【黒ウィズ】シュガーレスバンビーナ2 Story1
story
<君とウィズは、ヴィタからこの場所についての説明を受けた。>
ここは廃都ビスティア。大人になると獣になっちまう弱肉強食の街だ。
<大人になると獣になる?どういう意味かと君は訊いた。>
どういうもこういうもない。そのまんまだ。この街にはガキと獣になった大人しかいない。お前らだって、さっき獣を見ただろう?
<どうやら先はどの奇妙な人物は、亜人ではなく獣になった大人、ということらしい。>
亜人や獣人はこれまでも見たことあるけど、人間が獣に変わるなんて、信じられないにゃ。キミだってそうにゃ?
<見たことあるよ、と君はウィズをじっと見つめながら言った。>
……わ、私は特別にゃ!
続けるぞ。そのビスティアの中でも、もっとも厄介と言われるのが、この監獄島、スロータープリズンだ。
設立より数百年を経て、いまもなお脱獄者ゼロ、釈放者ゼロを誇っている。――要するに、地獄だ。
ヴィタはまだ子供なのに、そんなに悪いことをしたにゃ?
悪ガキなのは間違いないな。きたねえ大人には、つい逆らっちまう。
<それにしたって、子供に対してこの仕打ちはあんまりだよ、と君は言った。>
じゃあ、手伝ってくれないか?お前のその力があれば、頼もしい。
<なにを、と君が訊ねると、ヴィタは少しだけ口元を吊り上げた。>
もちろん、脱獄を、だよ。
にゃにゃ!?でもさっき、脱獄者ゼロって言っていたにゃ!
私とお前らが第1号というわけだな。
断ると言うなら、それも構わないけどな。私と共にこの牢獄で朽ちることを選ぶのも、お前たちの自由だ。
<少しだけ考えた後、君はうなずいた。年端もいかないものをこんな目にあわせることが正しいはずはない。>
礼を言うよ。じゃ、まずこの部屋から出てもらおうかな。
出るって……どうやってにゃ?
もう一度、寝台の下に潜りこめ。そして奥の床を強く叩いてみろ。
<言われるままに寝台の下に潜りこみ、石の床を強く叩いてみると――床が外れた。>
今は使われていない排水管につながっている。そこから出て、私の仲間を捜してくれ。
<いっしょに行かないの?と君が聞くと、ヴィタは苦笑した。>
さっきの奴らを見ただろ?私がいなくなれば、血眼になって捜しまわる。その点、お前らはどこからともなく湧いたからな。
猫、行く前に私の襟元を探ってみろ。
猫じゃなくてウィズにゃ。ちょっと待ってにゃ……なにかあったにゃ。
<それはエンブレムだった。>
そいつはバビーナファミリーの証だ。私の仲間に会ったらそのエンブレムを見せて、「ヴィタの使いだ」と言え。
仲間は何人かいる。パスパル、チェチェ、マチア、ラガッツ――
捜して欲しいのはパスパルだ。預け物をしているんだよ。なんとか接触してくれ。
<その時、また外からカツン、という靴音が聞こえてきた。>
また来たか。さあ行け。
<君はうなずき、ウィズと共に抜け穴に入った。>
<狭い暗闇を這いずり回って抜け穴を出た先は、二段ベッドの上だった。天井に貼られたポスターで、出口を隠していたようだ。
周囲に人の気配はない。誰にも見られないように注意しながら降りると――
そこもまた、牢獄だった。だが、さきほどの部屋よりも広い。複数人が収監される雑居房のようだ。
空き部屋なのだろうか?君がそう考えていると、雑居房の扉がひらき――>
なにやってんだ?早くしないと晩メシなくなっちゃうぞ。
<少女が現れ、首を傾げた。>
あれ?見たことない顔のような……。それに……囚人服じゃない?
<まずい、と君は思ったが――>
私が人の顔を全部覚えてるわけないか。あははははははははは!
ま、いいや。そんな格好してると、看守に怒られるぜ。そこに余ってる囚人服があるから、着なよ。
<ベットの上に囚人服が投げ捨てられている。元の持ち主はどうなったのか、君は訊いてみた。
さあ?死んだんじゃない?
