【黒ウィズ】アニマ・アウローラ
アニマ・アウローラ:明坂聡美 |
バックストーリー
ぱちぱちと、燃えるたき火が爆ぜている。
月の皓々と照らす夜。街道を渡っていた君たちは、火をおこし、野宿をしているところだ。
君から見て、たき火を挟んで向かい側にはミネバの姿がある。
彼女は眠たげなアニマを腕に抱き、物語を聞かせているところだった。
「あるところに、クロードという戦士がおりました……」
美しい声音で、謳うように朗々と語る。
「最強の力を求めて旅をしていたクロードは、ある村で相談を受けました。
最近、近くの森で凶暴な竜が暴れているそうなのです。
竜を退治してくれないか、と頼まれたクロードは勇敢にうなずきました」
「クロードはさっそく森に向かいました。
すると確かに、森の奥から何かの暴れるような音が聞こえてきます。
奥に進んだクロードが見たのは、傷ついた1頭の竜の姿でした」
「竜はクロードを見ると、ぐるる、と重々しく唸りました。
倒すなら、今が好機です。
でもクロードは剣を抜かず、何があったのかと訊ねました」
「恐るべき魔神が現れたのだ、と竜は告げました。
放っておけば、この世界全土が魔神に焼き尽くされるだろう。
今、その魔神とこの森で戦っているところなのだ、と……」
「魔神の力は強大で、最強と名高い竜の力を以ってしてもかないません。
それでも竜は、あきらめず、戦おうとしておりました。
どうしてそうまでして戦うのかと、クロードは訊ねました」
「大した理由があるわけではない、と竜は答えました。
強き者と戦うことこそ、強き竜のさだめ。
それに従っているだけだ、と」
「ならば、とクロードはうなずきました。力を合わせ魔神と討とうと。
その提案に、竜は驚いた様子でしたが……
やがて、仕方あるまい、とうなずきました」
「クロードとドラゴンは、さらに森の奥へと進みました。
そこでは、ドラゴンと戦い傷を負った魔神が休んでおりました。
クロードとドラゴンは、息を合わせて魔神に挑みました」
「魔神は恐るべき力を持ち、クロードたちを苦しめました。
それでもクロードたちは怯みませんでした。
勇猛果敢に魔神に挑み、手傷を負わせていきました」
「ですが、クロードたちは次第に追い込まれていきました。
魔神の攻撃をしのぎながら、竜はクロードに言いました。
もはや勝ち目はない。おまえはさっさと逃げるがいい、と」
「クロードは首を横に振りました。おまえを置いてはいけないと。
おまえはただ竜のさだめに従って戦っているのではない。
この森を戦場に選んだのは、魔神との戦いで犠牲者を出さないため。
魔神と戦うのは、世界を守ろうとしているからではないのか、と。
クロードは、竜の高潔な魂を見抜いていたのです」
「竜は、そんなクロードをじっと見つめて言いました。
ひとつだけ方法がある。
竜がクロードと契約し、力を授ければ、魔神にも勝てるかもしれないと」
「竜は、自分が認めたものとしか契約することはありません。
クロードは、竜にその魂を認められたのです」
「クロードは竜と契約を交わし、その力を授かって魔神に挑みました。
竜の翼に竜の角、竜の尾と竜の力を得たクロードは、見事、魔神に打ち勝ちました。
そしてクロードは、最強の竜の力を得た戦士として、長く語り継がれていくのです……」
ミネバの物語が終わる。
むにゃむにゃと目をこすりながら、アニマは首をかしげた。
「りゅう どうなったの?」
「……竜はね。魔神に受けた傷が深すぎて、命を落としてしまったの」
アニマを優しくなでながら、ミネバは神妙に告げた。
「世界のために魔神と戦い、クロードにすべてを託して散った竜……
クロードの一族は、その竜の高潔なる魂に敬意を表するため、
『ただ強い』だけでなく、『気高さ』をも同時にあわせ持たんとしているのよ」
「ふぅん……」
ふわぁ、とアニマがあくびをする。ミネバは、苦笑交じりに彼女のまぶたを下ろしてやった。
「ほら、もうおねんねしなさい」
「ん……。ねえ みねば」
「なに?」
とろんとした目で、アニマは竜人の少女を見上げる。
「あにまも けだかさ もてる?」
ミネバは、わずかに目を見開き――すぐに、穏やかに微笑んだ。
「ええ。あなたなら、きっとね」
「ん……」
満足そうにうなずいて、すやすやと寝息を立て始めるアニマ。
そんな彼女を、ミネバは慈しみの眼差しで見守っていた……