【黒ウィズ】メインストーリー 第08章 Story
メインストーリー 第08章
2015年5月28日
story
オウランディで会った、人の姿をした〈ウィズ〉。
君と戦い、敗れ、跡形もなく消え去ったあの、偽物の〈ウィズ〉。
君はまた、そのことについて考えている。
あれは確かに、実体を持たない、召喚された精霊だった。
魔法使いとしての君の経験が、あの〈ウィズ〉は誰かが召喚した精霊である、と告げていた。
そしてそれが精霊である以上、はっきりしていることがひとつある。
その偽物の〈ウィズ〉を召喚した者がどこかにいるはずだ、ということだ。
しかし、この推論は大きな矛盾をはらんでいる。魔法使いの誰もが知っている魔法の基本……。
精霊は異界から呼び出されている、という明白な摂理――。
つまり、精霊がこのクエス=アリアスに召喚されているという事は、実体であるウィズは……。
肩の上でぐったりしているウィズがそうつぶやいて、君は我にかえる。
頭の中が現実に戻された途端、君の額から思い出したようにどっと汗が吹き出した。
猫は暑さに強いって聞いたことがあるけど……。
大体どんな物好きがあんな場所に住むにゃ?
そもそもあそこは掘り尽くされた遺跡があるだけの街なのに……。
ウィズの視線の先には、赤々と壊る溶岩をまとった山肌とそびえ立つ大きな塔の様な建造物。
オウランディを旅だった君たちの次の目的地、アユ・タラはもうすぐそこだ。
――魔法に詳しい人物がいる。
四聖賢のー人、クォはそう言ってアユ・タラのギルドマスターを訪ねるよう、君に勧めたのだ。
君の知る限り……いや、およそ全ての魔法使いが知る限り……、
いまここに、君の肩の上にいるウィズを精霊として召喚する方法などありはしない。
しかし、君がそのあり得ない〈ウィズ〉の精霊と戦ったこともまた事実だ。
クォの言うギルド・マスターから、その謎を解く手がかりを得られるかもしれない。
それに……。
流れる汗を拭いながら、君たちはアユ・タラの街へと入る。
火口の遺跡 アユ・タラ
story
街のギルドヘ辿りついた君たちを出迎えてくれたのは、ー人の女性だった。
と、彼女は君の服装に目をとめる。
失礼しました!私、マルガっていいます。採掘作業員の方やギルドのお世話をしています。
と、深々と頭を下げるマルガ。
それで、ご用件はなんでしょうか?お仕事をお探しでしたら、お力にはなれません。
この街は遺跡から採掘された大水晶に守られているので魔物なんて出ないですし、
そもそも魔法使いがいないので、ギルドに依頼が来ることもないんです。
申し訳なさげに話す彼女に、君は詳細な目的を伏せ、マスターと話をさせて欲しいとだけ伝える。
中々気難しい人でして……。
なるほど。クォから聞いたとおり、魔法に詳しい人物らしい。
ー体どんな人物なのだろう。君は肩の上に乗ったウィズと目を合わせる。
と、ウィズは小さな声で見解を述べる。
確かに地面から伝わる熱気で、外はまるで火にかけられた鍋底の様な暑さである。
ウィズに促されるまま、君はそれをマルガに伝える。
そうして君たちは話をしながらギルドマスターを待つことにした。
街の掃除やちょっとしたお使い、それから魔物退治……。
君は街のギルドに集まる雑多な依頼内容について話す。
実は私の弟が魔法使いをやってるんですけど……。
何かすごく難しい研究をしているんです。
どこの異界にも属さない、特別な領域って言ってましたけど、私にはさっぱりで……。
零世界……。
不意に口をついて出たその言葉に、君は自分の心が締め付けられる思いがした。
君のことをじっと見つめるマルガ。彼女は零世界について説明を求めているのかもしれない。
君は少しだけ考えてから、話を変える事にした。
君にしたところで、何もしらないのだ。あの世界についてはほとんどど
何せもう長い間、このアユ・タラにあるオベルタワーの研究をされておりますので……。
長い間?やはり相当な年齢の人なのだろうか?
そうですねえ。私も詳しくは知らないのですが、おそらく100歳は超えているかと……。
100歳?彼はー体……。君がマルガの発言に驚いていると、
突然、背後から若い男の声が聞こえてきた。
「あなたを訪ねて」ということは、この少年がギルドマスターなのだろうか?
