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聖サタニック女学院2 Story5

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作成者: にゃん
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kみんな集まったようね。

 カナメはサロンに集まった一同をぐるりと見渡す。

彼女は一同を注目させるように、サロンに置かれたピアノの前に立っていた。

そっと指を鍵盤におき、やさしく打鍵する。ピアノの内部でハンマーが持ち上がり、高音部の小悪魔を打ち据える。

綺麗な高音の悲鳴が部屋の中に響き渡る。

それが開始の合図だった。

kでは、始めるわね。

まずはっきりさせておくべきなのは、あの時、ディナーの最中だった私たちにはギブンを殺すことはできなかったということよ。

cお互いがお互いを監視していたようなものだからね。それはそうだね。

I特殊な時限式の魔法を使うなら別だけど……。

Aその痕跡は確認できなかった。まあ、魔法を使えば、それが誰の魔力を元にしたものかは一目瞭然だがな。

k使用人に間しても、みんなお互いが犯行に関与していないことを証明できたわ。

zはい。使用人たちは、その時間誰がどこで何の仕事をするかを決められており、皆その通りに働いていました。

お互いの顔も見知っていますので、勝手な行動を取ることは出来なかったようです。

kそうなると、外部の者の犯行が有力になる。

Eそうです。だから犯行現場にあった見知らぬ足跡を追いかけたのです。

kそうね。それは自然な発想だと思うわ。

でも、ひとつ忘れていることがあると思うのよね。

r忘れていること?なんだそれは?

cそうか!わかったぞ!

kではドラク卿、それが何か答えてください。

cカナメ君。……答えなくてもいいよね?

kいいですけど、ちょつとそこに立っていてください。

cうん。

Iちゃんと思い出してみなさい。そこに何があったかを。

E足跡以外は何も不審なものは……。

kじゃあ、不審ではないものは何があった?

Eそれは……古い足跡とギブン本人の羽です。

kそうね。ではそれは置いておいて、ギブンの死因に行こうかしら。

 と、カナメはアリーサを見る。アリーサは一呼吸置いてから答えた。

Aギブンの死因、詳しくは教えられないが、ギブンの細胞を自壊させるという、アリーサしか知らない方法で殺されていた。

rならお前が犯人じゃないか!?

Uでもアリーサ先輩は、私たちと一緒にディナー中だったよ。

rあ。本当だ。

Aだが、ひとりだけ知っている者がいる。

 そこまで言って、アリーサはカナメに役目を譲った。

k犯行現場にあったものとアリーサしか知り得ない方法で殺したという事実。そのふたつの条件を照らし合わせると……

……ギブン犯人はあなたよ。

zチチチ……!ですが私もその時は別の場所に居ました。それはこの家の使用人が証明できます。

kそうね……それは正論だわ。

 カナメが話を止めると、アリーサが指笛を吹いた。

すると、サロンを埋め尽くすように、ギブンたちが入って来た。

kでも、こんなにいっぱいいたら、どれがどれかなんてわかるわけないじゃない!

「「「「チチチー!!」」」

Iギブンを隠すにはギブンの中。なかなか、考えたわね。

Aギブンには自分を自分で大量生産するために、その製造方法や構造を教えている。何かの拍子で壊し方に気づいてもおかしくない。

zし、しかし……自分自身を殺人、いや殺鳥?殺ギブン、まあ、なんでもいいや。それをする必要がどこにあるのですか?

それに!この中のどのギブンがギブンを殺したのか。それはわからないはずです。

kそれは簡単よ。

 とカナメはギブンの中からちょっと女性っぽいギブンを引っ張り出した。

zチチチ?

Iいまからこのギブンを殺すわ。

 イーディスは右手の指先をギブンの首元に突きつける。

その爪は硬質化され鋭く冷たい輝きを放っていた。

zチ、チチチ……。

zや、やめろ――!!

 突然、ギブンたちの間を縫って、1羽のギブンがイーディスに飛びかかる。

イーディスは捕まえていたギブンをアリーサに向けて放り出す。

飛びかかってくるギブンが差し出した手を、相手と同じく自らの左手で払った。

勢い、イーディスの左側にギブンの体が流れる。

ひとりと1羽の距離が不用意に近づく。だが、支配しているのはイーディスの方。

最短の位置にある左手を使った最速の一手。

突き上げられたイーディスの手はギブンの喉元を締めあげる。

zチ、チチチ……。

 ギブンの足先が音もなく、床から離れた。

I捕まえた。

kイーディスよくやったわ。出てきたわね、犯人のギブンさん。

Eこれが犯人……あの不審者は?

kいまから、真相を説明するわ……。

Iうっ!!

