのかは知らぬが、これは好機というものよ。
ひとたびこの手から取りこぼした世界――今度こそわしのものとする時が来たということよ。
やってくれるな、キルラ。
<キルラは手にした白鞘の刀をわずかにあげる。>
<アナウンスが響く。>
<マディーロは歩きだす。その手にはバビーナファミリーの命が詰まった鞄が下げられていた……。