【黒ウィズ】アリエッタ編(ゴールデンアワード2016)Story
2016/06/13
登場人物
プロローグ
ぷうぷうぷう。
みんなから〈天才〉と呼ばれる仲間が、自分が話そうと名乗りあげました。
ぷうぷう。
その夢は、どこか爽快でどこか強烈であったと〈天才〉は言います。
みんなは不思議に思い、いったいなにが強烈であったのかを問いかけます。
その夢の中での事の発端は、こうでした。
story
人は誰しも、一切の例外なく魔法を使って生活している。
魔力量の差はあれど、水を汲むことだってお湯を沸かすことだって、魔法の力が必要とされる。
魔物から人や街を守る魔法の発明、人々の生活を最小限の魔力でより豊かにする魔法、魔法体系を覆すほどの独創性。
根絶やしにしてくれるー!!
アリエッタ・トワが、稀代の大魔道士と呼ばれる所以は、そんなところにあった。
膨大な知識量と無限に湧き出る独創的な魔法、論理の天才とは、この少女のことを指す。
くらええええっ!!
天才は暴れていた。
この世に生を受けたことを、後悔させてやるううううう!
お目付け役のエリスと別れたアリエッタは、深い森の奥で暴走していた。
森に迷い込み、抜け出せなくなったアリエッタが、偶然複数の魔物に遭遇し交戦になった。
事の発端は以上である。
逃げるなー!
魔道士協会の定期報告に出たエリスは、“待っていなさい”と言っていた。
だがアリエッタは待てなかった。
立ち止まることを、アリエッタという怪物は許さなかった。
はぁ……はぁ……はぁ……逃げ足の早い魔物だ……。
思えば魔物とは、肩がぶつかった程度である。
最初はアリエッタも「ごめんなさい」と言って立ち去るつもりでいた。
だがあろうことか魔物たちは、アリエッタのおしゃれな服を貶したのだ。
手弱女を自称するアリエッタも、さすがにこれは許せなかった。
ただの1匹も逃さない……。
トワ家には、去るものは地獄の果てまで追うという家訓がある。
オデットにもらった服なのに!
絶対に許さない!泣いても後悔しても、もう遅い!!
このアリエッタ・トワから逃げられると思うなよ、魔物どもめ……!!
解き放たれた怪獣は、森の奥へ奥へと進んでいく。
***
どこ行った!!
…………。
というか、ここどこ?
魔物を夢中で追いかけるうち、自身が迷ってしまったことにようやく気づいた。
ここは慟哭の森。
過去、幾人もの大魔道士がここに迷い込み、そして抜け出ることが出来ず息絶えた。
森を焼き払えば帰れそう。
地獄の業火に焼かれ、朽ち果てるがいい!
……とか言ったら怒られるかなぁ。
…………。
やめておこう。
アリエッタは学ぶ子であった。
大魔道士らしからぬ悪行の数々。魔道士協会の上層部が胃痛で寝こむほどの暴挙。それらを経て、アリエッタは成長を遂げている。
魔法を使うことだけが魔道士じゃない。うん、いいこと言った、わたし。
一時の暴走が、結果的に世界の人々のためになっていることは、この場では置いておこう。
とりあえず帰り道を探そう。
そう言ってアリエッタが一歩足を踏み出したとき、背後からガサッと草をかき分ける音が聞こえた。
そこかああああ!!くらえええええっ!!
つい5秒前に口にしたことを忘れ、アリエッタは特大の魔法を撃ち込んだ。
ぎゃーっ!!
…………。
アリエッタの魔法が直撃した何かは、絶叫し吹き飛ばされた。
げほっ……ごほ……。
あっ。
砂煙の中から現れたその姿を見て、アリエッタは言葉を失う。
お、おおお、お、おで、オデット……!
な、なによ、今の……。なんか超ピカッて光って、超吹っ飛ばされたんですけど。
…………。
逃げよう。
待ちなさい、アリエッタ……。
あ、あああ、アリエッタじゃないですが!?