 イーディスの苦悶の声につられて、君は彼女を見やる。

俯くイーディスの向こうに、ギブンたちの中へ消えてゆくギブンの姿。

kイーディス、大丈夫?何かされた?

I大丈夫。ただ、すごく口が臭かっただけよ。

Aだろー。目に染みるよな。やっぱり次からエサ変えておく。

 そんなことより追いかけないと、と君は声を上げる。

k大丈夫。策はあるわ。

 と、カナメは不敵に笑った。


mで、何が何してどうなってるの?

rお前もう先に寝ていいぞ……。


 ***


 暗闇の中にわずかな吐息が漏れ聞こえる。

一室に逃げ込んだまでは良かったが、そこは悪魔的な催しをするための部屋だった。

襲いかかる巨大な仕掛けに、這う這うの体で逃げ切り、どうやら安全が保障されている一角までやって来た。

ギブンはそこに身を潜めていた。

いまは静かにやり過ごし、頃合いを見て、再びギブンたちの群れの中に紛れ込む。

一度ギブンたちの中に紛れ込んでしまえば、自分ですらも見分けがつかない。

もはや犯人を捕まえることは出来ないだろう。ギブンにはそんな目算があった。

先ほどと同じ過ちを犯さなければ……。

そんな時、声が聞こえた。

zギブン?……ギブン?

zその声は……ギブンか?

zええ、ギブンよ。

z良かった。逃げ出せたのか。さあ、こっちに来て、顔を見せてくれ。

 暗闇の向こうから声の主の足音が聞こえる。きっとギブンだ。

身を潜めていたギブンは、すぐにでもギブンの顔を見たいという気持ちにかられ、自ら闇の中から飛び出した。

そこに愛しいギブンの顔がある、そうギブンは思った。

zギブン、そこにいるの?

zああ、俺はここだ。会いたかったぞ、ギブン。

……なッ!

z私もよ、ギブン。

 エレインは仮面の後部に触れる。

Eこの仮面には変声機能があるんです。残念でしたね。

r今度は、逃がさないぞ。

k最後の最後まで、あの女性っぽいギブンに踊らされたというわけね。

 君は、なぜギブンが殺人、殺鳥?殺ギブン?あ、なんでもいいや、の凶行に及んだのか、とカナメに尋ねた。

k単純な話よ。このギブンはあのギブンが、別のギブンと仲良くしているのを見て、嫉妬にかられて、ギブンたちを殺した。

……なんか説明しづらいわね。ま、とりあえず恋愛がらみの事件だと思って。

zく、悔しかったんだ……

 うなだれるギブンは己の感情をぽつりぽつりと漏らし始めた。


「チチチ……。

「チチチ……。

あいつが、あいつが……。


「う……う……。

「元気出せよ。俺がついてるから……。」

他の奴と仲良くしているのを見るのが!


kでも、やっていいことと悪いことはあるわ。

zああ、そうかもしれない。さ、最後にあいつに会わせてくれ。

Aそれくらいは良いだろう。

 アリーサの後ろから、ギブンが現れ、うなだれるギブンの前に立った。

z……すまない。この事件は忘れてくれ…、そして、お前は、お前だけは幸せになってくれッ!

zおっけー。

zあれ?これ誰?

Aお前が好きだったギブンだぞ。……でも悪い影響があるから男っぽくしたけどな。

zチチチ――!!

zええーー……。

 その時、ギブンの中で作り上げていたギブンとの恋心が、頭の中で駈け廻る。


「チチチチ……。」

「チチチー。」

「チチチチー。」

 だが、それはもはや二度と見ることのできぬ夢だった。

ギブンはその場で頽(くず)れた。

zああ……チチチチ……チチチチ……。

 泣きぬれるギブンの肩に、アリーサの手が置かれる。

Aギブン……泣くな。

zア、アリーサ様……。

A気持ち悪いからやめろ。

zチチッ!

 途端、ギブンの中で何かが弾けた!

ギブンの心の中で、怒りと悲しみがすべての王位を簒奪し、ギブンは怒りと悲しみの王者となった。

zてめえら!てめえらは、悪魔だ!!

mrAうん。そうだよ。

 ギブンがこちらに向かって、飛びかかって来た。


 ***


zチチチーー!

 例え怒りと悲しみの王者になろうと、1羽のギブンは所詮、1羽でしかない。

何人もいる魔族たちの前では、ひ弱な鳩の如きものであった。

zこ、この外道どもめ!お前たちは俺の大事なものを踏みにじった。クソ外道め!

