アナザーエデン 1.5章 Story1
オーガ戦役 前編
さてと……時の暗闇でオレ達の手で倒さざるを得なかったエデン……。
クロノス博士やマドカさんの想いのためにも彼をどうにかしてやりたいのはやまやまなんだが……。
なんとしても拙者達の手で彼を……殺された未来を救わねばならんでござるぞアルド。
それに無意識の内にフィーネちゃんが助けたらしいアルテナと魔獣王も探さないとね。
ああ……だけどいったい何をどうすればいいんだ……。
どこかに新たな手がかりか何かがあればいいんだが……。
「それじゃがのアルド?古戦場跡でなにやら異変が起こっているという話じゃ。
何もない荒れ地じゃが近頃どこからか妙な物音やら叫び声やらが聞こえるらしい。
ぼんやりとしたあやしい影がふいにいくつも宙に浮かんだり消えたりもするそうじゃぞ。
古戦場跡……?
「うむ東の暗黒大陸じゃ。もう何千年も昔の話になるが激しい闘いがあったそうでな。
倒れた魔物の血が河のように大地を流れ……あまたの骸が今も地中深くに眠っておるというが……。
魔獣城のある暗黒大陸か……。
どうやらそこで幕が上がるようでござるな。
ええ……わたし達の新たな冒険の幕が!
行きマショウアルドさん!世界がワタシ達を待ってイマス。
hさあ……のんびりしてるヒマはないわよ。
お兄ちゃん、一日もはやく見つけ出さなきゃ!アルテナや魔獣王を……。
よし!それじゃあ早速合成鬼竜で古戦場跡へひとっ飛びしようか。
行こうみんな。オレ達の新たな旅の始まりだ!
story
まったく人間どもめ!でかい顔して偉そうに。獣人は立ち入り禁止だって!?
ふざけるな!この森だってもともとは俺達が……
なんだこの声は?
……ル……ドナ……ギルド……ナ……
誰だ俺を呼ぶのは?
俺を呼んでいたのはおまえか……?何者だおまえ?
ギルドナ……あなたはあなたの人生をもう一度生き直して。
魔獣の王となる16年間の憎しみの生き方を捨てて別の新たな道を歩んで……!
なんだと?魔獣王……?16年間の人生を捨てて生き直せ……?
いったいなんの話だ?おまえは……?
お願いギルドナ……!あなた自身のために……そしてアルテナのためにも!
なに?おい……待てッ!
…………
……
ここは……?いったい何が……?
あれは……蛇頭メズキータ。ということはここは……蛇骨島か?
「ねえちょっと……!そこにいるのはもしかして……?」
うん?
やっぱり……兄さん!?ギルドナ兄さん!?
兄さんもこの世界に戻って来られたんだ……。ああ……よかった!
ほんとに……ほんとによかった……!
……!?おまえは……!?ちょ、ちょっと待て!まさか……アルテナか?
バカな!アルテナは……妹はまだほんのちっちゃな子供のはずだぞ!?
でも間違いなくあたしがその正真正銘のアルテナなの!
兄さんこそその姿は……?まるで昔に戻ったような……。
いや……何がどうなってるのか俺にもよくわからないんだが……?
あの娘は魔獣王としての時を生き直せとか妙なことを言っていたが……。
時を生き直す……?あの娘……?
ああフィーネね!やっぱりフィーネだったんだ。
きっとフィーネが無意識のうちにジオの力であたし達を救ってくれたんだ。
ありがとうフィーネ。兄さんを救ってくれて……。あたし達を許してくれて……。
兄さんの方は魔獣王とは別の道を生きられるよう出会った当時の状態で蘇らせてくれたのかも……。
でもこうしてまた若い頃の兄さんに会えるなんて……なんだか不思議な感じ!
それじゃほんとに……おまえなんだなアルテナ?
よくわからないが……俺の方こそまさか成長したおまえに会うことになるとは……!
