【白猫】Phantom Of Memory Story1
目次
登場人物
story1 化け物退治
<エリア・シキシマにおいても異彩を放つ街<ロクハラタウン>――アップデートルーンにより急速に発展した、新世代アンドロイドたちの街である。>
<街はいま、巨大な怪物<ポム>によって平和を奪われ、降雨されている。アンドロイドたちはポムによる破壊を止めるべく、攻撃を続けていた。>
あの……
エ、エプリルちゃん!?なんでこんなとこに!
邪魔だから下がってなさい!
でも、ワタシの頭脳にー筋の……
いいから、さあ!行った行った!
***
エプリル |
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まったく、なんだってんです。
ゼロキス |
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キミ、街のみんなに何かしたの?
してないですよっ。ある日とつぜんワタシを避けるようになったんです。
まあ、おおかたワタシの賢さを疎んじてのことでしょう。これが天才の孤独というやつです。
ハハ……キミは図太いね……僕なら三年は寝込むとこだよ……
フフン、庶民のことなんて気にしないのです。
ていうかさ、本当にあんな大きいの倒せるの?
あ、急に走り出さないでくれよー!
アリーゼ!
エプリル!?やば、なんで見つかっちゃうかな……
戻ってきたんですね。ママは?
ほ、本当にそう呼ばれている……うぅ……
すごい、資料通りの反応ですっ。
なんでこんな前線まで出てるのよ。
ワタシの天才頭脳が、ポムを倒す妙案を思いついたのです!
アンタは参加すんなって何度も言ってんじゃん!
きいてください、アイツには弱点が……
聞かないし手も貸さないってば!
……アナタまで……ワタシを避けるんですね……
……っ。当然よ。アタシ、性格ねじくれてるし?
エプリル様、でしたね。お話を聞かせてください。
待ってよママ……!
民の声には耳を傾けねばいけません。
アタシがママにしたいお願いは街の総意で、最優先事項です!
ごめんなさい。私は助力を願う声を無視することなどできないんです。
……そうでした。そういう人だからこの街にも来てくれたんですもんね。
じゃあ……!
アンタ、本当にポムを倒せんの?
逆に、なぜワタシがポムを倒せないと?天才に不可能はないですよ。
……そう。
はぁ、はぁ、どんだけ走るんだよ……ほげっ!?
(かわかわかわいこちゃんたち!)
何アレ?
ぼくぅ!?ぼぼぼぼくは……!
足が遅いやつです。
飛べば速いよ!じゃなくて!ゼロキスだよ!
はじめまして、ゼロキス様。私はチハヤと……
か、かわかわ……川を渡ってきまーーーーーーーす!
どういうこと?
どういうことかはワタシにもわかりません。
あ、戻ってこられました。
ポムに追っかけられてんじゃない!
では、務めを果たす好機ということですね。
クリカラ様、我と共に!
<チハヤが琵琶を激しく奏で、クリカラが音の高ぶりに応える。>
pミュー!
ええ!?なに!?清楚な子が光って!?
これが、アタシたちの元になったママの力……!
ママってなに!?
ママ、かっこいい!槍さばきもきれー!
賢いワタシの分析によると、ママの筋肉はなかなかしなやか。
そ、その呼び方、控えていただけないものでしょうか?
つまり、シャナオウさんがパパって呼ばれているみたいなこと?
story2 僕の名はゼロキス
なるほど。すさまじい硬さだと実感しました。
それで、エプリル様にはあの外殻を貫く秘策がおありなのですね?
(僕はゼロキス。そこらに転がるただの石ころさ)
(なんと今、僕は女の子たちに囲まれてる!)
(いや、正しくは女の子の輪に入れずに大人しくしてるんだけど)
はい。長期間、観察に徹した結果わかったのですが……
(とにかく彼女たちのー挙手ー投足のまぶしさったら、脅威!)
(いや、手も足も直視はしてないんだけど。女の子は今日もまぶしすぎるよ。罪な存在だね)
体のー部に、ヒラヒラしたなにかが埋まってて、そのせいでうまく硬化できてない部分があるのです。
そこを狙えば、攻撃が通るかもしれないと……やる価値はありそうですね。
は、はいっ。弱点のマーカーをつけてあるので、共有しますね。
アタシは、やっぱりがきんちょが混ざるのは反対だけど。
今度はどんな親切なんですか?