 口汚い罵声に対して、ルルベルが前に出た。

rふざけるな!

 面食らったギブンに向けて、さらにルルベルは続けた。

rお前こそ、他のギブンたちの命を踏みにじったじゃないか!

お前の独りよがりに比べれば、あたしたちは何千倍もマシだ!

 ルルベルの言葉にぐうの音も出ず、鳩が豆鉄砲を食らったような目をした。

zチチチ……。

I愛するということは、世界そのものを愛することよ。ギブン、あだたは……。

 k(噛んだ)

I愛するということは、世界そのものを愛することよ。

 k(言い直した)

Iギブン、あだたは……。

 k(また噛んだ)

Iもういいわ。

 k(あきらーめーたー……)


rで、こいつをどうするんだ?

E生かして捕らえて、裁きを受けさせなければいけません。

rなら逃げないようにしなきゃな。

I縛り上げておけばいいわ。

 その話を聞いて、君はいまだ、と思った。

鉄球を前に差し出すように、つけられている足かせをみんなに見せる。

君は、これを使えばいい、と提案した。

Iそうね。それを使いましょう。ニンゲンから外して、ギブンにつけましょう。

mニンゲン、外すから足を前に出して。

 ミィアが君の足かせを外そうと、脆く。

自分の懐を探り、気がついたようにミィアが言った。

mあ。鍵、学校に忘れた。

I仕方ないわね。別の方法を考えましょう。

E我が家の反省室に閉じ込めておきましょう。あそこなら逃げられません。

Iそうね。それがいいわ。

 君は黙って数歩後ろに下がった。

w残念だったにゃ。でも君が頑張ったことは私が知っているにゃ。

 ありがとう、と君はウィズに返した。

k事件は解決ね。

Eあの、まだあの仮面の男のことが……。

kそれは、イニス卿に聞くしかないんじゃない?


 サロンで待っていたアンリに、エレインは事件の終わりを告げた。

Eお父様……。教えてください。「不幸なマチュー」のことを。

Aエレイン……。

Lそれは、一族の秘密なのです……。

Eそうですか……あくまで隠し通すつもりですか、それなら……。

お父様、お母さまとは勘当させていただきます。

Lエレイン……勘当は親から子にするものですよ。

E関係ありません!

「父さん、母さん。エレインには私から説明しましょう。」

 声の主は、あの仮面の男だった。

Mエレイン。父さんと母さんを理解してあげてほしい。

 エレインは、初めて会う兄を決然と見つめた。

Mエレイン、どうして父さんと母さんが私の存在を隠したか教えよう。

それは無理もないことなんだ。

私はある時から魔界における正義について考え始めたんだ。

考えて考えて考えあげた挙句、働きもせず、家からも出ずにいることが、一番いいんじゃないかと思ったんだ。

その考えに至った時から私は、家で三度の食事を頂き、好きなことをして、のほほんと暮らすようになったんだ。

もちろん、社交の場にだって出なかったし、客人が訪ねてくるたびに、自分の部屋で客人が帰るまで出て行かなかった。

そんなことをしていると、私の体はこの家に誰かが来ると、自然と隠れてしまうという超感覚が身についてしまったんだ。

すると、もう気がつけば家族相手にまで隠れるようになってしまったんだ。

L本当に久しぶりに見たわ。

Aお前はそんな恰好をしていたんだな、そういえば。

Mそれはエレインが生まれる少し前のことだった。もちろん、エレイン……お前からも隠れたよ。

Eですが、ですが、お爺様とはお会いになっていたのよね?一体どうして?

 マチューは少し迷ってから、答えた。

M……おこづかいをくれるからだよ。

Eお兄様……なんてクズ。

Mみなまで言うな、エレイン。

だから、父さんや母さんが私の存在を隠すことも無理はないんだ。

E無理が無さ過ぎる……。わかりました。もうふたりは責めません。

けどお兄様はもうどこかに行って下さい。なんかすごくがっかりしています。

Mエレイン、初対面の兄だよ。もう少し大事にしてもいいんじゃないかい?

