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【黒ウィズ】シュガーレスバンビーナ2 Story5

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story



君たちは立ちはだかる看守を蹴散らし突き進む。>

ヴィタ、また手抜きしているにゃ?監獄でやったみたいなすごいの使うにゃ!

いやだよ、疲れる。魔法使いがはりきってるんだ。充分だろ?

<大丈夫だよ、と君は笑う。幸い、敵の数は多いが、手強いのはいない。

そう思った矢先――怖気が走った。>

ハッ!

<態勢を立て直しながら前を見ると、そこに刀を構えたキルラがいた。

仕留めたと思ったのだがな。存外にやる。

<くぐっている修羅場の数が違うからね、と減らず口を叩きながら、君はキルラと向き合う。>

どけ、奇術師。お前に用はない。ヴィタ・バビーナ。いつまで後ろに隠れている。

やだよ。お前、怖いもん。

<キルラとヴィタが視線を合わせ、場に緊張が走る。

それを打ち破ったのは、キルラの背後から響く、しわがれた声だった。>

ホッホッホッ。たぎっておるのぅ。結構結構。わしもこういうのは嫌いではないぞ。

だがのぅ、あまり逆らってくれるな。これを壊したくなってしまうでな。

<マディーロは鍵のかかった奇妙な鞄を、ヴィタに見せつけるように軽くふった。

すると、ヴィタとキルラが、姿勢を崩す。>

マディーロ様。私の人形も入っていますので……。

わかっておるとも。孫娘の可愛い姿が見たくての。ちょっとしたお茶目よ。

さて、ヴィタくん。ご覧の通り、わしは君たちの命そのものを預かっている。逆らうようであれば、壊させてもらうがの?

……嘘つけ。その鞄を強引に壊したら、中の人形も全部壊れる。そしたらキルラも死ぬ。なにもお前の手に入らない。

それが嫌で、こいつを探していたんだろ?

<ヴィタは杖を振り、先端の鍵をしゃらりと鳴らす。>

ホッホッホッ。よくわかっておるのぅ。さて、それではどうしたものかの。

マディー口様、ここは私にお任せを。

おお、よいぞ、申してみよ。

ありがとうございます。

……ヴィタ・バビーナ。私と1対1の勝負をしろ。私が勝てば、その鍵を渡してもらう。

ほう。で、私が勝ったら?

あの鞄をやろう。悪い話ではないはずだ。

<罠だ、と君は思った。多数に囲まれている以上、約束が守られる保証はない。

君は止めようとしたが、それよりも早く、ヴィタはうなずいていた。>

いいんじゃないか?大勢でゴタゴタやるのは、あんまり好きじゃないしな。

ホッホッ、結構結構。それでは、ちと場所を移そうか。孫のせっかくの晴れ舞台じゃでのぅ。

<マディーロとキルラに先導され、たどりついたのは、オークション会場だった。

かぶりものをした多数の男女が、君たちを見ていた。

かぶりもののため、彼らの表情はわからない。だが、どう思っているのかは、嫌というほどわかった。>

面白がっているにゃ……。あいつら、人の命を面白半分で見ているにゃ!

<醜悪だ、と君は思った。その醜悪さを隠すために、あれをかぶっているのだろう。

会場の中心にヴィタとキルラを残し、看守たちがぐるりと囲んで、即席の試合場が完成する。

しかし、多くの敵意と、それ以上の悪意に囲まれたヴィタの様子は、いつもと変わらなかった。>

本当に、まったくなにも変わっちゃいないな、この場所は。

変わるはずがない。ここは魔都の在り方を定める場所だ。なにが変わっても、ここは変わらない。

ガキにあんまり難しいこと言うなよ。で、これ、どうするんだ?ルールとかあるのか?

