【黒ウィズ】アルティメットワーキングガールズ! Story2
story
いよいよ昇格試験だ!
君たちは今、Eランクマドーワーカーだ。
ランクまで昇格して、ようやく卒業試験を受けることができる。
試験内容は単純明快。教官と戦って勝てばランクアップ。
職業訓練をすれば社会性が高まり、社会性が高まれば魔力も高まるので、教官戦が有利になるという仕組みだ。
黒猫のひと、落ちるなよ?
君は少々意外に思っていた。アリエッタが試験に対し意欲を見せているのだ。
よく真面目に試験を受ける気になったね。君は率直な感想を伝える。
アリエッタなら角材1本で〈社会性=魔力〉の結界を破壊し、魔力を取り戻して暴れ回りそうなものである。
術式とかは調べないとわからないけど、マドーワーク全体を満遍なく壊せば、結界はなくなると思う。
でも、それはやらない。もしマドーワークを壊したら、たぶんエリスの胃が死ぬから。
アリエッタの表情が翳った。
エリスはアリエッタ性胃炎になって、しばらくわたしを控えるように医者から言われたんだって。
アリエッタ性胃炎なんて症状は初めて聞いたが、大体わかった。
だからエリスがマドーワークに来てくれるなんて思わなかったよ。
エリスはアリエッタのことが心配になってマドーワークに来たと言っていた。
医者からアリエッタを控えるように言われていたにもかかわらず。
なんだかんだで、彼女たちの絆は深いのだ。
エリスのためにも、頑張ろう。君はアリエッタと自分に言い聞かせる。
一緒に合格して、お祝いパーティーやろう!
試験会場はさながら闘技場のようだった。ここで戦闘用教官と戦うらしい。
消火活動頑張ったし、ソフィの握手券付きレンガも売ったし、社会性がかなり上がってるはず。
私もソフィちゃんの発言集を売ってたくさん社会性をゲットした!
お前らソフィに頼り過ぎだろ……。
アリエッタも変なことやらかしてないし、大丈夫よね?
まかせて!エリスの胃はわたしが守る!
サネーは君たちを蔑むような目で見ている。視察組であるソフィ、エリス、イーニアにも同様の冷ややかな視線を浴びせていた。
視察組の皆さんもEランクマドーワーカーです。せいぜい頑張って、みじめったらしい底辺から這い上がってくださいね。
私たちに恨みでもあるのか……?まあいい。アリエッタたちの手本となるよう、まずは我々が行こう。
君たちに先立って、ソフィ、エリス、イーニアが昇格試験に臨む。
***
馬鹿な……。社会性91万だと!?バケモノか!?
教官は社会性を測定できるらしく、ソフィが叩き出した数値に慄いている。
いくよ、教官さん!ウィッチリンク!
ソフィのウインクひとつで、教官はその場にくずおれた。
魔道の歴史を教えてやる――魔女道・弐 ノイタ・ヒストリア!
イーニアもなんだかかっこよさげな魔法によって対峙していた教官を倒した。
さすがちゃんとした人たちにゃ!
私の魔法は本来攻撃向きではないのだけど、やれないことはないわ。……従僕よ、喰らい尽くせ!
エリスの匝から見るも恐ろしい賢、いわゆる〝あばば〟が現れて、教官に襲いかかる。
しかし――あばばを出した瞬間、エリスの社会性がものすごい勢いで下がりだした。
え……ええっ!?
そしてついにはあばばが厘の中に戻ってしまった。
ただ、あばばを見た教官が失神したので、試験自体は合格のようだ。
ちょっとこれどうなってるのよ!
どうなっていると言われましても、そんなクソキモいものを衆人に晒すなんて、社会性がなさすぎます。
社会性の基準がおかしいわよ!
そうでしょうか。おかしいのはあなたの感覚では?
そんなわけ………………えっ!?
エリスは君たちの顔色をうかがった。
ちょっとみんな……どうして〝サネーの言うことも一理ある〟みたいな顔してるのよ!
そんな顔をしたつもりはなかった。しかし、もしそんな顔になっているのであれば、そういうことである。
一理あるどころか立ち位置的にサネー側についてるじゃない!
