【白猫】ハッピーホワイトデー Story
キミだけに贈る、甘くて切ない特別な魔法―――!
2015/03/13
目次
登場人物
クライヴ・ローウェル cv.三浦勝之騎士の家系に生まれ英才教育を受けた、真面目で実直な青年剣士。 | |
シペ・コロ・カムイ 都会育ちの、しゃべるクマ。人間の文化を愛し、豊富な知識を吸収している。 | |
K・S・コーン・ポップ 意志を持つトウモロコシ。畑を飛び出し、ビッグになるため戦い続ける。 | |
ハヤト・カミシロ きまじめな態度の学生電子技術とルーンを組み合わせた魔銃を、努力の末に使いこなす。 | |
ルーグ・シェプ・イル cv.真殿光昭 禁呪を両腕に宿した拳士。淡々とした口調で、事実を端的に口にする。 | |
??? | |
ウマルス |
story1 偶然の出会い
――抜けるような青空。
今日はなんだかいいことありそう。
キミは胸を高鴫らせながら、町へと飛び出した――
市場は多くの人でにぎわっている。いつもよりも活気を感じる。
リンゴでもかじりながら歩こう。軒先に並べられた品物にキミが手を伸ばすと――
「あっ……」
――横から伸びてきた別の手に、指先が触れた。
「……失礼した。」
ペコリと律儀に、騎士らしい男が頭を下げる。
「……リンゴ、好きなのか?」
――え?
キミがー瞬返答に詰まると、若い男は二つのリンゴを取り上げた。
――あの……?
「安心してくれ!」
――へ?
「主人!このリンゴ、もらっていくぞ!代金はここに!」
明らかに多めの金貨をカゴに入れ、男はそのーつをキミに差し出す。
「ほら。」
――ありがとう!
「いや、たいしたことじゃないさ、ぜんぜん、ほんとに……」
これも何かの縁。クライヴと名乗った彼と共に、キミは市場をぶらつく――
story2 こたえられぬ想い
「……というわけで、俺は故郷を離れ、剣の腕を磨く旅に出たんだ。」
――へえ~……
「……リンゴ、ー個は多かったか?」
ふと手元を見ると、かじっていたリンゴが、まだ半分ほど残っている。
だけどおなかの方は、もう満足してしまった。
――でも、そこらに捨てるわけにもいかないし……
「捨てるのか?」
――それはもったいないよね……
「……じゃあどうするんだ?」
――どうしよう?
辺りを見回しても、良い考えは浮かんでこない。
ふと、こちらを見つめるクライヴと目が合った。
――なに?
「あ!……その、特に、なんという、アレでもないんだが……
まあ、ナンだな。やっぱり、食べ物は、胃袋におさめるのがー番というか……」
――そうなんだけど、おなかが一杯で……
「手伝おうか?」
――え?
「いや、違うんだ。散策して、俺も、小腹の空いた頃合いで……
――食べかけなんだけど……あなたは嫌じゃないの?
「全然!」
――それなら、じゃあ……
「なんだと!?ま、待ってくれ!」
――そっちから言いだしたんでしょ?ハイ。
「……ありがとう……!」
リンゴを受け取ったものの、クライヴは持て余したように、それを見ているだけだ。
「……くっ……!
…………」
――どうしたの?
「こんな贈り物……生まれて初めてだ……」
(――なんか、流れをいいように解釈してる……)
「…………」
しばらくリンゴを見つめたのち、クライヴは真摯な眼差しでこちらを見つめてきた。
「……今日会ったばかりの男に。こんなことを言われても困るのだろうが……」
――?
「このクライヴ、騎士となり、己の心を制して生きてきた。」
――うん。
「だが……
この気持ち……このリンゴが、俺の心を溶かしていく……
あなたこそまさしく、俺の女神だ!
――え?え???
クライヴは腰の剣をするりと抜き、キミに向かって柄を差し出した。
「この白銀の剣……あなたに、捧げさせてくれないか!
たとえこの世に終焉が訪れようともあなたのかたわらを離れず、永久に守ってみせる!
――…………
キミが返答に窮していると、クライヴは目を細め、剣を鞘に戻した。
「…………」
――どうしたの?
「忘れてくれ。」
――え?
「出会わなければ良かった、とは思わない。だが――
即座にうなずかせることが出来なかったのは、自分がまだまだ未熟な証。
……また…………いつの日か……!」
――なんて――
――自己完結まではやい人だろう。ー人っ子かな……
story3 颯爽とあらわれたひと
ドン!
