ふたりの騎士と祈りの魔剣 Story2
story2
「どうしたんだディアドラ。思いつめたような顔して……
「なにちょっと悩み事というやつだ。
先ごろ地下迷宮で妙なイメージがちらついたと言ったろう?
……この魔剣……膨大……力が込めら……いる。
こ……使えば……さんは一命……り留……はず……
「あれ以来どうにも胸騒ぎが酷くなっていてな……
「妙なイメージ……あの大仰な扉の前で言ってたことか。
「おぼろげな言い方になってしまって悪いのだが……
どうやら鍵となるのはフードをかぶった女らしい。
「フードをかぶった女……?
「ああ……だが思い当たるような記憶はない。
あの女は何者だ……?
「それを知るためにまた地下迷宮に行こうって話か。そういうことなら協力するよ。
「それは助かる。しかし問題があってな……
先ほど覗いてみたら井戸の底の横穴に衛兵が配備されているじゃないか。
もしかしなくともアナベルの差し金だろうな。まったく私の邪魔ばかりして……。
仕方ない。ここは力づくで衛兵を……
「邪魔をしているのはどちらかしら。騎士団の問題児さん。
「おっと噂をすれば何とやらだ。妙に頭痛がするかと思え……ば……
ぅぐ……っ!
な、なんだ……?いつにも増して酷い頭痛が……
「頭が痛いのは私の方です。まったく次から次へと問題行動ばかり起こして……
また何かよからぬことを企んでいたようだけれど残念だったわね。
私の目が黒いうちは野蛮な真似なんてさせないわ。
「ち……っ面倒なことになったな。
「アナベルの言うことも一理あるよ。地下迷宮は諦めて何か別の方法を……
「アナベル様!
「何事かしら……!?あなたには井戸の番をお願いしていたはず……
「め、面目次第もございません……。怪しいフードの女に幻術か何かをかけられたようで……
「………………!
「フードの女……!?
「しばし意識を失っておりました。地下迷宮への侵入を許したものと思われます……!
「………………!……迂閲だったわ。まさかアナタ以外にそんな不埓者がいるだなんて……。
「嫌味ばかり言っていないでその不埓者とやらを追ったらどうだ。聖騎士サマのお仕事だろう?
「……当然よ。地下とはいえあそこはミグランス城内。これ以上好き勝手荒らされてなるものですか……っ。
あなたは騎士団長へ報告を!私はアルトと共にフードの女を追います!
「はっ!
「ふふ……騎士団所属の身として指をくわえて見ているわけにはいかんな。
「心にもないことを……。
「ディアドラの力は確かだしさ。ここは素直に協力してもらおう。
「……ええわかりました。ただし今回だけの特例です。
「決まりのようだな。では地下迷宮へ急ぐぞ!
***
はぁ……はぁ……っ
ちっ、この地下迷宮に入ると頭痛が酷くなる……。
ただでさえ魔剣に魔力を溜めてから悪化しているというのに……。
「顔色が悪いなディアドラ……。
そうまでしてフードの女を探さなきゃいけないのか?
「無論だ。魔剣は……
……フェアヴァイレはまだ完全に目醒めてはいない。
「でもあの扉に与えられた試練はちゃんと乗り越えたじゃないか……
「確かに扉に力を示すにあたって十分な魔力を溜めることはできた。
しかし今のフェアヴァイレではそれを何かに使うことはできない……。
飲み込むだけ飲み込んで吐き出すことはできないという状態だ。
「……封印がかかってるってことか。
「ああ。きっとフードの女ならその封印を解く方法を知っている……。
「だからってそんな無茶は……
ディアドラは魔剣に頼らなくても十分強いじゃないか。
「ふ……ふふ……
「ディアドラ……?
