【黒ウィズ】アルティメットワーキングガールズ! Story3
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アリエッタは魔法書を投げ、教室の壁を破壊した。
順調に強くなってる!この調子でいけば、完全体アリエッタになる日も近い!
アリエッタは突き破った壁を修復すべく、魔道漆喰をこね始める。
壁を突き破ってはいるものの――アリエッタは驚くほど真面目に、職業訓練に励んでいた。
一昨日は郵便配達をやり、昨日は大工をやり、今日はこれから魔道自販機の補充である。
鬼教官に殴られてからというもの、アリエッタは熱心に社会性を求めだした。
強くなりたい。どんな魔道士も当然抱いている感情のように思えるが、アリエッタは例外だ。
始めから最強だった彼女にとって、強くなりたいという感情は新鮮で瑞々しいものなのかもしれない。
破壊された壁を前にして言うセリフでもないのだが、君も同感だった。
職業訓練をすれば強くなれる。昨日は使えなかった魔法が、今日は使える。駆け出しだった頃の喜びを思い出す。
含みのある笑みを浮かべたサネーが、君たちのもとへやってきた。
君たちはあっけにとられる。突然、サネーがピヨピヨ言いだした。
ピヨピヨ暴言を吐かれて動揺しているエリスに、相手にしないほうがいいよと君は耳打ちした。
言ってもセーフな汚い言葉によって、サネーの社会性がじわりと下がった。
しかし、それをものともしないほど、秘めたる社会性は絶大だ。
……挑発されたところで、やることは変わらない。
君たちは職業訓練街に繰り出し、魔道自販機の補充に励む。
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今日も魔道自販機の補充をやろうと君は思っていた。
ジュースを補充するたびに小気味よく社会性が上がっていく感じが心地よかった。
しかし君たちはソフィに呼び出されたため、職業訓練街ではなく座学ルームに集まっていた。
人間の器が大きい。さすがソフィだ。
あと、ハーネット商会トップの親友なのに採用面接に落ちてるリルムも、さすがだ。
よっぽどだったようだ。
君はソフィから名刺を受け取る。よくよく見れば君の肩書きが〝魔道士協会所属〟かつハーネット商会外部顧問、になっていた。
名刺交換のときは、相手の名刺より低く自分の名刺を出すのがマナーだよ。
君たちは軽く練習してから、下層の職業訓練街に繰り出していった。
それぞれが別の区域に散らぱったが、なぜかソフィは君についてきた。
黒猫さんは控えめなところがあるでしょ?遠慮しちゃうかなと思って。ソフィ、離れたところから見てるね!
この過保護感。新人魔道士どころか、子ども扱いだ。なんとも言えない気持ちがこみ上げてくる。
ここはひとつ、ビシツと名刺交換をしてソフィを安心させよう。
君は前方からやってくるマドーワーカーに声をかける。あの、名刺交換よろしいでしょうか――
シカトされた。
まあ、それはそうだろう。見ず知らずの人間から名刺交換をお願いされて、易々と応じてくれるほうが珍しい。
めげずに別のマドーワーカーに声をかける。突然失礼いたします。名刺交換――
……大丈夫。今までいくつもの修羅場を潜り抜けてきた。君は引き続き魔道百人名刺交換に挑む。
***
15人連続で名刺交換を断られた君は、たまらず路上の隅に座り込み、手持ちの力ードの整理をすることにした。
限られた魔力で戦うとなれば、使える力ードも限られてくるから。カードを厳選してるんだよ。
心を無にしてカードの整理をやっていると、ソフィがやってきて、隣にしゃがみ込んだ。
「粗悪品だから必死こいて売ってるんでしょ?」
「お前の話なんて興味ねえんだよタコ」
……うん、いろいろ言われた。言われたなあ。
ソフィは噛みしめるようにつぶやき、天を仰ぐ。
廃道百人名刺交換なんて無茶なことやらせてごめんね。今日はもう帰ろう?
ソフィの気遣いが胸に沁みる。そして、へこたれてられないと思う。
こっちこそ心配かけてごめん。もう大丈夫。君は立ち上がり、再び名刺を手にする。
そして果敢に声をかける。恐れ入ります!名刺交換していただけないでしょうか!