ともかく……フィーネというのか?あの娘が俺に人生を生き直せと言ったのはほんとだったのか。
人間と敵対してた兄さんの16年間をやり直して欲しかったんじゃないかな。
あの子……そういう子だから。
いつか兄さんにもちゃんと紹介してあげる。
そうか……わかった。
よし。そういうことなら俺は俺のやり方で精一杯生きてやる。
この星の夢の1頁にしかと刻みつけてやろう。いつまでも永く……どこまでもう深く……!
この俺……魔獣ギルドナのもうひとつの生き様を!
AD300年 暗黒大陸
「現在魔獣城の南南東を航行中。間もなく古戦場跡の上空に到達するぞ。どうするアルド?
そうだな……とりあえずどこか開けたところを探して降ろしてくれるか?
「了解した。では降下準備に入る。
***
ここが古戦場跡か……何千年も前にこの場所で戦争が起きたんだな。
ほう……これはこれは。
ああディアドラか。どうかしたか?
いや……どうということはない。ただこの地がずいぶんと騒がしいのでな。
騒がしいだって……?オレには何も聞こえないけど……
ああアルド達には聞こえまい。
なにせ騒がしいのは亡者たちの呻き声だからな。
も……亡者!?やめてよねそういう冗談は……
ふふ……冗談に聞こえるか?
打ち捨てられた武具が朽ち亡骸が風化しようとも遺された無念だけは消えぬものだ。
魔剣と共に生きてきた私は少々そういったものに対して鋭敏になっていてな。
大丈夫デス、エイミさん。ワタシの生命探知レーダーには何モ映っておりマセンノデ!
全然フォローになってないわよ!余計不気味じゃない!
古戦場跡……思い出したわ。
アナベルまで……どうした何か知ってるのか?
暗黒大陸の近海を通る交易船から王宮に報告が上かっていたの。古戦場跡に何か異変があるようだと。
ここは数千年前の戦争ですっかり荒廃してしまって滅多に人も足を踏み入れない禁忌の地となったはず。
それがどうして最近になって急に騒がれ出したのかしら……。
アルドたちが村長から聞いたという話何やら聞き覚えがあると思えば騎士団で耳にした噂だったか。
ここの調査で何かわかったらミグランス王にもお伝えしなければならないわね。
hでもディアドラさんの話を聞くに一筋縄ではいかなそうよ。
亡者の呻き声……だったかしら。合成人間の私にはちっともピンとこないけれど。
なに言ってるのヘレナ……亡者なんて本当なわけ……
怖がらなくても大丈夫よ。いざとなったら祈りの聖剣でエイミさんを守るから。
怖がってなんかいないわよ!全然!全く!これっぽっちも!
祈りの聖剣……面妖な響きでござる。やはりアナベル殿とはいずれ手合わせをせねばならんでござるな。
ええ、この古戦場跡から無事に帰ったらそのときにでも。
きっと大丈夫!アナベルさんとディアドラさんが協力してくれるんだもん!
お二人の力を借りるコトデミッションの成功率は限りなく100パーセントに近くなりマス!
ああ。それじゃあ古戦場跡の噂の正体を確かめにいこう!
ん……?いまオーガベインが震えたような……
お兄ちゃんどうかした?
あ、ああ……なんでもない。じゃあ行こうか!
……まあ気のせいだよな。
『弟よ……いったいどこへ……
……いかんな。私は部隊を預かる身。私情など挟むわけには……』
***
『大切な指輪がない……この戦いから戻ったらあいつに渡すつもりだったのに……。
……転んだときに落としてしまったのだろうか。たしか大きな剣の近くだったが……。』
「」
『その指輪は!ありがとうこれで思い残すことはない……』
***
『兄さん……いったいどこへ……』
「お兄さんを探してるのか?オレでよければ手伝うよ。」
『本当ですか……!ありがとうございます。
兄はきっと近くにいます。少しの間お供させてください。」
『おお無事だったのだな!
旅のお方よ世話をかけましたな。これで安心して戦うことが……』
『本当にありがとうございました。ようやく僕も兄と同じ戦場へ……』
***
なんなのよあのヒトダマみたいなの……望みを叶えたと思ったら急にスーって消えたりして……
大丈夫かエイミ?顔色悪いぞ。
だから言っただろう?この一帯は亡者の声が騒がしいと。
ディアドラさんに聞こえてワタシに聞こえない……明らかにコレは機能拡張の必要アリデス!
