【黒ウィズ】聖サタニック女学院2 Story3
聖サタニック女学院2 Story3
story
エレインがこの場の責任を持つと言い、君たちはサロンヘ退散した。
自分たちの意思ではなかった。彼女がゲストはそうするべきだと指示したのだ。
しかし、君や他のみんなの中には、どこか後ろめたさがあった。
vいいんですか、ルルベル様。
r何がだ?
mエレちゃんひとりだけに任せていいのかってことだよね、ご先祖ちゃん?私もそれは思う。
v子孫の言うように、彼女だけに重荷を背負わせることはないと思います。
Uうん。私もそう思う。
zまぷう……。
r天使のウリシラはともかく、ミィアやズローヴァもか?ヤガダの一族は生ぬるいやつが多いな。
けどな、お前たちがどーーーーしてもって言うなら、あたしも手伝ってやってもいいと思う。
どーーーーしてもって言うなら、だぞ!
ニンゲン、お前もこいつらと同じ意見か?
唐突に振られた話題だが、君はその答えをずいぶん前から準備していた。
どうしても、手伝ってあげて欲しい、と君はルルベルに伝える。
rそういうことなら仕方がない。手伝ってやるか。
言葉とは裏腹に、ルルベルの決断も早かった。彼女も内心では同じことを考えていたのだろう。
席を立つ君たちに、イニス家のふたりが声をかける。
Aおやめ下さい。ルルベル様。これはエレインに与えられた試練です。
L娘を強く育てるためです。手伝うのはお控え下さい。
彼らの言葉は名門としての誇りや厳しさを含んだものだった。それは正論のように聞こえる。
だが。
rあたしは邪神だ。あたしはあたしのやりたいようにやる。それだけだ。
それに……大昔のこととはいえ、お前たちの祖先はあたしと契約したんだ。その契約を切った覚えはない。
契約した者を助けるのに、あたしが誰かの許可を得る必要はないと思うぞ!
Aルルベル様……。
kイニス卿。私もその可愛らしい邪神の言う通りだと思います。我々、魔族は自由と放埓を旨としています。
我々がやりたいと思ったことは誰にも邪魔をさせませんわ。
rそうだ、そうだ!あたしはエレインを助ける。もし邪魔するようなら……。
そいつら全員皆殺しだ!
邪神らしい表現ではあったが、その言葉は彼女が単純に悪の意思を振りかざすだけの存在ではないことを教えてくれる。
エレインの両親は、それ以上は何も言わず、ルルベルたちに任せるというように、一隅にあるソファに腰を掛けた。
それを合図にして、君たちは殺ギブンの起こった現場へ向かう。
***
再び、現場に戻ると、現場を調べるエレインの目が光っていた。
比喩的な意味ではなく、本当に光っていた。
rな、何しているんだ?
Eあ、皆さん!どうして……。
エレインが振り向くと、目から放出する光線がルルベルの顔に直撃する。
rま、ままま、眩しいから……。
Eあ。ごめんなさい。
エレインは手を仮面の後ろに回して、過剰な光が消え、光を消す。その目にはわずかな困惑の色だけが残った。
ように思えた。
r何をしていたんだ?
E調べていたんです。何か殺人、殺鳥?殺ギブン、あ、まあなんでもいいですけど、その犯人の痕跡を。
r目が光ると、わかるのか?
Eええ、知覚能力が数倍に向上するので、ちょっとした痕跡もわかります。
k何かわかった?
カナメの言葉に、エレインは少し俯いた。続けて、ギブンの死体を見つめた。
Eここにはギブンしかいませんでした。ここにあるのはギブンの羽や皮膚の欠片しかありません。
I私が見た時も、体に争ったような傷はなかったわ。
k毒殺という可能性は?
A確かめてみよう。
アリーサはギブンの死体の前にかがみ込み、死体の口を軽く開く。
U何をしようとしているんですか?
A場合によるが、毒物を口から摂取すれば、痕跡が口腔内に残っている場合がある。
肉がただれていたり、臭いがあったりな。
言いながら、アリーサはギブンのロの中を調べる。
A見た目に異常はないな。
次にギブンの口に自分の鼻を近づけ、臭いを確かめた。
Aう!これはッ!
kどうした!?何かわかった?
