【黒ウィズ】聖サタニック女学院2 Story2
聖サタニック女学院2 Story2
story
空いた時間を利用して、君は自室で足かせを取ろうと試行錯誤していた。
wなかなか切れないにゃ。とんでもなく頑丈な足かせにゃ。
どうやらただの鎖ではないようで、君の魔法でも切ることはできなかった。
魔法や物理的な衝撃で解除できるような代物ではないようだ。
そうなると、益々ミィアになんとかしてもらう必要があるが、話が通じないのでかなり絶望的である。
君が目の前の現実にげんなりしていると、扉をこつこつ叩く音が聞こえた。
E入ってもよろしいですか?
エレインだった。君は鎖をじゃらじゃらと引きずりながら、扉の前まで行った。
Eお休みのところ申し訳ありません。
もうすぐディナーの時間になりますが、その格好では貴方も居心地の悪い思いをしてしまうかもしれません。
着替えを持ってきました。
エレインは君にいくつかの衣装を差し出した。どれも格式に則ったものである。
色々と問題はあるが、イニス家は魔界の名家という話である。そのディナーも、平服で参加するわけにはいかないのだろう。
Eあ、あと、その仮面なんですが……。
考えてみれば、この仮面をつけたままでは、食事は出来ない。
さすがにディナーでは外してもいいのだろう。と彼女の言葉に君の心は躍った。
Eその仮面もディナーには向いてないので、着替えも持ってきました。
と、冷たい塊を持っていた衣装の上にドスンと置かれてしまう。
Eさ、わたくしは向こうを向いていますから、仮面を着替えて下さい。ちょっと合わせないといけない部分があるんです。
>君は仮面を着替えなかった。
きゃ!全裸伯爵!なんてはしたない格好を!はやく仮面をつけてください!
君の顔を見るなり、エレインは両手で顔を、というか仮面を覆った。
流石に、そんな反応をされたら、君もなんだか恥ずかしいことをしているような気分になる。
前から思っていたが、この家族の言う「全裸伯爵」とは何だろうと思いながら、君は仮面をつけた。
E仮面の後ろの膨らみに触れてみて頂けませんか?
と、君はエレインの言われた通りに、仮面の後ろを探る。指先に膨らみの感触を感じる。
そこを押してみてください。
押してみた。
光がエレインを照らした。
Eそこを押すと目が光ります。暗い時に照らして下さい。こんな風に。
エレインの眼が光った。
Eあと、変声することもできますよ。
こんな風に。どうですか?便利でしょ。A
便利……かな?よくわからないけど。
と、君は正直な感想をミィアの真似をして言ってみた。確かにミィアの声だった。
Eふふふ……そんなバカな。
どうやら彼女は便利だと信じて疑わないようなので、諦めて着替えることにした。
Eご案内しますので、着替えたらサロンに来てください。
***
サロンに降りると、みんなもいつもとは違い、綺麗な衣装に着飾っていた。
その姿に、改めて、ここが魔界の上流社会なのだと意識させられる。
しかし、着飾ったみんなを見ると、なんだか別人と会っているような気にさせられる。
と、スローヴァで君の眼が止まる。・
いつもと同じだった。よく見るとこの人が一番「全裸伯爵」に近い気がした。
vどうした?
wズローヴァはいつもと同じにゃ?なんでにゃ?
mヤガダの男は裸が正装なんだよ。
君はそうなのか、と思った。確かにこの人に無用な服を着せるよりは、裸の方が凛々しそうだ。
こういう人が真の「全裸伯爵」なんだろう。
自分もズローヴァのように仮面を脱ぎ捨てたい思いが強く募った。
mでも。ニンゲンも良い感じじゃん。
どこをどう見てそう思ったのかわからないが、君はミィアに、借り物だけどね。と返した。
そして、そのままの流れで、ディナーなので足かせを外してほしいとお願いしてみた。
仮面は無理でもせめて足かせだけでも外せたら、と思ったのだ。
mなんで。ディナーだからなんで外すの?なんで、なんで?
君の願いはついえた。
何となくそう思っただけだよ、と伝えて、面倒くさいのでその話は終わらせた。
どうしようもないようだった。
mでもさ、ここのディナーは期待してもいいよ。特におすすめは豚の血のソーセージだよ。
あ、でもニンゲンは豚の血は駄目なんだっけ?前にそんなこと言ってたよね。
あの時は、飲むかどうかを聞かれたから、飲まないと言っただけだよ、と君は答える。
実際、ブラッドソーセージは定食屋などで食べたことがあった。
少し癖の強い昧だった覚えがある。少し癖の強い味だった覚えがある。
m飲まないのに、ソーセージは食べるの?それって変じゃない?
rお前は飲むのか?
m飲まないよ。
rだからなんで!自分のやらないことを!他人がやると思うんだよ!
