ラスル・ロウ
ラスル・ロウ |
2015/01/16 ウィズセレ |
昔読んだ剣術書に『剣の道を究めるには、技だけではなく、心も磨かなくてはならない』っていう一文があったんだ。
だからオレも心を磨かなくちゃって思ってるんだけど、どうやら簡単にはいかないようだ。
オレは授業に出る必要のないくらい剣術には自信を持っている。
これは特待生として入学した奢りなどじゃない。
同級生たちからは怠け者だの落ちこぼれなど陰口を叩かれてるけど決してそんなことはない。
むしろマジメなほうだ。
己の技を磨くために見えない所で血の澄むような努力だってしている。
授業に出ないのは学校が嫌いだからというわけじゃない。
じゃあどうして授業に出ないのかって言うと、同級生の中でオレの相手になるヤツなんていないからだ。
教えてくれる先生だって、オレが本気を出せばかなわないだろう。
だってオレの腕は世界位一なんだからさ。
「なんだってぶった切ってやる。この世の中にオレが切れないものなんてないんだ」
ある日、校庭の隅で寝ころびながら呟くと、運悪くライバルのポキュピンに立ち聞きされてしまった。
「誰かと思えばサボり屋のラスル・ロウくんじゃないですか?
切れないものはないなんて、さすが自信家ですねえ」
「自信じゃない。確信だ」
いけね。また悪い癖が出ちまった。でも吐いた唾は飲めない。
「それなら、目の前にあるリンゴの木は切れるかい? ちょうどお腹が空いてるしね」
その大きなリンゴの木は、校長先生が大事に育ててるものだった。
どこからわいてきたのか、他の連中も集まってきて「切れるわけねえ」などと笑いやがる!
だからオレは力っとなって、ズバッその木を切ってやったんだ。
すぐに校長に呼び出されたオレは、ゲンコツを覚悟してギュッと目をつぶった。
でも、いくら待っても頭の上に衝撃は落ちてこない。
疑問に思いながら目を開くと、目の前の校長は腕を組んだまま、どうしたものかと考えあぐねているようだった。
「どうしてこんなことをしたんだ?」
校長はきちんと理由を言えば、内容によっては許してくれると言った。
それに対してオレは間髪入れずこう言ってやった。
「別に意味などありません。リンゴを食べたかったから切ったまでです」
その後、大目玉を食ったのは言うまでもない。
校庭の隅へ戻るとポキュピンが夕日の中、待っていた。
「なんで本当のこと言わなかったんだ?」
「は?」
「オレは言わないでくれって頼んだ覚えはないからな」
背中越しにそう言い放つポキュピンに向かいオレはこう言った。
「「勘違いするな。こっちだって別に君をかばったつもりはない。オレはただ本心を言ったまでだ」
ポカンと口を開いたまま固まっているポキュピンの横を通り過ぎながら、
オレは自分の意地っ張りさ加減に、ほとほと嫌気がさしていた。
――『剣の技よりも心を磨かなくてはならない』
そのことはよくわかってるはずなんだけど……
どうやらそれを習得するのはだいぶ先のことになりそうだ。
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