アリエッタでしよ、あんた……っていうか、なんかくらええええ!とか聞こえてきたけど。
人の言葉を巧みに利用する魔物か……彼奴らめ、知能をつけおってからに。
わたしの友達オデットを吹き飛ばすなんて許せない!
アリエッタは、色々なことをうやむやにしようとした。
マジすごい巨大な火の玉が、超スピードで超突っ込んできたんだけど。……あれ?アリエッタ。目、逸らしてない?
気のせい気のせい、あはは!
まあ……いいけど。生きてるし。
オデット・ルーは、服飾デザイナーである。
年齢こそ離れているものの、魔法学園で知り合い、それからの付き合いだ。
世界に名を馳せるアリエッタを広告塔にして、自身がデザインした服をより多くの人に見てもらおうという思惑がオデットにはあった。
おかげでアリエッタは服に困ったことがない。
オデット、どうしてこんなところにいるの?
新作の服が出来たから持ってきたの。そうしたらアリエッタが森に入っていって、魔物相手に――
あれ?やっぱりさっき私に向かって魔法打ち込んだのアリエッタじゃない?
…………。
あっ、魔物がオデットの後ろに!
いやそんな古典的な嘘に騙され――ぎゃー!噛まれてる!魔物に頭噛まれてる!
わはは!
うそーん、笑ってないでどうにかして!怖い。自分の頭を触るのが怖い!
オデットの頭に乗った魔物が、アリエッタに目を向けた。
もちろん!わたしがぜーんぶやっつける!
でも待って。落ち着いてアリエッタ。私いるからね。この距離だと私巻き添えになるからね。
いっくぞー、おー!
聞いて。お願い聞いて。直撃は死んじゃう。あんたの魔法直撃は私、超死んじゃう。
わたしの魔法をくらええええい!!
***
死ぬかと思ったんですけど。
悪さをする魔物は嫌だね~。
あんたに殺されかけたんですけど。
まちがえた!あはは!
アリエッタの魔法が詐裂し、魔物は消え去った。
だが森も一緒に……。
エリスさんにチクってやる。
わはは、エリスはいないのだー!
魔道士協会の祭事に行くんでしょ?大魔道士様はみんな出なきや魔道士の資格を剥奪されちゃうもんね。
オデットが持ってきた服は、そのためのものである。
悩ましいなー。
あんたは私の広告塔なんだから、ちゃんと着てもらって、多くの人の目につくところにいてもらわないと。
おっけー。
ノリが軽いわね、あんた……。
まあ、エリスさんがいれば、あんたに毎日違う服を着せてくれるでしょ。
オデットは嘆息混じりに苦笑する。
神出鬼没のアリエッタが色々な街に現れることで、オデットの名前、そして彼女がデザインした服の知名度を向上させていった。
仕方ないから魔道士協会のところに行こう。やっぱりなー、お祭りだからなー、行かなきゃ損だよねー。
屋台でさー、食べ物のさー、美味しそうな匂いが漂ってきたら、いてもたってもいられなくなるもんねー。
お。そう考えたら魔道士協会に行くのも悪くない気がしてきたよ。
そう考えなくても行かなきゃダメなのよ、普通。
オデットがアリエッタに服を渡して、再び溜め息をついた。
大魔道士の地位など、アリエッタにはどうだっていいのだろう。
森から抜けられたし、このまま行こう!
……ほんと怪獣ね、あんた。
かの有名な封印の魔道士、エリスをして抑えられない怪獣の行動には呆れを通り越して尊敬の念すら抱く。
まあ、おかげで私のブランドカは高まっていく一方なんだけど……。
有名人かー、照れるなー。
だがオデットは知らない。
世界中の人々にアリエッタが注目され、彼女が着る服が有名になる傍ら……。
怪獣に加担するデザイナーがいると、魔道士協会に目をつけられてしまっていることを。