【黒ウィズ】アルティメットワーキングガールズ! Story5
story
作戦決行の日は、晴れであった。
サネー・ウェスト氏が定める社会性に不正疑惑が持ち上がっています。実社会で通用しない可能性が出てきました。
今日は、とある団体で要職を務めているEさんにインタビュゥゥウです。
しかし実社会のEさんは魔道士協会の筆頭理事を務めるすごい人です。
職業訓練でレースクイーンをやったのですが、マドーワークではレースが開催されていないんです。
さらには、気に入らない者は卒業させないという著しく公平性を欠く決定も日常的に行われています。
サネー氏に支配され続けていたら、真の社会性を手に入れられないどころか、一生マドーワーク暮らしということもありえます、
「マドーワーカーよ、今こそ立ち上がれー!」
意外にも暴動フェス会場にはたくさんのマドーワーカーが集まった。みんな日頃から暴れたいと思っていたのだ。
一部のマドーワーカーたちは早くも魔道火炎ビンを建物に向かって投げている。
騒ぎを聞きつけた教官が群れをなしてやってきた。
先ほどまで活き活きと火炎ビンを投げていたマドーワーカーたちは、アリエッタの後ろに隠れる。
閃光。爆音。魔道砲が直撃した教官の外側が燃え上がり、内側が逃げ出していく。
暴動の指揮を執るのはレナだ。破壊衝動と理性を絶妙なバランスで併せ持つ、希少な人材である。
エリスは力強くうなずくと、マドーワーカーたちの輪の中に入っていき、レースクイーンの旗を高く掲げる。
エリス率いる遊撃隊は裏路地を駆けながら街を破壊していく。
魔道砲の轟音が響き渡り、マドーワーカーたちが沸いた。
暴徒を引き連れ、魔道選挙カーは職業訓練街の中心部へと向かっていく。
教官たちでは収拾がつかないと判断したのか、ついにサネーが職業訓練街に現れる。
サネーの言う通りだった。暴れたら暴れただけ社会性が下がってしまう。
イーニアは静かにひとりごち、笑った。
***
君とソフィはマドーワーク上層内部を移動していた。
たどり着いたのは、複数ある座学ルームのうちのひと部屋。
四次元……魔道……解析?聞き慣れない言葉に固まっていると、ソフィが説明してくれる。
さすがソフィだね。結局よくわからないが、さすがソフィだなあと思ったので、君はそう言った。
ソフィの指先から放たれた鋭い一条の雷が、床へと降り注ぐ。
床の下には、階段があった。
生かしておいて、何かに利用するつもりなのかも。
とはいえ、安心もできない。君がそうつぶやくと、ソフィは重々しくうなずく。
君たちは逸る気持ちで薄暗い通路を駆けていく。
だけど……アリエッタちゃんたちの暴動は、ただの陽動じゃない。
ソフィたちが魔法陣を描き換えた瞬間に最強になる……〝革命〟なの!
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イーニアがひよこを路上にばらまく。すると立ち向かってくる教官たちの足が止まる。
そんなやりとりをしている教官たちを、レナが容赦なく燃やしていく。
魔道ホースの先から炎を噴射する、いかれた消防士である。
しかしひよこ戦術を知った教官たちは、接近せずに遠距離から謎光線を放つようになる。
サネーは自ら手を下すことなく、教官隊によって蹂躙されるマドーワーカーたちを愉悦の表情で眺めている。
暴動によって社会性が下がり、徐々に疲弊していく暴徒たちを、じっくり観察でもするかのように。
しかし暴動/陽動組の目的は時間稼ぎだ。サネーを下層に留めておけさえすればよい。
レナとイーニアは魔道選挙カーの陰に隠れて教官隊の攻撃をやり過ごしていた。
扱いやすい優等生と言われたレナはわざとらしく口をゆがめる。
レナは素早く駆け出すと、不満をぶつけるかのように魔道火炎ビンを教官隊に放り投げ、再び魔道選挙カーの陰に隠れる。
だが、レナ程度の優等生なら、ギリなんとかいけるかもしれない。
今度はイーニアが魔道選挙カーの陰から飛び出し、魔道手榴弾(パイナップル)を教官隊に放り投げる。
……これがなかなかどうして、悪くない時間なのだ。ずっと暴れていたいとさえ思う。
とはいえ、これだけの破壊行為に及んだのだ。暴動/陽動組の社会性は最底辺にまで下がり、魔法らしい魔法も使えない状態にあった。
それに勘づいているであろうサネーが、煽り立ててくる。
魔道士協会は魔道士評議会の傀儡となり、ハーネット商会は資金源に。あなたたちの時代は終わってしまうのです。
サネーの足元で倒れているのは、遊撃隊を鼓舞していたエリスだった。
そのとき、マドーワーク上層部から凄まじい爆発音が響いた。
もうもうと煙を上げる浮島のような上層部が、浮力を失ったのか降下している。
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暗闇の中で、巨大な魔法陣に流れる魔力だけが煌々と光っていた。
この島に昔からあったもの。たぶん、封印された古代の魔道士の力を利用しているんだと思う。
これは〈社会性=魔力〉の結界でもあるけど、同時に古代の魔道士を封印するものでもあるの。封印しつつ、その魔力を利用する結界。
漏れ出る魔力だけでもこの邪悪さだ。もし結界を壊したら大変なことになる。
問題は、流れている魔力。魔法陣を描き換えるには、流れている魔力を一時的に逃がさないと。
そのために、君はソフィのお供に指名されたのだ。
任せて。君は静かに、しかし力強く答えた。
確かに社会性はないかもしれない。それでも魔道には自信がある。
厄介な敵と戦ってきた。強力な精霊の力を使いこなしてきた。経験に基づいた器用さがあると自負している。
社会性がなんだ。自分は魔道バカ一代だ!