「……本当にそう思うか?先日の怪物との戦いアルトも見ていたはずだ。
私が苦戦を強いられた相手……しかしアナベルはたったー太刀で戦況を覆した。
悔しいが私の剣技はあいつに及ばない……。
私にはもっと力が必要なんだ。
「………………。
「軽蔑したか?剣の腕で劣るからと魔剣にしがみつく私を……。
「……軽蔑なんてしないよ。
ディアドラは言ってたじゃないか。
『手段を選んでいるようでは真に守るべきものを守ることはできん』って。
「あ、あれは……
「いいじゃないか魔剣でも。何かを守るために使われるならそれはきっと間違った力なんかじゃない。
「ふん……私はお前が思うほど綺麗な人間ではないぞ。
後ろ指をさされるような手段にすがらねばとうに野垂れ死んでいた……ただそれだけのことだ。
(あうう……大丈夫でしょうか……?こんなに奥まで踏み込んでしまって……)
ミーユ(ここは仮にも王家にのみ伝わる秘密の場所だというのに……)
「もしかしてわたくしたちどこかでフードの女性を追い越してしまったりしていないでしょうか……?
実はもっと手前にいらっしゃったり……
「……ミーユといったか。
恐らくだがそれはないだろう。魔剣が何かを訴えるように奥へ奥へと私を誘っているんだ。
「そうですか……。
(封印があるとはいえ心配です……フードの女性が例の部屋に辿り着いていなければよいのですが……)
「……おや?
「どうしたんだミーユ?
「ええと……子どもが助けを呼ぶ声を聞いたような気がしまして……
「まさかこんなところに子どもが迷い込んだってのか?
「アルド……衛兵の言っていたことを忘れたわけではあるまい。フードの女は幻術使いだぞ。
どうせそいつの作り出した幻の類だろう。
「うーん……言われてみればそうかもしれないな……
「ともかく立ち話はここまでだ。今は何よりもフードの女を見つけなくては!
「……そうだな。よし迷宮の奥へ急ごう!
***
「なかなか複雑な封印ね。三百年の歴史は伊達じゃないわ。
「貴様そこで何をしている!
「ひゃああっ!?
ななな何よあなたたち!びっくりするじゃない!
「お前が魔剣を作った者か?
ならば教えてくれ!封印を解くための方法を!
「……?えっと……魔剣?封印?ちょっと……何の話してるの?
大体剣なんて専門外よ。私ただの魔法使いだもの。
「な……っ嘘をつくな!ならばなぜ私の前に現れたんだ!
「嘘なんかつかないわよ。大体あなたの方から私に突っ込んできたんでしょう?
「………………っ。
……すまなかった。頭に血が上っていたようだ。
だが魔法使いたというならばどうかこの剣を見てやってくれないか。
こいつには妙な封印がかけられているようでな。
魔力を吸うことはできるのだがそれを使うことができないんだ。
「ふうん……ちょっと興味が出てきたわ。
ほほう……なるほどなるほど。
……うんとね。魔力を使えないのは当たり前よ。
「当たり前……?
「だってこの子今は魔剣じゃないもの。
「魔剣じゃないだと……!?
「話はちゃんと聞くこと。『今は』って言ったでしょ?
……うん間違いない。この子からは古い魔力の残滓を感じるの。かなり強力な魔剣だったみたいよ。
私の仮説が正しければこの子に真の力を取り戻させることはできるかもしれない。
「ほ、本当か!?
「ちょっとがっつかないの!
そうね……ここじゃダメだわ。色々と準備が要るのよ。
月影の森まで行けばどうにかできるかもしれないけど……
「月影の森か……!分かったすぐに向か……
再び力を示すのだ……。
この先は鏡の間。真実はもう……目の前にある。
「またこの声……?
「大丈夫かディアドラ?
「ちょっとしっかりしてね。あなたたちが頼りなんだから。
私ここまで来るのに幻術使いすぎちゃって。帰りの魔力がないのよ。
「計画性のないやつたな。
まあいい。フェアヴァイレの面倒を見てもらう手間賃とするか。
こいつが元の力を取り戻せばこの扉も開けられるかもしれないからな。
「じゃあ決まりね。月影の森まで急ぎましょう。
「……しかし魔法使いよ。
具体的にはどうやってフェアヴァイレに元の力を取り戻させる気だ?