E初対面の兄……それってほぽ他人じゃないですか。ともかくいまはどこかに行って下さい。

Mエレイン、わかったよ。だがまた会おう。伝えなければいけないことがあるからね。

 マチューはそう言うと、その場を去った。

エレインはまだ衝撃の対面が生んだ心の波が静まらないようだった。

夜の静寂は、この悲惨な事実を告げた出来事にピリオドを打つには、あまりにも無力だった。


cイニス家……悲しい一族だ。だがこの事件のおかげで、彼らの抱えていた膿も外に出ただろう。

Iええ、この痛みは無駄ではなかったはず。それは時間が教えてくれるわね。

cああ、そうだね。

 k(ここで締めの台詞きたー……)


 一件落着……ということでいいか、と君は思う。

そうでも思わないとやってられなかった。




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 昼下がり。

木陰で用意されたボンボンベッドに寝そべり、ルルベルはまた~りしていた。

傍らに立つミィアが、グラスに入ったシュワシュワーと悪魔的に泡立つ緑色の液体をルルベルに差し出す。

mルルベルさま、デビルパンチソーダでございます。

rうむ。もらおう。

 ルルベルは受け取りストローからチュルチュルと畷る。

mルルベルさま、サタンスリングでございます。

rうむ。もらおう。

 ルルベルは悪魔的にアイシングされたリング状の揚げ菓子を受け取り、はむはむと貪る。

その後には、デビルパンチソーダをちゅるちゅる。

悪魔的に爽やかな刺激で流し込む。

mルルベルさま、毒毒フラッペでございます。

 細かく砕いた氷の山が悪魔的な色合いに染められた氷菓子をミィアは差し出す。

rうむ。もらおう。

 ルルベルはそれも受け取り、カッカッカとかき込む。

頃合いを見て、ミィアが切り出す。

mルルベルさま……こちらがわたくしの宿題でございます。

rうむ。いらん。

m……。

 ミィアはルルベルの背後に回り、華奢な肩に両手を置く。

mルルベルさま、お肩を揉んでもよろしいでしょうか?

rうむ。良いぞ。

mルルベルさま、仰いで涼しい風を送ってもよいでしょうか?

rうむ。良いぞ。

mルルベルさま、宿題を見せてもらってもよいでしょうか?

rうむ、だめだ。

m……。

 ミィアは再びルルベルの前方に回り、両膝、両手のひらを地面につける。

それは古の魔王ドゥ・ゲイザとの対面時に魔族たちが行ったのが由来と云われる、古式ゆかしき魔界の礼であった。

その姿勢の意味するところは、全身全霊をかけた懇請である。ミィアは額を地面につけた。

mルルベルさま、宿題を見せて下さい。お願いします。

一生、子分になります。

rいやだ。自分でやれ。

mルルベルさま、何卒!!な~に~と~ぞ~!!

r断る。

 ミィアの額はまだ、地面についたままである。

mMooooooooo……。

r遊び呆けているからだ。



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Uマパパ!マパパ!

 マパパは時々、ウリシラの前からいなくなることがありました。

Uもう、またいなくなった。

 でもそんな時は、こう言ってあげると、マパパは喜んでやってくるのでした。

Uマパパ、一緒に水遊びしよー。

zまぷう。

Uよしよし、お利口さんね。マパパは本当に水遊びが好きね。

 おや?マパパが何かをくわえてきました。

zまぷう。

U私の水着?ありがとう。

 どうやらご主人様の水着のようです。

Uそれじゃあ、着替えるから、マパパは向こうを向いてなさい。

zまぷう……。

 おやおや、ご主人様が離れてしまって寂しいのでしょうか。

マパパは言いつけも守らず、ご主人様の行方を見つめたまま。

zまぷう……!

 マパパの悲しむ声なのでしょうか。聞いたこともない声を上げました。

zまぷう……!

 あらあら、またです。本当に悲しいのでしょうね。

zま、まぷっ……まぷううう……!

 本当に、ご主人様が大好きで、寂しん坊なマパパなのでした。



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クルス・ドラクがアルトーパークにやってきたのには、理由があった。

cダークサンブラッドに始まる甘味シリーズで、魔界の女性や子どもたちの味覚は、この僕の手に落ちたと言っても過言ではないでしょう。

ですが、男性はというとどうでしょうか。

結論から言うと……いまいちです。やはり魔界の男性は甘いものをそれほどは望まない。

この前、ゴドー卿にダークサンブラッドを渡した時など!

なんとなく「もういいよ」みたいな顔をされました。ショック!!