<……あまり着たくないな、と君は思ったが、ワガママは言っていられない。大人しく囚人服に着替えた>
お、似合ってんじゃん!って、褒め言葉になんねえか。ま、いいや、えーと、なんて名前だっけ?
<君は自分とウィズの名前と、魔法使いだということを告げた。>
マホーツ・カイさん?オッケー、じゃあマホーツって呼ぶな。
<変な勘違いをされてしまった……。>
私はラガッツ。よろしくな。
<ラガッツ?さきほどヴィタが仲間と言っていた名だ。君はエンブレムを見せようとしたが――>
さ、早くメシ食いに行こうぜ、マホーツ。食べきれない分は私にくれよな。
<そんな暇もなく、ラガッツに引きずられるようにして歩きだした。>
***
<君が食堂に行くまでの間に、なぜか囚人たちに喧嘩を売られてしまった。
思わず魔法で撃退すると、ラガッツは口笛を吹いて喜んだ。>
ふひゅ~。やるじゃん、マホーツ!手品師?手品師なの?
<下手だった。
手品ではなくて魔法だよ、と君は説明しながらカードを取り出す。>
あ、力―ドだ!やっぱ奇術師なんだな。あとでなんかやって見せてくれよな。
<どうやら人の話を聞くのがあまり得意なタイプではないようだ。
反応を見るに、この世界には魔法がないらしい。君はあまり目立たないように、派手な魔法の使用を控えることにした。>
なんでここの人たちは、こんなに好戦的なんだにゃ?
狂暴に決まってんじゃん、獣だもん。あんただって、獣だろ?
<ウィズも獣に変わってしまった大人だと思われているようだ。>
マホーツが獣になってないのは……うーん、まだガキだからかな?いや、でも意外と年食ってたりして。
<想像に任せるよ、と君はごまかした。
周囲を見回すと、確かに人間の囚人もいるが、目につくのは少年ばかり。あとは獣だ。大人の人間はいない。
大人になると獣になる、というのは嘘ではないらしい。
ラガッツが獣になってないのは、子供だからにゃ。
それはそうだけど、ヘヘーん、私は何年経っても獣になんかならないんだな。
なんせ私は、バビーナファミリーだからな!
<バビーナファミリーの名が出た。やはりラガッツはヴィタの仲間らしい。
これなんだけど、と君はヴィタから預かったエンブレムを見せてみた。
すると、たちまちラガッツの顔色が変わる。>
てめえ……うちのファミリーになにしやがった!
<君は「ヴィタの使いだ」と伝えようとしたが、口を開くよりも先に、ラガッツが拳を振り上げる。
しゃべりたくないなら、しゃべりたくしてやるよ!
<誰もしゃべりたくないなんて言ってない……そんな君の気持ちを無視して、ラガッツが襲いかかってきた。>
***
<君が思わず炎の魔法を放つと――>
アチアチアチ!まいったまいった!コーサンコーサンコーサン!
<ラガッツはあっけなく降参したので、君は火を消してあげた。>
都会の手品はすごいんだなー。本当に燃えてるみたいだったもんなー。
でも、負けちゃった……。ヴィタさん、すんません……。
<落ち込むラガッツに、自分はヴィタの使いだよ、と君が言うと、途端に目を輝かせた。>
なんだ!それならそうと早く言ってくれよー!よかったあ、バビーナの看板に泥塗っちゃったかと思ったよ。
そもそもバビーナファミリーって、いったい何なんだにゃ?
え!?バビーナを知らない!?「月刊首領首領(ドンドン)」読んでないの!?
<どうやら本の名前のようだが、君もウィズも、当然この異界の本など読んだことはない。>
えー読んだほうがいいって。マジでめちゃくちゃ燃えるから、月ドン。オススメは巻末の投稿コーナーで……。
いいから、バビーナファミリーについてさっさと説明するにゃ。
あ、そうだった。ごめんごめん。バビーナファミリーってのは、その月ドンが今もっとも注目しているファミリーだよ。
きたねえ大人だけを相手にする、少女だけのファミリーなのさ。
そして、そのバビーナのドンこそが、ヴィタ・バビーナさんなんだ!
バビーナファミリーだと獣にならないというのはどういう意味にゃ。
お、いいこと聞くじゃん。バビーナファミリーはね、歳をとらないんだよ。ヴィタさんに命を預けてるからな!