許しを講えば、命だけは助けてやる。

そりゃあいい。聞いたことなかったもんな、お前の命乞い。

……そうだな。私も聞いてみたい。お前の命乞いをな。

<ふたりの間に緊張が走り、それを郷楡するようにマディーロの笑いが響く。>

ホッホッホッ。いい空気じゃ。さて、それでは――

はじめよ。

<その瞳に狂気を宿し、ふたりの少女は同時に駆けだした。>


 ***


<はじめ、キルラは鞭をふるった。

時に音速をも超えるという鞭の先端を、しかしヴィタはたやすく杖で絡め取る。>

そうやって人を試すの、悪い癖だぞ。

そうか。

<キルラはあっさりと鞭を捨てると、踏みこんで刀を抜く。

上手い、と君は思った。実際に対峙していたら、虚を衝かれる機の捉え方だ。

だがヴィタはすでに杖を回し、囁いていた。>

『弾き挫き綴ろ』

<ヴィタの前に、不可視の壁が出現する。君の精霊魔法とは異なるが防御障壁だ。それがキルラの前に立ちはだかり――>

ハァッ!

<一刀のもとに斬り捨てられ、霧散した。>

コルテロに伝わる抗呪具、呪を断つ刀よ。あそこまでよく使うのはキルラが初めてだがの。

あやつが呪を使うのは見せてもらったが、生半可な呪術ではとても防げまいて。

<キルラは止まらない。冷静に追撃を加えていく。

突きで上体をそらさせ、返す刀で下段を掬う。上段より振り下ろした刃が、合わせた杖を滑り落ち、指を狙う。

打ち合いの最中、杖を掴み奪おうとしたかと思えば、次にはくるりと背を向け、脇を通して背後を突く。

激しい修練を思わせる変幻自在の技が、波濤のごとくヴィタに襲いかかる。

だが君が驚いたのは、むしろヴィタの方だ。普段とまるで変わらぬ面倒そうな仕草で、確実にキルラの連撃を捌いている。>

そういや、昔はよくこうしてキルラの訓練につきあっていたな。おかげですっかり太刀筋を覚えちゃったよ。

……そうか。

<杖がしゃららと鍵を打ち鳴らしながら回り、白鞘が風を斬る音が耳を貫く。それはあたかも、ふたりが奏でる音色のようだ。

だが、ヴィタの不利には変わりない。ああして防戦に回っているかぎり、呪術を使えないのは先の戦いで証明されている。

予想外の見せ物に、観客が楽しげな歓声を上げている。

殺せ、殺せ、殺せ――と。>

懐かしいな。ここは本当に変わっちゃいない。

お前とはじめて出逢ったのも、ここだったな。お前、ひどい泣き虫だったよな。ラガッツに言ったら驚くんじゃないか?

……ガキだったからな。

いまも、だろ。

<ヴィタはよく捌いている。だが、体躯の差が、そのまま不利となった。一撃防ぐたびに、少しずつ後退している。

気がつけば、護衛に守られながら観戦しているマディーロの目の前まで下がっていた。

杖と白鞘が打ち合わさり、ギリリと鳴る。これ以上は下がれない。勝負の終わりが近づいていた。

終焉を告げるように、キルラが口をひらく。>

ヴィタ。人はね、いつまでもガキじゃいられないんだ。

<諦めたように、ヴィタの目がフッと伏せられる。>

ああ、そうだな。人はガキじゃいられねえ……。

<そしてふたたび視線があげられたとき――

そこには完全な狂気が復活していた!>

だからうちのファミリーは、人間なんか辞めちまったんだよな!

ええ!その通りです!

<振り向きざま、ヴィタの杖が護衛の足元を払う。同時にキルラが白鞘を振って飛び出す。>

な、キ、キルラ!?

<キルラの一刀はマディーロには届かない。多重に施されていた防護呪術に弾かれる。――だが、それで問題はなかった。

思わず一歩退いたマディーロの、足元に手を伸ばす。そこにあるものこそキルラの目的物。>

これを!

<振り返らずに後ろに差し出したそれ――〈命の人形〉が詰まった鞄をヴィタが受け取り、距離を空ける。

まるで剣舞のように鮮やかな動きだった。君は一瞬、あまりの見事さに呆けたが、すぐに気を取り直し、ふたりに向けて駆け出す。>

やっぱり、片手に杖、片手に鞄じゃないと落ち着かないよな。

ええ。あなたにはその恰好がお似合いですよ。で、こちらの人物は信用しても?

魔法使いだ。いい奴だよ。心配になるくらいにな。

<3人が周囲の敵に向けて油断なく構える頃、ようやく理解できたというように、マディーロが怒りの声をあげる。>

キルラ……!キルラキルラキルラキルラ!貴様もか!貴様もわしを裏切るか!