し、親切なわけないでしょ!クロワ、いきましょ!
へ、ヘー。その小さいの、キミの言うこと聞くんですねー。
(よし!自然に会話に混ざれたぞ!)
は?
んひぃ!
当たり前じゃん。クリカラユニットには意思も感情もあるし、パートナーとは非言語コミュニケーションも行ってるから。ねっ。
――イエス。
てか、汗だく。ほら、ハンカチ。
すすすいません、ちゃんと洗って返しますぅ!
なにその反応?
アリーゼは圧があるから、怯えてるんですよ。
(街の連中も、ママも、アタシが悪いアンドロイドだって認めてくれないけど……)
(コイツは怯えてる……!?なんて新鮮な反応なの……!)
フフ、ねえアンタ、そのハンカチの柄、よく見てよ。
ド、ドクロ……どんな占いでも不吉の象徴、ドクロ……!
そう、アタシはアンタを不幸にする邪悪な女なのよ!
不幸にするのに、ハンカチ負してあげちゃってますけど。
ゼロキス様?顔が青いですよ?
は、はいっ!?いいえっ!?
何かあったら遠慮なく言ってくださいね?
(なんて優しい人なんだ……ほっこり……)
お前のせいで……
お前たちのせいで、街がこんなことになったんだ……
それは、どういう……
ばか!やめろ!き、気にすんなエプリル!
オマエたちのせい……?
「不安はありますが、だいじょうぶです。たとえ何かあっても、ワタシたちなら……」
う……いまのは……?
ダメです、集中ですっ。
あの化け物を倒せば、きっと街の人たちもワタシのこと認め直してくれます。
みんなと……仲直りしたいです。
story3 アップデートルーン
ママ、アタシがとどめ狙うから。がきんちょのお守しといてくださいね。
つまり、エプリル様に怪我のないようにということですね。
ふぎゃ!?ちがう!おいしいとこ持ってきたいだけです!
あのヒラヒラ、はっきりとは見えませんでしたが、アップデートルーンじゃなさそうですね。
アップデートルーンというのは?
アタシたちの動力源です。ママを研究して出来上がったんですよ。
ああ、クリカラユニットの動力源ということですか。
半分合ってます。
?
クリカラユニットの中のアップデートルーンは、ユニットだけでなく……
ワタシたち本体にもエネルギーを供給してる、すごいエネルギー体なのです。
クロワ、接続解除してみて。
――――
うわっ、え!?ええ!?
はっ。
あ、あの、白目剥いてましたが、大丈夫なんですか……?
し、しろ!?寝顔見んな!バカ!もうサイテー!
心配しただけなのにー!
つまり、皆さまはクリカラユニットの中のアップデートルーンで動いてると?
はい。
でも、エプリル様にはクリカラユニットがいませんよね?
!
あ、ママ……!
あれ?そういえば、なぜワタシ動けてるんでしょう……
(やばい、やばい……!)
……天才だから?
キミのその自信には感心するよ。
かわいらしいと思います。
褒められてしまいました。
ポムに見つかったわよ!喋ってないで、作戦開始!
こっちには誰もいない、誰もいないよー?
わぁーーーーーーーー!いないって言ったじゃん!
もう、こうなったら、僕も……このポケットの中の……
アップデートルーンの力を使って……!
「どうすれば……どうすればいいんですか!
「アップデートルーンだ。
「それ、持ってくればいいんですか?ぱっと見でわかるやつ?
「俺も見たことはないが、エリオットが真贋を見極めるデバイスを用意してくれている。あの者の先見の明はまこと……
「機能停止しかけてるんだから、褒める前に早く出して!
「これだ。この装具の窪みにルーンをはめ込んで、もしゼロキスに変化が起きたら、本物ということになる。
「僕に変化?え?僕が実験台?
「変化といっても、アップデートされるわけだから、良い方の変化なはずだ。
「はずって時点で、ダメな予感しかしないんですけど。
「真なるアップデートルーンを手に入れたのなら、我がもとへ……
命運……託したぞ……
「に、荷が重いですって……シャナオウさーん!?言いっぱなしはずるいですよー!」
そんなこんなで、僕はこの街から、アップデートルーンを持ち帰らなくちゃいけない。
そうしないと、友人のアンドロイドが二度と目を覚ましてくれないからだ。
街の混乱に乗じてアップデートルーンをラッキーゲットすることまではできたんだけど……
装具にはめると、僕が変化……
ギョアーーーー!