<命を預けるって、どういうこと、と君は訊く。>
命を人形にしてもらうんだよ。そうすれば、肉体は抜け殼になって、歳をとらなくなるんだ。
だから何年経っても少女のまま!大人にならないから獣にもならないのさ!
ラガッツもバビーナファミリーだから歳をとらないし獣にもならないってことにゃ?
……いや、それは……その……。
<ラガッツはもじもじしはじめた。>
ほら、なんかまだ、若いじゃん、私?だから半人前というか……まだ正式に認められていないと言うか……。
<見習いということだね、と君が言うと、ラガッツはちょっと涙目になった。>
そういうこと、ハッキリ言うなよな。傷つくだろ。
<思ったより繊細なところを突いてしまったらしい。ごめんね、と君は謝った。
そして、パスパルという人の居場所を知らないかな?と訊ねる。>
あー、パスパルさんかあ。知ってるよ。でも……。
<と、そこで、ブザーが鳴り、看守のネズミ男が乱暴に叫ぶ。>
メシの時間は終わりだ!さっさと牢に戻れ!
あーーーーーーーーーーーーーーーー!晩メシ食べ逃したーーーーーーーーーー!
そこ、うるさいぞ!撃たれてえのか!
あ、いえいえ、滅相もない!
クソ~……とりあえず、部屋に戻ろうぜ。
<そう言った途端、ラガッツのお腹がキュウと鳴き――君のお腹もグゥと鳴った。
story
<君とウィズは、そのまま囚人として一日を過ごした。
毛布と呼ぶのがためらわれるような黒ずんだ布をかけて眠り――
朝になれば早くから看守に叩き起こされ、石と見紛うような固いパンをひとつだけ持たされ中庭に出る。
そこで刑務作業に従事するのだが……
石を積んでは崩す作業――深い穴を掘っては埋める作業――重い荷を背負って中庭をぐるぐる回る作業――
いずれも疲労はすごいが、なにも積み重なるところのない、徒労としかいいようのないものだった。>
こんなの作業じゃなくてただの拷問にゃ!
<君の肩の上で、特に何もしていないウィズが憤慨した声をあげる。
お昼を過ぎると、ラガッツがへばった顔であらわれた。>
うえ~腹減った~。
<固いパンはどうしたの?と君が訊くと、とっくに食べたという。
君は残していたパンを半分に割り、片方をラガッツにあげた。
わ、いいの?サンキュー!あ、もらってるの看守に見つかるとうるさいから、コッソリな、コッソリ。
<受け取るなり、一口で食べようとするラガッツに、小さくちぎって少しずつ食べた方がお腹が長持ちするよ、と君は教えた。>
へ~!なるほどな~。マホーツはものしり博士か~。
<感心してうなずきながら、ラガッツはパンを一口で平らげた……。>
<日が暮れると、ようやく雑居房に戻され、外から鍵をかけられた。>
あとちょっとすると、食堂で晩メシの時間だよ。まともなメシが出るのは晩だけなんだ。今日は食べ逃がさないようにしないと!
<それからしばらく待っていると、耳障りなブザーが鳴り、扉の鍵が開けられる。
どうやら夕食の時間らしい。ラガッツも囚人も、我先にと雑居房を出ていく。>
マホーツも早く来いよ!食堂でパスパルさんに会えるはずだぞ!
***
<君が食堂にたどり着くと、空のトレイの前で、ラガッツが満足気に笑っていた。>
あー、食った食った!美味くなかったけど。
<君は給仕係から受け取ったトレイを見る。いたって普通の料理に見えた。口に運んでみると――
……虚無の昧がした。>
それでも我慢して食べるしかないにゃ……。クエス=アリアスに戻ったら、おいしいものを食べに行くにゃ。
<君は食を楽しむことを諦め、手早く腹に詰め込むと、ラガッツにパスパルのことを訊く。>
パスパルさんも食事に来てるはずだよ。多分あっちのテーブルに……。
あ、いたいた!おーい、パスパルさーん!
<小走りに駆けていくラガッツについていくと、食堂の隅にあるテーブルに小柄な少女が座ってた。>
……あら、どうしたの、ラガッツちゃん?