裏切る?裏切るには、忠誠が必要だろう?私が忠誠を誓うのはただひとり――ヴィタ・バビーナだ。

実の祖父をたばかりおるか!この悪魔めが!

悪魔……いい響きだな。きたねえ獣を狩り尽くすと決めた時、人間なんざ捨ててんだよ!

貴様ら、なにをしているあの小娘どもを……。

<と、その時、鳴動が起きた。

上だ。地上から振動が伝わってきている。>

馬鹿な。わしの髑髏の観測では、監獄になにも異常など……。

なんだ、まだ気づいてなかったのか。キルラ、お前の祖父さん、ちょっとボケてないか?

そういう人……いや、獣なんですよ、昔から。自分の見たいものしか見ないんです。

仕方ないなあ。おい、チェチェ、聞こえてるんだろ?

<ホールに声が響いた。>

”ハーイ、ボス、呼んだ?”

な、これは……!

”ごめんね、おじいちゃん。監視の中継基地、乗っ取っちゃってたの。

いまから本当の上の景色、見られるようにしてあげるから、じっくり楽しんでね。えいっ。”

<次の瞬間、ひざの髑髏を通じて、マディーロの脳裏に流れ込んできたのは――

爆破され、炎上する、監獄の光景だった。>




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<魔都ビスティアの沖に浮かぶ地獄の監獄、スロータープリズンは、炎上していた。>


イィィィィィヤッハーーー!やっぱバクダンは……いい!

おいおい、ラガッツ。あんまはしゃぐんじゃねえぞ。

そういうパスパルさんこそ、撃ち過ぎじゃないすか?

仕方ねえだろ?ここに来てからずっと、こういうのをぶっ放したくてうずうずしてたんだからよ!

すよねえ!ほら、ルポーティ。お前も遠慮すんなよ。

はー、俺あこういうスマートじゃないやり方は好きじゃないんだがね。

<彼女たちだけではない。解き放たれた囚人すべてが、これまでの恨みとばかりに暴れている。>

しっかし、キルラもよくもまあここまで溜めこんだもんだぜ。天国(パラダイス)じゃねえか。

つうか、なんで計画教えてくれなかったんすか?自分、ホントにキルラさんが裏切ったんだと思ってたっすよ。

仕方ねえだろ。お前、嘘ヘタじゃねえか。それによ、本気で信じてる奴がいるから、敵も騙せるってもんだろ?

敵を騙すにはまず味方から、ね。にしても、極端だねえ、オタクらは。本気で殺り合うこともねえだろうに。

シャシャを譲れなかったのはマジだからな。そら、ラガッツ、もう一発いっとけ。

りょーかいでありまーす!せーの……バクダン!!

<外部からの攻撃には難攻不落を誇る監獄島が、内部からの破壊に、みるみる原形をなくしていく。>


<地上からの鳴動は地下をも激しく揺らし、豪奢な会場は崩壊をはじめた。>

ぜ、全部ここを破壊するための計画だったんだにゃ!

<ティターノファミリーを潰したヴィタとキルラは積年の目標である監獄潰しを実行に移すことにした。

キルラに未練のあるマディーロに連絡を取り、時間をかけて信頼を取り戻し――

祖父の求める〈奴隷の鍵〉をちらつかせて、バビーナファミリーを捕らえる計画を立て、マディーロの懐に入った。

その一方でこの監獄島を調べ、ラガッツ以外のファミリーと共に、破壊計画を立案。

ファミリーが逮捕されて内部に潜入する一方でキルラは秘密裏に武器を島に運び込む。

あとは年に一度ひらかれる大オークションで監獄の警備が薄くなる日を狙ってことを起こすだけだ。>

みんなあれだけ本気でケンカしてたのに、全部演技だったのかにゃ……。

当たり前だろ。私たちはファミリーだぞ?裏切るとか裏切られるとか、ないよ。

第一、お前たちが使っていた抜け穴、なんで都合よくあったと思っているんだ?

あれもキルラが用意したにゃ!?