Aいや、単純に口がすごい臭かっただけだ。ドブの臭いがした。
k(ドブ?)
I口の中がドプの臭いになる毒という可能性はないの?
k(そんな毒、すごいやだ)
Aない。ただ臭いだけだ。……エサが悪かったかな?
k(エサで飼ってるの?)
Aこうなると、詳しく調べるためには、解剖する必要があるな。カナメ。イーディス手伝ってくれ。
kわかったわ。にしても、手がかりなしか……。
いえ……。ひとつだけあります。ひとつだけ、わたくしたち以外の足跡をこの場に見つけました。
またエレインの目が光った。その光に照らされ、床に足跡が浮かび上がる。
どうやら、君たちに見えるよう、彼女が気を利かせてくれたようだった。
Eこの足跡は先に続いています。それを追ってみるべきでしょう。
君たちは、確認するように頷きあう。
kそれはあなた達に任せたわ。私たちはギブンの死体を調べる。
カナメたちと別れ、君たちは足跡を追い、廊下に進み始めた。
***
足跡は廊下の先にある扉の前で途切れた。
途切れたというよりも、扉によって行く手を遮られていた。と言ったほうが正しい。
r鍵が掛かっているぞ。
ルルベルが扉のノブをガチャガチャと回しながら、そう言った。
Eここは、〈亡者の戯れの間〉です。ゲストの滞在用としても、家の者が使うこともありません。
所謂、「開かずの間」です。
w鍵はないにゃ?
E部屋の鍵は使用人が管理しているのですが、この部屋の鍵は誰が持っているのかすら、わからないのです。
Uどうしよう。無理矢理開けるしかないのかな?
mそれなら、私とご先祖ちゃんで叩き壊しちゃおう。
vうむ。
Eこの際、それもやむを得ないですね。
エレインは静かに頷いた。
rよし。じゃあ、ズローヴァ、ミィア、やってしまえ。
***
Iやはり外傷はなにもないわね。
k毒……あるいは何かの魔法かもね。
屋敷の一室を借り、ギブンの解剖を始めたカナメたちは、その死因の特定を急いでいた。
羽を全て取り払い、体の隅々まで調べたが、傷や争った痕跡は何もなかった。
Aもっと詳しく調べる必要がある。カナメ、イーディス。悪いが出ていってくれ。
ここから先は、お前たちにも見られたくない。
アリーサは手振りでふたりに退出するように、指示する。
kギブン兵の製造方法を知られたくないってわけね。
A売り物だから当然だな。
I任せるわ。
一言告げて、イーディスはくるりと躇を返す。カナメも彼女に続いた。
ふたりを見送ると、アリーサは鋭い眼光でギブンの体を睨みつけた。
部屋を出たカナメたちは、扉の前で中の様子を窺うギブンたちと鉢合わせた。
zチチ?
zチチチ!?
I何をしているの?
wあの、その……死んだギブンさんには……良<してもらったので……その、気になって……。
z俺もけっこう仲良かったっす……。
kそう。気持ちはわかるけど、あなたたちに出来ることは少ないわ。自分の仕事をしなさい。
ギブンたちの後ろから、さらに別のギブンが顔を出す。
zバルバロッサ嬢の言う通りだ。お前たちは、そんなことをしている暇があるなら、アリーサ様のために働くんだ。
ギブンたちのりーダーらしきギブンに言われ、悲しむギブンたちは、すごすごとその場から去り始めた。
zう……う……。
z元気出せよ。俺がついてるから……。
去りゆく2羽を見つめながら、イーディスが言った。
Iギブンにも色々あるのね。
kアリーサが試験的に、ギブンに個体差をつけたみたいね。性格の部分でね。
今回連れてきている連中は、そう言った個体みたいね。
Iそう。それにしてもあの泣いていたギブン。
ちょっと気持ち悪かったわね。
kそうね。
でも、涙を流させるのは良くないわね。
Iふ。お人好しね。そんなことだからあなたは、陰でお人好しマンなんて呼ぱれるのよ。
k(マン……?なぜマン?)