<少女の顔色は暗く、卓上に置かれたトレイは手つかずのままだ。>
また食べてないんすか?身体に悪いですよ。
そりゃパスパルさんみたいなすごい料理人からすると、食べられたもんじゃないとは思いますけど……。
大丈夫よ。ちゃんと最低限は食べてるから。それで、どうしたの?私たちがしゃべってると、看守さんがいい顔しないわよ?
それがですね、実はこっちのマホーツが……。
<君は看守に見つからないようにエンブレムを見せながら、自分はヴィタの使いだと告げた。>
ふーん……ヴィタが。なにをするつもりなのかわからないけど、私、手伝わないわよ。
そんな!いったいどうしちゃったんすかパスパルさん!この監獄に入ってから変ですよ!
元気だってなくなるわよ。捕まったんだもの。それにあんなドジを踏んだヴィタに、従ういわれもないでしょう?
でも、バビーナファミリーの絆は絶対で……。
ごめんね、ラガッツちゃん。夢を壊しちゃって。
そ、そんなぁ……。
<と、その時、背後が騒がしくなった。振り向くと――>
も、申し訳ありません、シャシャ様!そんなつもりじゃなかったんです!
なにを謝る必要があるのです?そのご飯が不満なのでしょう?もっと美味しいものが食べたいのでしょう?
いえ、私はこれで満足しております!だから大丈夫です!
美味しいものを食べたいのは本能です。人も獣も等しく持った本能ですよ。なにも隠すことはありません。
さあ、そんな貴方のために、私が特別料理を用意してあげました。
<シャシャと呼ぱれたパンダの獣人は、涙目の囚人の前に、トロトロとした塊の載った皿を置いた。>
私お手製のスペシャルオートミール。栄養も愛情もそれ以外のものも、バッチリ詰まった最高の一品です。
さあ、どうぞ。め・し・あ・が・れ♪
<なんともいえない色のドロドロを前に、囚人は助けを求めるように周囲を見回すが、他の囚人はサッと目をそらす。
囚人は意を決したようにスプーンを手に取り、目をつぶって、ドロドロを口に運んだ。
……声にならない悲鳴が聞こえた気がした。>
どうですか?美味しいでしょう?
は、はははは、はい……。とても……おいしい……ぐぶっ……です……。
オホホホホホ!涙が出るほど美味しいですか!いいですよ、どんどんめしあがりなさい。
<囚人は震える手でスプーンを何度も口に運ぶ。二口、三口、四口……五口目が、限界だった。>
も……ム……リ……!
<つぶやきと共に吐潟物が床にぶちまけられる。囚人自身の肉体も、力を失ったように、自らの吐いたものの上に倒れ――られなかった。>
なにしやがんだテンメエエェェェェェェェ!
<食堂を揺らす振動と共に、シャシャの右足が囚人の肉体を蹴り上げていた。
囚人は高い天井にぶつかり、落ちてくる。シャシャは片腕をあげて、それを宙で掴むと、容赦なく床に叩きつけた。>
この俺が!額に汗して作った最高のメシを!吐きやがるとは!ナニサマだよ、オイ!
食いもんを!粗末にするなと!親に!教わらなかったのかよ!この!ドサンピンが!
<すでに気を失っている囚人の肉体を、シャシャは何度も何度も持ち上げては床に叩きつける。
床が割れるかと思うほど繰り返した後、ようやく気が済んだというように、蛮行は止まった。>
はぁはぁ……。まあ、俺は優しいからこれくらいで許してやる。
さーて、それじゃ、他にスペシャルディナーを食べたい子はいるかなあ?
<その場にいるほとんどの者が、さっと目を逸らした。
ゆえに、獲物を探すシャシャの視線は――まっすぐに前を見据える君を捉えた。>
おやあ?新入りくんかな?だったらもてなしてあげないとねえ。
<近づいてくるシャシャから君は視線を逸らさない、暴力を振るう相手から逃げる選択肢など、君には存在しないのだ。
懐に手を入れ、隠し持ったカードを取り出そうとした時――>
所長。
<すらりとした少女が、音もなくシャシャの後ろに立っていた。ヴィタを鞭打っていた少女だ。>
これはこれはキルラくん。ということは……。
ええ。お呼びです。
<少女とパンダは、食堂の外へと去っていき、ホッと息を吐いた囚人に、看守たちが銃口を向ける。>
おら、お前ら、メシの時間は終わりだ!さっさと戻って寝ろ!