正確には、もともとあったものを、計画のために利用した、だ。もっとも、お前たちの存在は予定外だったがな。

本当はラガッツにやってもらう役だったけど、あいつ、ちょっとアレだから、不安だったんだよな。

そこにちょうどよくあらわれたお前たちを利用させてもらったんだ。すまなかったな。

<君は呆れて、騙すにしたって、あのケンカは本気過ぎると思うと言った。>

悪いな。多分全員、半分は趣味でやった。無論、私もだ。

趣味ってなんにゃ……。

じゃれあいだよ。たまには本気で暴れたいだろ?家族(ファミリー)だからこそ、遠慮なくケンカできるからな。

そんな家族、知らないにゃ……。

でも、他のはともかく、チェチェのは信じるなよ、マイクスタンドだぞ?戦えるわけないだろ。

<話している間にも崩落はより激しくなり、かぶりものをした人々が逃げ惑う。悪徳の宴は終わろうとしているのだ。>

皆のもの、静まれ、静まるのだ!

”おじいちゃん、あんまり怒ると、おつむりがぷっつんしちゃうわよ?”

この、小娘が……なぜだ!ぬしらはわしがいないところでも、キルラの教育を受けていたでは……。

”だーかーらー、そうやって覗いてるエロジジイがいたからじゃない。こういう男ほど自覚がないからやんなっちゃう。”

くぅ……よく躾けられていると思うたものを。

”おじいちゃん、意外と真面目なのね。クラブじゃあれくらい日常茶飯事なの。若い時にちょっとは遊んでおくべきだったね。”

看守ども!なにをしておる!早くやつらのところへ行って、取り押さえんか!

”安心しろよ、もうたくさん来てるぜ。ひと暴れしたらみんなぶつ潰れたけどな。アハハハ!アハハハハハハハハハハ!

おい、ジジイ。私が行くまで生きてろよ。チェチェに触った罪、私が償わせてやるからな。”

ぬう……どいつもこいつも……!

<マディーロは腹立たしそうに呻くと、存外に元気に駆けて、ホールから出ていった。>

あ!一番悪そうなのが逃げるにゃ!