そんなこと一体誰が言ってるのよ。
I私。
k……このヤロウ。
***
mうっしゃー……行くぞ~!
自前の斧を大きく振りかぶり、いまにも振り下ろさんとするミィア。
その時、君たちの背中に声がかけられる。その時、君たちの背中に声がかけられる。
Lおやめなさい!
振り返ると、それはイニス家の夫人、エレインの母ララーナであった。
Lその部屋に立ち入ることはいけません。エレイン、退きなさい。
Eお母様……。
驚きが混じった第一声を、エレインはすぐに訂正する。その言葉には、強い意思がこもっていた。
Iいいえ。お母様。わたくしは退きません。この件はわたくしに任されたのです。
イニスの名の下に、わたくしに託されたのです。それを邪魔する権利は、たとえお母様でも、ございません。
L言うようになりましたね、エレイン。それなら、魔族らしく力で示しなさい!鍵なら私が持っています。
禍々しく歪んだ光がララーナから奔出する。それを見ても、エレインは少しもたじろなかった。
Eわかりました……。
とだけ答えた。君もその言葉をきっかけとして、1歩前に出た。
***
1歩前に出たのは良かったが、そもそも君は足かせと仮面をした状態であることに気づいた。
そこで、今回は戦いを生徒たちに任せて、君は1歩引いたところから援護に回ることにした。
wこれはこれでいい勉強になるにゃ。
そうしてみんなを観察していると。
mうっしゃーッ!!げんこつ!
Lぎゃは!
Uマパパ!とっちめてあげなさい!
zまぷーー!!
Lぐふ!
r腕を下から前に伸ばし、相手の眼を狙う構え~!
基本に忠実な動作から、ルルベルの細い指が仮面の隙間にするりと滑り込む。
L眼ッ!眼~!
ひとりを寄ってたかって、嬲っているようにしか思えなかった。
w戦いとは非情なものにゃ。
もう気力も残ってないであろうララーナの前に、エレインが立つ。
脆き、震えるだけの母の顔(仮面)を両手のひらで包むように挟んだ。
Eお母様……。
Lエレイン。
その様子は、傷ついた母を労るようだった……。
Eお覚悟。
エレインは両手に挟んで固定した母の顔に容赦ない頭突きを落とした。
だよね。と君は思った。
ここは魔界なのだ。うかつに力で解決しょうとすると、卑怯も狼狽もなく、叩きのめされる。
それが実の母であろうと関係ないのだ。
エレインは意識を失いグッタリする母の袂から、〈亡者の戯れの間〉の鍵を取り出す。
Eさ、中へ。
手に入れた鍵を鍵穴に差し込み、回す。と、重たい音を立てて、鍵が外れた。
扉を押すと、蝶番がこすれる不快な音と共に開いた。
その部屋は、びっちりと本で埋まった本棚に囲まれていた。
それだけではなく、床にも足の踏み場もないくらい書物がうず高く積まれていた。
Eここ……。
U書庫?……書斎?
Eいえ、書庫も書斎も別にあります。
君は本棚の本を手に取る。パラパラと開くが、魔界の文字に造詣が深くないため、あまり意味はわからなかった。
君の様子を見て、シルビーが注釈を加えた。
sずいぶん古い本よ。魔界の……。
シルビーは君から本を取り上げ、ぱらぱらとめくる。
sこれは奇書と呼ばれる類の本ね。「黒蜘蛛のブラッドサースティ」――
この本には、ひとりのニンゲンに妻や子、それに両親を、正当な理由を与え、殺させた過程が記録されているわ。
w何のためにゃ?
s堕落の過程を調べるためよ。正義を理由に親しい人々を殺したニンゲンは、堕落するかどうか。そのあたりの調査ね。
wそれがどうして奇書になるのかにゃ?