あばばを近くで見るのはかなりきつい。
本能的な恐怖心が働いたため、君たちはサネーの側まで逃げていたのだ。
あばばを近くで見るのがきついってだけで、心はエリスの味方だから安心して!
その発言自体がもうサネー側じゃない!
エリスは悪くない!悪いのはあばばされる奴らだ!
主にお前だろう。
しかもアリエッタが一番遠くまで逃げている。
私、社会性ないの……?
まずい。エリスはアリエッタ性胃炎だが、これはこれで胃にダメージがいってそうな気がする。
エリスさんは立派です!公共の場であばばしていいと思います!
うむ、その通り。あばばのおぞましさが抑止力となる。
むしろもっとあばばしていくべき君もそう言ってエリスを励ます。
……あなたにまで気を遭わせて悪いわね。
でも平気よ。没落の憂き目にあったシヤルム家は冷ややかな目で見られることに慣れているから。
シャルム家が冷ややかな目で見られてたのって杖の人のせいなんだっけ?
今掘り返さんでいい!
さあ、アリエッタ。私がお仕置きしなくてもいいように、社会性をつけるのよ。
レナとリルム。それから、あなたもね。
なにかに耐えるようなエリスの微笑みによって、君たちの間になんだか妙な使命感が生まれた。
***
限られた魔力で戦わないとね……イグニッション・ゼロ!
レナは教官まで一気に詰め寄ると、ゼロ距離で炎の魔法を放った。
効率重視で燃やすなんて粋じゃないけど、しょうがないね。
こともなげに試験をクリアしてみせたのは、地道な消火活動のたまものかもしれない。
よーし、私も続くぞー!
リルムは杖を握りしめ、教官に立ち向かう。
でも、杖の人投げるのってかなり魔力使うんだよね。
え、マジ?わざわざ魔力無駄使いして我の嫌がることやってたの?
だから、杖はここに置いときます。………………と見せかけてザッパー!
油断した教官にエターナル・ロアが直撃した。だいぶ深めにめりっといった。
小娘……我を投げるにはかなりの魔力が必要だという話は?
あれは嘘だよ。ほぼ地肩の強さでなんとかしてる。
残るは、君とアリエッタだけになった。
出てこい!本!
アリエッタは魔道空間から魔法書を取り出そうとするが――
うぅーん?あれ!?本が出てこない!
どうやら魔道空間の入口が狭く、本が引っかかっているようだ。
やらかしがないとはいえ、〈社会性=魔力〉というこの場所だ。アリエッタが扱える魔力などたかがしれてる。
社会性が低いくせに、高度な魔法を使おうとするからこうなるのだ。食らえ!
教官の口から、謎の光線が放たれる!
アリエッタ!危ない!避けて!
君は持てる魔力の半分――否!すべての魔力をカードに込め、アリエッタの前に防御障壁を展開した。
謎の光線と障壁がぶつかり合い、激しい火花を散らせる。
わひゃあっ!
閃光に驚いてのけぞった拍子に魔道空間から本が出る。
おっ、出てきた!我が魔道の真髄をくらえええええええ!
アリエッタが投げた本は――教官の口に直撃した。こちらも深めにめりっといった。
他のマドーワーカーの助けを借りての勝利ですが……まあ大目に見ましょう。
やったー!合格だー!黒猫のひと!ありがとう!
アリエッタの合格をもって、残る挑戦者は君だけとなる。
教官が君を見据えて、構えの姿勢をとる。それを見た君は、立ち尽したまま動かない。
……もしかして……もう魔力が……。
悔いはなかった。
あのアリエッタを守ったのだから、名誉なことだ。落第は仕方ない――自分にそう言い聞かせる。
黒猫のひと。勝負はこれから!わたしの角材、使っていいよ!
にゃ……いいのかにゃ?リルムにも貸さなかったお気に入りの角材にゃ。
さっき助けてもらったからね。それに、約束したでしょ?一緒に合格してお祝いパーティーするって!