“若い”魔法使いがこのボクにー体何の用だ?あいにくここには依頼書なんぞー枚もないぞ。
そっと囁くウィズに頷きながら、君はティアに自己紹介をし、ここに来た事情を説明する。
ヤツの話では中々の手練れだ、ということだったが、見るからにお前、弱そうだな……。
ギルドのマスターとはいえ、そのあまりに高圧的な態度を前に、君はむっとした顔をする。
その言葉に困惑する君の耳元で、マルガがそっと説明をしてくれた。
クナビ族とは、伝説の中にしか登場しない、長寿な小人のー族だ。
何がそんなに気にくわないのか、これでは全くとり付く島もない。
どうしたものかと、君が考えをめぐらしている時だった。
言いながらティアはひとり考え始める。
男の声が耳に入らないのか、ティアはぶつぶつと考えをめぐらせている。
困り果てる男を見て、マルガが声を荒げる。
マルガの言葉にようやくティアは我に返り、
なぜ魔物が現れたのか……ボクがその原因を探る間、街を魔物から守りぬけ!
君にそれだけ言い渡し、ティアは自室へ入っていく。
男は涙目で君に懇願する。
こうして君は、アユ・タラに出没した魔物を退治することになった。
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アユ・タラに到着して以来、君たちは街に出没する魔物たちを退治する日々を送っている。
魔物退治を全部君に任せて自分は部屋にこもりっきりなんてひどいにゃ!
毎日ギルドヘ通い続けているが、ティアは自室にこもったままらしく、未だに会えていない。
ウィズは街の中心にそびえる巨大な遺跡、「オベルタワー」に目をやる。
街で採掘された鉱石を高く買い取ってるって話だけど……。
中央本部が四聖賢であるウィズにも知らされていない研究?
確かに、その可能性は大いにある。
しかし、たとえ時間を作ってもらったとしても、ティアは快く話をしてくれるだろうか?
初めて会った時に見た、彼の高圧的な態度を思い出し、君は憂曹な気持ちになる。
人間の数倍の寿命を持つというクナビ族は、みんなあんなに気難しいのだろうか?
確かにそうだ。見た目にはまだ幼さの残る少年だけど、彼は自分よりもずっと歳上なのだ。
さっきまでティアの文句を言っていたウィズに言われるのは何となく癩に障るけど――。
次は、もっと礼儀正しく接してみよう。今は彼の持っている知識を頼るしかないのだから。
君はそう心に決めて、今日もギルドのドアを開いた。
珍しく、というかあれ以来初めて顔を見せたティアは、開ロー番君をそう怒鳴りつける。
ひどい……。あれからー日も欠かさず通い続けているのに、いきなり怒鳴りつけるなんて……。
ー瞬にして先ほどの決意は消し飛び、君は怒りに体を震わせる。
ウィズの囁きに何とか冷静さを保ち、礼儀正しくティアに非礼(?)を詫びる。
だから今日からボクのとこで働け!お前の話は気が向いたら聞いてやるから!
話の流れがよくつかめない君の顔を見て、ティアはさらにまくしたてる。
つまり仮説を立てたボクに働け、と言われれば、仕事はその調査に決まってるじゃないか!
ー体ティアはどんな仮説を立てて、どんな調査を必要としているのだろう?
君は更なる説明を彼に求めるが――。
これもウィズの為だから、そう肩の上の師匠に目礼をし、君は二人目の師匠に弟子入りをした。
なぜ、遺跡に近づいてはいけないのか。
そんな疑問を投げかける隙すら、新しい師匠は与えてはくれなかった。
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こちとら力仕事は得意なんだが、魔物ってのはどうも苦手でよお。おたくのおかげで大助かりだ。
アユ・タラの街に来てしばらく経ち、君もすっかり住人たちに覚えられた。
ギルドマスター、ティアの弟子として……。
そんな君の肩書きが気に入らないのか、最近ことある度にウィズは君を非難してくる。
そしてふたりの師匠を持ってしまった君はといえば……。
出先ではウィズ師匠になじられ、ギルドに帰ればティア師匠にどやされる、という板挟み……。
何とも辛い日々を送っていた。
そんなことないよ、と君はウィズに言い返す。
偽物のウィズを召喚した者の手がかりを求めて、クォに紹介されたティアを訪ねてきたのだ。
それに、もしかしたらこの本物のウィズを本当の姿に戻す方法も知っているかもしれない。
とはいえ、弟子にしてもらってからこれまで、彼から有益な情報を聞ける機会はない。
やっている事といえば、魔物退治を除いては、資料集めや地質調査など、ほとんどが雑用だった。
肩の上で愚痴を吐く師匠の為にも、今日こそ話を聞いてもらおうと、君はギルドヘと向かった。
そんなウィズの溜息を感じながら、君は調査書類をマルガに手渡す。
言いながら、彼女は嬉しそうに笑う。そんな彼女の顔を見ている君の視線を感じたのか、
失礼ですよね。ー人前の魔法使いさんにお弟子さんなんて。
本当は何かティア様のお知恵を借りたい事情がおありなんでしょう?