逃がしやしないって。キルラ、魔法使い、いくぞ。

了解です、ヴィタ。


 ***


キルラ・コルテロは、父母の顔を知らない。

物心がついた時には、祖父マディーロのもとで厳しい教育を受けていた。

「よいか、キルラ。わしらは選ばれた民だ。ゆえに、愚民を統べる資質を身に付けねばならぬぞ。」

マディーロにとって、キルラは唯一の孫だった。ゆえに名家コルテロを継ぐものとして、帝王学を学ばせたのだ。

幼いキルラは従順で、優秀だった。祖父の求めに応え続けた。

なのに、いつからだろうか?キルラの心には、祖父に対する疑念が生まれていた。

「お祖父様は、本当に正しいのだろうか?」

キルラが14歳になったある日、祖父はキルラを奇妙な集会に連れて行った。

全員が奇妙なかぶりものをしていた。無論、祖父もだ。

「この世界で真の人間は我らのみ。ゆえに正しく導かねばならぬ。」

祖父の言葉に全員が賛同の声をあげ、不気味な呪文を唱えだす。

――そんな集会に、幾度も連れて行かれた。

それでもまだ、キルラは己の感情に、名前をつけることができずにいた。

キルラがその感情の名に気づいたのは、それから幾年か経った集会でのことだ。

「キルラ様は良い後継ぎにお育ちだ。さすが、マディーロ様がご子息をその手にかけてまで手に入れた子だ。」

公然の秘密のように、なにげなく告げられた言葉の意味が、はじめはわからなかった。だが、調べてすぐに、事実は知れた。

キルラの父は、マディーロに反発し失踪した。別の町で暮らし、子を作り――そしてマディーロに見つかり、殺された。

キルラは実の祖父に父母を殺され、さらわれて育っていたのだ。

「すべてはお前のためなのだ。大人になる頃には、理解できよう。」

キルラは絶望した。

祖父によって父母が殺されていたという事実にではない。そのような男の血を、自分が引いているという事実に絶望したのだ。

いずれ自分も、あのような醜い獣となる。それを受け入れて生きていく。そんな未来の自分の姿に絶望したのだ。

激しく問い詰めたキルラに、マディーロは「頭を冷やせ」と告げて、孫娘を監獄に閉じこめた。

「いっそ、このまま……。」

キルラは絶望していた。獣になるくらいなら、このままなにも口にせず、消えてしまいたいと思った。

大人にならず、コルテロの名を継がず、ただ消えていく。それが正しいことだと、心から信じていた。

……だが、そんな時、彼女は運命に出逢った。


「なあ、この辺で、誰か私を呼んでいなかったか?」



<立ちふさがる護衛を蹴散らし、君たちはマディーロに追いつこうとしていた。>

感謝していますよ、ヴィタ。

なんだよ、突然。いま大変なところだぞ。

……だからですよ。

……変な奴。

にゃにゃにゃ!あいつがいたにゃ!

<マディーロは君たちを待ち受けるように、椅子に深く腰をかけていた。>

……会員が散り散りだ。これで次の投票ではわしに票が集まらん。してやられたよ、小娘。

お前、ホントつまらないことばっか考えてるんだな。

これは手厳しいのう。だが、人間とはそうしたものよ。くだらぬ些事に、つい腹をたててしまうもの。

ヴィタ・バビーナくん。わしはな、本気で怒っておるのよ。

<マディーロが闇をまとった――そんな感覚を君は受ける。

呪術を全開にし、君たちを倒そうとしているのだろう。だが、そういう力に対抗するために、君はいる。

君はカードに魔力をこめ、一歩前に出ようとし――先を越された。>

変わっていませんね、お祖父様。冷静をよそおいながら、いつも最後には怒りで人をコントロールしようとする。

てめえのそういうところが、昔っから大っ嫌いだったんだよ!なにが怒ってるだ!ガキはずっと!怒り狂ってんだよ!

「お前のため」?「大人になればわかる」?知ったことか!さあ、引導渡してやるよ!


 ***


<君の魔法が詐裂し、マディーロの防御障壁が消滅する。

いまだよ、と君が叫ぶまでもなく、その言葉は飛んできた。

『斬られ蹴られ狩られ喰われ壊れろ』

〝絶望になく獣〟(ビースト・ティアー)

――この呪は……!

<苦悶と驚愕の入り混じった声をあげるマディーロに、さらにキルラが斬りかかる。>

逝っちまえよ!

<かつて身に着けさせられた熟練の剣技を否定するような、力任せの袈裟斬り。それはよろめいたマディーロの頭部を捉え――

奇妙なかぶりものを両断した。>


ば、馬鹿な……その呪は五言滅呪……!貴様のような小娘が使えるはずなど……。

じいさん、まともに子育てしたことないだろ?ガキってのは期待するほどやっちゃくれないが、侮ってるよりはずっとやるもんだよ。

こんな馬鹿なことがあってたまるか……。わしは人間だぞ?獣じみた愚民とは違うのだ。それが、それがこんな……。

<マディーロはよろめきながら後ろに歩き、壁にぶつかる。もはやどこにも逃げ道はない。

そう思われたが――>

認めん!認めんぞ!

<マディーロが平手でバンと叩くと壁がひらいた。隠し部屋――エレベーターだ。>

チッ……往生際の悪い!

キルラ、待て。

<ヴィタの制止にキルラが足を止めると、その目の前で扉が閉まった。>

ヴィタ、なんで止めたんですか?追い詰められた奴など、私ひとりでも……。

そう焦るなよ。ここまでずいぶんと時間がかかったんだ。仕上げくらい、じっくり楽しんでもいいだろ?

チェチエ、マチア。そっちは片付いた頃だろ?上にあがれ。バビーナファミリー、集合だ。

<ヴィタの顔に、凄惨な笑みが浮かぶ。>

さあ、魔法使いも行くぞ。――獣狩りの時間だ。



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醜悪な獣の群れが、値踏みをするように自分を眺め回している。

それが、彼女の最初の記憶だ。

世界も、自分も、曖昧だった。ただ幾度も幾度も、欲にまみれた獣の目が自分の上を通り過ぎていった。

長い時間だった、と思う。実際にどれだけの時間だったのかはわからない。

その日々が、なにもかもが曖昧な心に、なにかを積み重ねていった。それを冴しんだ感覚が残っている。

ずっとなにもわからぬままに積み重ね、わからぬままに時は流れ――

ある日、声が聞こえた。

(止めてくれ……

私の成長を止めてくれ……

私を獣にさせないでくれ……)