君は心を込めて名刺を差し出す。きちんと、相手の名刺より低い位置で。
君は名刺と間違えてカードを渡していた。しかも渡したカードはこの異界的にヤバいやつだった。
マドーワーカーはアルガムナドのカードを投げ捨てて走り去った。
君の社会性がごっそり下がる。1周回ってなんだか楽しくなってきた。
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メリィ・ミツボシは魔道タブロイド紙「マ・ドゥ」の熱心な読者であった。
マ・ドゥといえばゴシップ記事ばかりで、極稀にしかまともな報道をしない低俗な大衆紙である。
ミツボシが下劣な魔道士なのかといえば否。連載小説の「用心棒エーネヤ」を楽しみにしているのだ。
m早くエーネヤ先生の活躍を読みたい……。
用心棒エーネヤとは、小さくてかわいらしい旅の魔道士が悪を挫く痛快活劇である。
困っている人を助けるときのキメ台詞がたまらない。
たまに入る挿絵にはものすごく見覚えがある。おそらく本人には許可をとっていない。
一番乗りでエーネヤを読みたい。そんな思いでマ・ドゥ社に直接タブロイド紙を買いに来たミツボシは驚愕する。
昨日までマ・ドゥ社があった場所は、更地になっていた。きれいさっぱり、跡形もなく。
mエーネヤ先生はあれからどうなったのでしょう?悪の魔道士に縛り上げられてましたが……。
などという思考をすぐに振り払い、この異常事態の理由を考える。
mマ・ドゥでは最近サネーさんのゴシップ記事が目立っていました……。
魔道士サネー・ウェストの転落人生という特集が数日に渡って組まれていた。
mけれど昨日の記事は少々毛色が違ったような……。
マドーワーク新設に隠された黒い計画。魔道史上最悪のスキャンダル!……みたいな感じだったでしょうか……?
具体的なことはなにも書かれておらず、信憑性は薄かった。そもそもマ・ドゥに信憑性を求める読者はいないが。
m先生たち、マドーワークに行ってますが……。大丈夫でしょうか。
エーネヤで頭がいっぱいだったミツボシの中で、イーニアたちへの心配が膨らんでいった。
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我は今、もう何度目のことか思い出せないが、売却の危機に瀕していた。
数刻前、小娘は考えた。
アホなりに考えた末、ソフィと同じことをすればいいという結論に至った。――起業である。
無駄にフットワークが軽い小娘は起業した。といってそう簡単にできるはずもなく、やっていることはひとり蚤の市である。
アホの極みである小娘だが、唯一、賢さの片鱗を見せた。
小娘は私物を売りに出しているが、その中で一番高額なのは我である。
だから我と魔道ナックルダスターの値段がほぼ一緒なのか……。
それからしばらくの間露店営業をしたが、なにも売れなかった。
小娘は魔道リアカーに商品を積んで、移動販売を始める。
世の中どうなるかわからないもので、小娘の移動ひとり蚤の市はうまくいき、完売御礼となった…………我を除いて。
強気の価格設定が災いしたわけではなかった。むしろ一番最初に値引きとなったのは我だ。
お値段、0ザッパー。投げ売りである。
我は売りに出されても投げられるんだなあと悲しい気持ちになった。しかも投げ売りで売れないという。
小娘は我を壁に立てかけ、魔道リアカーを教官のところに返しに行き――
そのまま帰ってこなかった。結果的に不法投棄である。
我は荒れた。したたかに酔った。
まあ、したたかに酔ったというか、バーの裏手に捨てられたので、雰囲気に酔ったみたいなところはある。
そんな感じで騒いでいると、バーテンダーらしき男が我を拾おうとした。ので、そのまま精神を乗っ取った。
〈社会性=魔力〉。マドーワークにおける絶対公式である。
自分で言うのもどうかと思うが、我、社会性はかなりあるほうだと思う。つまり、我は強い。
しょぼしょぼな魔法しか出なかった。そのしょぼさたるや、マドーワークに来てすぐの怪獣娘レベルだった。
我は半泣きで街を駆けた。
***
ろくに前も見ず夢中で走っていると、誰かにぶつかる。
恥も外聞もなく、我はソフィに泣き言を言った。
小娘に実質的に不法投棄された。それはいつものことだからこの際どうでもいい。問題は我の社会性が低く判定されていること。
ソフィは我の目をまっすぐ見て、言う。
しかしソフィの社会性は下がらなかった。むしろちょっと上がった。
そういえば先日、小娘もやっていたが、名刺交換をするたびに社会性が上がっていた。途中で飽きてやめていたが。
ソフィは我が小娘に捨てられることを想定していたのか。……まあ、誰でも想定できるか。
我は柔和な笑みを意識して、マドーワーカーに話しかける。我の社会性の高さを見せてやる。
去っていくマドーワーカーの背中が霞んで見えた。
別に黒猫の魔法使いに対抗心を持っているわけではない。
しかし、黒猫の魔法使いがやり遂げたものを、我が秒速でリタイアするというのは、ちょっとどうなの、という思いがあった。
我は名刺を低く構えて、街をずんずん歩いた。すると――
小娘と再会した。
自分で言っていて、確かにわけわかんないなと思った。丁寧な言葉遣いなのに全然社会性が上がらない。
目を疑った。小娘は酒瓶を握りしめている。あれで我を殴る気だ。
我は走って逃げた。そして機転を利かせる。
路地裏に入った瞬間、バーテンダーヘの精神乗っ取り状態を若干緩めて9割程度にした。
我に精神を乗っ取られると顔も服装も我になるのだが、9割程度なら原型が少しは残るはずだ。
服装しか変わってないが、騙せたようだ。それもそれでどうなんだ。
よーく声を聞け。我、杖だぞ?