私は急いでいるんだ。手っ取り早く済ませられる方法で……
「あんまり焦ることないさディアドラ。力が欲しいのは分かるけど……
「……ここのところ嫌な予感がどんどん強まっているんだ。
急がなくては大切なものを守れないような……そんな予感が。
「私も急ぎたいのは山々なんだけどね……
どうもこの子たちがそれを許してくれないみたい。
「ほう……私の邪魔をしようとはいい度胸だ。
まとめて蹴散らしてくれよう。行くぞアルド!
「よし仕留めたか!
「僅かだけど太刀筋が先走ってたね。君らしくもない。
「………………っ!そんなことは……
「おや僕は君を名指しした覚えはないけど。その反応は図星かな?
ねえ。君は一体何をそんなに焦ってるんだい?
「それは……。
「ふうん……。
前から思ってたんだよ。君言葉や眼光こそ他人を寄せ付けない雰囲気があるけど……
その芯には誰かを守りたいという強い気持ちがあるみたいだ。
「何を言っている……?私はただ……
「自分ではまだ気づいてないか。それも仕方のないことだろうね。
まあいいさ……それでも君の瞳の奥に宿る静かな炎はどんな宝石にも代えがたい。
「………………。
「僕は自分に正直な人間でね。美しいものを愛し醜いものを嫌悪する。
これ以上の追求は美しくない。ちょっと席を外させてもらうよ。
なに君たちの用事が終わる頃には戻ってくるさ。
「すごい色男ね……!こんど紹介……じゃなくって。
……こほん。それじゃその剣を月にかざしてもらえるかしら?
「月に……?
「ええ。月の光には様々な神秘が宿っているの。
その妖光は魔なるものの性質を最大まで引き出してくれるわ。
「……わかった。あとは頼んだぞ。
「ふういっちょ上がりね。
「これが……!
フェアヴァイレの真の力か!
………………。
「ど、どうしたんだディアドラ。浮かない顔して……。
「むう……
……正直に言ってほとんど変化は感じられないな。
「当たり前じゃない。その子はもう魔剣の真の力を取り戻したんだから。
ちょっとやそっとの魔力じゃ腹の足しにもならないわよ?
「ふふ……そういうことか。
ならば再び地下迷宮の魔物どもから奪った魂を喰わせてやるとしよう。
「うんうん。でも気をつけてね。それは本来持ち主の願いを叶える魔剣。
その力を使うということは悪魔と契約するようなもの……
願いの代償として最も大切なものを手放すことになるわ。
「ふん……望むところだ。元より私に失うものなどない。
「あははそう言うと思った。
さて……それじゃそろそろ私は帰ろうかな。
あなたの魔剣なかなか面白かったし。今回はこれで満足だわ。
縁があればまたどこかで会いましょ。
「では地下迷宮に戻るぞアルド。
魔物どもから魂をいただいていち早く扉を開けねばな……!
***
「今度は何を教えてくれるというのだ?
「これは……また試そうってわけか!
力あるものに真実の中核を……。
「……この魔剣には膨大な魔力が込められている。
これを使えばお姉さんは一命を取り留めるはずだ。」
「ディアドラ!しっかりするんだディアドラ!
「……アルド?私は何を……
「あの門番みたいなやつを倒したあと急に動かなくなったんだ。
もしかして何か失敗したんじゃ……
「いやその心配はない……。
だが……扉の見せたあの光景は一体……?
我は真実を告げる者……。
この扉の先にて汝を待つ。
「………………。
「ディアドラ……?
「……いや何でもない。少し疲れてしまったようだ。
「それじゃ一度地上へ戻ろうか。
「ああ。情報も整理したいとこだしな……。
「ねえ……誰か……!誰かいないの……!?
お願いお願いよ……!誰か……
お姉ちゃんを助けて……っ!!