「おおっとお!お待ち頂けますか?クマにぶつかっておいて無視とは、些か無礼じゃないですか?
――しまった。ガラの悪そうなヤツに肩をぶつけてしまった。
「ムフー!」
「……ん?ご尊顔をじっくり拝見するに、ハクいスケじゃないですか?これは、棚からボタモチ……♪」
クマがキミを見て、いやらしく舌なめずりをする。
「フムフー!ムフー!フヒー!」
「お詫びと言っちゃあナンですが、恐れ入りますが、お茶でも、付き合ってもらいましょうかねえ?
クマの伸ばした熊手が、強引に肩を掴んでくる!
「その汚らしい前脚をどけろ!」
「フヒー!?
「ど、どちらさまですかっ!?」
「貴様らに名乗る名などないっ!」
「……去れ。」
「フヒー!
ブフー!」
「ああっ、こ、コーンの字!ちくしょう!おまえら、これをご覧ください!」
クマに人質にされてしまった。
「動くんじゃありません!この人質がどうなっても……!」
「トウッ!」
「痛烈なるー撃をくらったぁ!」
「可憐な花を、獣脂で汚したその罪……万死に値する!」
「カムイ!フヒー!」
「くそう……恐縮ですが、覚えておいて頂ければー!」
「ケガはないか?」
「すまない。もっと早く到着していれば、怖い目にはあわせなかった。」
――そんなことはないです、おかげで助かりました。
「……一緒に来ないか?」
――え?
視線を上げると、金髪の男が優しく微笑んでいた。
「これからパーティーがある。嫌な気分を払うには、これ以上ないと思う。どうだろうか?」
返答に迷っていると、両側の二人の男も、爽やかに笑いかけてくる。
「いくといい。きっと気が晴れる。」
「……この男は、信用できる。」
――だけど……
なおもためらっていると、金髪の男がキミの手を取った。
「行こう。」
「ふ……」
「やける……」
すると目の前に、かぼちゃの形をあしらった豪華な馬車が停まった。
「さあ。」
「楽しんでおいで。」
「……いい夜を。」
金髪の男に手を取られたまま。おずおずと馬車に乗り込むと、見る間に風のように駆け出した。驚くほど揺れは少ない。
「心配はいらない。たまには楽しい夢もある。」
「今日は何もかも忘れ、私に委ねてくれていい。」
背後へと流れていくライトアップされた夜景が、キミを夢の世界に誘う――
story4 舞踏会の夜に
連れられたのは豪華なお城。ドレスアップした紳士淑女がひしめく。
金髪の男はキミの手を引き、みんなが踊る、輪の中心へ。
「恥ずかしがることはない。
――でも……
と、うつむきかけると、男のひんやりとした手が頬に触れた。
「私は人を見る目は確かなつもりだ。
胸を張って欲しい。君は美しい。」
――!
彼は再びキミの手を取ると、高らかに宣言した。
「さあ、踊ろう!ー晩限りのこの夜を!」
緊張でぎこちなかったステップも、彼のエスコートで次第に柔らかくなる。
「そう、上手だ――」
両の瞳にキミだけを映す彼に、聞きたかったことを尋ねる。
「私の名前?……おかしなことを聞きたがるのだな。」
――おかしなこと?
「いまこの世界には、キミと私だけがいる。それでいいじゃないか。」
キミは彼の胸に顔をうずめ、ほんの少しだけ、微かに頷いた――
………………
…………
……
どれくらいの時間が経ったのだろう。夢心地のまま顔を上げると――
「……しまった!」
――え?
「すまない!もう行かなくては!」
――そんな!?
「本当にすまない!だが、これだけは信じてくれ!
私の心は、いつもキミと共に――
真摯な表情でそう告げると、彼は会場を抜けて走りだした。
急にどうしたのだろうキミも彼の後を追う。
…………
……
「!」
階段を階段を降りる途中でつまずいた?
その拍子にカランと、何かが落ちる――
――まって!
「追ってきてはいけない!」
その言葉に従わず、城の外まで彼を追う。すると――
「……う!?……うう……!?うおおおおお……!」
彼は突然呻きを上げ――
「ヒ!ヒヒイ~ン!」
なんと!一頭の白馬へと姿を変えた!
「ヒヒイ~ン!」
白馬は、かぼちゃの馬車を引いて、ー目散に駆け去っていった――
………………
…………
……
――あれは、夢だったのだろうか……
――ううん。夢じゃなかった。
手の中で淡い光を放つ、ガラスの蹄鉄を見ながら、キミは夜空を見上げる――