<囚人たちはそそくさと部屋に戻る。半死半生の囚人も同室の者に抱えられ、食堂から出ていった。
だが、ラガッツだけは、銃口を向けられてなお、キルラと呼ばれた少女の去った方を見つめ、やがてポツリとつぶやいた。>
キルラさん……なんで裏切ったんすか……。
story
<君とラガッツたちが雑居房に戻ると、狼の姿をした男が、ベッドでくつろいでいた。>
お、憩いの晩餐は終わりですかね?
ルポーティ。いま機嫌が悪いんだ。余計なことを言うんじゃねえよ。
おお、また、怖い怖い。あの所長が暴れでもしたのか?
<所長というのはさっきの白黒熊のことだろうか?君がそう問うと、ルポーティと呼ばれた狼は、おおげさに驚いた。>
我らのシャシャ所長を知らないとは!よく見れば見ない顔。新入りのようだ。
はじめまして。俺はルポーティ。この監獄の……ま、何でも屋さ。
なにか欲しいものがあれば言いなよ。たいていのものは調達してやるからさ。――もちろん、報酬次第ですがね。
<監獄で、そんなことができるとは。そういえば、ルポーティは囚人服を着ていない。なにか特別な権力があるのかもしれない。>
不思議そうな顔をしているね。俺の秘密は……これさ。
<ルポーティはなにかを弾いて宙にあげる。――コインだ。>
監獄って言っても、ここはビスティアなんでね。どこにいったってコイツが一番効くんでさ。
<どうやらルポーティは看守を買収して、好き勝手に振る舞っているようだ。>
なんだかこの男……胡散臭いにゃ。
褒め言葉をありがとさん。それで、あのパンダのことを知らないんだっけ?OK、説明しましょう。
奴の名はシャシャ・シオン。この世の地獄、スロータープリズンの監獄所長であらせられる御仁だ。
性格温厚で、趣味は料理。慈悲深くも我々囚人に手作り料理を振る舞ってくださる。
だが、その本性はすでにご覧の通り。料理は想像を絶するほど不味いうえに、少しでもケチをつければ暴れまくる。
悪いことに格闘の達人で、素手で敵う奴はめったにいねえ、ときたもんだ。
最悪極まりないこの監獄の支配者だよ。せいぜい目をつけられないようにするこったな。
お前が説明しないでも私がちゃんと教えてあげてたっての。
そりゃ余計なことを失礼しました。許してやってくださいよ。俺ぁもう、バビーナと揉めるのは勘弁なんでね。
さて、今日も疲れたんで寝るぜ。おやすみさん。
<そう言うと、ルポーティはどこからともなく調達した清潔な毛布をかぶってベッドに横になった。>
……なんか、変わった奴だにゃ。何者にゃ?
<ラガッツの説明によると、この街の裏社会を牛耳っていたティターノファミリーの幹部だったらしい。>
幹部じゃなくて、N0.2な。
寝てろっての。
<そのティターノファミリーは、バビーナファミリーとの戦いに敗れ、主だったメンバーは姿を消し――>
それから姿を見ないと思ったら、ウチらが捕まってここに来ると、こいつがいやがったんだ。
俺が悪いみたいに言うなよ。オタクらにノされて、目が覚めたらここだったんだからな。
ま、あんたらが何をしてここにぶちこまれたのか知らないが、所長に睨まれないようにうまくやるこった。
<ルポーティは今度こそ寝息をたてはじめる。>
それにしても、どうするマホーツ?パスパルさん、話を聞いてくれなさそうだし……。
諦めるのは早いにゃ。とにかく明日の晩、もう一度、話してみるにゃ。
<そうだね、と君はウィズにうなずく。しかし、君には気になることがあった。
シャシャ所長が暴れている時、誰もが怯え、目をそらしていたが、一対だけ、まっすぐに見つめている目があった。
怒りとも、悲しみとも、無感動ともつかない、なのに一瞬たりともそらされなかった視線。それは――>
<パスパルのものだった。>