製造元であるKMS社に早急な霊体センサーの追加導入を打診しナクテハナリマセン。
そんなアップグレードなんてしなくていいわよ!もう亡者の相手は終わったんだし……
何を言っている?この先からもおびただしい数の亡者の声が聞こえているぞ。
奴らの声はなくなるどころかむしろ強くなる一方だ。
ええっ……!?
あんまりいじめるのは感心しないわよディアドラ。
む……私は事実を言ったまでだ。何も知らんのと気構えできるのとでは雲泥の差だろう?
仲がいいのか悪いのかわからないわね……あなたたち。
とりあえず先へ進んでみよう。まだまだ先は長いだろうからな。
***
『あなたたちもこの戦場に?怪我をしていませんか?私は衛生兵なのですが……。
今も助けを求める声があちこちから……わたしと一緒に怪我をしている仲間を探していただけませんか?』
『わたしの出番ですね。今治療いたします。』
『助かった……ありがとう。自分は戦線に復帰するから隊長によろしく伝えてくれ。』
『隊長残るはあなただけです。最後の治療をいたしましょう。』
『隊員たちを救ってくれたのだね。ありがとうこれで思い残すことは……』
『おかげ様で助かりました。わたしも皆さんのところへ……』
**
ふう……なかなか広いな。みんな大丈夫か?
私は平気よ。亡者の呻き声にもだいぶ慣れてきたわ。
しかし亡者とはいっても怨霊のようなものではなく純粋に無念を残した者たちなのね。
このぶんだと祈りの聖剣の出番はなさそうだわ。
なんと!拙者いたく興味があったのでござるが……致し方ないでござるな。
とはいえそこかしこに魔物がいるから油断はできないけれど。
そういえば祈りの聖剣って魔獣城で聞いたような……。
魔獣のみんな細心の注意を……ってとても用心してたよ。アナベルさん本当に強いんだね。
祈りの聖剣は人々の祈りを聖騎士の持つ剣に乗せたもの。私という個人の力ではないのよ。
……魔剣使いの噂はなかったのか?
え?
……いやなんでもない。気にするな。
ではそろそろ行こうかしら。
古戦場跡の規模から考えるとここは五合目……半分くらいのはずよ。体力に気をつけて進みましょうね。
***
『砲弾を運ぶ輸送兵がこちらに向かっているはずなのだがいつになったら到着するのだ……。』
『ここまでか……しかしこの砲弾だけは何としても砲兵に届けなくては……。
頼むこの先にいる砲兵にこの砲弾を……』
「……この大砲まだちゃんと機能してたのか……!
でもおかげで瓦篠が壊れて先へ進めるようになったぞ。」
『私の役割は済んだ。オーガ族のやつらめ……今こそ……』
『この先に物資を届けたいんだが瓦篠が邪魔で進めないんだ……。』
『瓦疎が消えた!これで前線に物資を届けることができるぞ!お前たち待ってろよ……!』
***
何千年も昔の攻城兵器が未だに現役とはな。こちらとしては助かる限りだが。
……少し気の毒でもあるわね。争いのために作られて争いの後は打ち捨てられて……
……この地で起きた争いは止められなかったのかしら。
私たちとて魔獣との争いを解決することはできていないだろう。そういうものと割り切るしか……
ワタシたちも互いに人の技術デ造ラレタモノ同士ながら初めは対立していまシタ。
hそうね……リィカは人と共に歩む者として。私は人に敵対する者として。
デスガ紆余曲折あって今では志を同じくシテイマス。
ヘレナとこうして仲間になるなんて夢にも思ってなかった。
hええ。だから争いのすべてが止められないということはないはずよ。
言われてみれば私たちだって最初の頃は……
……なんだ?いきなりこっちを見つめるな。
いいえなんでもないわ。
拙者も最初はアルドたちと刀を合わせ火花を散らした間柄でござるからな。
あれはサイラスが一方的に勘違いして襲ってきただけだろ……。
……人と魔獣もいつか和解できるよね。
そうなるといいな。
よし、それじゃあ行くか。もう少しで奥まで辿り着けそうだから頑張ろう。
**
『敵ながら手の込んだ呪術障壁だな……破邪光の珠があれば解呪できそうだが。』
『おおそれは破邪光の珠!どれひとつこの呪術を解いてみせよう。
これで我が部隊は敵軍へ攻め入れる……君たちには礼を言わなくてはね。
ただこの先からは不穏な気配を感じる。くれぐれも気をつけてくれたまえ……』
***
うッ……!?な、なんだ……!?