そこで僕は、男性向けメニューを開発するためにここに来たのです。

試食係は見るからに大食漢っぽいズローヴァさんです。よろしくお願いします。

vこちらこそ、よろしくお願いします。

cまず用意するのは、哀れに屠られたアルトー豚の背骨と大腿骨。これを水に晒して血抜きをし、下処理をする。

下処理をしたら大鍋で水から6時間から7時間、アクを取りながら煮詰める。水の量はおよそ骨が隠れるくらいだ。

するとどうだろう。アルトー豚の背骨や大腿骨から骨髄が溶け出し、肉はぼろぼろに崩れる。なんと哀れな姿だろうか。

さて、出来上がったスープに、ドラク領で育てたクドラ地鶏を、同じように煮詰めて作ったスープを加える。

なぜ別々に煮るかといえば、アルトー豚とクドラ地鶏では、お互いに煮詰めるのに適した時間が違うからである。

このへんが、スープをワンランク上にする細やかさである。

さあ、ここに、シャドウケルプ、残酷キャベツや嘆きのショウガ、クドラニンニク〈おおとり〉。

さらに断罪アオネギを鍋の中にいれる。これらを程よく煮詰めれば、スープは完成だ。

あとは、秘伝のタレ〈黒き曙光〉混ぜ合わせる。製法はもちろんドラクの秘密さ!

ここに麺と煮豚、煮た卵、茄でた醜怪ホウレンソウなどを添えて完成だ。

僕はこれをレッドムーン・ビーストと名付ける。

独特の獣の臭さを持ったスープは、きっと残酷で暴力を好む魔界の男性の本能に訴えかけるだろう。

さあ、ズローヴァさん。食べて下さい。

v獣臭いのはちょっと……。

c意外と繊細!



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 エレインの朝の日課。それは仮面磨きである。

E今日もピカピカにしなきゃね。

 膝の上に置かれた仮面に布をあて、キュッキュッっと隅々まで磨いていく。

いつもの、歌を口ずさみながら。


Eわたしは鉄化面 そうあなたはシャイメン

見えない表情 見えない純情

わたしは鉄仮面 恋心は無限大

隠しきれない 気持ち

 外側が終われば、内側も。

見えない所の手入れ程、大事なのだ。

それは人も仮面も同じ。まずはなにより内面である。

Eわたしは鉄仮面そうあなたはシャイメン

みなまで言わない オールドスタイル

わたしは鉄仮面 恋心をスタンダップ

女の子は 移り気

綺麗になった。よいしょっと。

よし、今日もばっちり。



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 君とウィズはあてがわれた個室で、午後の無為な時間を過ごしていた。

wキミ、ちょっとそこのクッションをこっちに投げてほしいにゃ。

 ここに来て以来、ウィズはぷんぷんズローヴァちゃんクッションが大のお気に入りのようだった。丸まった時に、ちょうどクッションの頭とお腹にウィズの体が収まるらしい。

君は投げ渡そうとクッションを手に取る。投げる前に念のため一声かけようと思った。

v承知!

wにゃ!?急にズローヴァの声を出さないでほしいにゃ。びっくりするにゃ。

 ごめんごめん、と君は変声機能を切って、謝った。

wでも、いまの本当にズローヴァみたいだったにゃ。キミ、意外と物まねがうまいにゃ。

mうっしゃー!ミィア・ヤガダだよ!!

wいいにゃ、いいにゃ。

rあたしは邪神だぞ!ルルベルなんだ!もっと敬え!

wそれっぽいにゃ、それっぽいにゃ。

Iもっと褒めてくれてもイーディスよ。

wにゃはは……っていうかキミ、さっきから名前言ってるだけにゃ。別に物まねでもなんでもないにゃ。

 そうだね、と君はウィズと一緒に笑った。

w私の真似はできるかにゃ?

 できるよ、と君は答えて、仮面の裏に触れる。そして、想像した。ウィズの声を。

この仮面のすごいところは、そうした思考を読み取り、具現化してくれる所である。

いくよ、と君は前置きして、ウィズの真似をする。

wアタイはウィズニャ。見ての通り四聖賢のウィズニャ。

wにゃ!?全然似てないにゃ。それにアタイなんて言わないにゃ。

w嘘ニャ。

w嘘じゃないにゃ!

w人を殺したことがあるニャ。

w物騒なこと言わないでほしいにゃ!!

 君は声を元に戻し、ウィズに冗談だよ、と微笑んだ。

wどこでそんなこと覚えたにゃ。ところで、それいつまで被っているにゃ。

ここには私しかいないにゃ。外してもいいはずにゃ。

 それもそうだ、とウィズに言われて、君はようやく気づいた。

どうやら、仮面に慣れつつあるようだ。君は仮面を脱いだ。

wあ。全裸伯爵にゃ。

 ちょっともうやめてよぉ、と君はウィズの指摘に笑ってしまった。

wにゃはは、やり返してやったにゃ。

 ウィズと過ごす魔界の休暇は、平和であった。





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 帰る前日の夜。ミィアが突然言い出した。

m肝試しするよ!!