自分にそれができることを、なぜか知っていた。しかし、彼女は曖昧に漂うもの。どうしようとも思わなかった。

だが、声はしつこかった。何日も、何日も。100回も1000回も。彼女を求め続けた。だから――

(この世界は腐ってる……

人も、街も、全部……)


「……お前、ごちゃごちゃうるせえよ。」

それが、ヴィタ・バビーナの産声だった。


それから彼女はキルラと出逢い、ふたりで街にたどり着き、自分のいた島について調べた。

自分がさらわれ売られていたのだろうと、曖昧な記憶も奴らの仕業だろうと見当がついた。だが、いまさら家族など見つからない。

だからヴィタは、バビーナファミリーを作った。家族を知らない自分と、家族に絶望したキルラのふたりで。


ヴィタ?どうかしましたか?

ん?なにもしてないだろ?

いえ、なにか……嬉しそうだったので……。

……お前さ、ホントごちゃごちゃうるさいな。

す、すいません!そんなつもりでは……。

別に……怒ってねえよ。さっさと終わらせるぞ。


 ***


マディーロ・コルテロは、呆然としていた。

燃えていた。彼の城が。監獄が。長年かけて築きあげた大願ごと。>

待ってたぜ、じいさん。

あれ?もしかしてこれ、おいしいところいただけちゃう感じっすか?

<凶悪な顔をしたふたりの少女が姿をあらわす。呪術の優位性を確保するために、島への持ち込みを禁じた重火器を手にしている。>

そ、そこの緑の!調べたから知っているぞ!たしかシャシャに恨みがあったな!

どうだ?わしにつかんか?そうすれば、シャシャは好きにさせてやるぞ。

あ~ん?させるもなにも、アイツには散々好きにやらせてもらったぜ。いないからわかんだろ、フツー。

シャ、シャシャが?そ、そこの赤いの!欲しいものはないか?

んー?あるよ。

おお、よし、わしにつけ!そうすれば金でも地位でも、望むものならなんだって……。

あ~ムリムリ。だって私が欲しいのは、バビーナの正式な盃だもん。

ま、てめえを殺った手柄でなるけどな!

ヒッ!

<と、そこへふたつの人影が近づいてきた。>

ダーメよ、ふたりとも。抜け駆けすると、キルラがうるさいんだから。

それにそのクソジジイはチェチェに触った罪で100兆億回ぶった斬るって決めてるんだよ。

ま、待て!あれは下心があったわけではない!

そうだ、ふたりともわしのところへ来んか?歌手だろう?大きな舞台をいくらでも用意してやるぞ!

だってさ。どうする、チェチェ?

残念だけどさ、私の居場所はファミリーだって、もうちゃんと決めたんだ。

チェチェの居場所なら、私は全力でファミリーを守るよ。……ってわけで、残念だったな。

なぜだ!なぜわからん!わしがいなければビスティアはどうなると思う?

秩序はさらに失われ、周辺都市の悪党にも狙われ、下手をすると最悪の災厄が……。

知らないよ、そんなこと。

<腹心の部下と燃え上がる炎を従えるようにそれは姿をあらわす。

バビーナファミリーのドン、ヴィタ・バビーナ。マディーロに破滅をもたらした少女。>

子供がなぜ邪魔をする!人間のわしが、わしらが導かねば、この街は獣のみが践層する闇になるぞ!

なにが人間だ。あの不格好なかぶりもので隠せていたつもりか?アンタ、獣じゃねえか。

違う違う違う違う!わしが、わしだけが人間だ!

これだ。いくら拒んでも、保身に満ちた本性が外見に淮み出してることに本人だけが気づいちゃいねえ。

キルラ!血のつながった祖父を、その手にかけるつもりか。

子供も孫も、てめえの延長じゃねえんだよ。私の家族は、私が見つけた。……アンタじゃない。

<そう言って、マディーロに切っ先を突きつけるキルラを見ながら、背後で拍手している女性がいる。>

わ~みんなカッコイイし可愛いですよ~。はい、ぱちぱちぱちぱちぱち~。

<マディーロの目が見開かれる。>

カティア。危ないから、下がってろ。

え~?いいわよ~。

そういうわけだ。口上はもういいだろ?