sなるわよ。だって、魔族にとってはニンゲンの正義なんてどうでもいいもの。
むしろ、正義から外れることが堕落なのよ。なのに、この本は堕落についてというよりも、正義について調べている。
魔族からすれば、変わった本よね。ここにある本は、すべて同じような問題を取り扱っているわね。
正義について書かれた本ばかり。
詳しいんだね、と君はシルビーの説明に感心した。
Uシルビーさんはサキュバス科だから、色々な知識が豊富なの。
sまあね、授業でみっちりしこまれるから。ほら、会話が合わない人とは仲良くなれないでしょ。
君がサキュバス科の意外な一面に触れていると、エレインが突然ある疑問を口にした。
それは君たちが心のどこかで感じていた疑問でもあった。
Eでも、どうしてそんな本がこの部屋に集められているのですか?
r誰かが読んでいたんじゃないのか?ほら、ここに覚書がある。
と、ルルベルが指差すのは机の上の紙の束である。
Eそんな……我が家には使用人とお父様とお母様以外には誰も……。
mでも、誰かがこの部屋に入っていったのは間違いないよね。足跡があったわけだし。
話していると、突然、扉がひとりでに音を立てて閉まった。
君はもしやと思い、机の上にある蝋燭に魔法で火をつける。炎が一方に傾く。
君は炎の傾いた方を見た。
そこにある本の山の裏を覗くと、人がひとり通れるくらいの隙間が本の山の裏にあった。
そして、窓があった。窓は全開しており、風はそちらへ流れていたのだ。
wこの部屋に逃げ込んだ足跡の主は、ここから下に逃げたにゃ。
君は窓の外を覗<。2階から飛び降りることは、不可能ではないだろうと思った。
それを確認し終わった君は、みんなの方に向き直る。
その時、再び、絶望の声が聞こえた。
「チチチーーッ!!」
rまたか!
君たちはすぐさま声のする方へ駆け出した。
***
アリーサがギブンの体を調べている間、カナメとイーディスはサロンに戻っていた。
自分たちに出来ることはただ待つことだけだ、と彼女たちは知っていた。
それと、そうした時間の過ごし方も、心得ている。
サロンのティーテーブルを挟むようにふたりは座っていた。
イニス家の使用人が用意してくれた血のように赤い茶〈レッド・スパロウ〉が、彼女たちの卓には置かれている。
k懐かしいわね。こうしてあなたとこのお茶を飲んだことを思い出すわ。
Iそうね。
kあの時が、私たちの初対面よね。
それは、同じようにカナメが休暇をイニス家で過ごしていた時だった。
同じような夜。違うのは、時代だった。
ブラフモ死後の騒乱――ブラフモに所縁のある旧主派とイザークとの争いが終わりを迎えようとしていた夜である。
カナメは戦いの炎で赤く染まる空を見ていた。
「故郷のご心配ですかな。」
カナメは語りかけるアンリを見た。
魔界の中立地であるアルトーパークに滞在するのには、休暇を過ごす以外に意味があった。
戦火を避けるためである。娘を守りたいという父の気持ちを汲んで、カナメはここにいた。
「いいえ。戦いの趨勢はもう決まっています。逃げる必要などなかったのです。」
ただ、それはカナメにとって、不満の残る決断だった。カナメとしては戦いの近くに身を置きたかった。
これ以上大きな内乱はもうないかもしれない。
時代が変わる節目に、その場にいられないもどかしさが彼女を締め付けていた。
「この戦い、ゴドー卿がセラフィム卿との同盟を受け入れたことで、終わっていたのです。」
「あのふたりを引き合わせたバルバロッサ家も、この戦いが終われば、多くの恩賞を得ることでしょうな。」
それは父の功績とされているが、父に提案したのはカナメである。
それゆえに彼女には、自分が時代を変えたという自負があった。
カナメは赤い空をじっと見つめる。
「まるで世界が燃えているようですね。」
「その通りでしょうな。古い世界が燃やし尽くされる。」
「ふふ。とても不安な気持ちなのに、何かを期待する自分がいます。不思議です。」
「人はそれを夜明けと呼ぶのですよ、お嬢さん。」
「お上手ですね。」
それだけ言って、アンリはサロンを立ち去った。扉が閉じられる音が後ろで聞こえる。
カナメは飲みかけの〈レッド・スパロウ〉に手を伸ばす。ふと目に入った赤い水鏡に自分以外の顔が映っている。
見上げると、目の前に少女が立っていた。
「その制服……聖サタニック女学院の生徒ね。」
「イーディス・キルティと言います。」
その名に、カナメは背中に冷たい刃を押し付けられた気がした。
キルティ家は、旧主派に与する一族である。
それほど大きな家名を誇っていないが、彼らには〈汚れ仕事〉を専門に行うという特質があった。
そしていま、自分とキルティ家を名乗る少女以外、この部屋には誰もいない。
「私の所にあなたのような人が来てくれるなんて、光栄と言うべきかしら?」
「勘違いされては、困ります。私はお願いにきたのです。」
思わぬ言葉だった。だが、まだ真意はわからない。カナメは探るように問うた。
「なにを、かしら?」
「我が一族の助命を。」
「それは、盟主であるセラフィム卿にお願いすることではないかしら?」
「セラフィム卿は聡明な御方です。それゆえ禍根を残すようなことはしないでしょう。」
「それなら、ゴドー卿は?あの方は温情のある方よ。」
「ゴドー卿は義理堅い御方です。それゆえ我々に恨みを持つ貴族への義理を欠くことはないはずです。」
「ふふ……あなたの言っていることがわからないわ。なぜ私に頼むの?せめて私の父では?