ソフィ!小娘向きのいいアドバイスだが今は邪魔だ!
イーニア・ハーメティック・ソルルスト・ラクトリティシア・ウォルヴィアラ・メメスリスムルナ・ストラマー3世。な?
よし。どうにか間違えずに言えた。
小娘が酒瓶を握り直す。戦いは、避けられない――
***
我はバーテンダーヘの精神乗っ取りを完全なものにする。
我と小娘はいい勝負だった。魔杖である我と無駄に魔道の才能がある小娘。激戦は必至――
というほどいいものではなく、我も小娘も社会性がないがゆえの泥試合である。
小娘が酒瓶を振り回す。我は必死でそれをかわし続けた。
酒瓶で殴られたら、痛いだろう。しかし恐ろしいのは最初の一撃ではなく、次の一撃だ。
最初の一撃で砕けた瓶が、鋭利な刃物に変わる。たぶん血とかいっぱい出る。
そして、これが情というやつなのだろうか。
割れた酒瓶で我を刺したら、小娘の社会性がすこぶる下がるだろうなと心配になった。
魔道チンピラじみた真似をしていたら社会性が下がってしまう。社会性が下がったら、マドーワークを卒業できない。
卒業できなかったら魔道士資格剥奪だ。資格がなければ魔杖も使えない。
小娘は酒瓶を地面に置いた。それを見た我はだいぶ冷静さを取り戻す。
今更気づいた我も大概だが。
マドーワーク卒業を目指して頑張ろうではないか。困ったことがあったら力を貨すぞ?
あ、いいこと教えてあげよっか?掃除とかゴミ拾いすると社会性が上がるんだよ。ソフィちゃんが言ってた。
小娘は我に一礼してから去っていった。
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イーニアは魔道ひよこ鑑定士の訓練をしていた。
魔道ひよこはメスとオスにわけられる。メスは採卵用に育てられ、卵を産まないオスは戦闘用の魔道ニワトリになるのだ。
ひよこ相手に四苦八苦していると、相手を見下すような笑みを浮かべたサネーがやってくる。
サネーは逃げ出そうとしている1羽のひよこをそっと拾い上げる。
かつてサネーは才能豊かな魔道士だった。それこそレナ・イラプションやメリイ・ミツボシに匹敵するような。
***
イーニアとサネーはカウンターの席に座り、バーテンダーにオーダーする。
ストラマーはその比率が15対1になるハードなカクテルです。
15人の魔道士相手にひとりで立ち向かった先生の逸話が元になったものですわ。ご存知ありませんの?
魔道マティーニのストラマーが特別飲みたいわけでもないので、イーニアはサネーの言う通りミルクをオーダーした。
それからふたりは黙ってグラスに口をつける。バーテンダーのグラスを磨く音だけが沈黙の中で響いている。
グラスに沈むオリーブの実を見つめながら、サネーが言った。
サネーは魔道マティーニのストラマーをゆったりと飲み干す。
サネーは音もな<立ち上がると、イーニアの頬を張った。
ほぼピヨピヨな言葉を吐き捨てて、サネーは店を出ていった。
バーテンダーに、というかエターナル・ロアに引き留められた。
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我だ。魔杖エターナル・ロアだ。我はぼったくりバーの店長を殴ってバーテンダーを辞めた。
どこか清々しい気持ちで佇んでいると、小娘がやってきて魔道キャメラを渡してきた。
魔道キャメラとは特殊な魔道具で、目の前の光景を離れたところにある魔道ビジョンに映す――
要するに歌って踊るあの世界におけるテレビ放送のようなシステムである。
……という知識はあるものの、我は当然、魔道キャメラマンの仕事などしたことがない。
とりあえずそれっぽく魔道キャメラを肩に担いで小娘についていく。
まずは街角で人を探します。あ、人がいました。インタビュゥゥウしていきましょう。
そうだな、私にとって、いや、魔道士にとって働くとは即ち――
なぜか我が怒られた。それを無視して小娘はずんずん街を歩いていく。
次のインタビュー相手を探しながら、小娘は不満げなまなざしで我を見る。
ちょっとモラルなさ過ぎるよ。
なんかいろいろ面倒なので、無視した。小娘が我のこと無視してるときって、こういう気持ちなのかなと思った。
小娘は手持ちのボードのYes側にぺたりとシールを貼った。
ちなみに私は、はたらくということについて、あまりいい印象は持ってません。