そんな彼女の問いかけに君は力なく頷いた。
街を守る大水晶も、採掘される方の安全を気遣ってティア様が建てられたものですし……。
マルガの話を遮るように、背後からティアが現れた。
ティアはそれだけ言うと、ひとりギルドを出ていこうとする。
だからこれから、その調査に行って来る。
君は自分もー緒についていく、と申し出るが、
ボクは魔法使いがきらいだし、オベルタワーヘ近づくなともいったはずだぞ。
いいか?絶対にタワーヘ入るなよ!
言いながら、ティアはギルドを後にした。
結局、今日もティアに話を聞くことはできなかった。
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君の滞在してる宿の扉をマルガが叩いたのは、まだ夜の明ける前だった。
ティア様が彼女のただならぬ声に目を覚まし、ウィズを起こして外へと飛び出した。
彼女の話によれば、君の前でギルドを出てから、ティアは戻っていないのだという。
しかし、君はティアからオベルタワーに入る事はおろか、近づくことも禁止されている。
まだー日と経っていないし、曲がりなりにもギルドマスターである。
そう簡単に窮地に陥るとは考えにくい。
何事もなくティアが戻って来た場合、勝手に塔へ立ち入ったことを咎められないはずがない。
ただでさえ、友好的とは言えない師弟関係であるのに、そんなリスクを背負いたくはなかった。
何だか悪い予感がするにゃ。師匠命令にゃ!今すぐティアを探しに行くにゃ!)
耳元で命じる師匠の言葉に従って、君はオベルタワーヘと足を向けた。
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初めて入ったオベルタワーは、まるで上へ上へと進んでいく坑道だった。
塔内を下からしらみつぶしに探してきたが、未だにティアの姿を見つけることはできない。
しかし、なぜティアはこの中に入る事を許さないのだろうか?
確かに、鉱石には採掘作業員に十分な金を払って集めるだけの価値があるのだろう。
しかし、ここまで来る途中に鉱石はーつもなかった。
だからもっと奥に進んで私たちもお宝をゲットするにゃ!
言いながらウィズは、君の肩から飛び降り、どんどん先へ進んでいく。
お宝?そんなことより、早くティアを探さないと……。
だからもう調査が済んでるところにいるはずないにゃ。
確かにウィズの言う通りだ。ふざけているように見えて、実は冷静に状況を分析している。
そんな頼もしい「師匠」の背中を追って、君は塔の奥へと駆け出した。
それからしばらく先へと進んだ時――。
塔全体を揺るがすような、禍々しい咆呼に、君たちは足を取られた。
今の鳴き声はー体……。突然の出来事に狼狽える君に、
と言いながら、ウィズは声のした方にある岩の隙間をすり抜けていく。
君が何とかくぐり抜けるとそこには……。
巨大な竜とその傍らに横たわるティアの姿があった。
君はその竜から、なにか不吉な影のようなものを感じ取る。
同じものを前にも見たことがある気がしたが、よく思い出せなかった。でも……。
この竜が、魔物を引き寄せている……。
君は感覚的にそう強く確信した……。
ハッと我にかえると、竜は今にもティアに襲い掛からんとしている。
君は素早くカードを構えた。
***
BOSS:
****
君の放った魔法を受けて、竜はその場で動かなくなった。
ウィズは素早くティアに近寄り、彼の安否を確かめる。
ウィズの言葉に、君はホッと胸をなでおろす。
君はティアに近づいて、その小さな体を抱え上げた。
君の腕の中で、ティアがうっすらと目を開けた。
こんな状況でも憎まれ口を叩くなんて……。君は呆れるのも通り越して半ば関心しながら、
師匠が心配だったので、と弁解した。
もうちょっと……寝かせ……ろ……。
言いながら、ティアは目をつむり寝息を立て始める。
そんなウィズの言葉に驚いて、君もティアの体をみるが、どこも傷ついた様子はなかった。
あんな状況で眠っていただなんて……。
腕の中で眠るティアに何か底知れぬ力を感じながら、君たちはギルドヘと向かった。
***
ギルドに戻ってきてからも、ティアは長い時間眠り続けた。
マルガの話によれば、ティアはもう何日も自室にこもったまま、研究を続けていたのだという。
街のみんなって言ってもご存じのとおり、他所からお金の為に集まった採掘作業員なんですけど、
それでもティア様にとっては、自分を頼って来てくれる家族みたいなものなんです。
そう囁くウィズに君は同意せずにはいられない。
どうしてティアは、魔法使いをああまで毛嫌いしているのだろう?