ひぃーーーー!このままじゃ死ぬーー!
でもやっばりムリだよ!もし、もし、アップデートして……
こんなんなったら生きていけないよーーー!
story4 ヒラヒラ
いけるーッ!
私も続きます!
ま、待ってエプリル……!
食らえ、ワタシの全力……!
このヒラヒラ……リボン?
「そうと決まれば、リボン屋さんにゴーです。
(エプリル様、なぜ動きを止めて……ならば私が!)
ハァッ!!
やめてっ!
エプリル様?なぜ化生をかばうのです?
わ、わからない……わからないですけど……
わからないですけど、ぜったいダメです……!
危ない!
助かりました、アリーゼ様。ー旦、退却しましょう!
***
はぁ、はぁ、やっと合流……違うんです、はぁ、はぁ、息が荒いのは頑張ってた証で……決して、変なやつじゃ……!
なな、なんか、暗くないですか?
ワタシはポムを、知ってます。
違和感が確信に変わりました。ワタシは絶対ポムを知ってる。でも、忘れちゃってるんです。
アンドロイドって物忘れとかするのかい?
メモリの欠損が起きてるんです。ポムに関する記録だけ。
なぜですか、アリーゼ?
アタシは天才じゃないしわかんなーい。それに知っててもアンタに教えるわけないし?
アリーゼ様?
ダメ。本当にダメだから。
…………
(私が製造された日からつい最近まで、毎日かならずどこかにメモリ欠損が見られる……)
(毎日……あの化け物と、接点が……?)
……教えてくれないなら、自分で調べるまでです。
メモリを復元でもしようって?無理よ。バックアップにー般のアンドロイドがアクセスする権限はない。
ママがいます。
ママは、この街では特別なんです。何ものからも拒まれない生体特権が付与されてます。
つまり、どういうこと?
ママならワタシの記憶を取り戻せるってことです。
よし、じゃあさっそく取り戻しに向かおう!
決断はやいですね。
だってエプリルちゃん困ってるんでしょ?なら直すべきだよ。
そうですね。復元しましょう。
ママまで!どうして!
標的の情報が欠落しているのは危険だと、将としての経験から判断しました。
チハヤさんって何者……?
アタシは……アタシは認めないからね……!
アリーゼ、ワタシは……
メモリの復元なんて、全力で妨害してやる……!
ワタシはみんなと、また仲良くなりたいんですっ。
……ッ。
そのために、メモリを取り戻して、避けられてる理由を突き止めます!
じゃまされても、自分で未来をつかみ取ってやるのです!
story5 救国の乙女
止まりなさい!全部の砲門がドカンといくわよ!
も、もももう、あ、足止めなんてやめましょうよ~。
やめないわ!絶対メモリの復元なんてさせないんだから!
そこのヘタレ!
ゼゼゼロゼロキッスですってばぁ!
止まらないと、な、なんかその、アレしちゃうわよ!
悪いことが思い浮かばなかったのですね。
え、エプリルちゃーん!
なんでワタシに頼るんですか。
だって、チハヤさんに頼ったら男としてかっこつかないだろ!
子供に頼るのがいちばんかっこつかな……子供じゃないですっ。
ちょっとー旦そこどきなさい!
?
瓦喋落ちてきそうだから!
出会ったときから思ってましたが、親切な方ですよね。
はい……ワタシたちは製造時に、実在した人物の記録データを模擬人格として反映するんです。
ワタシは<天才学者>を参照して作られました。
あ、だから天才ぶってるの?
事実、天才ですが?
では、アリーゼ様にも?
彼女は<救国の乙女>を参照した機体なのです。
国を救った女性、ですか。
なので、本当の彼女は愛情深く、親切で、正義の使徒って感じの性格してます。パワーも超優秀です。
そうなのですか?
でも、その気持ちも力も作られたプログラムじゃん!
というのが、アリーゼの言い分なのです。
……なるほど。だから自らの心に逆らおうと悪ぶって……
でも、やさしさがにじみ出てしまう……人柄は隠せませんね。
(では、エプリル様を足止めしているのも、彼女なりのやさしさ……?)