……ありがとう。君はアリエッタから角材を受け取る。
たとえ角材でも、ないよりはマシだ。なによりアリエッタの気持ちがこもっている。
君は角材を振り上げ――ってめちゃくちゃ重っ!
途轍もない重さだった。これ、ないほうがマシなやつだ。
教官の口から放たれた謎光線が迫る――君は角材を捨てて横っ飛びで逃げる。
おおー。黒猫の魔法使いさんは素手でやるつもりみたい。
猛者っぽい。
なんか勘違いされていた。
とはいえ、逃げるわけにもいかない。君は魔カゼロの得物ナシで教官に挑む。
***
反撃らしい反撃もできないまま、君は教官の攻撃をかわし続けていた。
隙をみて何発か突きを放ってはいるが、ふわふわしたボディの教官にダメージは通らない。
魔力が回復する気配もなく、このままでは負けるのも時間の問題。やっぱり自分は、社会性が――
みんな、黒猫のひとを応援しよう!
アリエッタの言葉に反応して、既に合格を決めている少女たちが次々に君ヘエールを送る。
黒猫さん、がんばってー!
気持ちで負けるな!
積んできた職業訓練を思い出して!
夢をあきらめちゃダメだよ!
田舎のご両親のためにも!
くーろねこ!くーろねこ!くーろねこ!くーろねこ!
割れんばかりの黒猫コール。夢とか田舎の両親とかは知らないが、勇気をもらった気がした。
思い出せ。今までいくつもの修羅場を潜り抜けてきた。こんなところで負けるわけにはいかない。
絶対に勝つ!
君は上段への突きを放つ――と見せかけてッ!教官の足を払って押し倒すッ!
そこから素早く教官の足首を取って脇に抱え、極めるッ!
あれは……魔道アキレス腱固め!
ソフィちゃんよく知ってるね。
ソフィ、護身術やってるから。
いだだだだだ!ギブギブギブ!
うおおおおおおおお!やったああああああ!
我が事のように喜んでくれるアリエッタを見て、ああ、悪くないじゃないか、マドーワーク――そんなふうに思えた。
全員合格おめでとうございます。中には魔法を使わず教官を倒したろくでなしもいるようですが。
しかし――カ任せが通用するのは、せいぜいDランクまで。
そう言われると力任せでいきたくなっちゃう。
アリエッタはぶんぶん角材を振り回している。あれどうやって振っているのだろう……。えげつない脅力?
お反吐が出るほど野蛮な振る舞いですね。……よろしい。この先の厳しさを少し教えてあげましょう。
お前の言葉遣いもかなり野蛮だぞ……。
サネーの合図でやってきたのは――今までの教官とは比べ物にならないほどでかい教官だった。
こいつはでかいだけのパターンだ。わたしの経験がそう言ってる。
この鬼教官は、数々のマドーワーカーを良識ある魔道士に育て上げた実績がある。即ち、ものすごく社会性が高いのです。
立派な魔道士にしてやるから覚悟しやがれよ?ゼリー以下の軟弱者どもが!
なんだ……やるか?やるのか?
アリエッタが角材をぶんぶん振り回すが、鬼教官はまったく怯んでいない。それどころかアリエッタに近づいていく。
名刺代わりにとっときな――これが社会の厳しさだ!フゥン!
鬼教官の剛腕がアリエッタに直撃し――
ふぎゅああああああああああああああ!
なんと、アリエッタが場外に吹き飛ばされてしまった。
君たちが大急ぎで職業訓練街に向かうと――アリエッタは瓦磯に埋もれていた。
アリエッタ……無事なの!?
……ふふ……ふふふ……。
微かな声が漏れ聞こえる。君たちは必死に瓦礫をどける。
出てきたアリエッタは、震えていた。
興奮を抑えきれない、満面の笑みで。
なんだあの強さ……なんだこの今まで味わったことのない感じ……!
アリエッタは圧倒的な力を目の当たりにして――昂っていた。
わたしは社会性をゲットして、もっと強くなるぞー!