君はふと、そんな疑問をマルガにぶつけてみる。マルガは少し困った顔をしてから、
と、話を始めた。
失言を詫びる彼女に、別に構わないと答える。事実、雑用をしているのだから。
マルガによれば、弟は徐々にティアの右腕として共に研究をするようになっていったのだという。
……そしてある日、猛反対するティア様を振り切って、この街を去ったのです。
街を去ってからもしばらくの間は、手紙をよこすこともあったのですが……。
それももうなくなりました……。
彼女の言葉に、その場の空気が重くなる。
手紙の中で美しい女性魔道士の下で働いている、なんて言ってましたし。
多分、色々と忙しくしているんだと思いますよ。
そう彼女が君に微笑んで、その場の空気が和らいだ時――。
と、パジャマ姿のティアが、目をこすりこすり起きてきた。
♪(にゃ!?喋り方が全然違うにゃ!)
いつもと違うティアの幼い口調に、君とウィズは驚く。
と、ようやく君の存在に気が付いた。
言いながら、ティアは慌てて自室に駆け込む。
とウィズが悪戯っぽく囁く。
言いながら、ティアが戻ってきた。見るともういつもの服に着替えており、口調も戻っている。
どうやら大水晶の力を打ち消す力をもつ魔物がいるらしい。これはすごい発見だぞ!
知的好奇心を刺激されたのか、ティアはキラキラした目で楽しそうに話し始める。
と、ティアは君の視線に気づく。
お礼のひとつでも言われたらいかがですか?
マルガの冷たい視線がティアに刺さる。
それを聞いたマルガはにっこりと微笑んで、
と、外へ出かけていく。ティアはそれを見届けてから君に振り返り、
とおもむろに口を開いた。
それから嬢ちゃん。もう猫かぶんなくていいよ。あんたがウィズ……なんだろ?
唐突に向けられたティアの言葉に、ウィズは驚きと警戒の色を示す。
そんなウィズにティアはそっと微笑みかける。
story
だけどその実体は、猫の姿ではあるが常にお前の側にいる。
そしてお前は、猫になった師匠を元に戻す方法を探している……。そういうことだな?
君の話をー通り聞き終えると、ティアは口を開いた。
お前の疑問に対する答えをボクは持ってない。
お前も知ってる通り、精霊は他の異界から召喚されるものだ。
クエス=アリアスに存在するものを召喚する事など出来ない。
ただし仮説をたてることは出来る。例えば……。
と、ティアはウィズの方を向き、
ティアの言葉にウィズは言葉を詰まらせる。
そして同様に、お嬢ちゃんがウィズではない事も証明することは出来ない。
だから便宜的に、今の仮説は間違っているとしよう。嬢ちゃんを本物のウィズとする。
ただし、嬢ちゃんは猫である、という意味において「完全なウィズ」ではない……。
つまり、どこかにウィズの断片がある、と仮定したら?
誰かがその〈ウィズの断片〉を召喚した……?
ティアはコクリと頷く。
あとはその召喚者が、どうやってその〈ウィズの断片〉と契約を結んだのか、って事だが……。
その時、ギルドの扉が慌ただしく開いた。
飛び込んできた作業員が急を告げる。
すべての現象には原因がある。ボクがそれを探っている間、お前は街を守れ!