なんか悪ぶった服着てますけど、気を抜くと白いワンピースぱっか買ってますよ。
詳しいのですね?
まあ、二人でいること、多かったですから。
!
この建物、いつも行くリボン屋さん……ポムに壊されちゃったんだ。
リボン……おそろいの……なんだっけ。
ふぎゃ!攻撃!?ポム、アンタまで邪魔すんの!?
牽制用のドローンユニットのようです。
伏せて!
わぁー!?死ぬー!?
当たった!?ゼ、ゼロキス様……!
僕はゼロキス。恋に恋するインキュバスさ。
ー目惚れすると、相手の動作がゆっくり見えるらしいね。でもこれはー目惚れじゃないな。走馬灯ってやつだ。
すみません、シャナオウさん……これは、死ぬパターンのやつです……シャナオウさん……
なんか、大変な目にばかりあってた気がする……
「この装具の窪みにルーンをはめ込んで、もしゼロキスに変化が起きたら、それは本物だ。
「僕の、アップデート……
もうなんでもいいさ!モジャモジャになってもいいから、僕をたすけてよー!
うわ!なに!?
<光に包まれたゼロキスが、ゆっくりと起き上がる――>
これは、私がクリカラ様を身に宿したときと同じ、力の奔流……!
ゼロキス……?
おっと。どうしたんだい?かわいいおめめをパチクリさせて。
俺が眩しすぎて、目がくらんじゃったのかな?子猫ちゃん♪
うげ。
さて、俺のスウィートなイチゴパフェちゃんたちをいじめる奴らには、早々に退場してもらおうか……!
なんか……なんでしょう……なんなんだ……
story6 俺はゼロキス
つまり、ゼロキス様はアップデートされている状態だと。
ファサ……っ。
てか、あのドローンの銃弾、結局かすっただけだったし。ビビッて頭打って気絶してたとか、恥ずかしくないの。
恥ずかしいわけないだろ?俺は愛以外の感情を抱いたことがない男だよ?
ほ、本当にゼロキス様なのですよね?
皆の知ってるゼロキスが強くなった姿だと言ったら、受け止めやすいかな?
自信がついたってこと?
すごいね、アンドロイドってそんなに嫌そうな顔できるのかい?
嬉しいよ。今日は俺とキミの<嫌そうな顔発見記念日>になった。
ママー!
だ、大丈夫ですよ。こわくないですよ。
チハヤさん。
はい?
ようやく名前をお呼びすることができましたね。でも……すみません。
え?
俺には、心に決めた人がいるんです。だから、あなたと子供たちを養っていくことは……クッ!できないッ!
勝手にママをフらないで!もうルーンとっちゃおうよ!
ー応言っておくけどね、アップデート後のこの俺の記憶は、普段の俺の記憶と連続してるものなんだぜ。
ルーンをとっちまったら、俺は恥ずかしくて今度こそ間違いなく死ぬね。
なにを自信たっぷりに言ってるんですか。
てかそのアップデートルーン、アンタのじゃないでしょ?いったいどこで……
まあまあ皆さま。とりあえず害はないですし、このままのゼロキス様でいてもらいましょう。
ママ、地味にひどい。
それにしても、アップデートルーンとはすごい力なんですね。人が変わってしまうなんて。
すさまじい全能感!自己肯定感!世界ーのモテ男、襲来って感じさ♪
いや……?
冷え込んだ心を癒やすあったかシチュー男、完成……って感じか?
もう黙っててください。
すごい力だから、おそろしいのよ。
おそろしい?それは違います。たしかにゼロキスはおそろしいですが……
ねえ、俺、薔薇の香りしない?
アップデートは未来を切り拓く力。つまり天才のそれです。
時代は変わったの。
……勝手に変わらないでください。
なによ。
勝手にワタシをおいてかないでください。
…………
皆さま。着いたようですよ。
(着いちゃったし……)
これが記憶を復元させる装置かい?こじんまりしてるねえ。
しかし、讐備は万全のようですね。
チハヤさんとエプリルちゃんは、準備していて構わないよ。ここは俺とアリりんに任せてさッ。
りん……!?ばか!自己陶酔ピンク!
そう、俺は自分に酔いつぶれてる男……朝目が覚めても酔いは覚めない……
感謝しますよ、酔っぱらい!さ、ママ!
はい!