 という提案を受けて、君は屋敷の庭園に出ていた。

昼とは違い、魔界の夜は一段と不気味だった。

w魔族でも怖いことがあるとは思わなかったにゃ。

 ここの人たちはニンゲン臭いからね、と君はウィズに答える。怒ったり笑ったり泣いたり。

自分たちの知っている世界とそう変わりがない。むしろそれよりも自由で、闊達だ。

だから、君も足かせをされ、奇妙な仮面を被らされても、なんとか我慢できているのだ。

mハイ、集合集合~!

 ミィアが発光する小悪魔を持つ手を振り回して、みんなをそこに集まるように誘導している。

君もそこへ向かった。

集合場所には、女学院の女生徒以外に、地元の魔族の少女たちも来ていた。

mおー、いっぱい集まったなー。

居並ぶ顔をぐるりと見渡して、ミィアが感嘆する。すうっとひとつ深く呼吸すると声を上げた。

mうっしゃー!肝試し始めるよ!!

 ミィアの掛け声の後を追って、その場に集まった一同が歓声を上げる。

wここまで気合の入っている肝試しは初めてにゃ。

 君も意外に思った。

肝試しというのは、確かに盛り上がる催しではあるが、歓声を上げて、熱狂的に盛り上がるのとは違う。

mルールはいつも通り。ゴールを目指すまでの間に、肝を抜かれたら負け、方法はなんでもありだよ。

 肝を抜かれたら負け?驚かされたら、という意味なのかな?と君は確認してみた。

m違うよ。肝、抜くんだよ。

 もしかして、体から?と君は再度確認する。

mそうだよ。みんなで肝を抜き合うんだよ。

 肝を抜いたら死ぬよ?と君はミィアに言った。

mえ?死なないよ。一個だけだよ?

 魔族はそうかもしれないけど、ニンゲンは違う、と説明してみるが。

sへえ~そうなんだ。

mニンゲンは変わってるね。

 と、まあ、やはり魔界は魔界だった。

 だが、君は諦めきれずに、肝を抜き合って、楽しいのかと言ってみた。

m楽しいよ。

 と即答された。

Uミィアちゃん。たぶんニンゲンさんのところの肝試しはちょっと違うんじゃないかな?

ニンゲンさんの知っている肝試しはどういうものですか?

 君は自分の知る「肝試し」を説明する。

夜中の人気のない怖そうな雰囲気の道を歩き、目的地まで目指す、と。

それを聞いて、魔族の少女たちはきょとんとしていた。

m夜道を歩いて……。

U目的地を目指す……?

mUそれの何が楽しいの?

 言葉にすると簡素な印象はあるが、ここまで伝わらないとは思わなかった。

m暗い間の中で、み~んなで、肝を抜きあう。絶対、魔界の肝試しの方が楽しいよ!

 楽しい、楽しくないは置いておいて、言葉の派手さはある。

言葉で伝わらない以上、郷に入れば郷に従えである。

君は諦めて体を伸ばし、肝試しに備えることにした。

念のため、ミィアに足かせを取ってくれないか、と言ってみた。

mなんで?ねえねえ、なんで?

 君は黙って準備運動を続けた。


mよーし。ではでは!肝試しを~Let'sマカ~イ!

 なんだかよくわからない、開始の合図を聞いて猛然と駆け出した。


 ***


 肝を抜き合うというルール上、自分の強さに絶対の自信を持っていれば、優雅に歩いて目的地を目指す者も多い。

cどうやら上手くいったようだね。

kルルベルとイニス家を接触させるという意味では、成功ですね。

cこれでルルベル、ズローヴァ、聖女の末裔であるイニスの血が揃ったことになる。

ルルベルの復活とズローヴァの復活はただの偶然だった。だが、僕は偶然を信じない。

特にルルベルは魔界の憎しみの庫気によって生み出される邪神。それははっきりとした予兆だと僕は思う。

ルルベルの伝説には、謎が多い。ザラジュラムとの戦いの結末。聖サタニック女学院設立の経緯。

Iそして、聖女イェネフの堕落。その全てが謎に包まれているわ。

cだが、僕はカナメ君の推論に賭けてみたいと思った。

 話を振られてカナメは、独り言のように呟いた。

k聖女イェネフは世界を救うさだめを持っていたと言われているわ。それがなぜ堕落したのか。

ルルベル消失後、ズローヴァとイェネフが聖サタニック女学院を作ったわ。ルルベルが命じたとも言われているけどね。

けれども、女学院の歴史をひもとくと、最初は教育機関というよりも、貴族と縁故のある女性を集め、生活させていた。

ニンゲンの世界で言えば、修道院……。保護していたのか。あるいはもっと別の理由があったのか。

ズローヴァとイェネフは何かのために、準備をしていた……そんな風にもとれるわ。

一体、何のために?答えはおそらく……。

Iザラジュラムの復活。

c考えたくはないが、最悪の事態には備えなければならない。

cカナメ君、興味本位で尋ねるが、君はもしそれが現実となったら、どうするつもりだい?

