【黒ウィズ】アルティメットワーキングガールズ! Story2
story
君たちは今、Eランクマドーワーカーだ。
試験内容は単純明快。教官と戦って勝てばランクアップ。
職業訓練をすれば社会性が高まり、社会性が高まれば魔力も高まるので、教官戦が有利になるという仕組みだ。
君は少々意外に思っていた。アリエッタが試験に対し意欲を見せているのだ。
よく真面目に試験を受ける気になったね。君は率直な感想を伝える。
アリエッタなら角材1本で〈社会性=魔力〉の結界を破壊し、魔力を取り戻して暴れ回りそうなものである。
でも、それはやらない。もしマドーワークを壊したら、たぶんエリスの胃が死ぬから。
アリエッタの表情が翳った。
アリエッタ性胃炎なんて症状は初めて聞いたが、大体わかった。
エリスはアリエッタのことが心配になってマドーワークに来たと言っていた。
医者からアリエッタを控えるように言われていたにもかかわらず。
なんだかんだで、彼女たちの絆は深いのだ。
エリスのためにも、頑張ろう。君はアリエッタと自分に言い聞かせる。
試験会場はさながら闘技場のようだった。ここで戦闘用教官と戦うらしい。
サネーは君たちを蔑むような目で見ている。視察組であるソフィ、エリス、イーニアにも同様の冷ややかな視線を浴びせていた。
君たちに先立って、ソフィ、エリス、イーニアが昇格試験に臨む。
***
教官は社会性を測定できるらしく、ソフィが叩き出した数値に慄いている。
ソフィのウインクひとつで、教官はその場にくずおれた。
イーニアもなんだかかっこよさげな魔法によって対峙していた教官を倒した。
エリスの匝から見るも恐ろしい賢、いわゆる〝あばば〟が現れて、教官に襲いかかる。
しかし――あばばを出した瞬間、エリスの社会性がものすごい勢いで下がりだした。
そしてついにはあばばが厘の中に戻ってしまった。
ただ、あばばを見た教官が失神したので、試験自体は合格のようだ。
エリスは君たちの顔色をうかがった。
そんな顔をしたつもりはなかった。しかし、もしそんな顔になっているのであれば、そういうことである。
本能的な恐怖心が働いたため、君たちはサネーの側まで逃げていたのだ。
しかもアリエッタが一番遠くまで逃げている。
まずい。エリスはアリエッタ性胃炎だが、これはこれで胃にダメージがいってそうな気がする。
むしろもっとあばばしていくべき君もそう言ってエリスを励ます。
でも平気よ。没落の憂き目にあったシヤルム家は冷ややかな目で見られることに慣れているから。
レナとリルム。それから、あなたもね。
なにかに耐えるようなエリスの微笑みによって、君たちの間になんだか妙な使命感が生まれた。
***
レナは教官まで一気に詰め寄ると、ゼロ距離で炎の魔法を放った。
こともなげに試験をクリアしてみせたのは、地道な消火活動のたまものかもしれない。
リルムは杖を握りしめ、教官に立ち向かう。
油断した教官にエターナル・ロアが直撃した。だいぶ深めにめりっといった。
残るは、君とアリエッタだけになった。
アリエッタは魔道空間から魔法書を取り出そうとするが――
どうやら魔道空間の入口が狭く、本が引っかかっているようだ。
教官の口から、謎の光線が放たれる!
君は持てる魔力の半分――否!すべての魔力をカードに込め、アリエッタの前に防御障壁を展開した。
謎の光線と障壁がぶつかり合い、激しい火花を散らせる。
閃光に驚いてのけぞった拍子に魔道空間から本が出る。
アリエッタが投げた本は――教官の口に直撃した。こちらも深めにめりっといった。
アリエッタの合格をもって、残る挑戦者は君だけとなる。
教官が君を見据えて、構えの姿勢をとる。それを見た君は、立ち尽したまま動かない。
悔いはなかった。
あのアリエッタを守ったのだから、名誉なことだ。落第は仕方ない――自分にそう言い聞かせる。
……ありがとう。君はアリエッタから角材を受け取る。
たとえ角材でも、ないよりはマシだ。なによりアリエッタの気持ちがこもっている。
君は角材を振り上げ――ってめちゃくちゃ重っ!
途轍もない重さだった。これ、ないほうがマシなやつだ。
教官の口から放たれた謎光線が迫る――君は角材を捨てて横っ飛びで逃げる。
なんか勘違いされていた。
とはいえ、逃げるわけにもいかない。君は魔カゼロの得物ナシで教官に挑む。
***
反撃らしい反撃もできないまま、君は教官の攻撃をかわし続けていた。
隙をみて何発か突きを放ってはいるが、ふわふわしたボディの教官にダメージは通らない。
魔力が回復する気配もなく、このままでは負けるのも時間の問題。やっぱり自分は、社会性が――
アリエッタの言葉に反応して、既に合格を決めている少女たちが次々に君ヘエールを送る。
くーろねこ!くーろねこ!くーろねこ!くーろねこ!
割れんばかりの黒猫コール。夢とか田舎の両親とかは知らないが、勇気をもらった気がした。
思い出せ。今までいくつもの修羅場を潜り抜けてきた。こんなところで負けるわけにはいかない。
絶対に勝つ!