どうやらミィアは人間由来のイニス家で、ブラットソーセージが名物だったので、人間は豚の血が好きなのだと思ったらしい。
wなんかちょっと考え方に飛躍があるにゃ。
そんな話をしていると、サロンにイニス家の人々が現れた。
Aお待たせしました、皆さん。
Eディナーの準備が出来ましたので、ご案内します。
A今宵のディナーは我が娘、エレインがホストを務めます。
アンリの言葉に合わせて、エレインは恭しくお辞儀をする。そして、導くように歩き始めた。
君たちはエレインについて、一室に入った。
そこは……。
何かが違った。
rなんじゃこりゃー!
Eでは、始めましょうか。魔界のディナーを。
***
mうわっち!
ミィアは振り下ろされる腕をかわすと、渡されたナイフとフォークで巨大な肉塊を削り取る。
mうっし!はむ。はむはむはむ。
削り取った肉片を口に放り込む。途端満面の笑みを浮かべて快哉を叫んだ。
mMoooo !うまー!
r牛なのか馬なのかはっきりしろよ。
しかし、彼女の行動でようやくわかったが、この襲いかかる巨大な腕から逃げつつ、ディナーを摂らなければいけないのだろう。
Eこれが、イニス家名物の「喰うか喰われるか」です。
rこんなことしなくても、普通に食べればいいじゃないか。
君は、ルルベルの意見がもっともだと思った。
Eでも、これが作法ですから。
k生きるか死ぬかの瀬戸際に追い込み本能的な食欲を喚起させることによって、飢餓感を生み出し、よりおいしく食事する。
それが、イニス家名物の「喰うか喰われるか」よ。
cこれが噂に名高い「喰うか喰われるか」!まさか、生きているうちに経験できるとは!
Eドラク卿はもう何回も経験していらっしゃるでしょう。
kドラク卿は、最近それっぽいことを言って悦に入るのが好きなんです。
cその場の勢いだけで生きていてごめんね!
Iふふ。この食事法を、あえて例えて言うなら……食べる前に水を飲むと、お腹がいっぱいになってしまう感じの逆ね。
k(逆!?例えが下手すぎる……)
Aなるほど。辛い物を食べた後は、無性に水がうまいということか。
Iそういうこと。
k(あ、私が置いてかれた!?)
v魔界も変わったな……。
rああ、妙に形式ばるようになったな。まあいい。それならそれで楽しめばいい!
よおし、スローヴァ。あたしを守れ。あたしはその間にいっぱい食べる。
v承知!
手始めにスローヴァは腕を一振りし、何かを捕まえる。
zまぷう?
v捕まえました。
Uあ、その子は駄目です!
vむ。そうか。
rそれは非常時でいい!まずはご馳走だ。
v承知!
ルルベルがご馳走に向けて突貫していく。それに続いて、スローヴァも駆け出した。
wにゃは!その間にキミも師匠を守るにゃ。ご馳走を食べるにゃ!
承知!と君はズローヴァの声真似をして言ってみた。
***
Eさ、ニンゲンさん。こちらが我が家の名物〈魔界のはらわた〉です。
厳密な飼育方法を守って育てられたアルトー豚の血と肉で作りました。ここでしか食べられない逸品ですよ。
c製法も独特で、ただのブラットソーセージとは違うんだよ。僕は前に一度見せてもらったけど……。
クルスが続けるところに、アンリが割って入る。その様子は少し慌てているようでもあった。
Aおっと。そこまで。
ドラク卿、〈魔界のはらわた〉の作り方は、イニス家の秘密。そう軽々に口にされては困りますな。
cこれは失礼。ですが、詳しい製法は教えてくれなかったではないですか。
それに僕はあの時、散々な目にあいましたからね。
Aハッハッハ!そうでした。あの時はウチのルイミーが大変な失礼をしました。
cまさか豚の血をぶっかけられるとは……。
我が一族は血を欲するところはありますが、あれはさすがにこたえました。
r御託はいいから、あたしにも食べさせろ!