そして君たちは外へと駆け出した。
story
ギルドヘと向かう道の途中で、君は大きな荷物を持った採掘作業員とすれ違う。
悲しげに微笑むと、男は君に背を向けて歩き始めた。
大水晶の光が失われてから、魔物の数は格段に増え、採掘作業員たちは徐々に街を去っていった。
そして住人の数が減るにつれ、君がティアに頼まれる雑用の種類も頻度も増えていった。
確かに最近、ティアの指定する様々な鉱石を見つけて来る、という仕事ばかりをやっている。
今日の仕事もティアに頼まれた鉱石の調達だった。目的の鉱石を手に、君はギルドヘと戻る。
と、ティアは君たちを自室へと招き入れ、奪うように鉱石をとる。
ティアはひとしきりその鉱石の感触を確かめてから、君の顔をじっと見つめる。
お前、どうやってこれが目当ての鉱石だと分かった?
……君は答えることが出来ない。実際、ただなんとなく分かるのだ。
理由を説明することはできない。
すると今度は、ウィズの鼻先にその鉱石を持っていき、
ティアはそんなウィズの答えに満足気に頷くと、
でも、あんたの弟子には分かる……そうだな?
と、再び君の顔をじっと見つめる。
オベルタワーの竜……。
ティアの唐突な問いかけに、君はただ黙って頷いた。
好奇心で瞳をキラキラと輝かせながら、ティアは続ける。
story
オベルタワーヘと進む道。
どんどん先へと進んでいくティアを追いかける君の肩にウィズが飛び乗る。
君はオベルタワーで戦った竜のことを話す。あの竜から感じた不吉な影のようなものについて。
そして直感的に、あの竜が魔物を引き寄せている原因だと確信したことについて。
私には、ティアみたいに的確にキミの力を見抜くことは出来なかったにゃ……。
君の話に、ウィズは少なからぬショックを受けたようだった。
気が付くと、ティアは君たちの前に立っていた。
そして君たちはオベルタワーにたどり着いた。
story
1
オベルタワーを上へ進んでいくと、ー際大きな扉の前に着いた。
ティアはそこで立ち止まると、君たちに振り向いて話を始めた。
大水晶の力を無効化させる力をもった竜なんて、ボクはこれまで聞いたこともなかった。
お前たちの何倍も生きているボクなのに、初めて経験することが立て続けに二回も起こったんだ。
……そんな偶然、あると思うか?
……誰かがそれを起こしている?
ティアは静かにうなずいて、
古代人のお前が見つけてきた鉱石ひとつひとつが、いわば石版の役割を果たしているわけだ。
言いながら、ティアは辺りの鉱石を手にとると、フッとそれに息を吹きかける。すると――。
鉱石から光の文字が浮き上がった。
歴史、戯曲、医学……様々な情報が刻まれているが、特に貴重なのが〈失われた魔法技術〉だ。
……〈失われた魔法技術〉?
魔道士ギルドはその内容の流出、悪用を防ぐ名目で特務機関を設置し厳重な情報統制を敷いた。
オベルタワーを単なる遺跡とし、魔道士を遠ざけ、採掘者にも真実を明かさない。
真実を知るのはギルドマスターとしてこの地に呼ばれた考古学者のみ。
失われた魔法技術を復活させることで、ルドは飛躍的に発展した。
魔道士ギ吐Jその基礎となる魔法体系を古代人の叡智を基に、ボクのー族が纏め上げた。
そして彼らは、このオベルタワーを模して、サイオーンにあのグノスタワーを建てた。
あの都市は全てボクの発見、ボクの研究に基づいて設計された、アユ・タラの模造だ。
つまり、ボクの魔法に関する知識というのは、現代魔法技術の最先端と同義……。
その意味において、現状ボクの知らない魔法はない。
あまりにスケールの大きな話を前に、君はただ立ち尽くすことしか出来ない。
……でも、ここから奥は別だ。扉の奥には、手つかずの叡智が眠っている。
記録によれば、この部屋はかつて〈護りの間〉と呼ばれていたらしい。
光を失った水晶に再び光を戻す方法があるとすれば、ここしかない。
ただし、ボクの仮説が正しければ、室内の防御装置はまだ機能し続けている……。
だからお前たちを連れてきた。いいか?ボクが叡智を読み解く間、何が何でもボクを守れ!
