プリュム・ノワラン
プリュム・ノワラン CV:長谷美希 |
2014/12/29 |
「さようなら、私の大好きな世界……」
崩壊していく神界を見つめながら、プリュム・ノワランは独り静かに呟いた――。
神界は、神々の統べる7つの異界がーつの大きな結界の中に共存している、という点において、他の異界とは性質が大きく異なっている。
それは異界というより、むしろある種の共同体と呼ぶ方が相応しいのかもしれない。
神界を構成する7異界には、光や愛を司る異界があり、闇や死を司る異界があった。
そしてそれらは互いに行き来する事も出来た。
聖と魔が等しく存在し、善は必ずしも是ではなく、悪もまた絶対的な非ではなかった。
プリュムの翼、その純白と漆黒が対になった翼は、そうした神界のあり方を表していた。
神界の誕生と時を同じくして、プリュムは生まれた。それを見つめる存在、神界の象徴として――。
共存しているとはいえ、聖と魔が手を取り合う事はない。
神界を見つめ始めて間もなく、プリュムはその事実を悟った。
きっとそれは自然の摂理であり、神界であっても昼は明るく、夜は暗いのだ――と。
「そして私の中にも、光と闇がある……」
そして神界の昼と夜を見つめながら、プリュムは、なぜ背中の翼が灰色ではないのか、黒と白の2色に分かれている理由を理解した。
やがて――神界が誕生してまだ幾千年も経たぬうちに――魔界の王は自由を欲するようになった。
神界を囲む結界を破り、外に出て破壊と暴力に酔いしれたい衝動にかられるようになった。
聖魔の両面を兼ね備えるプリュムが、そんな魔界の王を嫌悪する事はなかった。
むしろ、その衝動を理解することが出来た。
「私だって……、時々はそんな気持ちになるもの」
彼女は、傍らに咲く美しい花をむしり、その花弁をちぎりとりながら、欲求を抑える事の出来ない魔界の王に同情した。
「結界が破られれば、神界が崩壊する」
その破壊に思いを馳せ、甘い背徳感に身をゆだねさえした。
しかし、彼女の持つ聖の側面はそれを里まない。
神界の崩壊によってもたらされるであろう人々の悲しみ、苦しみについて思いを巡らせ、彼女の胸はきつく締め付けられた。
そして何より、プリュムはこの「聖と魔」、「闇と光」が等しく共存する、この神界を愛していた。だから出来ることならいつまでもこの神界を見つめていたいと願った。
実際、プリュムの持つ両翼と同じように、そこに光と闇が等しく存在し続ける限り、神界はそこにあり続けた。聖が魔を畏れ、魔が聖を畏れている限りは――。
――神界が誕生して以来、幾万年の月日を経て、ついに聖と魔の均衡が崩れた。
天界の聖王、イアデルの死により、光は闇をつなぎとめる事が出来なくなったのだ。
プリュムは、自分の様に己の内に聖と魔を内包できない他の神々を、天使を、魔族を憐れんだ。
そして自分と同じ様に聖魔を内包する存在を求め、ミカエラとイザークを見つけた。
「――人の中に聖魔を内包する事は出来ない。……でも、きっとあの2人なら」
そしてプリュム・ノワランは、翼を広げ、飛び立った。
2人に新しい時代を託す為に――。