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エリスは座学ルームの魔道検索機を使って、見てくれのいい職業を調べていた。
(やっぱり……あばばばはちょっと引いちゃうわよね……)
一族が扱う封印魔法には誇りを持っている。今後も当然使い続ける。しかし、ショックがないわけではなかった。
あばばのイメージを変えてくれるような職業を体験してみたい。無意識のうちに、そんなことを思っていた。
なにか華やかな仕事はないかしら……。
エリスさん、華やかなお仕事がしたいんですか?
いつの間にかリルムが隣にいて、魔道検索機をのぞき込んでいた。
え、いや……どんな職業訓練ができるのか、ちょっと気になっただけよ。
華やかな仕事かあ……。あ!アイドルとかエリスさんに向いてると思う!
アイドル……?聞かない職業ね。
アイドルってめちゃくちゃな子が多いから、あばばが役に立つ。
あなた私のことあばばの人って思ってるでしょ。心の中でそう呼んでるでしょ。
あばばだけじゃないよ、エリスさんがアイドルに向いてる理由。アイドルはピュアじゃないとなれないんだ。
あばばだけじゃないよ、エリスさんがアイドルに向いてる理由。アイドルはピュアじゃないとなれないんだ。
エリスさんてピュアでしょ?だってアリエッタ性胃炎なのに、アリエッタのことが心配でマドーワークに来たじゃん。
確かにピュアだな。我が小娘性胃炎に罹ったらドクターストップで引き離してもらうぞ。
……心配というか、ソフィが私の代わりにアリエッタの面倒見るって言ってくれたけど、任せきりはさすがに悪いから来ただけよ。
今もアリエッタはソフィに見てもらっているの。本当に頼りになるわ。
ふふん。まあね。
なんで小娘が偉そうなんだ。
でも、マドーワークにアイドルの職業訓練はないみたい。検索しても出てこないわ。
このお仕事は?ざっくりした方向性はアイドルに似てる気がする。
確かに華やかだけど……なんだか落ち着かないわ……。
レースに華を添える、レースクイーンという職業らしい。
肝心のレースはどこでやっているのかしら。
レース?ああ、やってないね。レースなんて一度も開催されたことねえ。
なんでやってないのよ!私この格好でなにすればいいわけ!
野菜でも売ればいいんじゃね。
無責任な教官は野菜を積んだ魔道リアカーを置いて、去っていった。
仕方がないのでエリスは野菜を売った。華やかな格好のおかげか、野菜は結構なペースで売れていった。
野菜がすべて売れたので上層に戻ろうかと思ったところ――
わはは!わたしの強さをとくと味わえー!
アリエッタの声が聞こえてきた。こちらに向かってきている。
どうやら、黒猫の魔法使いを追いかけ回しているようだ。
ちょっとあなたたち――
エリスの目の前を黒猫の魔法使いが猛スピードで駆け抜けていった。
逃げるなー!黒猫の名がすたるぞー!
その後ろをアリエッタが猛追する。
アリエッタちゃん!待ってー!
ホウキに乗ったソフィがそれに続く。
あの子たちなにしてるのかしら。……レース?
しばらく間を置いて、再び黒猫の魔法使いがエリスの前を駆け抜けた。ものすごく助けてほしそうな顔をしていた。
怖くない怖くない!手加減するからー!
その後ろ、先ほどよりもタイムを詰めて、アリエッタが社会性を下げながら爆走する。
アリエッタちゃん!止まらないとソフィ怒るよー!
ちょっと!ストップストップ!
エリスはソフィの進路に立ち入り、止めた。
なにが起きたの?説明してちょうだい!
ついさっき、ソフィと黒猫さんが関節技の話で盛り上がってたら……。
どんな話題で盛り上がってるのよ。
アリエッタちゃんが触発されて、アリエッタ式アリエッタ固めって技を編み出したんです。
技名にアリエッタが2回入ってるなんて絶対ヤバいやつね。
どうかけるのかはわからないけど、全身の関節と靭帯にダメージを与えるって。このままだと、黒猫さんの関節と靭帯が……。
……なるほど、わかったわ。ソフィ、胃薬をくれるかしら。
エリスは受け取った胃薬を水なしで飲み下し、怪獣の襲来に備える。
やがて――黒猫の魔法使いがやってくる。その後ろに、怪獣アリエッタ。
ここがゴール……いえ!ここで失格よ、アリエッタ!