言いながら、ティアは目の前の扉をー気に開く。
ぐぉおおおおお
ウィズの言葉を遮るような咆呼とともに、巨大な像が襲い掛かる!
story
君の放った魔法を受けて、奇妙な物質で構成された巨像はようやく膝をつき、動かなくなった。
壁に散りばめれた鉱石を読み取り続けているティアは、振り向くことなく君に声をかける。
激しい戦いの渦中にあってもー切動じないティアの仕事ぶりに、君たちはただ見とれてしまう。
その時だった。
ぐぉおおおお
突然、巨像が動き出し、ティアの背後を襲う!
君はとっさにティアヘ体当たりし、寸でのところで攻撃をかわす。
巨像はそのまま壁を破壊し、ようやくその動きを止めた。
壁の残骸から鉱石を拾い上げるティアだったが、そこから叡智を読み取ることは出来なかった。
動かなくなった巨像を見つめながら、ティアはそう呟いた。
story
オベルタワーから戻ると、そこにマルガの姿はなかった。
装置に必要な鉱石のリストだ。だけど肝心の設計図は半分しか読み取ることが出来なかった。
お前らは今からボクの言う鉱物を集めて来い!その間にボクは完全な設計図を推測してみる。
story
私にはどれがどれなのか見分けがつかないにゃ。
ウィズの言葉に、君は苦笑する。
上手く言い表すことが出来ないが、手にした時の感覚が違う。
それに、目を凝らしてみれば、少しだけ魔力の波動を感じることが出来た。
ティアはそれを特別な才能だと言っていたが、君自身特にその自覚はない。
最後のそれは、アユ・タラの街中で見ることが出来る、もっともー般的な鉱石だった。
ウィズの言葉に周囲を見渡すが、手頃な大きさのものが見当たらない。
少し場所を変えようか、と君が言い、振り返った――その時だった。
ウィズとー緒に君はー歩飛ぴずさり、反射的にカードを構えてしまう。
君の様子を見て、クォは慌てて顔の前で手を振った。
ちょっとふざけただけじゃないですか。冗談が通じないなぁ、ホントに。
大きくため息をつき、君はクォになんの用なのかを聞く。
色々と野暮用も済んだことですし、ついでにあなたがどうしているか見に来たんです。
ですが、心配はいらなかったようですね。頑張っているようで安心しました。
君はクォの満面の笑みに、漠然とした嫌な予感を感じる。
何を企んでいるのか読み取れない表情……君は返事をすることなく、クォの横を通り過ぎた。
君の横に並ぶように、クォは歩調を速めて追いかけてくる。
――と、その時だった。
君はクォから「とある気配」を感じて足を止める。
その質問に、君はなんでもない、とそっけない返事をする。
君の返事を待たずに、クォは廊下の奥へ奥へと進んでいく。
……言えるはずがなかった。
――クォから、オウランディの風車群で感じた、「歪み」の気配を感じただなんて。
story
君とクォがギルドヘと向かう途中、慌てた様子のマルガが声をかけてきた。
息を切らしたマルガを落ち着かせ、君は何が起きたのかを聞く。
坑道もメチャクチャにされて、それで……!
涙を浮かべて訴えるマルガの言葉に、君はクォをー瞥する。
確かに、君とクォはここに来るまでの間ずっとー緒だった。
マルガの言う「魔法使い」は、おそらくクォではないだろう。
一応、みなさんには避難していただきましたけれど……。
「フードを被った華奢な人物」……その言葉に、君の心臓はひとつ高鳴った。
……〈ウィズ〉が、また現れたのだ。確信じみた予感が脳裏をかすめる。
心配しないで、と君は返し、ティアに頼まれた鉱石をマルガに託す。
君は首を横に振った。なぜなら、この問題は君自身の力だけで解決しなければならない。
〈先々に現れる〈ウィズ〉。
……そろそろ、終わりにしなければ。
君は決意を胸にー歩を踏み出した。
story
マルガから聞いた場所には、ただただ悲惨な破壊の跡だけが残っている。
その場所には、ただただ悲惨な破壊の跡だけが残っている。
幸い作業してた奴らには怪我は無かったんだけどよ……道具がダメになっちまった。
これじゃ仕事にならねえし、早くなんとかしてくれよな、魔法使いさんよ。
事件の様子を話してくれた採掘作業員に礼を言い、君は周囲の様子をもうー度観察する。
破壊しつくされた塔の中……だが、君はその景色にぼんやりとした違和感を感じた。
頷きながら、君は言う。
完全に壊すことが目的なら、このやり方は生ぬるい、と。
それに、採掘屋のヒトたちを傷つけるのが目的なら――。
そこらへんにある支柱を壊して、全員生き埋めにした方が手っ取り早いにゃ。
表現はとても暴力的だが、ウィズの言う通りだ。見れば、塔を支える支柱にはー切傷がない。
付け加えれば、主要な岩盤にも破壊の跡はなかった。
そう、これじゃあまるで――。
ー体、私の偽物は何が目的なんだにゃ……?