同じくらいの功績ならドラク卿もあるわ。あの方は?」
「あの御方は本質的には平和主義者です。」
「平和主義者なら何がダメなの?」
「私たちを高く買ってくれません。」
「まるで私があなたたちを高く買うみたいな言い方ね。我がバルバロッサ家も自らの領地を守ることを使命としているわ!」
カナメの厳しさのこもった言葉を受けても、少女は顔色ひとつ変えなかった。
「あなたは、この戦いの功績もあり、知略に長け、先行きを見通す力も備えている。なにより、若く……。
野心がある。」
カナメの胸が燃えるように熱くなった。空を赤く焼く炎がまるで自分の心に飛び火してきたようだった。
「私は……あなたたちを救うと、何を得られるのかしら?」
「旧主派の貴族の首を100……。
と、私の服従と命。あなたが死ねと命じれば、私は死にます。」
お互いが無言のまま見つめ合う。そこにはもはや懐の探り合いなどなかった。
カナメはポットを取り上げ、空いていたカップに〈レッド・スパロウ〉を注いだ。
もう冷めてしまった雀の血をふたりはゆっくりと、だが一息に飲み干す。
「まずは旧主派の貴族の首をバルバロッサ家に届けなさい。
私も自分の仕事をするわ。もちろん命を賭けてね。」
空になったカップをカナメは音を立てないように、卓に置く。
窓の向こうを見やる。再び見た炎は、浅い眠りの中で見る夢のようだった。
少女は、あの炎を次に燃やすのは、自分かもしれない、と思いながら、ずっと赤い空を見続けた。
I古い話ね。
kさっきルルベルがエレインを助けると言った時、少しあの頃の自分を思い出したわ。
Iまるであの頃の気持ちを失ったような言い方ね。私は……あの頃とは何ひとつ変わってない。
あなたに命じられたらなんでもするわ。死ねと言われたら死ぬ。
あの子たちがあなたの敵になるなら、あの子たちを殺すわ。
kそうならないことを祈るわ。
カナメは冗談を止めさせるように、手を振って、返す。その動作の流れで、ポットを手に取り、自分のカップに注いだ。
kあ、イーディスごめん。ちょっとそこのシュガーポット取ってくれない?
Iいやよ。
k(え……?)
kイーディス、シュガーポットを取ってくれないかしら、ちょっと命令っぽい感じだけど、お願い。
Iいやよ。絶対にいや。どうして私がそんなことをしなければいけないの?
k(このヤロウ……)
そんなことをしていると、階下からアリーサが戻ってくる。その顔は不思議だとばかりに歪んでいた。
kどうしたの?
A死因がわかった。だが……どうも納得が出来ないんだ。ギブンの体の構造を知る者しか行えないんだよ、その方法は。
Iなるほど。あなたが犯人ね。
Aち・が・う。
「チチチーーッ!!」
それは第二の断末魔であった。
Iまた、起こったようね。
イーディスはいつも通りの口調で呟いた。一同は立ち上がり、声がした方へ向かう。