君は上段への突きを放つ――と見せかけてッ!教官の足を払って押し倒すッ!
そこから素早く教官の足首を取って脇に抱え、極めるッ!
我が事のように喜んでくれるアリエッタを見て、ああ、悪くないじゃないか、マドーワーク――そんなふうに思えた。
しかし――カ任せが通用するのは、せいぜいDランクまで。
アリエッタはぶんぶん角材を振り回している。あれどうやって振っているのだろう……。えげつない脅力?
サネーの合図でやってきたのは――今までの教官とは比べ物にならないほどでかい教官だった。
アリエッタが角材をぶんぶん振り回すが、鬼教官はまったく怯んでいない。それどころかアリエッタに近づいていく。
鬼教官の剛腕がアリエッタに直撃し――
なんと、アリエッタが場外に吹き飛ばされてしまった。
君たちが大急ぎで職業訓練街に向かうと――アリエッタは瓦磯に埋もれていた。
微かな声が漏れ聞こえる。君たちは必死に瓦礫をどける。
出てきたアリエッタは、震えていた。
興奮を抑えきれない、満面の笑みで。
アリエッタは圧倒的な力を目の当たりにして――昂っていた。
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エリスは座学ルームの魔道検索機を使って、見てくれのいい職業を調べていた。
一族が扱う封印魔法には誇りを持っている。今後も当然使い続ける。しかし、ショックがないわけではなかった。
あばばのイメージを変えてくれるような職業を体験してみたい。無意識のうちに、そんなことを思っていた。
いつの間にかリルムが隣にいて、魔道検索機をのぞき込んでいた。
あばばだけじゃないよ、エリスさんがアイドルに向いてる理由。アイドルはピュアじゃないとなれないんだ。
今もアリエッタはソフィに見てもらっているの。本当に頼りになるわ。
レースに華を添える、レースクイーンという職業らしい。
無責任な教官は野菜を積んだ魔道リアカーを置いて、去っていった。
仕方がないのでエリスは野菜を売った。華やかな格好のおかげか、野菜は結構なペースで売れていった。
野菜がすべて売れたので上層に戻ろうかと思ったところ――
アリエッタの声が聞こえてきた。こちらに向かってきている。
どうやら、黒猫の魔法使いを追いかけ回しているようだ。
エリスの目の前を黒猫の魔法使いが猛スピードで駆け抜けていった。
その後ろをアリエッタが猛追する。
ホウキに乗ったソフィがそれに続く。
しばらく間を置いて、再び黒猫の魔法使いがエリスの前を駆け抜けた。ものすごく助けてほしそうな顔をしていた。
その後ろ、先ほどよりもタイムを詰めて、アリエッタが社会性を下げながら爆走する。
エリスはソフィの進路に立ち入り、止めた。
エリスは受け取った胃薬を水なしで飲み下し、怪獣の襲来に備える。
やがて――黒猫の魔法使いがやってくる。その後ろに、怪獣アリエッタ。
エリスは道の真ん中に立ち、アリエッタを迎え撃つ。
往来でのあばばのせいで、エリスの社会性がものすごい勢いで下がった。
知るか、とエリスは思った。
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ソフィは魔道検索機で自分に向いている職業を調べてみた。
生真面目かつ好奇心旺盛なあなたに向いているのは魔道科学者でしょう。
そもそもソフィは、魔道という大いなる未知に心惹かれ、あてもないまま身ひとつで田舎から王都に出てきたのだ。
ソフィはまずマドーワークのことが気になった。
マドーワーク自体は魔防法施行以前から存在していたが、利用するのは自主的に社会性を高めようとする者のみで、小規模な施設だったらしい。
魔防法が可決されてから新設されたのがここだ。島全体に広がる大規模な施設。特殊結界を利用した独自のカリキュラム。
ソフィは座学ルームを出るなりホウキに跨り、空高く飛んだ。
すると、一定の高さまで飛んだところで見えないなにかにぶつかった。
どうやら〈社会性=魔力〉の結界は、マドーワーカーの脱走を防ぐ役割もあるようだ。
いくら限られた空間とはいえ、魔道の法則性を書き換えるなど、膨大な魔力が必要なはず。
マドーワークは、すごい施設だ。魔道科学者の職業訓練も、きっと素晴らしいはず――
そんな体たらくだった。
ソフィは落胆しながら、未練がましく黒板に夢の発明を描いていく。すると――
アリエッタといえば山や街を破壊して回っているイメージだが、その主戦場は寧ろ学術分野である――とは学者たちの言い草である。
前から作れたらいいなと思ってて、アリエッタちゃんの論文読んだの。
防衛ッタちゃんやいい子エッタちゃんを生み出した魔法がまとめられていたやつ。
アリエッタは不思議そうに首を傾げる。
アリエッタは黒板にさらさらと魔道理論を書いていく。
魔道空間を維持する要領でアレをアレしてー、魔力安定溶液をぴちゃっとやれば、いい感じ。
ソフィはアリエッタの理論に基づいて、ごにょごにょした上でアレをアレしてびちゃっとやった。
ソフィはさっそくスマートほうきを使ってみる。柄を握りしめて魔力を流すと、穂先がぴょこぴょこと動く。
宙に浮遊していたスマートほうきは、猛スピードで動き出し――
それでもソフィの社会性は上がった。つまりそういうことである。