 カナメはじろりとその眼をクルスに向けた。

k何の話ですか、ドラク卿?

cいや、ただ気になっただけだよ。それとカナメ君。

おめめ怖い。

 ふたりのやりとりを見つめる物静かな少女は、ただ昔を思い出していた。

あの日の誓いを。

I……。


 ***


 走る君の眼に光がちらつく。

何かの明りが自分に向けられているのだ。君は立ち止まり、凝視する

ふたつの妖しい光だった。横に並んだ光は、徐々に君に近づいて来る。

Eあら、ニンゲンさん。

 まぶしいから、顔に光を当てないでほしい、と君はエレインに頼んだ。

Eあ。すいません。ちょっと光を弱めますね。

 彼女が仮面を操作しているのを見て、君はあることを思い出し、後ろに飛びのいた。

肝を抜かれてはたまらないからだ。

身構える君を見て、合点がいったのか、エレインは侵しげな笑い声をあげた。

Eうふふ。大丈夫ですよ。もう、別の方の肝を抜いてきましたから。

 それはそれで怖いな、と思いながら君は構えを解いた。

rお。ニンゲン、こんな所にいたのか。

 見ると、ルルベルとズローヴァがいる。

rニンゲンはもう肝を取ったのか?

 取ってないし、取るつもりもない。と君は答えた。

rなんだ、ニンゲン。楽しむ気がないのか?楽しめるものは楽しんだ方が勝ちだぞ。

wルルベルはもう取ったにゃ?

rはっはっは。ズローヴァがあたしの分も取ってくれたぞ。

v2個取った。

wそれこそ何が楽しいにゃ!

rわーい!きもきっも~!きもきっも~!きもだーんす~!

 子どもだからそれでいいのだろう。と君は誰かの肝を掲げて踊るルルベルを見て、思った。

Eふふふ。微笑ましいですね。

肝を掲げて踊る光景は微笑ましいと言えないと思ったが君は黙っていた。

wエレインは、決めたのは、ルルベルが事件の解決を手伝うと聞いたかにゃ?

Eはい、聞きました。そういえばお礼がまだでしたね。ルルベル様、ありがとうございます

rな、なんだ急に……違うぞ!みんながどーーーしてもって言うから手伝ってやっただけだぞ!

みんなが、どーーーしてもって言ったから、仕方なくなっ!

Eええ、それでもありがとうございます。

rお、おう……。

 照れるような、意地を張るような、どちらとも取れるような態度でルルベルは返事をした。

生ぬるい風が君の頬を撫でる。気配を感じ、君は風の流れていく方を見やる。

Mエレイン。ルルベルとは仲良くするんだよ。それがイニス家、いや魔界の為だ。

 いつの間にか、そこにマチューがいた。

Eお兄様、いま楽しい催しの最中です。邪魔しないでください。

M妹よ、そう邪険にすることもないだろう。

 エレインは黙っていた。

M妹よ……。

 エレインは無言のままである。

Mそういう扱いは本当に辛いからやめてくれ。

rそんなに怒ることもないだろう。そいつも肝試ししたいっていうなら、混ぜてやればいいじゃないか。

ちょうどニンゲンの分の肝がなかったし。ほらニンゲン、そいつの肝を取れ。

 君は要らないと思っていたが、エレインがずいと前に出た。

Eそういうことなら、わたくしも手伝います。

 どうやら、断っていい雰囲気ではなかった。

Mなるほど、兄としての権威を取り戻すには、力を以って示すしかないようだ。

ならば、来い!どちらが年上か!教えてやろう!

 もうただの兄妹喧嘩だな、と君は思った。


 ***


エレインとマチューの影が交差する。

瞬間、どちらが勝ったかはわからなかった。

だが、膝をついたのは、マチューだった。


Mエレイン、よくやった……。こうして戦ったことで、はっきりとわかった。

エレイン、この家を出ろ。

Eお兄様……どの面下げてそんなことおっしゃるの?お兄様こそ家から出てください。

M私はお前が、常々広い世界を見たいと考えていることを知っている。違うか?

E……どうしてそれを?