君の心の中に、漠然とした不安と、掴み所の無い謎だけが膨らみつつある。
……早く何とかしなければ。そう思い、君はオベルタワーを後にした。
story
坑道の奥から、強烈な魔力とともに轟音が響く!
ウィズに促され、その方向へ君は全力で走った。
そこにいたのは……!
すさまじい魔力をその身に纏った、〈ウィズ〉の姿。
……待ってたんだ。キミを、おびき出さなきゃいけなくてさ。
……「あの人」の命令でね。
それは、初めて聞く〈ウィズ〉の声だった。
だが、君はふとその声にひっかかるものを感じる。
気のせいだろうか……君には〈ウィズ〉の声が、どこか悲哀を含んでいるように聞こえたのだ。
しかし、そんな君の疑問を打ち砕くように……
足下から、静かに響く、怒りのこもったウィズの声が響いた。
仕方ないじゃない、召喚された側は、マスターには逆らえない。
それは、あなたもよく知ってるでしょ?
その〈ウィズ〉の言葉は、オウランディで君が立てた仮説を裏打ちするものだった。
そう、〈ウィズ〉は精霊だったのだ。それも、誰か悪意を持った人間に召喚された……
私なら、もっとキミにいろんな魔法を教えてあげられるよ。
ウィズの言葉に、キミは即答する。
断る、と。
なら、やるしかないってこと……だよね?
くるくると手の上で杖を回し、〈ウィズ〉はビシリとキミヘその先端を向ける。
トルリッカ以来の、瓢々とした雰囲気。
懐かしさと、怒りと、尊敬と、失望と……様々な入り混じった感情が君の胸中を満たす。
その気持ちを視線に込め、君は〈ウィズ〉をまっすぐに見据えた。
ロレンツィオやオウランディでは試運転の段階だったんだ。
とはいえ、今も100%ではないけれど……あの時の私よりも、今の私は数段強いよ。
じゃあ、見せてもらおうか。君がどれだけ強くなったか。
今、ここで……!!
強烈な魔力が形を成し、が召喚されていく。〈ウィズ〉の眼前に精霊
その光の向こうで、彼女はー瞬だけ優しく微笑んだ。
***
BOSS:ウィズ
***
ぼやけ始めた体の輪郭を抱き留めるように、〈ウィズ〉は肩を庇って膝をついた。
お前の目的、私達の邪魔をする理由……聞きたいことは山ほどあるにゃ。
ごめんね、色々……操られてたとはいえ、私、いっぱいひどいことを……。
泣きそうな顔をして、〈ウィズ〉はウィズに言う。
でも、ロレンツィオやオウランディでキミやオルネに会って……。
そこでー度言葉を切り、<ウィズ>はウィズをじっと見つめる。
段々、私はあなたと分かれる前の私を取り戻し始めてきたんだ。
言いながら、〈ウィズ〉はウィズをそっと撫でる。
突然明かされた驚愕の事実に、君もウィズも狼狽を隠せない。
だが、その事実は最大にして最強の手がかりだった。
〈ウィズ〉が精霊であるならば、召喚者が必ず居る!
その相手を聞き出せれば、このー連の騒動に決着をつけることができるはず……!
……しかし、眼前の〈ウィズ〉は既に半ばその輪郭を失っていた。
もう、時間が無い――!
ねえ、キミ。私をよろしくね、きっと、また――。
その言葉は、〈ウィズ〉とともに消えた。
脅威を払ったはずなのに、君の心にはぽっかりと黒い穴が開いてしまったようだった。
……まずは、このことをマルガに報告する必要があるだろう。
イラつくウィズを抱きかかえ、君はー路ギルドヘと急ぐ。
……背中にのしかかる、不安とともに。