【黒ウィズ】ミナカ・タケノカド
ミナカ・タケノカド
ウィズセレクションSSパレード 2014/10/31(金) 20:00 ~ 11/7(金) 15:59 |
〝和ノ国〟の夕暮れ時――
一人の少女が寺の境内で誰かを待っている。
「もう! 来なかったらほんと八つ裂きにしてやるんだから!」
少女は、身の丈ほどもある巨大な刀を抱え、柄に巻かれた糸をほぐれんばかりに掻き蹴っている。
ミナカは人一倍功名心が強い女の子である。
最強の竜神として恐れられているタケミカヅチを今日この場所で倒し、〝和ノ国〟で武勲を立てること。
そしていずれは、異能の剣士として畏れられているハヅキ・ユメガタリを打ち倒す。
それが彼女の夢だった。
竜神に果たし状を送ったのは数日前だ。相手には届いているはずだ……おそらく。
時と場所も間違いなく記したし、きちんと意味が通じるか穴が聞くほど読み返した。なので思いは汲み取ってもらえるに違いない……はずだ。
「そっか! きっと私のことが怖いんだな!」
楽天家なミナカは、はたと手を打ち、小躍りした。
この日のために、強靭な鱗を断ち切ることのできるこの大刀を、名立たる刀鍛冶に作らせたのだ。
「この刀にかかったら、あんなトカゲ野郎なんてイチコロなんだから!」
そう言って自信ありげに柄を叩くが、その拍子に刀が鞘からスーっと抜け落ちそうになる。
「わ、わっ!」
地面に落ちるのは辛うじて食い止めたものの、今度は、鞘にどう差し戻したらいいか分からない。
というよりも、あまりに巨大すぎて扱いきれないのだ。
「なんでこんなに重いのよぉ!?」
ご神木に止まっているカラスが、あざ笑うかのように一鳴きした。
「うるさいっ! これは居合抜きの練習なの!」
苛立つ彼女には全てが癪に障る。
それにしても遅い。
タケミカヅチがやってくるときには必ず雷鳴が轟くという。
だが頭の上に広がる空には一片の雲さえ見えない。
「こんな小春日和だし、やっぱり来ないのかな……」
相手が現れないのを天気のせいにするほどの能天気さ。その前向きさには、もはや敬服するしかない。
雷よりも先に鳴ったのは、彼女の腹の方だった。
日は彼女の白い肌を赤く染め、もうじき暮れようとしている。
「今日のところは勘弁しといてやるからな……でも次は覚えとけよー!!」
誰ともなくそう捨て台詞を吐いた彼女は門をくぐり石段を下りていった。
タケミカヅチを倒すのはいつになるのか。
赤々と揺れる夕日が、山の釧へと沈んでいく。
梵鐘が鳴り、ミナカの一日はこうして終わろうとしていた。