どうかしたのアルド?
イボタヌキの爪でも踏んだのではござるまいな?あれは刺さると足が倍に膨れ上がるでござるぞ。
い、いや……オーガベインがいきなり……!?
『ここはまさに決戦の地!三千年以上も昔のあの日確かにこの地で我らは……!
いる!彼奴らは今もここにいる!感じる……彼奴らの血と肉を!はるかに遠き時の彼岸に……!
アルド!?
お兄ちゃん!?
い、いや……オーガベインが勝手に……!
くッ……!?いったい何が起こってるんだ!?オーガベイン……!?
あ、あれは……!?
『あれぞまさしく我らが拠点安住の大牙城……オーガ砦よ!
オーガ砦!?これは夢なの……?三千年以上も昔の砦が目の前に現れるなんて!
残念だが夢でも幻でもないようだぞ。前を見てみろ。
前方に強力な次元振動波を検出!何者かが時空転移シ侵入シテ来マス。
なんだって!?
絶滅種のオーガ族並ビニ、ヒト型生命体の武装集団を確認。
武器装備品等ヨリ砦と同時代の戦闘部隊と推定サレマス。
三千年前の戦士か!
ここはどこだ!?いったい何が起こった!?
『きさまは……雷心王!!
なにッ……!?雷心王だと!?
いかにも余は雷心王だがその方らは……?むッ!?
聖剣パルジファルが……!?これはどうしたことか?
オーガベイン……!?雷心王の聖剣と呼び合ってるのか!?
「おい!なんだおまえ達は!?どこから降って湧いて出てきやがった!?
h降って湧いたのはこちらではなくて間違いなくそちらの方じゃないかしら?
なにしろここはおまえ達オーガ族が滅んでから3300年後の未来世界だからな。
どういうわけか時空を超えてあの砦もろともこの時代に跳んで来てしまったみたいね。
3300年後の世界だと!?フッ……バカを申せ。
いくらなんでもそんなたわけた話があるものか!
いや雷心王本当です。いまはAD300年の第7代ミグランス王朝期といって………
「おいおいちょっと待て小僧!今なんと言った?
我らオーガ族が滅ぶとかどうとか!聞き捨てならんな。ああっ?
確かに言ったがそれがどうかしたか?
おまえ達は間違いなく滅ぼされるんだよ。そこにいる雷心王の手によってな。
「なぁにぃ!?いい加減なことを抜かすなぁボケ!我らが人間なぁんぞに敗れるはずがなぁい!
たぁわけたデタラメをほざいておぅるとただではぁすまさぁんぞ!こおてんぱんにぶちのめえしてやる!
「バフッバフッ!
『バカめが聞くがいい。オーガ族は敗北し絶滅した……。それはすでに歴史なのだ。
そしてオーガ族の心火が聖剣に取り憑き誕生したのが我らオーガベインだ。
「なんだなんだそのイカレた剣は?ハッ!オーガベインだと?
その剣に取り憑いた情けない怨念が我らオーガ族の成れの果てだあ?
ハッハァ!笑わあせるなよ小僧。そんなあヨタ話誰が信じるかぁ。
「我らぁオーガ族を負け犬の遠吠ええ如きと一緒にいするとは笑止い千万っ!
「バフーバフッ!バフフーッ!
『よかろう……。ならば思い知らせてくれるわ。
三千年前のあの時、我らはしかと誓ったのだ……。
生きとし生けるあらゆるものを斬り裂き滅ぼさんとな!
たとえそれが在りし日の我ら自身であろうと……!覚悟はよいかオーガどもよ!
雷心王お下がりください。ここはオレ達が!