ソフィがホウキの柄で、魔法陣の一端を突く。そこから漏れ出る魔力を、君は左手で受け止める。
禍々しい療気じみた魔力が全身を駆け巡る。思っていた以上にきつい。次第に精神が侵蝕されていく。
ウィズとソフィの声で意識をつなぎとめる。大丈夫、ソフィは魔法陣の描き換えに集中して。君はそう伝えて、カードを手にする。
この膨大な魔力を、カードに込める。一時的な魔力の貯蔵場所としてカードを使うのだ。
使うカードは、強力なものでなければならない。なにせこれだけの魔力なのだ。
君は究極(・・)のカードに、魔力を込めていく。
アリエッタ。
ソフィ。
レナ。
エリス。
イーニア。
リルム。
究極の少女たち(アルティメットガールズ)は、膨大な魔力を易々と蓄えていく。
そして、妙に懐かしい気持ちになってくる。
いろいろあった。というかいろいろ遭った。でも、なんだかんだで楽しかった……。
危ないところだった。とめどなく君の身体へと流れてくる魔力をカードに込めていかねば。
しかし、一度に扱えるカードの限界枚数を既に超えていた。
それでも、やるしかない。君はさらに3枚のカードを手にして瘴気じみた魔力を込める。
そして、ついに――
安堵から、ふっと力が抜け――
その拍子に、追加で魔力を込めた3枚のカードが暴発する。
あ。(がおーっ!消し炭にしてくれる!!!)
ああ……。(キャッチ&ボンバーーー!!)
あああああああああああああああ!(超マジカルグレェェートリルム!いっくよーー!)
えげつない大爆発。
しかし、不幸中の幸いで魔法陣は無事だ。
かと思ったら、地面が揺れだした。そして地の底に沈んでいくような感覚。
〈社会性=魔力〉の魔法陣を〈反社会性=魔力〉に描き換えてすぐ、マドーワークの上層を壊しちゃうんだもん。
黒猫さんの反社会性、すっごく上がってる!
確かに、君の魔力がぐんと跳ね上がった。
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今までとはあべこべです!これからは〈反社会性=魔力〉です!
速報を聞いたマドーワーカーたちが我先にと暴れだす。
マドーワーカーと教官が入り乱れて、互いを攻撃し合いながら街を破壊していく。
地獄絵図であった。
中でもひと際地獄じみているのは、アリエッタとエリスだ。
アリエッタが魔道選挙カーで砲撃しながら、建物を潰していく。
エリスが教官たちを手当たり次第にあばばしていく。
これずっとやり続けたくなるやつだわやめどきがないやつだわ!