貴様、貴様らは、なんてことをしてくれたんだ!すべてを、すべてを破壊する気か!自分のやったことがわかって……。

知らなかったのか?ガキはぶっ壊すのが大好きなんだよ。

<紅蓮の炎が夜明けの空を染め、そこにヴィタの影を巨大に映しだす。それはまるで、この世界を壊すための――>

怪……物……。

さあ、お前ら!ファミリーのドンが命じる!

とっとと終わらせて、アジトでゆっくりするぞ!

イエス、ボス!


 ***


このわしが……わしの夢が……コルテロ300年の大願が……終わる……?

<マディーロはよろめきながら、そこでは彼の築いた城――頭上を見上げる。スロータープリズンが崩落を続けている。

マディーロはその崩落の中へ、ふらふらと歩きだす。>

そんな馬鹿なことが……あるわけが……わしは……世界を……結社を……。

<その時、頭上で爆発が起き、シャシャを象った岩壁がぐらりと揺れ――

呆然と見上げたマディーロの上に落下した。

それが、スロータープリズンの最後だった。>

なんだか、私たち、いなくても大丈夫だった気がするにゃ。

そんなことはないぞ。私たちはみんなガキだからな。お前がいなければ計画通りにはいかなかったよ。

そーそー。パンもくれたしさ。めちゃくちゃ助かったって。

根性もあるみたいだしね。また今度、勝負しましょう?

<それは遠慮したいな、と君は言った。>

ヴィタはずいぶんとお前を気に入ったようだな。だが、これだけは言っておく。ヴィタの右腕の座は譲らないからな。

言っておくけど、私、いつもはマイクもスタンドも大切にしてるからね?そうだ!1曲聴いていきなよ。

あ、言っとくけど、男だろうが女だろうが、チェチェに色目使ったらぶっ潰すからな。

<それも遠慮したいな、と君は言った。>

あ、見てください!夜明けっすよ!

<見上げると、夜明けの美しい空が広がっている。その向こうに、背の高い建物群があった。あれが魔都ビスティアなのだろう。

今回の件で、様々な変革が起きるはずだ。あの街で、ヴィタたちを待ち受けているのはどんな運命なのだろう?

そう考えているうちに、君の視界は光に包まれていく。どうやら帰る時間がきたようだ。>

……これからですね。

……ああ、そうだな。

<並んで夜明け空を見上げるふたりの背を見ながら、君は帰っていった。>


なー、マホーツ。帰ったらうまいメシ食いに……あれ?いない。

帰ったんだろ。なんか忙しそうな奴だったからな。

うちらも帰ろうぜ。さすがに疲れたよ。

あれ?でもどうやって帰るの?

…………あ。

え、ふたりとも考えてなかったの?

行くのに必死で帰り道を考えない。ガキにはよくある失敗だな。

「よくある失敗だな」……じゃないよ!どうすんのよ!ここ絶海の孤島だよ!

助けた囚人もたくさんいますしね。

<と、その時、見事なタイミングで、胡散臭い声が聞こえた。>

おーい、大型ボートがあったぞー!何往復かすりゃ、みんないけそうだ。

乗り心地もはなまるですよ~。

<ファミリーの6人が視線を合わせる。>

それじゃ、帰ったら、行きましょうか。まずなにします?

決まってるだろ。

みんなで遊ぶぞ!ガキらしく、全力でな!

イエス、ボス!






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エピローグ


「なんだか今回は、いろいろ考えさせられたにゃ。」

君はうなずく。人助けをしようと思ってはじめたことなのに、気がつくと、大変なことになっていた。

敵は間違いなく悪だった。けれども、ヴィタたちが正義かというと、素直にうなずくことはできない。

「私たち、間違ったことをしたかもしれないにゃ。」

けど、と君は言う。彼女たちは笑っていたし、あの絆は本物だったよ、と。

「にゃはは!キミは単純すぎるにゃ。

またあの子たちに会えるまで、間違いだったのか正しかったのか、答えはお預けしておくにゃ。」

そうだね、また会えるといいね。君はそう言って歩きだす。

――とりあえず、おいしい食事をするために。




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