ほう、そうか……。ならばお手並み拝見と行こう。
行くぞオーガども!もはやおまえ達の時代ではないということを思い知らせてやる!
「ハッハァッ!無敵ぃのオーガドギーがぁいるかぎり俺たちに負けはなぁい!
「バフッ!バフッ!
「こいつに勝てる人間なんかいやしねえ!
ちょっとばかし酒に弱いのが玉に瑕だがなぁ!
「ンバフゥ……ンバフゥ……」
「なぁにぃ!?酒ぇを浴びて俺たちのお可愛いオーガドギーが眠っちまったぁ!
「こいつはいちど眠るとちょっとやそっとじや起きねえんだ!いま攻撃されたらまずいぞ!?
「バカなぁ!無敵いのオーガドギーがやられちまっただとぉ!?
「どどどどうするんだ!?こりゃえらいことになっちまったぁ!
「ぬぅがぁああ……!!我らがここまで追おい詰めらぁれるとは……!
腕を上げたわねディアドラ!
当然だ。今の私は魔剣に頼っていたあの頃の私とはもう違う。
ムダだオーガども!おまえ達の時代はとっくに終わってるんだ。
「うぐぐぐッ!お、おのれ人間ども……!
うぎゃあーーッ!!
くッ……!こいつ……!?
『きさま……オーガの王……オーガゼノン!
オーガゼノンだと……!?どうして仲間を?
フン!人間ごときに後れを取るような能無しどもには用はないわ。
しかし妙な話をしていたなおまえ達。ここが三千年後の未来だと……?いったい何がどうなっている?
それにおまえの佩くオーガベインとやらは………
むッ!?
オーガベイン!?
なんだこれは……!?
『オーガゼノン……!ついに三千年の時が溶ける……螺旋律の祈りが解ける……!
ぐッ……!
くッ……オーガベインか……。なるほど。聖剣と我らと……強く共振しているのは確かなようだな。
よかろう。今日のところはこれまでだ。
待てぃオーガゼノン!
あわてるな雷心王。いずれきさまとはきちんと決着をつけてやる。
とことん叩きのめしてくれるからその日が来るのを楽しみに待っているがいい!
今がいつの時代であろうと人間どもをこの地上にのさばらせてはおかぬわ!
オーガ砦が……!?
ちッオーガめ!ヤツらの呪法で結界を張りおったな。姑息な真似を!
あの結界はちょっと厄介でな。あれを破る手立てがいまだにつかめていないのだ。
オーガベインおまえにならなんとかなるんじゃないか?
『かつて我ら自身が用いていた呪法であろうが今の我らにはもう手も足も出ぬぞ。
まあそう言われるとそれもそうだな……。
聖剣と魔剣の因果か……どこかで聞いたような話だ。
だがそのどこかで聞いた話ともだいぶ毛色が違いそうじゃないか。
雷心王それにアルド。ここはいったん王都ユニガンヘ向かいましょう。
王都ユニガン?なんだそれは。
この時代で中央大陸を統治する王国の都です。
ミグランス王も今はそこに滞在しておりますのでどうか一度王に会ってお話を……。
よかろう。この時代の都というものをこの目で見てみたい。ミグランス王とやらにもぜひ会ってみたいしな。
「王!しかしあやしげな魔剣を佩く者などと同行してはたして大丈夫なのかどうか……!
それにこの者達あまりに奇態な……!何が起こるかわかったものではありませぬ!
はて。奇態な者達とは誰のことでござるかな?
フッ……余のことなら心配いらぬ。よいかおまえ達はここに残ってオーガどもを見張れ。
周辺に同じようにこの時代に跳んできてわけもわからずうろたえている仲間も大勢いよう。
その者達を集めて野営地を設立するのだ。
「王!しかし……!
そんなに心配しなくてもへっちゃらよ。誰も取って食べたりなんかしないから。
ご安心クダサイ。ワタシのサービスは120%保証付きデスノデ!
いやなら別に一緒に来なくってもちっとも構わないわよこちらは?