エリスは道の真ん中に立ち、アリエッタを迎え撃つ。
従僕よ……喰らい尽くせ!
わーエリスぶつかるぁあばばばばばばばばばば!
追いかけっこは禁止!アリエッタ式アリエッタ固めも禁止!
往来でのあばばのせいで、エリスの社会性がものすごい勢いで下がった。
知るか、とエリスは思った。
story
ソフィ、魔道科学者かあ。
ソフィは魔道検索機で自分に向いている職業を調べてみた。
生真面目かつ好奇心旺盛なあなたに向いているのは魔道科学者でしょう。
そもそもソフィは、魔道という大いなる未知に心惹かれ、あてもないまま身ひとつで田舎から王都に出てきたのだ。
……わからないことって知りたくなっちゃう!
ソフィはまずマドーワークのことが気になった。
マドーワーク自体は魔防法施行以前から存在していたが、利用するのは自主的に社会性を高めようとする者のみで、小規模な施設だったらしい。
魔防法が可決されてから新設されたのがここだ。島全体に広がる大規模な施設。特殊結界を利用した独自のカリキュラム。
〈社会性=魔力〉の結界……すごい魔法だよね。
ソフィは座学ルームを出るなりホウキに跨り、空高く飛んだ。
すると、一定の高さまで飛んだところで見えないなにかにぶつかった。
きゃっ!結界が物理的な障壁にもなってる……?
どうやら〈社会性=魔力〉の結界は、マドーワーカーの脱走を防ぐ役割もあるようだ。
ますますすごい魔法……。どこかに大きな魔道具か魔法陣があるのかな。
いくら限られた空間とはいえ、魔道の法則性を書き換えるなど、膨大な魔力が必要なはず。
マドーワークは、すごい施設だ。魔道科学者の職業訓練も、きっと素晴らしいはず――
俺、魔道科学なんてわかんねえ。つか、わかったらこんなところで働いてねーつつーの。
そんな体たらくだった。
大体がよォ、なんでこんな着ぐるみ着なきゃいけないんだ?
それはソフィに言わないで……。
ソフィは落胆しながら、未練がましく黒板に夢の発明を描いていく。すると――
わたしが教官になってあげよっか?
本当に!?ありがとう、アリエッタちゃん!
アリエッタといえば山や街を破壊して回っているイメージだが、その主戦場は寧ろ学術分野である――とは学者たちの言い草である。
ソフィ、スマートほうきを作ってみたいの。自動で目的地まで飛んでくれたり、ごみを見つけて掃いてくれたりするんだ。
前から作れたらいいなと思ってて、アリエッタちゃんの論文読んだの。
防衛ッタちゃんやいい子エッタちゃんを生み出した魔法がまとめられていたやつ。
あれなー。あれは反省文的なノリで無理矢理喬かされた論文だからちょいちょい適当なこと書いてある。
やっぱり。試してみたけどうまくいかなくて。自律する魔道具ってどうすればできるの?
アリエッタは不思議そうに首を傾げる。
ソフィもインゴットソフィ生み出したでしょ?
あれはアリエッタちゃんが生み出したんだよ!?
そうだっけ。あの論文にまとめた魔法は確かー、えーと――
アリエッタは黒板にさらさらと魔道理論を書いていく。
つまりー、自分の精神の一部を仮想的に切り離した上でごにょごにょしてー。
魔道空間を維持する要領でアレをアレしてー、魔力安定溶液をぴちゃっとやれば、いい感じ。
ソフィはアリエッタの理論に基づいて、ごにょごにょした上でアレをアレしてびちゃっとやった。
できた……スマートほうきが完成したよ!
ソフィはさっそくスマートほうきを使ってみる。柄を握りしめて魔力を流すと、穂先がぴょこぴょこと動く。
うまくごみを掃いてくれるかな……。
宙に浮遊していたスマートほうきは、猛スピードで動き出し――
あっ、大変!ガラの悪いマドーワーカーさんを掃いてる!
それでもソフィの社会性は上がった。つまりそういうことである。