Mお前の部屋にあった日記を読んだ。

E……なんてクズ。どうしようもない。

M我が一族の祖先は世界を救うとされた聖女。この魔界で正義を為すとすれば、それは我々だ。

そして、ルルベルが復活したからには、お前はルルベルと共にあるべきなのだ。それがお前の運命なのだ。

聖女イェネフの末裔としての。

Eその言葉、確かにその通りです。わたくしは聖サタニック女学院に行くべきでしょう。ですが、お兄様ひとつだけお願いが。

Mなんだ?

Eお兄様も家を出てください。わたくしとの約束です。

M……いまはまだ、その時ではない。

Eお兄様。

Mいまはまだ、その時ではない!

Eおにいさ……。

Mいまはまだ!!その時ではない!!

 君とウィズとルルベルとズローヴァは呆然とそのやり取りを見ていた。

だがそろそろもういいか、という気持ちになったので、集合場所に引き返すことにした。

wなんとか肝を抜かれずにすんだにゃ。

 君は、遊びの中で命のやり取りをさせないでほしいと思いながら、魔界の夜道を歩いた。

幻覚かそれとも本当にそういう形状なのかわからないが、月はどことなく仮面のような模様がついていた。

君はそれを見て、まあいいかと深くは考えなかった。考えたら負けのような気がしたからだ。



別れの時。君たちは見送りに出たイニス家の人々と最後の挨拶をかわす。

A是非また訪問してください。皆さんでしたらいつでも歓迎します。

c騒がしくしてしまって申し訳ない。次はもう少し落ち着けたらと思います。

Lいえいえ、賑やかで楽しかったですわ。

 その中には再会の約束もあった。

Eルルベル様、次は聖サタニック女学院で。

rおう!待ってるぞ!

mエレちゃんが来るの楽しみにしてるね。

Uマパパも楽しみだって言っているみたい。

 とウリシラは抱いていたマパパをエレインの前に差し出す。

エレインはマパパの頭を優しく撫でてやる。少し、湿っていた。

Eよろしくね、マパパ。

zまっ、まぷう……。

Aおーい準備が出来たぞ。

 と君たちを呼ぶ声がする。

君は、エレインたちとの別れ際、ふと仮面のことを思い出した。

長い滞在で仮面をつけていることに慣れてしまったので、このままつけて帰ってしまうところだった。

君が仮面に手をかけると。

Eその仮面は今回の滞在の記念です。貴方に差し上げます。



その仮面は今回の滞在の記念です。貴方に差し上げます。


しかたなく仮面を受け取った。

君は最後に滞在の礼を言い、ルルベルたちの後を追った。

仮面のまま。

Aニンゲン、お前はあっちだ。

 とアリーサは別の魔法陣を指し示す。どうやらクエス=アリアスに帰ることができそうだ。

I以前来た時の術式とほぼ同じものを使用したから、なんとなく大丈夫だと思うわ。

c前回来た時から少し時間があったので、完全に同じものを用意できなかったけど、大丈夫だよ。なんとなく。

A我ながらなんとかなった感じだけはあるぞ。

 命がけになりそうだ、と君は思った。なんとなく。

君は覚悟を決めて、魔法陣の中に入った。

地面に描かれた描線に炎が走る。淡い光に包まれてゆく君に向けてイーディスが言った。

Iさよなら……ニンゲン。


楽しかった時間が終わり、再びルルベルたちは、日常に戻った。

長かった休暇も終わり、数日で次の学期の授業も始まる。

やり遂げたこと、やり残したこと、様々であった。


rあああーーー!!

mルルちゃん、どったの?

r電波体操の皆勤賞がぁぁ……!!!

Uあっ。アルトーパークに行ってたから……。

rああーー……あたしの皆勤賞ぉぉぉ……!!

 どうやら邪神ルルベル初の闇電波体操皆勤賞は、またの機会を待つしかないようだった。



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気付けば君はトルリッカのギルドの前にいた。

「何者かと思えば……お前か!」

ええ、そうです。と君は答えた。

流石に仮面に足かせの格好はバロンを驚かせてしまった。

斬りかかられなかっただけでもありがたいと思わなければいけないだろう。

「その格好一体何のつもりだ。」

何のつもりもないが、成り行きでこうなったのだ、と君はバロンに説明する。

「牢屋にでもいれられたのか?」

いえ、貴族のスタイルです。と君は答えた。

「何を言っているんだ、お前は。暑さで判断力が鈍っているんじゃないか?」

そう思われても仕方がないな、と君は思った。

結局、方々の協力を得て、足かせを取ることが出来た。

とても、重たい夏の想い出だった。




聖サタニック女学院2 -END-






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