『雷心王我らとおまえとの因縁はひとまず置いておくとしよう。
アルドに力を貸すと誓ったこともあるが……。
なによりかつての我らオーガ族と今の我らとどちらが上か勝負してみたくてたまらなくなったのでな!
なんだかよくわからぬがおもしろい剣だな……オーガベイン。
「しょ、承知しました。では我らこの地で準備を整えてお待ちしておりますので。
どうかくれぐれもご油断なく!
ああ。頼んだぞ。
では出発するとしよう。ミグランス王の驚く顔が目に浮かぶようだな。
***
ほう!これが未来の都か!さすがに大きく賑やかなものだな。
いやたいしたものだ……。こんな大きな街はこれまで一度も目にしたことはないぞ。
三千年という歳月で人間の世界というものはここまで進歩するのだな……。
さあそれじゃ宿屋へ行きましょう雷心王。
うむ。ミグランス王にお目にかかるとしよう。
***
「ああそなた達は……!
残念だがミグランス王ならおられぬぞ。城の様子を見て来るとふらりと出て行かれてしまった。
城か……この時代の城というのも興味がある。ついでだ行ってみるとしよう。
わかりました。ではミグランス城に行きましょう。
***
これが今の王の居城か。よい城ではあるが……かなり激しい戦であったようだな。
ええ……魔獣軍も必死でしたから。こっちもかなり苦戦しました。
連中を率いる魔獣王というヤツがこいつがまた強敵で……
その魔獣王と最後の死闘を繰り広げたのがまさにこの場所です。
そうか……そいつは大変だったな。
強い敵がいるというのはいつでもよいものだが……
しかし三千年か……余の時代にはこのように高く堅固な城など築きようもなかった。
だがどれだけ文明が発達してどれだけ立派な城や強い軍隊をもってしても戦は止められぬのだな。
はたして余も余の時代にこの聖なる剣でいつ平和な世界を築くことができるやら……
……
おやその方らは……
ああそちらにいらっしゃいましたか。ちょうどよかった。実は会っていただきたい人が……
私に会わせたい者……?うむ!?その方の剣……それはまさか!?
おう聖剣パルジファルか!するとそなたがミグランス王だな。
いかにも私がミグランスですが……しかしあなたはいったい……?
なにやらまた込み入った話になっているようだなアルド。
ええ……いろいろと複雑な事情が……
よかろう。ここで立ち話もなんだ。話はゆっくりと宿の方で聞くとしよう。
わかりました。では改めて宿屋の方で。
***
これはいったい……!?確かにこの剣は王家に伝わる聖剣パルジファルと同じ物に見えるが……
では本当にあなたがオーガ族を討ち滅ぼしたという伝説の雷心王その人なのか!?
三千年という時を超えて今の時代に現れたと……!しかし本当にそんなことが……?
ミグランス王。余にも何かどうなっているのかよくはわかっておらぬのだ。
余の聖剣とオーガベインとやらとさらにオーガ族らが時を超えて互いに呼応したようなのだが……。
となると王よオーガ族の砦共々どうにかしてあなた方を元の時代へ送り返さねばならないようですな。
さもなくば歴史が大きく書き換わってしまうことになる。
その変化の波はいずれ現代にも及んで今あるこの世界を大きく変化させることになるでしょう。
そのような事態だけはなんとしても避けねばならない。
ここはひとつ城の地下に眠る真実を告げる鏡に話を聞いてみてはどうでしょう。聖剣のことや今回私達が打つべき手に関しても何かしら教えてくれるかもしれません。
……真実を告げる鏡か。奴とはどうにも縁があるようだな。
ほう。君達もあの鏡についてはすでに承知のようだな。ふむ……確かにそれはよい考えかもしれない。
オーガベインおまえ自身はどうなんだ?