アンリとクルスが昔話に興じているのを横目に、ルルベルは名物のソーセージに、フォークを突き立てようと試みる。
が、突き立てたと思ったフォークは、ソーセージを逸れる。
フォークの勢いはそのままソーセージをぶりんと皿の上から、弾き飛ばした。
ソーセージはテーブルの上にコロコロと転がってゆく。
U慌てるから……。
rしまったしまった。
と、ルルベルは落ちたソーセージにフォークを突き立て、そのまま口に運んだ。
rはむ……。はむはむはむ。
Eまあ……。
君はエレインの驚く顔(仮面)と声色に瞬間的に、まずい、と思う。
妙ちくりんなディナーだが、これは魔界の貴族にとっては格式高い作法に則った会食の席である。
街の定食屋とはわけが達う。落ちたソーセージを拾って、食べるなど、無作法極まるのではないかと。
君は、みんなの顔をぐるりと窺った。
rなんだ?何か悪かったか?3秒以内に拾ったぞ。それならいいんだろ、女学院で習ったぞ。
Eえ、ええ。3秒以内なら大丈夫です。
君は「3秒以内」という言葉の意味をカナメに尋ねる。
kそうね、ニンゲンは知らなくて当然ね。貴族のテープルマナーのひとつに3秒ルールというのがあるのよ。
wなんにゃ?それは。
k皿の上から落ちてしまった料理も、3秒以内なら皿に戻して食べてもいいっていう決まりよ。
元々はゴドー家に伝わる逸話で、時の当主が、食事の席で無礼を働いた者を殺す時に3秒待ってあげたことが由来なのよ。
「三つ数えろ……殺してやる。」
それを貴族が面白がって、食事の席のマナーにしたのですよ。
rほら、あたしは何も悪くないだろ、なんでお前は驚いたんだ。
と、エレインに対してルルベルが疑問をぶつける。
E失礼しました。マナーには則っていましたが、少々、貴族的ではなかったので、驚いただけです。
Aルルベル様はまだ降臨されたばかりだ。これから徐々に邪神に相応しいマナーを身に着けてくださるはずだ。
エレインは少しおおらかさが足りないな。おおらかさは貴族の義務だよ。
話しながらも、舞うように動き続けるアンリのフォークが不意にあらぬ方へと動く。
その動きは、皿の上から食べ物をわざと追い出すようだった。
Aおおっと、そんなことを言っていると、私も食べ物を落としてしまったぁ!
rえらく説明的だな。
Eルルベル様、見ておいて下さい。お父様の3秒ルールが見られますよ。
A1……。
2……。
2.5!パクリ。
3秒にならんとするその瞬間、目にも留まらぬ早業でフォークは落ちた食べ物を拾い上げ、そのままアンリの口に運ばれた。
Eまあ、お見事。コンマ5秒のうちに正確なフォーク捌きで拾い上げるのは、魔界広しといえどお父様しかいませんわ。
エレインの賛辞が終わると、魔族たちはアンリに拍手を送った。
君は、その光景を見て密かに、どうしようもないな、この人たち……と思っていた。
A落としてしまったが、慌てない。3秒あるのですから、その時間をたっぷりと使う。それが真の貴族です。
rおおー!なるほど。勉強になった。
A私などまだまだです。我が一族の中には、2.7秒の壁を破った者がいるとか。
落とした食べ物を食べるのに、優雅さが必要なのだろうか。貴族の考えることはわからない。
と君は思った。
Eさ、皆様。そろそろ食事は終わりとさせて頂きます。サロンに移動してください。お茶を用意いたします。
エレインが優雅な手つきで、サロンヘ向かう扉を示す。
みんな、それに従い、動き始めようとした。その時、声がした。
zチチチーー!!
断末魔の声とも怪鳥音とも聞こえるその声は、すぐにそれが只事ではないと教えてくれる。
E何事かしら……。
君たちが駆けつけると、廊下では……。
z……。
物言わぬ1羽のギブンが倒れていた。
イーディスは慣れた手つきで、ギブンの首元に触れた。
I死んでるわ。この状況から、他殺の可能性があるわ。
Aなに!
cなんということだ……。
Aこれは、まずいな……。
一同の顔が曇っていた。
イニス家の者はもちろんだが、特に、貴族の出身だというクルスたちも一様に深刻そうだった。
rこいつ前から簡単に死んでたし、殺されてなかったか?何か問題があるのか?
I別にギブンが死ぬのはどーでもいいわ。
kええ。それは本当にどーーでもいいわ。ただ場所が悪い。
cこのイニス家は魔界の中立地、どんなことがあっても争ってはいけない。
もちろん殺人……殺鳥?殺ギブン?あーもうなんでもいいや。ともかく、これは一大事だよ。
I場合によってはこの場にいる全ての者が責任を取らされかねない。
責任?どういった責任だろうか。監獄にでもいれられるのか、と君は訊ねた。
Iここは魔界よ。罰はもっと簡単なもの……死よ。
その言葉が、死体の横たわる空虚な空間に響き渡る。
深刻さが、蛇のように君たちの首元に絡みつく。息苦しさまで感じる。
だが、その雰囲気を吹き飛ばすように、アンリが声を上げた。
A皆様、ご心配なく。この事件はホストであるエレインが責任をもって解決します。
Eわたくしが?
Aそれが、ホストの務めだ。
厳しさのこもった声。アンリの仮面とエレインの仮面が向き合う。
お互いの表情はわからないが、そこで同じ血が流れる者同士の秘密裏の会話が交わされているようだった。
一呼吸おいて、エレインは君たちの方へ向き直る。
E皆様、ご安心を……。わたくしにおまかせ下さい。
その言葉は力強く、君たちを安堵させた。
だが、そんな君たちを影から見つめる謎の視線があった……。
「……。」