家屋が倒壊する音と、教官のあばばという悲鳴が君の耳にこびりつく。
君が地獄に圧倒されている隙に、いつの間にかソフィが教官に絡まれている。
しまった。ソフィは社会性が高いから、革命が起きた今となっては非力な少女でしかない。
君がにらみをきかせてカードを構えた瞬間、ソフィに絡んでいた教官がばたりと倒れた。
地獄の中にあっても、マドーワーク上層を破壊した君の反社会性は飛びぬけているようだ。
君たちはイーニアたちと合流する。今まで暴動を起こしていた彼女たちは既に反社会性が高まっている。
ソフィはぎこちない動作で投石し、魔道スーパーの窓ガラスを割る。
すると――ソフィの反社会性が急上昇した。たった1枚のガラスを割るだけで、上がる魔力はけた違いだ。
言いつつ、イーニアも魔道スーパーに投石する。こちらもまた、反社会性の上がり方がすごい。
君たちは反社会的行為を繰り返しながら、サネーの元へと進んでいく。
***
反社会的な行為をしながら進む君たちに対し――反社会的な行為をしながら撤退するサネーたち。
互いに魔力を高めた状態で、ついに直接ぶつかり合う。
顔をしかめたサネーは、君たちに立ち向かおうとしている教官隊を自らの手で倒していった。
教官が悲鳴を上げて倒れていくたび、サネーの反社会性が上がっていく。
ギリギリと歯ぎしりをするサネーを見て、君たちは一連の騒動の終結を感じた。
はずなのに。
なんの前触れもなく、サネーの反社会性が上がった。
今になって私の反社会性が急上昇しているということは!汚い手を使った革命が!外の世界で進んでいるということ!
適当な効果に書き換えておけばいいものを!〈反社会性=魔力〉にしたのが運のつき!ぬかりましたね!この■!
サネーは巨悪と呼ぶにふさわしい、圧倒的な反社会性を放っている。
形勢は逆転してしまった。
撤退を指示しかけたアリエッタがサネーを指さす。
サネーの魔力は小刻みに上がったり下がったりを繰り返している。
まるで社会性と反社会性が一進一退の攻防を繰り広げているかのようだ。
入ってないから!
……いや。君は反社会性を意識して入ってるよと言い直す。見たらタダじゃおかないからね?
君たちは魔道選挙カーから飛び降りて、再びサネーと対峙する。
サネーは教官もマドーワーカーも一緒くたに倒し、更に反社会性を上げる。
この場で■■■■■■■■■■■■■■■■■!
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サネーの発する言葉は、もはやピヨピヨ暴言ばかりになっている。それぐらい、気持ちに余裕がないということだ。
あと少し。あと少し君たちに反社会性があれば、勝てる!なにか打開策は――
みんなでつなげよう、反社会性の輪!これがわたしの選挙スローガン!
さすが、魔道の明日を担う次世代のリーダーだ。アリエッタのスローガンで、君たちはひとつになった。
まず反社会性を調達するのはイーニアだ。
イーニアの周りにくちゃくちゃの名刺が投げ捨てられる。
社会的地位のある彼女が、こんな幼稚なことをしているのだ。魔力は瞬く間に上昇する。
イーニア渾身の攻撃魔法を食らったサネーはうめき声とピヨピヨ暴言を吐く。
レナはメガホンを手にして,魔道選挙カーの上に登る。
みんながまったく興味ないことを、大音量で発表する。これは社会性がない。
しかもエピソードトーク等はなく擬音のみの発表。これはあまりに反社会的だ。
サネーと戦いながらもきっついなと思った君は、もう十分じゃないかとレナに声をかける。
君たちがサネーから離れ、地面に伏せた直後、反社会性をチャージしたレナの魔法が爆ぜた。
と言ったきり、リルムは黙り込んでしまった。
エターナル・ロア(魔道キャメラマン)がエターナル・ロア(杖)を投げた。
サネーに工ターナル・ロアが直撃し、反社会的な魔力がほとばしった。
サネーはイーニア、レナ、リルムに任せ、君たちは反社会的チャージをする。
アリエッタとエリスはコンビプレーで反社会性を高める。
ふたりで魔道スーパーの中を駆ける姿はほほえましいが、やってることはゴリゴリの犯罪である。
君も負けていられない。
魔道自販機に蹴りを入れて破壊し、タダでジュースを飲みまくる。
まだまだいけるはずだ。ウィズ、なにか社会性のないこと言って!君は社会性が連動しているウィズにお願いする。
みんなで強敵に打ち勝とうとしている最中に、帰りたい宣言。
なんて社会性がないのだろう。さすが師匠だ。君の魔力が爆発的に跳ね上がった。
そんな中、ソフィはといえば、1枚の紙切れを手にしている。
ソフィはさらさらとペンを走らせ、書類にサインを終えた。
ソフィがそう言った瞬間、ソフィの反社会性が迸り――
君は〝圧〟だけでふっ飛ばされた。
社会性5兆のときよりも、確実に強い。会社のお金で高級住宅を買うということは、それだけ悪いことのようだ。
君たちの元に、反社会的な何かが近づいている。
それは魔道選挙カーに乗ったアリエッタとエリスだった。
一体お惣菜をどう売りつけたのか。ソフィに負けないくらいの反社会性をたたえている。
アリエッタの顔からは、並々ならぬ決意がうかがえた。
アリエッタは魔道空間から魔法書を取りだし、詠ずる。
新魔法書――36万頁!凶!哭!災!滅!獄!……が全部入りのやべえ玉!