憶えていないのか?その……聖剣に取り憑いた時の状況とか……。
『さあてなにしろ何千年も前……あまりに遣い昔の話だからな。
我らが王の聖剣に取り憑いたというのはまず間違いないところなのだが……。
そうか……。なら仕方ないな。ともかく城の地下に行って鏡に聞いてみるか。
うむ……。それがよいでござろう。
どのようなものであろうとともかく手がかりが必要でござるからな。
報告ご苦労だった。君達には世話になってばかりだが引き続きよろしく頼む。
それじゃ早速行きましょうか。油断しないようにねみんな。
***
第28章
鏡よ鏡いにしえの真実を語れ
古戦場跡で巨大な次元の裂け目が生じ太古のオーガ砦が出現!そこにはオーガ族と戦う伝説の雷心王の姿が。雷心王とミグランス王の二振りの聖剣そして魔剣オーガベインについて真実の鏡は何を語るのか?
***
鏡よ……遥かいにしえより王家に伝わる聖剣について教えてもらいたい。
パルジファルの聖剣……その真実を欲するか。
よかろう我が所有者……ミグランスを統治する者よ。
聖剣はその頃世界を統べていたタイタン族によって原石の貴石を材料にして作られたのだ。
タイタン族が姿を消した後遺された聖剣は人間の手によって発見され今日まで覇王の剣として受け継がれてきた。
今より3300年前人間とオーガ族の間で戦争が勃起した。世にいうオーガ戦役だ。
そしてオーガ族は聖剣パルシファルを凪いた雷心王によって討ち滅ぼされた。
その最後の戦いで聖剣はオーガの魂を宿し。
魔剣オーガベインとして生まれ変わったのだ……。
それではやはり余の剣が呪われた魔剣と化すというのは真実なのか?
そしてそれがアルド……そなたの佩くオーガベインだと?
以前にモペチャやペポリも言ってたっけな。
聖剣パルジファルにオーガ族の憎しみ怨念が取り憑いてオーガベインになったって……。
だがしかしそれでは我が一族に伝わる聖剣パルジファルは……あれはまた別の剣なのか?
……真実の鏡たる我とて虚実定まらざれば見えぬものもある。
されど……オーガ族が聖剣に怖れを抱いていたのは間違いなきことだ。
いにしえのタイタン族の剣は彼らにとっても未知の脅威であった。
そこで彼らは聖剣に抗うべく幻の精霊の武具を探し求めたが……。
精霊の武具……。そんなものが存在するのか?
精霊の力をエレメンタルにより統合すれば究極の力となる。
だが今となってはそれも実現することは叶わぬ……。
鏡よもうひとつ……。こたび余や兵達は時を超えこの時代に姿を現す事態となった。
どうすれば元の時代に戻ることができる?
オーガ族と決着をつけ聖剣と魔剣とオーガとの因果を解くがよい。
さすればすべてはおのずから収まるべきところに収まるであろう。
ならば話は早いわ。もとよりオーガどもには余が引導を渡してやるつもりであったのだ!
だけどオーガの結界を破る方法がわからないと砦の中には入れないわ。
アノ特殊な防御層に関する対処法は現状のデータでは特定は不可能デス。
コチラノケイ酸系知的生命体ヨリ新タナ情報を提供シテもらえると非常に助かりマスノデ!
……見えぬ。虚実の不鮮明はかの砦を中心に発生しているようだ。
………。
「王!なにやら妙な報告が入って来ております。
妙な報告?どうした?
「それが巨大な魔獣が出現したとのことで……。
急ぎお知らせした方がよいかと存じまして。
巨大な魔獣だと?
「はっ。あまたの翼を有してさながら奇怪な黒き天使のようであると……。
天使のような魔獣……!?まさか……アンギラス?
アルテナ……。
場所はどこだ?
「それが蛇骨島なのです。
蛇骨島か……。最近は新種の魔獣の噂もちらほら耳に入って来ているな。
先の異変のカオス・プリズマとやらとの接触で異常進化したものが暴れ出しているとか。
ミグランス王。ちょっとオレ達が出かけていって様子を見て来ます。気になることもあるので。
そうか……。よしわかった。ならば蛇骨島の方はきみ達に任せるとしよう。
オーガ砦の方はひとまずうちの騎士達にも見張らせておく。雷心王の兵と合流させてな。
わかりました。では早速行ってきます。
「蛇骨島は暗黒大陸の南東の沖に浮かぶ孤島です。
かなり凶暴な魔獣だという話なのでどうかお気をつけて。
わかった。よし!じゃあ行こうみんな。