アリエッタは、どう見ても悪い奴が放ちそうな魔力の塊をぶん投げた。
君とソフィは二重の防御障壁を展開してみんなが巻き添えを食らわないように守る。
アリエッタのやべえ玉はおぞましい瘴気を放ちながらサネーヘと向かっていき――
この世の終わりを思わせる魔力を迸らせた。
自分たちはマドーワークで一体何を学んだんだろう。君は白目を剥きながらそう思った。
***
君はうっかりマドーワークの制服を借りパクしてしまった。
暴動という名のマドーワーク卒業は、あまり卒業したという感じがせず、制服を脱ぐタイミングを逸してしまったのだ。
やはり卒業には式典が必要なのだなあと思った。
あのあと、君たちは外の世界の革命を止めるべくマドーワークを脱出した。
アリエッタが魔法書を取り出し、再びこの世の終わりみたいな光景が広がろうとしたその時――
m皆さん!ご無事だったのですね!
ミツボシが君たちの前に現れた。
mあ、その件でしたら既に解決済みです。関係者総勢83名、すべて捕まえました。
m魔道士評議会を中心とした連中の悪事は白日のもとにさらされました。
内通者がいる腐敗した協会も、きれいさっぱり生まれ変わりました。
その場にいる全員が、ミツボシの手際の良さに呆然としていた。
m今回の一件を知ったときはどうなるかと思いましたが、案外どうにかなるものですね。
そんな感じでミツボシが魔道士協会の新たな筆頭理事になった。
サネーを魔道留置所にぶちこんだ後、君たちはエリスの家でマドーワーク卒業記念パーティーをやっていた。
mあの、わたくしも卒業パーティーにご一緒してよろしかったのでしょうか。
m欲しいものというか……。わたくし、黒猫の魔法使いさんと戦ってみたいです。
グリモワールグランプリではあまり戦えなかったので。自分の実力を試してみたいんです。
えっ。
mよろしくお願いいたします。胸を借りるつもりでいかせていただきます!
このあとミツボシと戦ってえらい目に遭うのだがそれはまた別の話である。
驚いたのは、そのまたあとのことだ。
明日の魔道バーベキューに備えてみんな寝静まっている中、君はひとり夜の街に出る。
別れの時が近づいていることを悟つたのだ。
誰にも見られずにこの異界から離れるその瞬間を――
なぜか、ソフィがついてきたようだ。君は咄嵯に言い訳を考える。ちょっと眠れなくて、夜風に――
息が止まった。
なにか理由があるんじゃないかと思っていろいろ調べたの。そのために、四次元魔道解析の研究にも本腰を入れたんだ。
四次元魔道解析はマドーワークの結界の場所を探すときに使われた技術だ。
残留している魔力を解析してわかったんだけど、魔道空間に似た何かが発生しているの。
ソフィはそれを〝空間a〟と名付けた。空間aはこの世界と魔力の連続性が断たれたどこかに通じてる。
ソフィがものすごい精度で異界の歪みについて研究している。君の背中が汗でじっとりと濡れていく。
突然現れる謎の空間を通って、こことは違う世界にいっちゃうんだって。
魔道の探求に心血を注ぐこの異界だ。異界の歪みについて教えたら、当然解明しようと躍起になるだろう。
しかし異界の歪みは謎も多く、危険なものだ。いくら究極的な彼女たちでも、安全が保証されるわけじゃない。
どう説明したものか――君が焦っていると、なぜかソフィも焦りだす。
そんなはずないって信じてるけど……もしかしたらって思うと……。
嫌いだからいなくなってるわけじゃないと、君は即座にソフィの懸念を打ち消す。事情を説明できないことが歯がゆかった。
ソフィはそう漏らしたきり、空間a=異界の歪みについて聞いてこなかった。
勝手に調べてごめんなさい。ソフィ、わからないことがあると知りたくなっちゃうの。
でも、安心して。これ以上黒猫さんの嫌がることをするつもりはないから。
こっちこそ、隠し事してごめん。事情を酌んでくれて、ありがとう。
そう謝った君の身体が、淡い光に包まれる。
またいつか、と言って君はソフィと別れる。
この異界を知って久しいが、きちんとお別れをしたのはこれが初めてだった。
社会性が、少し上がったような気がした。`
職・超魔道列伝
アルティメットワーキングガールズ
~END~